【完結】西行桜恋録   作:儚夢想

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第四話 古都京都

「うわぁ……」

 

 財布の中身を見て、義徳は戦慄する。

 

「何と言うかその、ありがとね……」

「若葉、ちょっと申し訳無さそうな感じ出すの止めろ。余計に辛くなるから」

 

 必要な物を全て買い揃えて帰路に就く三人。気が付けば空には夜の帳が下りていた。

 そんな暗くなる空に比例して、義徳の表情は暗く絶望に満ちていた。というのも、幽々子の衣服と日用品のために想定を上回る多額の金を費やしたからだ。彼女が外の世界で生活するためにはこれら必要不可欠なことだ。決して無意味ではない。無意味ではないのだ。そう言い聞かせて何とか平静を保つ。

 

「ごめんね義徳、私のために……」

「幽々子さんは気にしないで大丈夫です。全部出すって言ったのは自分なんで」

 

 乾いた笑いを上げる義徳。これだけの出費も彼が言い出したことであり、彼女を責めるのは筋違いである。全ては為すべきことを為すという義徳の矜持によるものである。しかし、精神的に負った傷は深い。

 日頃から貯めていた全財産を今日一日でどれだけ使っただろうか。考えたくもなかった。

 

「ねえ義徳、これからどうするの?」

「これから……ですか」

 

 義徳を心配して、幽々子が話題を逸らしてくれた。

 事前の準備は終わった。明日からは彼女が幻想郷に帰るための行動を本格的にしなくてはならない。

 

「明日は観光にでも行こうと思います」

「観光ってどこに?」

「京都市……昔の寺や神社が沢山ある場所です」

 

 京都市。それは日本屈指の古都であり、東京に遷都するまでのおよそ千年間に渡って日本の中心だった場所である。故に、近代化以前の風景や文化が色濃く残っている。ならば、幻想郷や冥界に繋がる場所が存在していてもおかしくない筈だ。ずばり、明日やることは観光を兼ねた調査である。少しでも手掛かりを掴むことができれば────そう願って。

 

「京都市って……何で急に?」

「幽々子さんは、その……ド田舎から家出してここに来たんだ。京都の風景を見たいって」

「そ、そうなのよ。私、一度でいいから有名なものを見たくて……」

「へぇ~、そうなんですね!」

 

 無論、咄嗟に思い浮かんだ出鱈目である。即興なので無理があるが、若葉は純粋で騙されやすい一面がある。だから、義徳の下手な嘘でもバレずにやり過ごすことができた。

 

「ねえ、それ私も行っていい?」

「そうだな……いいけど、余りはしゃぐなよ。お前、そういうことになると別人みたいで怖いんだ」

「大丈夫、分かってるから! ちゃんと抑えるから!」

 

 手を合わせて必死に懇願する若葉。そうまでして付いて行きたいのか、と呆れながらも義徳は承諾した。何か不慮の事故で幽々子の真実が露呈する可能性があるので、若葉が一緒にいる状況は好ましくないが、彼はいざ物事を頼まれると断れないタイプなのだ。

 

「ねえ義徳、若葉ちゃんのこと変わり者って言ってたけど……」

「あいつ、オカルトオタクなんですよ。もし幻想郷のことを知ったら飛びついてくると思います」

「成る程、そういうことだったのね」

 

 幻想郷はこの世界から秘匿されたもう一つの世界。幻想となり消滅しつつあった妖の類の存在を保つために、博麗大結界によって遮断されている。外部からの干渉があれば、何か異常事態が起こるかもしれない。もしも悪意を抱いた何者かが幻想郷の存在を知ってしまったならば────想像に難くない。故に、他の誰かに知られてはいけないのだ。

 

「ねえねえ、二人で何話してるの?」

「いや、明日のルートの話だ」 

「そう? あ、じゃあ私はこっちだから」

「また明日な」

「じゃあね~」

 

 道を左折する若葉に対し、右折する義徳と幽々子。手を振って一時の別れを告げた。

 

「もうちょっとマシな嘘はつけなかったのかしら? あれじゃすぐにバレそうよ?」

「大丈夫ですよ。あいつ、何でもかんでも信じる奴なんで。俺のヘタクソな嘘だって通用するんですから。でも、たまに鋭い時があるんで油断はできないんですけどね」

 

 若葉は直感が冴えており、何かを推察することに長けている。特に人の考えを見抜く力には目を見張るものがある。その力が発揮する場面は少ないが、いざ発揮したなら人の考えていることを瞬時に見抜く。隠し事が上手くない義徳には、そのことが不安であった。

 

「にしても、貴方たちって本当に仲が良いわよね。もしかして────付き合ってる?」

 

 何を言い出すかと思えば、そんなことか。

 

「いえ、若葉はただの幼馴染です。それ以上でもそれ以下でもありません」

「意外とあっさり否定するのね」

 

 期待外れとでも言わんばかりに幽々子は不満げな表情を露わにした。

 

「義徳は恋とかしたことないの?」

「そうですね、恋愛的な意味で誰かを好きになったことはないです」

 

 義徳は恋愛感情が分からない。どうしたらその人に恋情を抱いているとか、その基準をまるで理解していない。意中の異性と共に過ごしたいという願望は無く、恋愛について知ろうという気もない。一人で悠々自適に生きていたい彼にとって、恋愛という行為に意義を見出せないのは当然だった。

 

「貴方、歳はいくつ?」

「今年で二十歳ですけど、それが?」

「その年で初恋もまだだなんて……!」

「じゃあ、そういう幽々子さんはあるんですか?」

 

 そこまで言うのなら当然幽々子は恋愛経験があるのだろう。少し不服に思った義徳が訊き返す。

 すると、幽々子は数秒間黙り込んで熟考する。その表情は真剣でどこか憂いを帯びていた。そして。

 

「…………ないわね」

 

 間を置いて、たった一言。

 

「人のこと言えないじゃないですか!」

「だって私亡霊よ? 死んでるのよ? 死者が誰かに恋するなんてあり得ないわ」

「俺には人間よりも人間してるように見えますよ」

「そう? それは死人冥利に尽きるわね~」

 

 義徳渾身のツッコミも空しく、幽々子は彼に構わず自由気ままに振る舞う。完全に彼女のペースである。こうなるともうどうにもできない。

 

「ま、それよりも早く家に帰りましょ! お腹空いたわ!」

「あんまり食べ過ぎないでくださいよ」

 

 本当に、気苦労の絶えない困った亡霊少女である。しかし、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。それどころか、もう少しこの時間が続けばいい────なんてことを考えていると。

 

(視線!)

 

 どこからか、視線を感じた。

 

「どうしたの? 周りをキョロキョロして」

「視線を感じたので、誰か近くにいるのかと思って」

 

 周囲を見回しても、人影は存在しない。この道は人通りが少なく、隠れられる場所は無い。人がいればすぐに分かる構造になっている。

 

「きっと気のせいよ。私たち以外に人なんていないもの」

「うーん、確かに視線を感じたのに……」

 

 視線の正体は、一体何者なのか。何一つ分からないまま、二人は家に帰るのだった。

 

 

 

   ※※※

 

 

 

 後日。義徳の家に集合した後、三人は電車を利用して京都市へと向かった。彼らの最初の目的地は────。

 

「義徳、ここを選ぶなんてセンスあるわね!」

「あ、あぁ……」

 

 目を輝かせる若葉の勢いに思わず圧倒される。普段から活発な彼女がより活発になるのが趣味である神社仏閣巡りの時だ。

 西風若葉はオカルトオタクである。科学の発達によって今まで不明確だった現象が解明された現代でも全ては解明されていない都市伝説や神仏の存在。否定的な声が多い中、彼女はそれらが確かに存在していると信じてやまない。その熱意は大学でオカルトサークルを創設する程である。そして、それらの存在を証明するため若葉は日々活動している。因みにサークルは非公式であり、部員は彼女一人だけで他には誰もいない。

 

「ここってどういうお寺なの?」

「よくぞ訊いてくれました! この寺の境内は冥界の境界なんですよ! それに、冥界に繋がる井戸が存在していて……!」

「へ、へえ……」

「そしてその井戸を行き来した人間がいるとかいないとか……!」

 

(義徳が言っていたのはこういうことだったのね……)

 

 若葉の力説に戸惑う幽々子。義徳が彼女を変わっていると評する理由をここで理解した。

 義徳ら三人が最初に訪れたのは、現世と冥界の境界とされる六道珍皇寺である。義徳が冥界に関する社寺を調べた際、一番最初に出てきたのがこの場所だったのだ。

 この寺は京都市の東山区に位置している。決して広い寺ではないが、若葉の言うように顕界と冥界の境界となる場所ということで、どこか神秘的な雰囲気に覆われている。また、この寺には過去にこの世とあの世を行き来するために使われたという井戸が存在している。普段は遠くからしか見ることはできないが、今日は偶然にも特別に近くで見ることができる期間だった。

 

「現世と冥界の境界……ねぇ」

「そう! ここは本来交わる筈のない生と死が交わる場所なのです!」

 

 ここで幽々子は違和感を覚えた。若葉の言葉を文字通り捉えるとしたら、井戸の下に冥界が存在することになる。しかし、顕界と冥界を隔てる門は────。

 

「ごめんね若葉ちゃん、ちょっと義徳と二人で話がしたいのだけれど、いいかしら?」

「どうぞ!」

 

 一度情報を整理する必要があると判断し、若葉に頼む。幸い、快く受け入れてくれた。彼女の優しさに感謝しつつ、義徳と共に小声で会話を始める。

 

「義徳、この寺が冥界との境界らしいけれど……」

「そうですね、微かに霊気を感じるので間違ってないと思います」

「私も霊の気配を感じるわ。別の世界と繋がっていることは事実よ。けれど、その場所はあの世であっても冥界じゃない」

「どういうことですか?」

 

 あの世であっても冥界ではない。義徳にはその言葉の意味が分からず、幽々子に問う。

 

「冥界は空の上にあるの。だから、現世と冥界を繋ぐ井戸というのはおかしいわ。上がこの世で下はあの世、というのは冥界の位置を考えると矛盾しているのよ」

「え……? ちょっと待って下さい、今調べます」

 

 彼女の説明に驚きを示しつつ、ポケットからスマートフォンを取り出す。すぐさま検索エンジンを開いて調べる。すると、それはすぐに現れた。

 

「ここの井戸を行き来していた人は閻魔の下で働いてたみたいです」

「成る程ね。井戸の先は是非曲直庁という訳ね」

「ぜ、是非曲……?」

「地獄にある組織の名前よ。死者を裁く閻魔や部下の死神らが所属しているわ」

 

 是非曲直庁。それは地獄に存在しているという組織。幽々子曰く、トップである十人の閻魔王がいて、その下に死者の裁判を担当する閻魔、地獄に堕ちた者の拷問を担当する鬼神長がいて、更にその下には死神がいて、上司の手足となって働いているらしい。

 

「そ、そんな凄い場所があるんですね……」

「貴方も死んだらお世話になるわよ」

「止めてくださいよ、そんな縁起でもないこと」

 

 まるでもうすぐお前は死ぬとでも言われたようで洒落にならない。死者特有のジョークだろうか。もしそうだとしたら止めて欲しい。心が落ち着かない。

 

「まあ、ここは冥界とは関係無い場所よ。残念ね」

「うーん……」

 

 冥界に関係のある寺ということで訪れたが、残念ながら不発であった。流石に最初に一回で成功することはないと思っていたので精神的なダメージはまだ軽い。分かっていたことではあるが、やはり一筋縄ではいかないということだろう。

 

「義徳、話は終わった?」

「あぁ、時間をもらって悪かったな若葉」

 

 幽々子との話が終わったので、若葉のいる場所に戻る。予想以上に時間を取ったが、特に怒っている様子は見受けられない。

 若葉は顔を近づけ、こちらをまじまじと見つめる。

 

「……何か隠してない?」

 

 ムッとした表情で義徳に問い掛ける。ここで彼女の直感が発動するのか。

 

「いいや、そんなことはない。その、あれだ……幽々子さんと昼飯どうしようかって話してたんだよ」

「本当に?」

「本当だ。嘘を言う理由がない」

 

 嘘をつくことが苦手なため、罪悪感がこみ上げてくる。しかし、幻想郷を知る人間は少ない方がいい。無闇に干渉して二つの世界の均衡を乱す訳にはいかないからだ。故に、これは必要な嘘である。

 

「そう、それならいいんだけど……」

 

 若葉は深く疑うこともなく、信用してくれた。幸いにも未然に防ぐことができたようだ。

 

「ごめんね、疑っちゃって」

「別に謝ることでもないだろ。とりあえず次の場所に行くぞ」

 

 罪悪感に苛まれながら次の目的地へと向かうのだった。

 

 

 

   ※※※

 

 

 

「……!」

 

 ────清水寺。その舞台からの景色は美しかった。

 

「京都に来たならやっぱりここですよね!」

 

 日本屈指の観光地のため当然人が多く窮屈に感じることもあるが、この光景を見ればそんなことは些末な問題である。世界遺産に名を連ねるだけあって、その魅力は伊達ではない。

 

「本当にいい眺め……」

 

 幽々子は感嘆の声を漏らす。

 桜と青空で彩られた景観は、彼女の心に安らぎを与える。初めて見る景色に心が躍った。

 

「ありがとね、義徳」

「どうしたんです、いきなりお礼なんて」

 

 この場所を選んでくれた義徳には感謝する他にない。最初に会った人間が義徳でなかったら、ここに来ることも、このような感情も抱くことはなかったかもしれない。

 最初は人間でありながら死霊を明瞭に認識できる人間ということで興味を持ったが、こうして接してみると揶揄い甲斐があったり、困っている人がいれば後先考えずに助けてしまうような弩級のお人好しであったり、必要以上に距離を縮めようとしないもどかしさを除けば彼は非常に親しみを持てる人物だ。

 

「それは貴方自身で考えることよ?」

「……?」

 

 義徳と一緒にいれば、普段は味わえない非常識なものを見ることができるだろう。素敵でお腹いっぱいな外の世界の観光旅行をもっと体験できるだろう。故に、この世界にいる間は、幻想郷へ帰るまでは、彼の傍にいたい。幽々子はそれが最善だと信じている。

 

 

 

   ※※※

 

 

 

「義徳、次はここよ!」

「いや若葉、ここは縁結びの神社だぞ? 行く理由なんて……」

「義徳、これは絶対に行くべきよ」

「幽々子さんまで!?」

 

 地主神社。清水寺を順に歩いていくと、この神社に行き着く。清水寺のすぐ近くに位置しているため、周囲は人で賑わっていた。

 この神社は大国主を主祭神として祀っており、特に縁結びのご利益があるとされ若い女性や恋人同士などに人気である。

 しかし、義徳は色恋沙汰にはまるで興味が無い。単純に必要が無いと考えているからである。故にこの神社で参拝した経験は一度もない。

 

「どうして二人してそんなに行きたがるんだか……」

「折角来たんだから、そんなことを言うのは野暮だわ」

 

 少し怒った表情をする幽々子。このような顔を見せるのは意外にも初めてかもしれない。

 

「貴方みたいに女っ気のない男は、神様の力でも借りないと彼女を作れないわよ?」

「……余計なお世話ですよ」

 

 乗り気でない義徳に対し、幽々子は容赦のない悪態をつく。

 そんなやり取りをしながら階段を上ると、それは現れた。

 

「あ、これこれ! 恋占いの石!」

「結構な人が並んでいるわね」

「目を瞑って反対側の石に辿り着けば恋が叶うと言われてます! これが凄い人気なんですよ!」

 

 地主神社で特に有名なのが恋占いの石である。本殿前に十メートルの間隔で二つの石が設置されている。この石には神の力が宿っており、片方の石から目を瞑ったままもう片方の石に辿り着くことができれば恋が叶うと専らの評判である。何でも回数によって恋の成就する早さが変わるらしい。一回で辿り着けばすぐ成就するし、何回も挑戦してやっとの場合は成就が遅れるという。また、アドバイス受けて成功した場合は誰かの助力を得ることで成就するなど、やたら具体的な効果がある。

 

「じゃあ義徳、行くのよ!」

「え?」

 

 無茶振りにも程がある。

 

「私と若葉ちゃんは向こうで待ってるから」

「これをやるのがよりによって俺なんですか?」

「義徳にやってもらわないと意味が無いのよ」

「そういうものなんですか?」

「そういうものよ」

「はぁ……」

 

 義徳は不本意ながらも状況を受け入れ、列の後ろへ向かう。幾らか時間が経ち、列の一番前へとやって来た。

 

「本当に効果あるのか……?」

 

 周囲に聞こえないように呟いて、石の前に立つ。前方に見えるもう片方の石の位置を確認してから目を瞑る。視界は暗闇に染まる。深呼吸して精神を落ち着かせ、歩き始めた。

 

(以外と難しいな……)

 

 何も見えない以上、真っすぐ進めているかどうか確認することができない。自身は正しい方向に進んでいるつもりでも、実際はその限りではない。また、周囲は人で溢れ返っているため、ぶつからないように配慮する必要もある。ただ、こちら側は正確な位置を把握できない以上、配慮したところでどうにもならない。

 

(こうなったら……ヤケクソだ)

 

 このままだと長引くし、辿り着けなくてもいいので早く終わらせることにした。周りの人達には申し訳ないと思いながら、無理矢理にでも歩を進める。すると。

 

「……!」

 

 角張ってざらざらした何かが手に当たった。恐る恐る目を開ける。義徳が触れているのは反対側にある石。つまり、彼はこの挑戦を一度で成功させたのだ。

 瞬間、誰かが拍手する音が聞こえた。幽々子と若葉だった。

 

「凄い! 義徳、一回目で成功だよ!」

「おめでとう。これで将来は安泰ね」

「だといいんですけどね」

 

 義徳は神頼みのような科学的根拠の無いことをあまり信じていない。あくまでも感性は現代人のそれである。故に少し複雑な気持ちだ。

 

「そうだ、若葉はやらないのか?」

「私はほら、可愛いし? こう見えて大学の男子には人気あるんだから」

「本当か?」

「……とにかく! 義徳は他人の心配よりも自分の心配!」

「若葉ちゃんの言う通りよ。貴方はもう少し自分を大切にしなさい」

「俺、そこまで心配されるような人間じゃないかと……」

 

 何だか上手くはぐらかされた気がする。それより、自分を大切にしろと言われたことの方が引っ掛かった。自分自身に何か問題があるとは思わないし、問題になるような行動もしていない。故に、二人の言葉は不可解だった。

 二人の顔を見ると、驚きの表情を露わにしていた。直接言ってはいない訳ではないが、「もしかして自覚が無いのか?」とこれでもかと訴えているのは理解できた。

 

「確かに俺はあんまり融通が利かないかもしれないけど、そこまで言われる程じゃ────」

「いや、そういうことを言ってる訳じゃないんだけど」

「ここまで来ると鈍感ってレベルを超えてるわね」

「そこまで!?」

 

 義徳が言い切る前に遮り、強烈な追い打ちが炸裂。一体を何をした? 幼馴染で彼のことをよく知る若葉ならまだしも、一昨日会ったばかりの幽々子にここまで言われるとは。散々という他にない。

 

「……とにかく。ここでの用事は終わったんで次の場所に行きますよ」

 

 怒涛の口撃で余程のダメージを負ったのか、流石の義徳も凹んでしまった。素っ気ない表情で脱線した話を元に戻す。今は義徳の話題で盛り上がっている場合ではない。折角の時間が無駄である。今日一日で市内中を回るには意外と時間が掛かる。

 

「あの、幽々子さん」

「どうしたの?」

「何だかやけに楽しそうですね」

「……そうね」

 

 小さい声で呟くと、蒼空を見つめる。彼女自身も今さっきそのことに気づいたのか、ハッとした表情を見せる。しばらく間を置いて、こちらに向けて悪戯な笑みを浮かべる。

 

「────貴方と一緒にいるから、かしらね」

 

 直後、義徳の耳元で囁いた。彼女の温かい吐息が耳を撫でる。それは鼓膜に響き渡り、心臓の鼓動が早くなる。顔が熱くなっていくのが分かった。

 

「どう? ドキッとしたでしょ?」

 

 唐突の出来事に思考が定まらない。言葉が出てこない。早鐘する心臓の鼓動を感じながら必死に思考を回す。

 

(またこの感覚だ……)

 

 激しい鼓動と同時に胸の奥が痛みが生じる。更に、何とも表現し難い感情を湧いてくる。幽々子のことを考えると、それは更に強くなる。彼女のことが頭から離れない。眼を離せない。一体、どうしてしまったというのか。天真爛漫な幽々子に成す術も無く翻弄されるだけだった。

 

 

(義徳、もしかして……)

 

 若葉は彼の様子を見逃さなかった。人と距離を置き、必要以上に関わろうとしないあの義徳が、まさか。当の本人は無自覚だろうが、抱いている感情は間違いなく────。

 西行寺幽々子という存在は、義徳の心に大きな変化を齎してる。西風若葉の天性の推察力は、その事実をハッキリと捉えていた。




 今回は珍しく実在の場所での描写となりました。一応この話に出てきた場所は全て行ったことがあるのですが遠い日の記憶なので正しいものかと言われると不安だったりします。時の流れが早すぎて怖い。
 何はともあれ、学校の課題を処理しつつこのまま最低月に一回くらいのペースで投稿して完結まで駆け抜けられるように頑張ります。ここまで読んで頂けたら幸いです。
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