1人が視聴中 XXXXXXX 時間前にライブ配信開始   作:暁刀魚

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俺の幼馴染は、配信者をしている。

 俺の幼馴染、有間美月は配信者をしている。

 登録者数二十万人と少し、同接は平常で2千から3千、多い時では1万を集める、個人としては大手といえる配信者だ。ネット上での名前は「MayLia」、名字の有間をひっくり返してマリア、少しアクセントを加えてメイリア、と読むらしい。

 

 若干十代にして、それほどの配信者を集めるのは、まずなんと言っても彼女が十代の少女であること。主な配信コンテンツはゲーム実況、この配信がとにかくうまい。

 ゲームプレイヤーとしての実力はそこそこ。上手すぎず、かと言って見ていてストレスにならない程度の理解力と判断力。謎解きをさせれば少し迷う程度ですぐに謎を解き、アクションは一回や二回のミスである程度コツを掴む。

 これに加えて、ストーリーに対して、既プレイの視聴者が見たかった反応をきっちり見せてくれたり、熱中して没入してくれる姿は、見ていて軽快だ。何より、ミスに対して声を荒らげず、何度でも挑戦していく姿は見ていて安心感が強い。

 彼女自身の性格も、おとなしく素朴で、男心をくすぐる、というか。アイドル性が高いのだ。彼女に熱を上げている視聴者は非常に多いだろう。

 何より声がいい。ほわっとした、落ち着いた声は聞いていて視聴者の負担にならず、罵倒などをほとんど言わないことも合って、垂れ流してみるのには最高だ。

 

 そんな人気配信者「MayLia」、色々な事情の末、紆余曲折を合って配信なんて事をしている彼女は、今――

 

『はい、というわけで、今回はね、“ゴブリン退治”の依頼を完遂したんだ』

 

 

 ――異世界で、配信をしていた。

 

 

《1人が視聴中 XXXXXXX 時間前にライブ配信開始》

 

 

 その文字が、配信枠のページに、はっきりと刻まれていた……

 

 

 ◆

 

 

 事の経緯を追って話そう。

 「MayLia」は有間美月、俺の幼馴染で、二十万人の登録者を抱える大手配信者。十代半ばではあるが、色々な事情によって学校には通っておらず、日中に配信を行っている。

 対する俺は神埼五木、地元の高校に通う特にこれと言って特徴のない、まぁオタク趣味の学生だ。美月とは保育園の頃からの付き合いで、今も交流があり、自宅は目と鼻の先。

 

 そんな二人だが、「MayLia」としての美月と俺の関係は、配信者と一リスナーだ。俺は暇がある時は美月の配信をいつも見ているが、俺がどういったハンドルネームで美月の配信をみているかを、俺は美月に教えていない。

 

 アイドル商売に近い配信者なんて職業で、特定個人の付き合いなんて枷にしかならないだろう。というのと、美月が一人で頑張っているのだから、俺が何か口をだすのも無粋だろう、という理由から。

 

 そんなわけで、俺は特に美月の配信業に口を出すこと無く、その日も配信を見ていたのだが――

 

 最初は、突然配信の背景が美月の自室から、森の中へ変化したことから始まった。突然のことで、何か背景を変えたのかとも思ったが、直後にゲームの画面が消え、美月一人が画面に取り残される事となった。

 そして、コメントもおかしい。それまで流れていたコメントが突如として止まったのだ。その日の美月の同接は4千人、普段より少し多いくらいの同接で、コメントが途切れるということはありえない。

 

 そして、何より特徴的だったのは、

 

《1人が視聴中 2時間前にライブ配信開始》

 

 視聴者が一人であるということ。そして、一人が視聴中で、俺がこの画面を見ているということは、この配信は俺一人しかみていない、ということになる。

 

『えっ!? えっ、これ、どういうこと!? どうなってるの!?』

 

 普段は落ち着いた声音で、テンションをあまり上下させないMayLiaが、完全に困惑している。これほど取り乱す様を、配信内でMayLiaが見せたことはない。

 明らかに異常事態であると解るその状況、見ているのは俺、ただ一人。

 

 俺がここで、チャットに何かコメントをスレば、Maylia……美月にそれが届くだろうか。

 

 ともかく、やってみるしかない、一人しか視聴者がいないというこの表示と、明らかに異常事態であるという現実を信じ、俺は行動した。

 ――本当なら、その時ネットで検索をかけて、状況を把握したほうがよかったのだろうけど。

 残念ながら、そんな余裕は俺にはなかった。だって美月が困っているから、俺は美月の幼馴染なのだから。

 そして俺には、この状況で美月に一発でコンタクトを取れる方法を、知っていたから。

 

 

ジュピター 月:落ち着け、“アルミ”

 

 

 祈りを込めて、コメントを打つ。美月がこれを見られない状況なら、俺がこれを視聴できている意味がない。だから届けと、祈りを込めて。

 

 

『…………カン、ちゃん?』

 

 

 ――それは、届いた。

 

 アルミ、というのは俺と美月の間で、幼い頃に二人だけで使っていたあだ名。有間をもじってアルミ、神埼をもじってカン、二人合わせてアルミ缶。小学校に上がるころには、もうこのあだ名を使うことはなくなっていたけれど、

 

 今でも、二人だけで大事な話をするときは、俺は美月をアルミと呼んでいる。

 

 彼女をアルミと呼ぶのは、世界で唯一人、俺だけだ。

 だからきっと、アルミと呼べばきっと解る。そう信じて――届くかどうか以外にも、そんな祈りを載せて――俺は呼びかけて。

 

 それは通った。

 

『カンちゃんなの! カンちゃんだ! カンちゃんなんだよね! カンちゃん! カンちゃんカンちゃん!!』

 

ジュピター 月:だから落ち着けって

 

『あ、その月マーク! メンバー入ってくれてたんだ! お小遣い大丈夫?』

 

ジュピター 月:アルミのメンバーに入るだけなら余裕に決まってるだろ。というか、そうじゃない。

 

ジュピター 月:落ち着いたか?

 

『――――あ』

 

 そこで、美月は状況を理解してくれたようだ。

 

『ここ、どこ……? カンちゃんは私のこと、見れてるの?』

 

ジュピター 月:場所はわからない、でも俺はアルミの配信を見れてる。コメントがないことから解るかも知れないけど、視聴者はオレ一人だ。

 

『え? あ、そっか。そうでもなきゃ、カンちゃんがアルミって呼んでくれるわけないよね』

 

ジュピター 月;そういうこと。一旦落ち着こう、俺が見えてるから。状況はわかるか?

 

『……』

 

 美月は、そう聞かれて周囲を見渡した後、大きく何回か深呼吸をした。傍から見ても、動揺して心拍数が上昇していることが解る。

 配信では、とにかく動じないくそ度胸として美月は知られているが、その美月が配信越しに見て取れるほどに戸惑っている。

 

 だから、俺は一言

 

ジュピター 月:アルミ

 

 そう呼びかけるようにコメントを打つ。

 直後、それを見たのか大きく息を吐き出した美月の表情が、冷静なものへと変わった。

 

『……回りは、苔むした遺跡みたいな場所。私の目の前には光る球体があって、球体には配信のコメント欄が映ってる』

 

 そう言いながら、美月はくるくると歩きだす。周囲の景色がそれに合わせて変化して、俺は理解した。

 

ジュピター 月:その球体はカメラみたいだ。常にアルミを追いかけて、移してる。遺跡みたいな場所も確認できた。

 

『……足元には、ファンタジーな魔法陣があるよ。微妙に光ってる。球体と同じ色。ねぇ、カンちゃん』

 

 そこまで言われて、俺も理解する。

 オタク趣味があれば、この状況でピンと来るのは簡単だ。美月も俺も、詳しくはなくても状況の把握はできる。

 

 

『――私、異世界に来ちゃった……みたい』

 

 

ジュピター 月:そして俺は、俺だけは、それを配信を通してみることができるんだな。

 

 

 配信者MayLia。

 俺の幼馴染、有間美月。

 

 ――彼女は、異世界で配信者となり。

 俺は、彼女の……たった一人の、リスナーとなった。

 

 

 ◆

 

 

 ――現実では、美月は失踪として扱われた。

 ある日、忽然と姿を消し、彼女は今も行方不明のママだ。

 ただ、不思議なことに、彼女は配信中に突然姿を消したのではなく、いつのまにか、誰にも知られることなく、いなくなっていたらしい。

 彼女の両親は彼女がどこかへ出かけるなどとは聞いておらず、ネット上でもどこかへ出かけるなどという事前の情報は残していなかった。

 

 完全に前触れのない、いきなりすぎる失踪は、少しの間世間を賑わした。彼女は人気のある未成年の実況者だったから、世間としてもセンセーショナルな話題だったのだ。

 

 とはいえ、それも数週間もすれば忘れられ、心配する彼女の身内を除いて、人々は彼女のことを気にしない日常へと戻っていった。

 

 そして、不思議なことに世間から彼女のことが忘れられると、彼女の身内、つまり彼女の両親も、彼女のことを気にしない生活へと戻っていった……ように見えた。

 その間、俺が何をしたかと言えば……何もしなかった。

 

 しなかった、というか、できなかったのだ。

 

 理由は単純で、俺が彼女が異世界へ飛ばされたことを周囲に話しても、周囲はそれを信じてくれなかったのだ。というより、俺が話したことを、彼らは記憶できなかったのだ。

 

 例えば直接配信画面を見せても、俺以外の人間には美月のチャンネルが見えるだけで、俺と他の人の間では、違うものが見えているらしい。

 俺が美月のことを話して、それを何とか把握できたとしても、数時間すればそのことを他の人は忘れてしまう。

 

 彼女のことが世間から忘れられた頃に、彼女の両親も彼女のことを気にしなくなったのは、この影響もあるのだろう。

 明らかに超常的な現象だが、異世界に美月が飛ばされてしまった以上、俺はそれを受け入れるほかない。何より困っているのは美月なのだから。

 

 そしてもう一つ異常なこと。

 彼女の利用している配信サイトでは、配信は最大十二時間しかできない。それなのに、彼女の配信枠は彼女のチャンネルから消えることはなかった。

 俺が彼女のチャンネルに行くと、何時間たとうが、彼女が異世界に消えた時の配信枠がそのままになっていた。

 

 ただ、常に美月の配信が見れたわけではない。

 こちらが美月に対してコンタクトを取れるのは、あの光の球体があるときだけ。どうやらアレは美月のスキルによって出現するようで、彼女がそのスキルを使用している時しか、俺は彼女の配信をみれないのだ。

 それ以外の時は、オフラインの待機画面が表示されている。

 

 つまるところ、美月の異世界配信を見れるものは、変わらず俺だけで、美月が異世界にいることを知れるのもまた、俺だけだということ。

 こうして、俺と美月の異世界配信は、始まった。

 

 俺と美月はまず、最初にいくつかの決め事をした。

 

 まず、美月の配信は定期的に行う。一日の終わり、あったことを定期的に報告して、俺と相談や雑談を行う。

 

 次に、俺は俺の日常を壊さない。あくまで美月が配信しているときだけ、美月と会話し、それ以外は努めて普通に過ごす。

 

 そしてもう一つ――俺と美月の間に隠し事はなし。これは、昔からの約束。

 

 1つ目は、美月の配信が向こうの世界に置いても特殊なことだろうと想像できたから。配信をしているときと同じだ。俺と美月の関係は、配信者MayLiaにとっては必要のない情報である。

 

 2つ目は、周囲の状況が、言う慣れば“世界”が美月のことを忘れさせようとしていて、俺がその例外だとするなら、俺は世界に目をつけられないほうが良い。

 加えて美月は、俺に心配をかけさせたくなかったのだろう。言葉にはしなかったけれど。

 

 3つ目は……美月が配信者になるきっかけを作ったときに、決めた約束だ。この時これを話題には挙げなかったけれど、この約束はまだ生きている。

 

 そうして異世界で生活を始めた美月は、まさしくテンプレのように成長していった。

 美月のスキルは光の球体による配信の他に、いくつか使いやすい発展性の高いスキルや、アイテムボックスとして使用できるスキルを所持していた。最初のウチはこれらを組み合わせて戦闘能力を向上させていった。

 ただ、やはりそれまで引きこもりの一般人であった美月に戦闘は難しく、最初のウチは俺が後ろから応援して、何とかといった感じだった。

 

 幸いなことに、その引きこもりの美月でも体を動かせる身体能力を強化するスキルも持っていたため、戦うこと事態は問題はなかったが、覚悟を決めて戦うにはやはり時間がかかった。

 なまじ身体能力だけでなく、防御力まで上がっていたからか、無数の獣に噛みつかれながら、平気そうにしている美月の姿は、実に異世界っぽかった。

 

 まぁ、後でそうコメントしたら怒られたが。

 

 ともかく、敵……モンスターと言っていいだろうか、あまりこちらの世界と生態系が違う気はしないが。それらを倒すと、経験値が得られることはすぐに判明した。

 経験値を得ればレベルが上がり、スキルが成長するのは異世界の常識だ。この世界でも、それは変わらない。ステータスも向上し、数日もすれば森に美月の敵はいなかった。

 加えて、食料も豊富で、近くに水場が合ったため、彼女が困ることはなかったが、それも数日の間だった。

 

 ――肉が食べれないのである。

 これは大問題だ、美月は別に菜食主義者ではないから、肉も相応に食べるし、どちらかと言えば大好物だ。焼き肉をおごると、幸せそうにもっきゅもっきゅしているのを俺はよく覚えている。、

 

 禁断症状はすぐに出た。配信を開始した当初から美月は肉肉つぶやいており、最終的に俺のコメントを移す球体を肉だと思いかじりついてきた。美少女にかじりつかれるのはご褒美だろうか。

 個人的には割と恐ろしい光景だったことをここに報告する。眼が血走っていたからな。

 

 ともかく、そこで俺の出番だ。

 俺は現代日本の叡智をフル活用できる。インターネットを介せば自由に動物の処理の仕方を調べることができ、それを美月に伝えることができる。

 異世界チートによくある現代知識無双。残念ながら美月は学校にほとんど通っていないためそんなものはない。だが、俺がそれを外部からサポートできる。

 

 美月本人の異世界スペックと、それを支える現代知識を伝える俺。二人が揃って、ようやくこの世界で異世界無双ができる条件が整うのだ。

 少しだけ、嬉しかったのはここだけの秘密。

 

 ただ――

 

 

『むむむムリだよカンちゃーん!』

 

ジュピター 月:関係ない、行け。

 

 一般的に、十代女子はグロNGである。

 

『でもでも、血がどばって、どくどくって、うわわわわ』

 

ジュピター 月:戦闘中は平気で首はねるじゃん

 

『そこまで行くのに何日かかったと思ってるの!』

 

 選択肢としては、この森を脱出して、街を目指す選択肢は考えられた。ぶっちゃけ、今の美月は配信用にわざわざ来ていた制服姿で、あまり着心地がいいとは言えない。

 それも、日に日にボロボロになっていくものだから、あまり長居はするべきではない。

 

ジュピター 月:ほら、さっさとしないと今日の配信終わっちゃうぞ。

 

『うううううううう! うーーーーー!』

 

 ただ、美月はもう少しこの森で狩りをしていくつもりのようだった。

 理由は、単純だろう。

 異世界モノの定番、序盤は創意工夫でチート能力を鍛える。これを怠ったチート転生者は噛ませ転生者として主人公の餌にされるのだ。

 ああ恐ろしい。

 

『ううう、やっぱりムリ! カンちゃんなんとかして!』

 

ジュピター 月:ごめん……

 

『そこでマジ謝罪はいらないよう!』

 

ジュピター 月:草

 

『笑わないでよぉ、もぉ!』

 

 …………という体で、人に会いたくなかったのだろう。

 

 ぷりぷりと可愛らしく怒った美月は、少し寂しそうに、声のトーンを落とす。

 

『……私の味方は、カンちゃんしかいないんだから』

 

ジュピター 月:うん。

 

『だから、カンちゃんが見ててくれれば、私頑張れるよ?』

 

 ――美月は引きこもりだ。配信越しでなければ、人とまともに会話ができない。それは、きっと配信をして多くの人に知られるようになった今も、変わっていない。

 言葉にはしなかったけれど、美月は一人でいたかったのだ。できることなら、永遠に。

 

ジュピター 月:わかってるって。

 

『うん、うん、だからね?』

 

 美月は俺と、二人っきりでいたかったのだ。

 

『私のこと、見捨てないでね』

 

ジュピター 月:見捨てるわけないだろ。俺はアルミの味方なんだから。

 

 ――できることなら、永遠に。

 

 

 ◆

 

 

 美月の引っ込み思案は、生来からのものだった。

 常に、誰かの後ろについて回って、自分から意思表示をすることはない。外見が可愛らしいからそれでも許されていたけれど、輪の中に入っていけるタイプではなかった。

 

 面倒を見る先生も一人で、手が足りるわけもなく。

 そも、保育園以外でも彼女の手を引く誰かは必要で、家が隣の俺は、自然とそれを押し付けられる立場にあった。

 

 ――最初、俺は美月のことが嫌いだった。

 

 話しかけてもなにも言わないし、笑いもしない。なのにちょこちょこと俺の後ろをついてくるものだから、鬱陶しくて仕方がない。

 彼女が一緒にいては、友達と駆け回って遊ぶこともままならない。

 とにかく邪魔で、けれども俺のそばを離れない存在。それが美月だった。

 

 そんなものだから、回りの見ていないところでは、俺は美月を“アルミ”と呼んでバカにしていたし、美月はそれに何も言い返さなかった。

 

 そんな関係がずっと続くものだから、周りは俺たちを付き合っているとしてからかうし、親も俺たちは仲がいいと思っていたから、俺は窮屈で窮屈でしかたがなかったのだ。

 なのに美月は何を言っても言い返さないし、かといって俺から離れようともしない。俺はイライラしてしかたがなかった。

 

 

 ――ある時、それが限界に達し、人の見ていないところで美月を突き飛ばした。

 

 

 転んで手を擦りむいた美月。それを見せて、誰が犯人かを告げれば、周りは俺を引き離すだろう。せいせいする気持ちで、俺は帰った。

 ――その後ろをとことことついてくる美月に、嫌な予感を覚えながらも。

 

 結局、美月はそのことを誰にも言わなかった。どころか、親にも傷を隠し通し、最終的に治るまで誰にも言わなかったのだ。ぎゅっと拳を握っていれば隠せる位置だったのもあるだろうが、それにしても、握り続けていれば、痛かったろうに。

 俺は訳がわからなかった。いつも自分のことを疎んでいて、挙げ句には突き飛ばした相手のことを、庇うかのように振る舞って、そしてその後も変わること無く後ろをとことことついてくる。

 

 俺は美月を問いただした。なぜついてくるのかと。答えなんて期待しちゃいなかった。これまでも、美月は俺の言葉に答えてなんかくれやしなかったのだから。

 だが、その時は違った。

 

 ぽつり、と一言。

 

「――だって、カンちゃん。口では何言っても、一緒にいってくれるもん」

 

 カンちゃん!? 驚く俺に、二人合わせてアルミ缶だよ、という美月。思えば、きちんと二人きりで話をしたのはそれが初めてだった。他人がいるところでは、一方的に俺が呼びかけて、美月がそれに従うだけだったし、二人きりの時は、俺が一方的にぐちぐちと文句をいうだけだったから。

 

 だけど、美月はついてきたのだ。

 ずっとずっと、変わること無く。俺に何を言われようと、“俺が一緒にいてくれたから”。

 

 他の誰もしてくれなかったことを、してくれたから。何を言われようと、何をされようとついてきた。

 

 ――美月の引っ込み事案は、生来のものだ。

 

 だが、彼女は妙に頑固だった。どれだけ、何を言われようとも、一度決めたことは頑として曲げない。それが正しいと思うことなら絶対に。

 怖がりで、無口で、けれども、意志は誰よりも強かった。

 

 結局、俺はそれに折れたのだ。もともと、美月のことは嫌いではあったけど、疎ましくはあったけど、今更離れるのも、なんだか違う気がしたから。

 ……別の誰かに美月の面倒を見られるのが、どこか嫌だったから。

 俺は、美月に付き合うことにした。

 

 だからそう決めた時、俺は美月にこれまでのことをすべて謝って、美月はそれを許してくれて。

 でも、それだけじゃ、俺は俺を許せない。

 

 俺は心に決めた、美月のことは、何に賭けても俺が守る。俺だけが、美月を守るのだ。その役目は誰にも渡さない。俺は美月のものであり、美月は俺のものなのだ。

 だから、決めた。

 美月が俺を“ずっと一緒にいてくれるから”選んだのなら。

 

 俺もそれを貫き通す。だって、それが美月にとっての、俺なのだから。

 

 

 ――幼馴染としての俺たちは、そこでようやく、始まったのだ。

 

 

 美月が引きこもりになったのは、中学に入ってすぐのことだった。中学に入学した当初、俺と美月は別のクラスだった。だから俺の知らないところで、美月はクラスメイトにいじめられていたのだ。

 容姿は可愛らしく、男ウケのする性格で、女子の評判が悪かったために。

 

 そして、俺はそれを知らなかった。美月が隠していたからだ。

 

 いじめは一ヶ月ほど続き、そして一ヶ月もすれば、美月へのいじめは収まっていった。美月が何の反応も見せなかったからだ、怒りも、悲しみもなく、ただ淡々といじめを受け入れていた。

 思い返せば、美月へのいじめは、俺が二人きりのときにしていた文句と、さほど程度は違わなかったのだろう。

 

 美月にとっては、そんなものは幼少期に何度も経験した程度のいじめだったのだ。だから、俺に話すまでもなく、耐えることができたし、それが美月を苦しめることは、なかった。

 

 ――だから、いじめの対象が別の誰かに移ったのだ。移った、らしい。俺はその誰かというのを知らない、知る必要のある情報でもなかったからだ。

 なにせ、その誰かへのいじめは、始まったその日に止むことになるのだから。

 

 

 美月が、いじめっ子達を凄まじい形相で責め立てたのである。

 

 

 物理的にも、言葉でも。

 いじめっ子達に、椅子を振り回して暴れまわり、最終的に教師総出で止められても、口汚い言葉を浴びせ続け、いじめをした者たちを、いじめをしたという事実で責め立てたのである。

 美月を知るものからすれば、信じられないその行動の後、美月は学校へ行くことをやめた。その行動は、周囲を困惑させ、美月の両親も、どうすればいいかわからない、といった様子だった。

 

 ――ただ、俺には美月の真意が理解できた。

 

 いじめに鬱憤が溜まっていたから?

 違う、だったらもっと早くに行動を起こしている。

 

 自分ならともかく、他人に矛先が向くのが嫌だったから?

 周りはみな、そういう理由だろうと思っていたが、これも違う。確かにそういった思いもあるだろうが、美月のなかで、より大きかったのは別の理由だ。

 

 他のモノにいじめの対象が移れば、俺にいじめが露呈するのが早まるからだ。

 

 本当に、それ以上の理由はないだろう。だって、バレたら俺はどうにかしようと思うから。俺に迷惑はかけたくなかったのと、もし、いじめの対象が移ってからバレても、俺はどうにかしようと思うだろうから。

 そう、

 

 

 ――自分以外の誰かが、俺に救われるのも、美月は同じくらい嫌だったのだ。

 

 

 ベッドの中にうずくまり、こちらに顔を見せること無く、美月は俺にそう語った。

 

『カンちゃんは、私のカンちゃんだもん』

 

 一度決めたことは絶対に譲らない、美月は独占欲が強いのだろう。

『――私、カンちゃんに迷惑かけたくない』

 

 美月はそう続ける。

 

『もし、また学校に行ったら、カンちゃんは私を守ろうとするよ。私のことで、カンちゃんを縛っちゃうよ。それは嫌。カンちゃんには自由にしてほしい』

 

 でも、と。少しだけ布団から顔を出して、

 

『でも、カンちゃんには私のことを見てて欲しい。ここにいれば、普段はカンちゃんは私のことを意識しなくていいけど、ここにくれば私を見てくれる。だから私はここにいたい』

 

 ――美月が学校に行かず引きこもる理由は、ただただひたすらに、わがままだった。

 そう言われると、俺としても照れるほかない。幼い頃からずっと一緒にいて、後ろをついて回ってきた相手のことを、それも、可愛らしい幼馴染のことを、嫌いになれるはずもない。

 

 だから、わかったという。それでいいと俺は思う。

 だが、同時にそうは言っていられないだろう、という現実もある。いつまでもここにいては家族を心配させるし、迷惑をかける。

 だから、この部屋にずっと引きこもったまま、誰に迷惑をかけなくて済む方法を、考えなくてはいけない、と俺は言った。

 

 ついでに、二人の間で隠し事はなしにしよう、と。

 

 俺は美月を見ていたい。美月の事を守りたい。だから、美月が早く俺に教えてくれれば、すぐに俺は駆けつける。長く隠して、事態が大きくなったほうが、大変だから。

 それに、俺は美月の全部を知りたい。

 

 美月が俺を自分のものだというように、

 

 俺だって、美月のことをもっと知りたい。

 

 そのために、決めた約束。

 隠し事はしない。それは、今も続いているはずだ。

 

 

 ――それから少しして、美月から連絡が来た。

 はられたのは一つのURL。見ればそれは美月の配信枠で、俺が開いた時には、こう表示されていた。

 

《1人が視聴中 90秒前にライブ配信開始》

 

 美月は、部屋の中でできることとして、配信という選択肢を選んだ。理由は、部屋の中にいても稼げたから。自分の容姿や趣味が配信に向いていたから。

 そして――きっと、直接聞いたことはないけれど、

 

 

 俺が部屋にいない時も、美月のことを見れるからだろう。

 

 

 それから、美月の配信は続いている。異世界へと舞台を移した今も。

 「MayLia」として、有間美月として――アルミとして。

 

 

 俺の幼馴染は、配信者をしている。




二人は言葉にはしないけどラブラブで、お互いのことしか見てないです。
全5回程度の予定
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