【対魔忍RPG】まりの大冒険 ふたたび   作:unko☆star

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その②

――センザキの中心部は、戦争難民が大量に流入して築いたスラム街である。

この区域を中心に数々の犯罪組織が巣食い、“闇の繁華街”センザキを形成した。

森浦の住居はそんなスラム街の一角にある。

 

「こんな場所で恐縮ですが…紅さんはイカがお好きと伺いましたので…」

森浦が台所から料理と酒を運んで来る。

 

皿には焼いたイカを緑のタレで和え、香草のようなものを散らしたものが盛られている。

「木の芽和えですか。良いですね」

「昔、店を構えていたころはこういうのも得意だったんですが…屋台になってからはどうも…はは…」

 

ぺこぺこと頭を下げながら酒を勧めようとする森浦を紅が手で制する。

「すみませんが、仕事中は…」

「ああ済みません、いつもの癖で…」

「ふふふ」

 

紅の隣に座ったまりがニヤニヤと笑みを浮かべながら紅を見つめている。

「…なにか変なことを思い出してるんじゃないだろうな」

「い~えっ♪ぜんぜんそんなことありませんよっ♪」

 

紅は酒に弱いわけではないが、飲みすぎると泣き上戸になる癖がある。

普段のクールさが嘘のようにめそめそと語りだし、誰彼構わず愚痴をこぼしまくる。

まりは1年前の事件でそれを目にしたことを思い出していたのだ。

 

(あの時の紅さん、可愛かったなあ…最後は私と間違えて電柱やゴミ箱に話しかけて…)

 

「やっぱりなにか思い出してるだろう」

「そんなことないですよ~♪」

まりは紅をはぐらかしながら皿の上のイカに箸を伸ばし、ぱくりと頬張った。

 

「美味しいっ!」

「ありがとうございます」

失礼、と断りながら自分のグラスに酒を注いだ森浦が顔をほころばせる。

 

紅はまだ憮然とした様子でまりを睨んでいたが、やがて小さくため息をつき、森浦に向き直った。

「森浦さん、そろそろ…」

「……はい。依頼というのは他でもありません…。私の娘を探して頂きたいのです」

グラス傾け、唇を湿らした森浦が語りだす――

 

 

――――――

 

――――

 

――

 

 

――森浦には『和香(わか)』という名の娘がいた。

母親は和香が小学校に上がる頃亡くなっているが、森浦は再婚せず男手ひとつで和香を育てた。

森浦の料理の腕はなかなか評判がよく、経営していた店も小さいながら父娘が食べていくには困らない程度には繁盛していたという。

 

――しかし5年前、外出先から森浦が戻ると、店は荒らされ、金目のものは全て奪い去られていた。

それだけではない、留守番をしていたはずの和香と従業員の女性…こちらは『美春(みはる)』といった…も行方不明になってしまったのだ。

 

――店内は派手に荒らされてはいたが血痕などの痕跡はなく、二人は犯人に連れ去られたものと考えられた。

しかし警察の捜査は遅々として進まず、森浦は自ら人を雇って行方を捜し始めた。

探偵、興信所、果てには怪しい稼業の人間まで…。しかし手がかりは掴めなかった。

やがて財産が底をついた森浦はこのスラム街に移り住み、不法投棄された資材でこしらえた屋台でなんとか日々生きていける程度の稼ぎを得て暮らしていたのだ。

 

 

「正直、私も諦めていました…無我夢中で探しまわってもなにも見つからず……雇った人間も、正直、その……金をふんだくって行方をくらますようなのが何人も……さすがに、疲れ果ててしまいまして…」

「もう酒だけが生きがいのような毎日で…もっとも、自分で飲むぶんなんて大して買えないので…飲んだくれのくせにまあまあ健康という……ええ、今日は特別です、ははは…」

 

 

――しかし、先日。森浦はセンザキの繁華街で男と連れ添って歩く美春らしき女性を見かけたのだ。

「美春!」

森浦が名前を呼ぶと女は血相を変えて駆け出し、森浦もその後を追いかけようとした。

 

――が、すぐに女と連れ添っていた男に襟首を掴まれてしまった。

「おいっ!なんだテメェは!」

「放してくれっ…あのっ…美春っ…」

「ドブネズミがっ!!」

ゴッ。

 

――顔面を殴られて気絶した森浦が目を覚ました時には、男も美春らしき女も跡形もなく消えていたという。

 

 

「私も気が動転して、はっきりと顔を見れたのか自信はないんですが…あれは美春でした。ええ。間違いありません」

ぐい、と酒を飲み干した森浦が続ける。

「だって、そうじゃなきゃおかしいじゃないですか…美春の名前を呼んだだけで慌てて逃げ出すなんて…」

 

 

――――――

 

――――

 

――

 

 

 

幸せな生活が一瞬で崩れた、あまりにも悲惨な身の上話。

しかし、それを語る森浦の様子にまりは違和感を覚えていた。

(なんだろう、この…引っかかるような感じ…?)

 

ちら、とまりは隣の紅の顔を見やった。

「……」

紅もなにか腑に落ちない顔で腕を組んでいる。

どうやら彼女もまりと同じ“何か”を感じているらしい。

 

「森浦さん、もう少し詳しくお聞きしたいことがあります」

「はい…?」

「美春さんについてです」

「あ、美春の…。はい、なんでしょう…」

森浦はグラスに目を移し、また酒を注ぎはじめた。

 

(そうだ、森浦さん…美春さんの名前を出すときだけ…なんというか…)

 

挙動がおかしい。

眼がきょろきょろと泳ぐ。

露骨に目の前の二人から視線を逸らす。

(まるで…)

 

 

() () () () () () () () () () () () () ・・・

 

 

「あなたと美春さんは、どのような関係だったんですか?」

「え…?」

酒を注いでいた森浦の手が、慌てて瓶をひっこめた。

グラスの酒はもう少しであふれそうなところまで注がれている。

「どのような、と言われましても…彼女はただの従業員で…」

 

「あなたは、美春さんと()()()()()()だったのではありませんか?」

「!!!」

びくり、と森浦の体がこわばる。

 

 

沈黙。

 

 

「森浦さん」

紅が沈黙を破った。森浦は俯いている。

「私は、一度受けた仕事には全身全霊でかかります。あなたのために命を懸けます」

「………」

「どうか、全て打ち明けてください。それが手掛かりになるかもしれない」

「…………」

 

 

やがて森浦は小さく頷き――静かに語り始めた。

 

 

――――――

 

――――

 

――

 

 

――森浦と美春は一緒に働くうちに惹かれ合い、関係を持った。

店が忙しくデートなどはあまりできなかったが、森浦がプロポーズを決心するまでにそう時間は必要としなかったという。

 

 

「和香と美春はとても仲が良かったんですよ…3人で上手く店を切り盛りして…これなら、本当の家族になれるかと…」

「ええ、美春は承諾してくれました。大層喜んでくれて…」

 

 

――しかし、父から再婚話を打ち明けられた和香は、思いがけず猛反対した。

「そんなことをするなら私は出ていく。父親とも思わない」

「私は美春さんをお母さんなんて思えない」

「お父さんはお母さんを忘れてしまったのか」

 

 

「娘があんなに怒るのを見たのは初めてでした…私も呆気にとられてしまって…」

「いえ、私が無神経だったんです…子どもにとって母親がどういうものなのか…娘が、小さい頃に亡くしてしまった母親をどう思っていたのか…考えもせずに…」

 

 

――和香が反対している以上、再婚は諦めるしかない。

だが、かといって何事もなかったようにまた3人で暮らすこともできない。

再婚話の頓挫は3人の間に決定的な亀裂を生んでしまったのだ。

 

「美春には、店を辞めてもらうように言いました…。友人のつてで、次の就職先を紹介して…」

「美春には反抗されました…わんわんと泣きじゃくって…」

「でももう私は耐えられなかったんです…それで……金を、渡したんです…もうこれで出て行ってくれと…」

 

「事件が起きたのは、その10日後でした…」

 

 

――――――

 

――――

 

――

 

 

(それは…美春さんからすれば、プライドを傷つけられただけだっただろうな…)

紅はじっと、考えこんでいた。

 

仲が良かったはずの娘に裏切られた。

愛し合っていたはずの男に金で別れてくれと言われた。

美春はそう感じたのだろうか…。

 

 

 

「私の無神経さで、あんなことになってしまって…娘とも、仲違いしたっきりで…」

「娘に会いたい。謝りたい。今の私にあるのはそれだけです。それだけを思って、この5年間、生きてきました…」

 

最期の方は吐き出すように語り終えた森浦が、グラスの酒を一気にあおった。

半分以上が口に入らず、派手に床や服にこぼれた。

 

まりが拭くものを探しに席を立つのと、紅が次の質問を投げかけるのとが、ほぼ同時だった。

 

「森浦さん、もうひとつだけ。美春さんらしき女性と連れ添っていた男…あなたを殴った男の特徴は覚えていますか?」

「坊主頭で…顔はよく見ていません。背はかなり高くて…」

(気が動転していたそうだし、顔を覚えていないのも無理ないか…)

 

「……そうだ…チャーム…」

 

「チャーム?」

「はい、星の形をしたチャームを腰に下げていました…大きいのと、小さいのと、何種類も…」

まりが台所からタオルを持って戻ってきた。

 

「すみません、ちょっとお借りしました~」

「いえ、大丈夫ですから…」

「ダメですよ、すぐに拭かないとシミになっちゃいますから。服もすぐに洗濯してくださいね!」

床と森浦の服を拭きながらまりが言う。

 

「森浦さん…」

「はい?」

「その…和香さんのこと、絶対に見つけ出しますからね!美春さんも!きっと仲直りできますよ!」

 

「あ…」

「紅さんと私に任せてください!私はまだ学生ですけど…紅さんは、すっっっごい対魔忍なんですから!」

 

(まったく…あんな話を聞かされたのに、よく明るく振舞えるな…)

(…いや、こういうところがまりの良いところだ)

ふっ、と紅の顔から笑みがこぼれる。

 

「ごちそうさまでした、森浦さん。これから調査に向かいます」

紅が席を立ち、脇に置いてあった二本の刀――祖父から受け継いだ小太刀『白神(はくじん)』『紅魔(こうま)』を腰に差した。

 

「ごちそうさまでした!すごく美味しかったです!」

タオルを畳んだまりがぺこりと頭を下げる。

 

「よろしく…よろしく、お願いします」

まりの元気に癒されたのであろうか、森浦の顔にも、少し、笑顔が戻っていた。

 

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