入学式の翌日、陽向は何とか朝のホームルームが始まる前に学校へとたどり着いていた。とは言ってもホームルーム開始時間の5分前に学校へと到着したため時間としてはかなりギリギリだったようだ。
「ふぅ、間に合った。」
「陽向、おはよう!」
「あぁ、おはよう、こころ。」
ホームルーム開始3分前に教室へたどり着くと待っていたと言わんばかりにこころが陽向の元へと駆け寄ってきた。その様子がまるで家に帰ってきた飼い主を出迎える子犬のようで陽向はつい笑ってしまった。
「あら、陽向は今日も素敵な笑顔ね!何か楽しいことがあったのかしら?」
「いや、楽しいことというか…、なんだかこころが可愛くて。」
「そうなの?陽向そう言って貰えるととても嬉しいわ!ありがとう!」
「いや、本当のことだからお礼はいらないよ。」
昨日の一件から既にクラスメイトどころか1年生の間で二人の関係が噂されているのだが、当の二人はそんなことも知らず、それどころか周りの視線など気にする様子もなく会話をしていた。
「そう言えば、今日こそはあたしに付き合ってくれるのよね?」
「うん、今日は珍しく予定が無いから大丈夫だよ。」
「それなら良かったわ!」
「皆さん、おはようございます。席に着いてください。」ガラガラ
しかし、陽向が教室に着いたのがギリギリだったために長い時間話すことも出来ず、直ぐにホームルームが始まった。
ホームルームが終わった後、陽向は保健室にやってきていた。と言っても怪我をしたり体調を崩した訳では無い。今日は1.2限目に身体測定があり、その後は簡単な学力テストが行われる。そのため、現在は人数の少ない男子は格技場で、人数の多い女子は体育館でそれぞれわかれて身体測定を行っていた。いるのであって保健室で身体計測など行割れる予定はなかったのだ。では何故陽向のみ保健室に来ているのかというと、陽向の体を
「…はい、もう服着ていいわよ。診たところ今のところ体に大きな変化はないし…、日々の生活に問題はなさそうだわ。」
「そうですか、ありがとうございます。お手数かけてしまってすみません。」
現在、学校関係者で陽向の余命について知っているのは学園長と、この保健室の先生の2人だけである。そもそも、陽向が花咲川学園に入学することができたのはこの保健室の先生によるところが大きい。なんでも、陽向の担当医とこの先生は大学時代の同期なのだそうで、高校に通いたい、という陽向の願いを聞いた担当医が、それなら何かあった時にすぐ耳に入るように、とこの花咲川学園を紹介してくれたのだった。しかし、入学するにあたって陽向の余命について知っているのが保健室の先生1人ではよろしくないということで学園長だけには知らせておくことにしたのである。
「別に気にしなくていいわよ。それと、そろそろ教室に戻らないとさすがに怪しまれるわよ。」
「それもそうですね。では失礼します。」
「えぇ、また何かあればすぐに来なさい。」
そう言って、陽向は教室へと戻って行った。
陽向が去った後の保健室で彼女は陽向の担当医から手渡された資料を眺めていた。そこには陽向の余命のことや、病院での検査結果の他に陽向の体を移した写真も添付されていたのだが、その写真に写った陽向の体にはいくつもの切り傷や、火傷の跡が残っていた。
「…いったい、神様はあの子をどれだけ苦しめるつもりなのかしらね。」
そう言って、彼女はつい先程まで自分に向けられていた陽向の笑顔を思い出していた。まるで、今この花咲川学園に来ていることが最高に幸せである、とでも言いたげな陽向の顔を思い出すと、自分までもが幸せな気持ちになれて、だからこそ、陽向の
身体測定が終わり、その後の学力テストも国語、数学とつつがなく進んで行った。残すところ英語一つだけだが、その前に昼休憩が挟まれるため生徒たちはそれぞれ昼食をとり始めていた。陽向も自分の弁当を食べようとカバンから取りだしたのだが、陽向が弁当箱を開ける前にこころがやってきた。
「陽向!一緒にお弁当食べましょ!」
こころの手には可愛らしいサイズの(だがどことなく高級感の漂う)弁当箱があった。それに陽向は二つ返事で返した。
「もちろん、僕も出来れば一緒に食べたかったからね。」
「そうなの?それなら、これから毎日一緒に食べましょう!」
「いいの?僕は嬉しいけど、ほかの友達と食べたりしない?」
「大丈夫よ!もしそうなった時はその子も入れてみんなで食べましょう!」
「そっか、それもそうだね。ならこれからも一緒に食べさせてもらうね。」
こころの提案によりこれからも一緒に食べられることになり、嬉しさのあまりいつもの5割増しで笑顔になっていた陽向を見てこころも満足そうに笑った。
こころが陽向の前の席に座ると2人は弁当箱を開けて食べ始めた。
陽向の弁当は白米に卵焼きにハンバーグ、サラダなど、在り来りながらもバランスのとれたものだった。一方こころの弁当は、イクラや海老などひと目でわかるくらい高級なものだった。
「おぉー…。すごいなぁ。」
「もし良かったらあげるわよ!」
「えっ!? んー…、じゃあ交換ってことで一口だけいいかな?」
自分でも気づかないうちに声が漏れてしまっていたことに少しだけ恥ずかしさを覚えた陽向だったが、こころからの魅力的な誘いを断れず、自分のと交換ということで頂くことにした。
「わかったわ!どれがいいかしら?」
「それじゃあ…、この海老貰ってもいいかな?」
「これね!はいっ、あーーん!」
「「「「「「ーーーーっ!!!??」」」」」」
その瞬間、教室中の視線がこころたちに集まった。
クラスメイトたちは先程までの2人のやり取りに注意はしていたものの、昨日の一件もあって、二人の間には恋愛感情が全くないものだと思っていた。今朝の二人の会話も、カップルのような雰囲気はあったものの実際に二人がそういう関係ではないことを思っていたからこそ大して反応を示さなかったのである。しかし、現在こころが行っている行為は明らかに恋人同士のそれであり、今まで静観していたクラスメイトたちもこれには反応せざるをえなかった。もしもここで陽向が戸惑うことなく食べさせられるようなことがあれば二人は完全に恋人認定されてしまうが、陽向は…
「あーーん。……ん〜!おいひぃね!」
「「「「「「ーーーっ!!!!!???」」」」」」
…・やはり気にする素振りなどなかった…。
もはやこれは決定的だと、誰もが思った。特に、昨日の自己紹介で陽向に熱い視線を向けていた女子たちは明らかに淀んだ空気をまとっており、教室は混沌とし始めていた。
「それは良かったわ!」
「ありがとう、本当に美味しかったよ。じゃあ次はこころの番だね。どれがいい?」
「それならこのハンバーグが欲しいわ!」
「りょーかい、はいっ、あーーん。」
「あーーん、…ん〜!とっても美味しいわ!こんなにも美味しいハンバーグ初めてよ!」
「それなら良かったよ。」
「「「「「「………………。」」」」」」
そして、陽向までもがこころに食べさせようとしたことで、クラスメイトたちの頭は情報を受け止めきれなくなり、全員が考えることを放棄した。
ただ1つ、クラスメイトたちの頭に残ったことは、これから先毎日これを見せつけられることへの不安だけだった。
なんかまた新しい要素増やしてしまってすみません…。描きたいと思ったこと次々書き込んでいったので矛盾するところが出てくるかもしれませんが、これからも読んでいただけると嬉しいです。
では今回はこれにて、失礼します。