拝啓 歩む者へ 【途中完結】   作:モクロック

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きりとりせんヲ追ッテ その2

 深夜1時

 山に近い道には街灯などわずかにしか存在せず、その光も弱く心もとない。月明かりもない今日のような日は、満天の星空しか気を紛らわせてくれるものはない。

 道の下には水田が広がっているせいかカエルの合唱が騒音として響き渡り、音への注意をより一層払わなくてはならない状況に陥っていた。

 

 本来、夜間は訪れる人がほとんどいないこの場所をM.O.能力者である咲島啓が振り当てられたのには理由があった。

 まずこの場所が犯人候補である茨の怪人が最後に目撃された場所であること、そして5つある犯行現場のうち2か所から比較的近い場所であるという二つの理由、それを考慮しこの場所をM.O.能力者であり物理的な戦闘力を持つ啓が担当することとなった。

 

 

 

(最も危険が高い場所…とはいえ、ここじゃあこの時間に出歩く人間はほとんどいないな……いるとしたら後ろめたいことやってる連中か物好きか…)

 

 

 

 

 

 クソ野郎があああああああああああ!!

 

 

 

 

  切り裂くような鋭い叫び声によって一瞬にして緊張が走る。

 

 

(ここからそう遠くないな。変身薬はすぐ出せる、問題はない)

 

 

声のする現場に急ぎつつ、戦闘態勢を整える。この先にいるのがM.O.能力者であれば薬を即使用しなければならないが、能力者以外となると人為変態が一般に公開されていない超機密情報であるため薬の使用はできない。

 一瞬の判断が求められる場面であるため思考や視覚情報を研ぎ澄ます。

 

 

 まず視界に入ったのは長い触手を何本も携えた何か。背後の街灯によってうっすら浮かび上がるそれを見た瞬間最初の行動が決まった。

 

 

「人為変t」

 

 

「マテ…」

 

 

「!?」

 

  変身する直前、くぐもった声と緑の茨に覆われたツタの束をかき分けて現れた人間の右手を目の当たりにし、動きを止める。

 相手はM.O.能力者である以上はこちらも人為変態しておくにこしたことはない。しかし相手が意思疎通を求めてきていること、何より茨によって顔が隠れている以上相手の表情は読めない。注意深く観察しつつ、いつでも人為変態できる状態で相対する。

 

 

「あんたは何者だ…」

 

 

「……イケ……ツレ…ケ……」

 

 

「何?……!?」

 

 

頭や腕に繋がっているツタがゆっくりと動き、覆い隠していた何かが姿を現す。

暗闇で把握できなかった何本もの長いツタの下、そこには体のところどころに切り傷や擦り傷のある啓と同じくらいの年の少女が横たわっていた。

 

 

「お前の仕業か!?」

 

 

「ツ…テイ… マ……クレ… タ……」

 

 

 茨の怪人が途切れ途切れに何かを伝えると、落下防止柵に何本かツタを巻き付けた瞬間、道から飛び降りた。

 

 

「待て!……くそっ!」

 

 

 怪人は明かりのない下道に姿を消し、足音もカエルの合唱の中にやがて消えていった。

 

 

 

 

 

 

―――――

 

「保護した女子生徒の容体は?」

 

 

「おう 戻ったか……彼女は今、病院内の協力者が用意した一室にいる。検査の結果、軽いケガだけだがまだ目を覚ましてないな… 極度の緊張状態にあったせいか…… それにしてもまさか啓と同じ学校の生徒とはな…」

 

 

遠藤(えんどう) (みお)…… 接点はなかったが間違いなく富高の生徒だ……」

 

 

 啓が保護した後、護衛と事情聴取のため松口と協力者によって澪は病院に運び込まれた。松口は事情聴取のため病院内で待機し、啓は別の協力者たちと共に茨の怪人の捜索に当たることとなった。

 しかし、捜索を続けたものの怪人の発見には至らず朝を迎えることとなり、情報共有のため啓は病院を訪れていた。

 

 普段人が訪れない部屋を借り、二人は状況の確認を進めていた。

 

 

「手掛かりは現場にあった茨のツタだけだ。それ以外には何も見つからなかった……あそこで拘束できていれば…」

 

 

「そう悔しがることはないんじゃないか?あんたのおかげで彼女の命も救えたし、他の犯行も行われていない」

 

 

「そうかもしれない……」

 

 

 少し考える表情する啓に、松口は疑問を投げかけた。

 

 

 

「どうした?何か引っかかることでもあるのか?」

 

 

「茨の怪人……あのM.O.能力者が本当に犯人だったのか?」

 

 

「そうじゃないのか? 現に彼女を襲っていた訳だし」

 

 

 特に疑う様子のない松口に、啓は自身の引っかかっている疑問を語った。

 

 

「……そうとは思えない部分がある。まず奴の茨の使い方だ。逃走する際には器用に使っていたが遠藤に対しては覆い被せていた」

 

 

「そこがおかしいのか?」

 

 

「今までの被害者は喉の傷が致命傷で、その後全身を滅多刺しにされていた。しかし遠藤の場合、浅い切り傷や擦り傷があった程度だ……こんな傷は逆に今までの被害者にはどこにもなかったはずだ」

 

 

「確かにそうだが……それはあんたが近づいてくるのがわかって咄嗟に茨を被せただけじゃないのか?」

 

 

「その可能性もある、だが他にも謎はある。現場に残った茨のツタだ。

ツタは3本、その断面全てが何かに切られたような形だった」

 

 

 啓たちが発見した茨のツタには、切断された痕が残されていた。それも一刀両断されたようなきれいなものではなく、力をかけて切り裂いたようなものだった。

 

 

「少なくても自切ではないだろう。特異体質か長時間かけてベースの能力をなじませた者以外での植物型の自切能力は知られていない。そして自切した場合、そんな断面にはならない」

 

 

「そうなると考えられるのは…」

 

 

「犯人は別にいる。それもあの茨を相手できる存在だ……十中八九M.O.能力者だろうな」

 

 

「ほかに能力者がいると? あまり信じたくはないな…もしそんな危険な存在がいるとなれば、場合によっては本部に応援要請を出す必要まである…」

 

 

「それは避けたいところだな… テラフォーマーを利用した野外実験問題で各地がそれぞれ対応に追われているときに人員を割かせるのは得策じゃない…」

 

 

 一ケ月以上前に啓たちが入手したとあるテラフォーマー野外実験に関するデータは、彼らの所属する組織が大規模な対応に追われるほどの緊急事態をもたらした。現在この夏石に割ける人員は数少なく、さらにその中でもM.O.能力者を速やかに拘束できる者はほとんどいないはずである。

 

 

「現地にいるオレたちが対応せざるを得ないわけだ……現場にあった茨と今までの被害者たちにあった傷跡を照合中だ……これであの茨の怪人が犯人かどうかを明らかにし、今後の対応を考える」

 

 

 部屋の隅にあった机に寄りかかると、啓は考え事を始めた。

 

 

(茨の怪人……アイツは何かを伝えようとしていた…茨が邪魔してか声はうまく聞き取れなかった……一方最初に聞こえた叫び声……ということは)

 

 

 

 そのとき部屋のドアが開かれ、医師であり協力者である男が少々慌てた様子で現れた。

 

 

「彼女が目覚めました! しかし何か慌てた様子で……」

 

 

「何!?」

 

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