「終わりを望まぬ者」
――終わりとは、ある日突然にやって来る。
それまでに積み上げられて来たもの。時間。
その大小に関わらず。ある日、突然に。
終わりにも種類がある。
完成を迎える事による結実の終わり。
完成の後に来たる崩壊によって全てが無に帰す破綻の終わり。
或いは何処にも辿り着け無いままに訪れる中途の終わり。
では、どんな形であれ、終わりを迎えたものはその後どうなるのか。
「無」のままか。はたまた、「無」から再び新たなる「有」を生み出すのか。
永遠に繰り返される破壊と再生。終わりと始まり。
英雄たちの邂逅。
拡大する宇宙。
時空の超克。
響き合う幾つもの世界。
繋がりの物語。
いつか、どこかで有り得たかも知れない可能性の欠片たち。
それを名も知れぬ誰かが拾い集め、繋ぎ合わせ、ひとつの形を成していき、
やがて形を失い、壊れゆく。
その営みを幾度となく見てきた。気の遠くなるほどに。
始まりの先には終わりがあり、終わりの先に始まりがある。
もはやその線引きにさえ意味は無いのかも知れない。
だからまた、ひとつの物語を紡ごう。
「何だ、ここは…」
暗い場所にいる事だけが分かった。意識はある。
水の中に漂っているような浮遊感。
この空間が広いのか、それとも狭いのか。それは分からない。
「俺は、どうして、ここに…」
状況が読めない。
何故、ここにいるのか。
どうして、こんな状態に陥っているのか。
自分が何者なのか。
思い出そうにも、思い出せない。
「俺は、誰だ…?」
「それはこれからお前が知る事だ」
「!? 誰だ…」
何処からともなく、か細い少女らしき声がする。
相変わらず視界は真っ暗なままで、姿は見えない。
遠くにいるのか、近くにいるのか。
「誰か、そこにいるのか? 教えてくれ、何でもいい。
知ってる事を教えてくれ。
ここは何処だ? 君は誰だ? どうして俺はここにいる?」
「お前は『終わった』んだ」
「終わった…? 終わったって、どう言う……」
「言葉通りの意味だ。お前は『終わり』、全てを失った。
かつての名前も、記憶も、今や意味を持たない。
誰もお前を知らないし、お前も何も知らない。
お前だけではない。
幾つもの世界が次々と同じように終わりを迎えている。
やがて、何もかもが消える。全てが最初から無かった事になる」
「そ、そんな…言ってる意味が分からない…
俺は…俺はここにいるじゃないか。現にこうして君と話してる。
俺は『終わって』なんかいない! 『ここにいる』んだ!!」
声の限りに叫ぶと、少女はまた言葉を紡ぎ出した。
「ならば、『始める』がいい」
「え……」
「お前が『終わっていない』と言うのなら、『始める』がいい。
『ここにいる』限りは、永久にこのままだ」
「うっ……!?」
闇を裂くように、光が漏れる。
それはだんだん大きく、眩く広がり、目の前に立つ少女の姿を浮かび上がらせる。
腰まで届きそうな長い黒髪。
深海の如き漆黒を湛えた瞳。
桃色のマフラーが口元を覆っている。
無駄な肉の無い、引き締まった小柄の体躯。
「君は……?」
「私の名は…ペルフェクタリア。『終わりを望まぬもの』だ。
お前と私の道が重なり、繋がれたのなら、またいずれ遭う事もあるだろう。
そうなる事を、私も望んでいる」
「ペルフェクタリア……待ってくれ、まだ色々と聞きたい事が…!」
「さあ、この闇から足を踏み出せ。そこから全ては始まる」
「うっ…!? うわああああああっ……!!」
光は闇を飲み込み、今度は眩い光が全てを包み込んだ。
今は何も分からない。ただ、これだけは分かる。
ここにはいられない。ここには何も無い。ここに留まり続ける事だけは。
「行ってやるさ…! 俺が何者で、何て名で、何処から来て、何をしようとしていたのか…
その全部を知れるのなら…!!」
そう決意し、自ら光の中へと飛び込んだ。
「名も知らぬ誰かの物語」が、今始まったのだ。