【対魔忍RPG】まりの大冒険 ふたたび 作:unko☆star
――センザキ港は、江戸時代の埋めたて工事によって築かれた歴史ある港である。
かつては大規模な石油コンビナートを中心に様々な企業が工場を構えて栄えたが、今はその全てが稼働を停止。
放棄された工場や倉庫は犯罪組織の根城と化し、国籍不明の船が夜な夜な停泊する危険地帯と化している。
まりと紅は、オークから聞き出した倉庫の前にたどり着いていた。
外から中の様子は見えないが、明らかに人の気配がする。
「準備はいいか?」
「…はいっ」
まりが力強く頷く。
(大丈夫…紅さんが一緒だから…それに、私だって…たくさん修行したんだから…)
――――――
――――
――
倉庫のカギは開いていた。
一歩足を踏み入れると、中はあらゆるものが散乱する“ゴミ屋敷”と言うべき空間であった。
衣類、雑誌、食べ物のパッケージ、ぼろぼろの家具、壊れた電化製品、よくわからないどろどろしたもの――おそらくもとは生ゴミだったのだろう――それぞれがごちゃごちゃに散らばり、あるものは異臭を放ってる。
対魔忍として数々の修羅場を潜り抜けてきた紅も、さすに鼻をしかめざるを得なかった。
――よく見ると、倉庫の中心には比較的きれいなソファー、テレビ、テーブル、パソコンなどが集められたスペースがあり、ちょうどリビングのような空間になっていた。
そのソファーの上で、大柄な男が一人、寝そべって酒を飲んでいる。
「…あ?オンナ…?」
二人に気づいた男が振り向く。
「狂二のやつ、もう次の女優を見つけて来たのかあ…?」
「ブヘヘ…ついこないだ撮影したばっかだってのに…おにいちゃん疲れちゃうよお…」
目の焦点が合っていない。よく見るとテーブルの上に注射器のようなものも見える。
ぞくっ。
(ついこないだ…
まりの額から冷や汗がふき出す。
「夜分にすまない。私たちは人探しをしているんだ。この女性を…」
紅はあくまで丁寧に、和香の写真を男に差し出した。
「さがすう…?」
男は右手に持っていた蒸留酒の瓶を左手に持ち替え、空いた手の親指でこめかみをぐりぐりと刺激しながら、写真に目の焦点を合わせようとしている。
不用意に持ち替えた酒瓶は傾き、こぼれた酒がソファーを濡らしているが、気にする様子はない。
「……ああ、客かよ…ヒヒっ…可愛い顔して
男はよろよろと立ち上がり、テーブルの横に置かれたパソコンの前に腰を下ろす。
その腰には、10円玉ほどの大きさの、星形のチャームが5つ、ぶら下がっていた。
「ネエちゃんたち初めてだよな……誰から聞いてきた…?…いや、いいや…大体想像つく…狭い業界だからな…ヒック…」
「初めてにしては…ヒック…目の付け所がいいや…ヒヒ…こいつは大ロングセラーだからな…」
心臓が早鐘を打つ。
呼吸が荒くなる。
まりは、無意識のうちに紅の体に身を寄せていた。
紅は微動だにしていない。
「最近はいろいろと…昔より難しくなってなあ…ヒック…この場でモノを確認してもらって…OKならディスクに焼いて渡すんだ…」
のろのろとキーボードを操作しながら男が言う。
「……準備オーケー…ヒック…ほれ、確認しな…間違いないと思うがね…ヒヒ…」
カチッ。
男がマウスをクリックした。
「!!!!うわあああああああああああ!!!!!!!!!」
まりの絶叫。
――モニターに映し出されたのは、地獄だった。
――それは、少女が破壊されていく映像。
ノコギリで足を切断され、鉈で手を叩き潰され、ペンチで歯をへし折られていく。
――悲鳴。
――笑い声。
――グチャグチャ。
――「お父さん」――
「この
男が――オソメ・ブラザーズの狂一が、夢見ごこちでモニターに向かって語り掛ける。
半開きの口をぎこちなく動かすその様子は、明らかに薬物の影響であった。
「同じ女優でも奴隷娼婦なんかはよ…もう頭が
「この撮影のときは運が良くてなあ…久々に生きのいいのが手に入ったんだよ…ヒッ…」
「もちろん俺様主演のレイプ・パートも収録されてるからな…。クク…。続きは製品版で…」
再生画面を閉じた狂一が振り向く。
まりは両耳を塞ぎ、震えながらしゃがみ込んでいた。
「なんだあ…刺激が強かったか…?でもあんたの方は問題なさそうだな…ヒヒッ…」
「…。」
紅は微動だにしていない。
「さ、金だ…。持ってきてるんだろ…。ヒヒ…。しかしアンタ良い体してるよなあ…。どうだ、この後…」
狂一が下品に指を動かしながら紅に右手を伸ばす。
――その右手が、手首から切断された。
「…は?」
「酔い覚ましだ。少し飲みすぎているようだったからな」
「はひーっ!」
「なにっ、すんだテメエエエエ!!」
狂一が左手に持った酒瓶で紅に殴りつけてくる。
ザシュッ。
しかし、その手が今度は肘から切断される。
「うぎゃあああああああ!!!」
「少し効きが弱かったか?ヤク中には強めの刺激が必要ということだな」
もんどり打って床に転げ落ちた狂一に、紅がゆっくりと近づいていく。
その両手には抜刀した小太刀が握られている。
「なっ…なんだあっ…なんなんだテメエは…?」
「私たちは対魔忍だ。お前が言う
「ふっ…ざけんなクソがああああああああ!」
狂一は悪態をつきながらも、背中を床に着けたままずりずりと交代することしかできない。
両手が無くなっていてはどうしようもない。
「私もこういったやり方は好きではなかったのだがな…貴様の素晴らしいビデオのおかげで興味が湧いた」
「ひっ…」
「“この後俺と付き合わないか”さっきはそう言おうとしたのか?」
「ひっ…」
「願ってもないことだ。
紅が小太刀を構える。
「ひーっ!!!」
バーンッ!
その時、倉庫のドアから別の男が駆け込んできた。
「兄貴!どうした!?」
金髪に優男ふうの整った顔立ち――オソメ・ブラザーズの狂二だ。
手には拳銃が握られている。
「狂二っ!対魔忍だっ!殺せっ!ぶっ殺せっ!!」
狂一が吠える。
「兄貴から離れろおっ!」
パン!パン!
狂二が紅に向けて発砲した。
「
キイイイィイン!
紅の斬撃が弾丸を弾き飛ばす。
「まり!やるぞ!一気に片づける!」
まだうずくまったままのまりに向けて紅が叫んだ。
「君は対魔忍だろう!?立て!魔を討て!それが君の役目だ!」
「…っ!はい!
まりが拳を床に叩きつけると、いくつもの巨大な岩が床を突き破って生えてきた。
「なにっ!?」
「なっ…なんだあっ!?」
「絶技・
ゴオオオオオオォォオオオオオ――!!
紅の刃が生んだ風が岩を砕き、鋭利な礫を含んだ暴風となってオソメ・ブラザーズに襲い掛かる。
「うわあああああああ!!!!!」
この技はかつて、二人が本の魔人を倒した際に編み出された必殺のコンビネーションである。
「貴様ら如きには勿体ない技だ…」
紅が呟く。
ガシッ。
その右腕を、何者かが掴んだ。
「なにっ」
ゴッ!
「うぐっ!?」
完全なる不意打ち。
腹に強烈な蹴りを食らった紅の体がくの字に折れる。
「はーっ!」
紅の右腕を左手で掴んだままの狂二が、うつむいた紅の後頭部めがけて右肘を振り下ろす――
「土遁・土劉破ッ!」
ドッ!
――間一髪。
二人の真横から生えてきた岩が狂二を突き飛ばし、腹を押さえながらよろける紅をまりが抱き止めた。
「紅さん!!」
「…!ゲホッ……!」
吐血。
(そんな…!紅さんが一撃で…)
「がああああああああ!」
体制を立て直した狂二が突進してくる。
「ッ!土遁・土劉破!」
まりが新たな岩を生やし、行く手を遮った。
「うらあああ!!!」
ゴッ!!
(うそっ!?)
なんと、狂二は素手で岩を破壊し、なおも二人に迫ってくる。
「せっ…ん風陣!」
ビュオッ!
「ぐうっ!?」
紅が再び繰り出した風が破壊された岩の粉塵を巻き上げ、狂二に降りかかる。
威力はないが、はじめから目くらましのための攻撃だ。
「距離を…取れ!…一旦…!」
「はい!土遁・土劉破!」
まりは無我夢中で狂二の周囲に岩を生やした。
ドドドドドドドドド――!!
「うううああああああああああぁぁああああああ!!!」
――轟音。
――――粉塵。
――――――狂二の絶叫――。
「はーっ、はーっ、はーっ」
粉塵が収まると、狂二が忌々しげに岩を弾きとばして這い出てきた。
「どこに行った…?」
衣服はズタズタに破れ、その下の肌が――いや、本来肌があるはずの場所には、無機質な金属性の装甲が覗いている。
「出てこい対魔忍!コソコソするんじゃねえっ!」
倉庫内は砂と砕かれた岩とが散乱しており、まりと紅はどこにも見当たらない。
「………う……」
うめき声。
「…じ…狂…二…」
狂二が声の方向に振り向くと、岩の下敷きになった狂一が助けを求めている。
「兄貴!」
「狂…ジ…おまえ…それ…」
「…ああ、これ…。ちょっとずつ手術したんだ…気づかなかったろ…」
「と、にかく…だして、くれ…」
「わかってるよ」
グッ。
狂二は兄に覆いかぶさった岩――ではなく、なぜか狂一の頭を掴んだ。
「…は?」
「……」
「おい…なにして…」
「兄貴…」
狂一の背筋が凍った。
自分を覗き込んだ弟の視線――声――どちらも人間のものとは思えなかった。
恐ろしく冷たい――まさに機械のような――。
「俺…撮影のときはずっとカメラマンだったろ…。たまには俺にもヤらせてくれって何度も頼んだけどさ…。兄貴、一回も耳を貸してくれなかったよな…」
「な、んだよ…なん、で、いま…」
「女をひっかけて来るのは俺なのにさ…。でも兄貴強いから…。いっつも最後は力で脅してさ…。だから強くなることにしたんだよ…俺も」
「があっ!?」
狂二の手に力がこもる。
「すげーだろ?実はもう脳以外は全部機械なんだぜ…俺…」
「奴隷娼婦抱いてもさ…ナンパした女抱いてもさ…ダメなんだよ…。俺は…兄貴と同じなんだよ…。
「気づいてたか、兄貴…美春と俺はデキてたんだぜ…。あいつ、本気で俺に惚れてて…自分だけは絶対殺されないと思ってて…。もう、イチかバチかでヤっちまおうと思ってたんだ…」
「あっ、あっ」
狂一が魚のように口をぱくぱく動かしている。顔がうっ血し、目玉が飛び出しそうだ。
「なのにさ…。あんなオヤジに見つかったからって美春を殺しやがって…。なにが証拠隠滅だ…。今更足がつくワケねえだろが…。」
「どうせラリってわけわかんなくなってたんだろ…。
「や゛め゛ロ゛お゛お゛ぉ゛お゛お゛お゛ぉ゛オ゛ォ゛ぉ゛お!!!!!!!!!!」
バギャッ。
狂一の頭部が粉砕された。
「……………」
狂二は、手に残された兄の脳漿をじっと見つめ――
「…………………………ハッ」
ぐちゅぐちゅと、何度も手でもて遊び――
「アハハハハハはははハハハハハハぁハハハハハ!!!!!!」
――おぞましい、高笑いを上げた――。