【対魔忍RPG】まりの大冒険 ふたたび   作:unko☆star

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その⑤

(くそっ…サイボーグだったのか…。油断した…!)

 

巨大な岩盤の陰で、紅が腹の痛みを必死でこらえながら様子を覗っている。

 

「だ、大丈夫ですか…?」

「問題ない…。この程度…。しかし…」

 

(旋風陣を受けても無傷…。そしてあの怪力…。どうする…?)

(“奥の手”を使うしか…だが、このダメージでは…)

 

「紅さん」

「なんだ…?」

「私に、考えがあります」

 

ドクン。

 

まりを振り返った紅の心臓が激しく収縮した。

 

眼鏡の奥の瞳が鋭い輝きを放っている。

顔を合わせただけで、彼女の感情が流れ込んでくるようだ。

 

『決意』『覚悟』――そして――激しい『怒り』――

 

紅が今まで目にしたことがない“篠原まり”が、そこにいた。

 

 

(いや、違う…。私は…。私は、このまりを知っている…)

 

 

 

――(君の力が必要だ。協力してくれるか?)

――(はいっ!でも、どうやって――)

――(互いの為すべきことを。対魔忍であれば、それはわかるはず)

 

 

 

「フッ…。あの時と同じ、だな」

「でも、今度は立場が逆です」

「確かに…。ならば…」

「“互いの為すべきことを”、ですよね!」

「ああ!」

 

ひらり、と紅が岩盤を飛び越え、狂二の前に降り立つ。

 

「なんだ、出て来たのか…。ちょうどいいや、お前を俺の女優第一号にしてやる!」

「悪いが、私は黙って凌辱されるような女ではない…。対魔忍なのでな」

 

 

「ハアッ!」

紅が狂二に切りつける。

 

キイイイイン!

「切れねーよ!」

 

ボッ!

難なくガードした狂二の拳が唸りをあげて紅を襲う。

 

「くっ!」

紙一重でかわすも、狂二のラッシュは止まらない。

 

「ハーッ!」

ボボボボボッ!

 

(間合いを保て…!つかず離れず…!コイツの意識を、私に集中させる!)

 

 

「動きが鈍いぜ!ダメージ抜けてねえんだろお!?」

ブアッ!

 

「ウッ…」

致命的なアッパーが紅の顎をかすめ、体勢が崩れる。

 

「もらったあっ!」

狂二がトドメの一撃を紅に放つ。

 

ゴッ!

そのとき、狂二の背後から岩が隆起し、狂二に襲い掛かった。

 

「ワンパターンだなあ!対魔忍!」

しかし狂二は振り向きざまに裏拳で岩を破壊――

 

「はああああああああ!!!」

 

「なにっ!?」

さすがの狂二も完全に不意を突かれた。破壊した岩の中からまりが飛び出し、全力の右ストレートを打ち込んできたのだ。

 

(これは…マズイ!)

ガアアァン!

 

紅の斬撃をもろともしない狂二が、まりの拳を両腕でガードした。そこに込められた恐るべきパワーを瞬時に感じ取ったのだ。

 

(よし、狙い通りです!)

 

 

 

――(すげーだろ?実はもう脳以外は全部機械なんだぜ…俺…)

 

(違う…そんなはずありません!)

 

 

 

――(奴隷娼婦抱いてもさ…ナンパした女抱いてもさ…ダメなんだよ…。俺は…兄貴と同じなんだよ…。殺しながら抱かねえとさ…)

 

(この人にはある…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!)

 

 

 

ドッ!!

 

 

 

まりの前蹴りが――規格外の破壊力を込めた足刀が――()()()()()()()()()()()()

 

 

「ここは生身…ですよね!」

――グジュリ。

 

「……ぷにっ」

 

 

狂二は聞いた――股間の左で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――

 

 

(つ、潰れえっ!?つぶれたアッ!?お、俺の、おれのがあっ?!!?!!)

(せ…生殖器は機械ではないッ!まりのやつ、とんだ奇策を…!)

 

「うりゃあっっ!」

すかさず狂二に肉薄したまりが、一本背負いで狂二を投げ飛ばす。

 

ドンッ!

「がはっ!?」

 

「ふんっ!」

後頭部と背中をしたたかに打ち付けた狂二の胸めがけて、まりが全体重をかけたエルボーを落とす。

 

ドガッ!

「ぐうっ…ううう~っ!」

 

なんとかガードした狂二だったが、まりの右手は流れるような動きで狂二の股間を捕らえている。

()()()

 

「ナイスディフェンス、です」

ギュッ。

 

「やめッ」

ぐちっ!

 

「~~~~~~~~~~~~~ッッッ!!」

 

狂二は口から泡を吹き、がくがくと痙攣しながらのたうち回る。

 

ばっ、と飛びのいて距離をとったまりが、渾身の力を込めて両拳を地面に叩きつけた。

土遁(どとん)裂閃牙(れっせんが)!!!」

地面から巻き上がった土砂が蛇の形で渦を巻き、一斉に襲い掛かる。

 

ガガガガガガガガガガガガガガ!

「ぬうああああああああアアあああぁああああ!!!」

 

狂二のサイボーグ・ボディが、徐々に、徐々に砂に削り取られていく。

 

タッ。

紅が飛んだ。

 

「絶技ッ!旋・風・陣!」

ゴオオオオォォオオオ――!!

 

 

「う あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ・ ・ ・ 」

 

 

断末魔が風にかき消され――やがてそれが止むと――砂と金属片が、雨のように降り注いだ――。

 

 

――――――

 

――――

 

――

 

 

「おい、立てるか?」

「だ、だいじょうぶですぅ~。ちょっと…力、抜けちゃって…あはは…」

地面にへたりこんだまりを紅が引き起こした。

 

「…本当に強くなったな、まり」

「ふえっ!?」

「私は、まだどこかで君を見くびっていたのかもしれない…」

 

「いえいえいえいえ!?そんな、ほ、褒めすぎですよう…。」

顔をふにゃけさせながら照れるまり。

 

(しかし、まさかあんな戦法を思いつくとはな…そら恐ろしい子だ…)

――実のところ、紅の顔には、若干の“苦笑い”が浮かんでいたのだが…。

 

「えへへへ…」

当のまりは、知る由もない――。

 

 

――――――

 

――――

 

――

 

 

――1週間後。

まりは、センザキにある紅のアジトを訪ねていた。

 

「あの後、倉庫に残されていた悪趣味なデータは全て回収した。…やはり、5年前に悪党どもを手引きしたのは美春さんだったらしい」

緑茶を運んできた紅が続ける。

 

「森浦さんの店に努める前の美春さんは、かなり荒んだ生活をしていたらしい。ようやく足を洗って、まっとうな人生を歩もうとしたところで森浦さんに雇われて…。プロポーズされたときは、本当に嬉しかったのだろうと思う」

 

「――だが、その幸せはあと少しのところで打ち砕かれてしまった。激昂した美春さんは昔の仲間に連絡を取ってしまい…あの惨劇に繋がってしまった…」

 

「でも、いくらなんでも…。あんなことをするなんて…」

「まさしく、“魔が差した”のだろうな。人は感情を爆発させると、時に思いもよらないことを――自分でもどうしてこんなことを、と思うようなことをしてしまう。自分のなかに巣くう“魔”に負けて破滅していく人を、私は何人も見てきた」

 

ズズ…と茶を啜った紅が苦々しげに顔をしかめる。

 

 

「対魔忍として戦い続けるならば、魔族や魔物だけでなく、人の心に潜む“魔”とも戦わなくてはならない。それが私たちの宿命なんだ」

 

「――だから、こういったことにも慣れていかなくてはいけない」

 

紅が茶碗を置き、折りたたまれた便箋をまりに差し出した。

「これは…?」

読んでみろ、と紅が目で語り掛ける。

 

 

 

 

――心願寺紅様・篠原まり様

この度は娘の仇を討って頂き、感謝のしようもございません。

ようやく私も、天国の娘に謝罪に赴く決心がつきました。

これも全て、お二人のおかげです。

本当に、ありがとうございました――

 

 

 

 

「…!!」

「私も、すぐ家に駆け付けたのだが…。遅かった…」

「そんな…!そんなのって…!!」

「気にするな。君は立派に任務を果たした。その後に起きたことは君のせいじゃない」

 

まりは俯いた。

涙が頬を伝わり、森浦の遺書に滴る。

 

「約束の報酬だ。それと…」

「私、いいです」

「受け取るんだ。それが依頼者への礼儀になる。それと、人の話は最後まで聞くものだ」

 

ドサッ。

 

紅がテーブルの上に置いたのは、札束が入った封筒と――何十冊ものノートだった。

 

 

 

「…?」

「森浦さんのレシピ・ノートだ。好きに使ってほしいという書置きが残されていてな」

 

「ええっ!?これ、全部ですか!?」

「ああ。すごいぞ、和・洋・中、君が好きな甘いものまでばっちり網羅されてる」

「ふわあ…」

 

「…まり。よければなんだが…私と料理の練習をしないか?」

「え?」

 

「いや、私もこういう漫画みたいなセリフは好きじゃないんだが…。ほら、あるじゃないか…。“森浦さんの料理を私たちが受け継げば、私たちの中で森浦さんは生き続ける”…とかなんとか…」

 

紅が照れ臭そうに頬をかきながら目をそらした。

 

「…ふふっ。ふふふふ…」

「わ、笑うなよ!私だって言おうか迷ってたんだぞ!でも、君が落ち込んでいたから…」

「ふふふ…すみません、紅さんが…まさかそんな…ふふふふふ…」

 

まりが眼鏡をずらし、人差し指で涙をぬぐう。

 

「…ありがとうございます。私なんかでよければ、ぜひ!」

「うむ。料理は食べさせる相手がいれば上達が早いと言うからな。二人で試食し合えば効率がいいだろう」

「楽しみです、紅さんの料理!」

 

「私もたまにはあやめに手料理を振舞ってみたいしな…。それと、あいつにも…」

「あいつ?」

 

「あ!?いやいや、あー…、あつい、暑いなあ、今日は!暑い!うん!」

(うわっ!?めちゃくちゃベタなやつだ!)

 

「もしかして、例の“王子様”のことですか?」

「なっ!!??!?」

紅の顔が爆発した。

 

「なななっ、なんの話だっ!?そ、そんなことは――」

「去年、酒場にご一緒したときにオークさんたちが言ってました」

「し、知らんっ!知らんぞっ!というか、酒の席での話を間に受けるんじゃないッ!」

「でも」

「知らないっっ!!!そんな奴はいないっっっッ!!」

 

紅はノートの山から一番上のものをひっ掴み、顔に押し付けるようにして読み始めてしまった。

 

 

(わかりやすいなあ…)

紅の、普段のクールさからは想像もつかない取り乱しぶりに唖然とするまり。

 

「じ、じゃあ、わたしはこの“和菓子①”って書いてあるやつからにしますね…?」

「………」

 

無言。

 

(はわわ…。ちょっと、怒らせちゃったかな…?)

紅の様子を覗いながらゆっくりと表紙を開く。

“団子”“汁粉”“揚げまんじゅう” ――和菓子好きの彼女にはたまらない言葉が並んでいる。

 

 

(…でも、いつか聞きたいな…紅さんの“王子様”の話…)

 

 

(きっとその人も、紅さんみたいに素敵な人なんだろうな…)

 

 

そんなことを考えながら、まりはページをめくりはじめた――。

 




初投稿でしたが楽しんでいただければ幸いです

今年の対魔忍RPGは春先の限定祭りやら決戦クエスト実装やらそに子コラボやらで話題に事欠きませんね…
シナリオも紅やまりの出番が増えて嬉しいし、これからも楽しんでいこうと思います


アイナピックアップガチャの話はするな、ワシは今メチャクチャ機嫌が悪いんや



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