「ポチ」
「……」
「タメゴロー」
「……」
「チャッピー」
「……」
「葦咫、さっきから言ってるのは……」
「キミの名前。何かあった方がいいかなーと思って。
でもなかなか良いのが思い浮かばないね」
「はは……」
相変わらず先の見えぬ暗闇の中を進む。
だが、今は独りではない。こんな状況下でもマイペースを貫く葦咫の存在は、
大きな心の支えになっていた。
「んっ……?」
光だ。進む道の先。僅かながらの光が見える。
「あれ! 出口かな!?」
「分からないけど……」
「行ってみよう!!」
喜び勇んで、葦咫は駆け出した。
「あっ、ちょっと待って……!」
すぐさま追いかけたが、まったく追いつけない。
何と言う脚力。ぐんぐん距離を離されていく。
「速っ……!?」
一体、あの光の先には何があるのだろうか。
「光……光?」
少しずつ近づいていくにつれ、何かが頭の中に浮かんでくる。
「光……そうか、俺の名は……」
それは、失われていたはずの、自分の名前。
「えいっ!!」
そうしている内に、葦咫は光の中へと飛び込んで行ってしまった。
「あっ、葦咫!! ええい、なるようになれ!!」
伸ばす手は葦咫には届かず。一足遅れでその身を光の中へと委ねる。
その先にあったものは……
「……街だ」
そこは街の真ん中にある公園だった。
青い空。生い茂る緑。往来する人々。仕切られたフェンスの向こうには高いビルが立ち並ぶ。
「やったね! 出られたよ! わーい! わーい!」
葦咫は噴水の前で両腕を飛行機の翼のように広げて走り回っている。
「葦咫、無事だったのか……良かった」
光に飛び込んだ先で離れ離れになってしまったら
どうしようかとヒヤヒヤしていたが、
杞憂なようで安堵した。そっと胸を撫で下ろす。
「葦咫……俺、ここに来る間に自分の名前を思い出せたような気がする。多分」
「ホント!?」
「俺の名は……コウジ。師惧丸光侍(シグマル・コウジ)だ」
「コウジ……コウジかぁ! うん! いい名前!」
何故か、確信があった。唐突に浮かんできたその名前。
何処か懐かしく、そして馴染む。
「で、コウジ。ここは、どう? キミが知ってる場所?」
「いや……それはまだ分からない。葦咫も知らない場所なのか?」
「うん……あたしも一緒かな」
「それはこれから調べていくしかないか……でも、少しは進展したような気がする。
焦る事は無いんだ」
「名前も思い出せたしね!」
「そう言う事」
気持ちが上向きになってきた。
下ばかり向いていたのが、やっと前を見据えられるようになったような。
師惧丸光侍と九十九神葦咫の旅は、今ようやくスタートラインを切ったのだ。