カゲロウ・ソードワールド外伝~東方華陽炎   作:壱ノ瀬 葉月

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 彼と彼女らの物語は、ここから始まる。


第1話<幻想入り>

 暗闇。とにかく暗かった。どこなのだろうか?ひとつだけ感じるのは、落下感。そしてそれは、どんどん早くなる。そして周りが明るくなり、見えたのは、雲。そして。

 ――かなり下にある地面だった。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!?!?」

 これはいくら何でも叫びたくなる。そんなことをしている間にも地面は迫る。見えてくるのは建物。そして、2人の人。これはこのまま落ちたらまずいと判断し、魔力で翼をつくる。そして思いっきり羽ばたき、あと少しのところで止まることに成功した。正直まだ状況が把握できていない。というか今の時間だけで把握できたら相当だと思う。そしてそれは、あの2人、いや、彼女たち彼女たちも同じようだった。

「空から人が落ちてきた!?」

「ていうかコイツ飛んだぜ!?」

 片方は赤と白の巫女装束を纏い、頭に大きめなリボンをした茶髪の少女。もう片方は白と黒の服に黒い帽子をかぶった金髪の少女。こちらは茶髪少女よりすこし背が小さいだろうか。俺に対して先に口を開いたのは金髪少女のほうだった。

「お前……誰?あ、私は霧雨魔理沙(きりさめ まりさ)、普通の魔法使いだ」

「俺はイチハ・リーゼリヴ・ノヴァ。そうだな、漆黒の魔剣士(しっこくのまけんし)かな」

 名前を聞かれたのでそれだけでも良かったのだが、二つ名らしきものも言っていたので元の世界(ここがただ単に違う場所と言う可能性もあるが)で広がっていたものを使う。

「魔理沙下がって。そいつはまずいわ」

 茶髪の少女が言う。

 まずい要因で思いつくとすればといえば剣と魔法と二つ名だろうか。確かに剣を下げてはいるが抜いてない。魔法だったらさっきの魔理沙という子が魔法使いと名乗っており、彼女が使っているわけだから危険視されているわけでもない。二つ名は俺が考えたわけじゃない、というかまずそんな危険人物みたいな名前じゃない……と思いたい。じゃあ一体何がまずいというのかと考えているうちに、答えを出されてしまった。

「そいつ、魔力が桁違いよ。それに普通じゃありえない力も感じる」

「いや、特に普通だぜ?まあ確かに魔力はでかいが、あり得ない力なんてないぜ」

 まさか、あの茶髪の少女、巫女装束を着ているということはもしかしたら、《あの力》に関するものを……。

「人だろうと妖怪だろうと、危険因子は私が退治するわ!」

 そんなことを考えている間に彼女は飛び上がり、何かを撃ってくる。直感的に避ける。恐らく触れていたら死ぬだろう。

「やるしかないってか……」

 先ほどと同じように翼をつくり、飛ぶ。あの弾からは多少の魔力を感じる。もしかしたら――。

 左腕の義手に魔力をため、そこから同じ量の魔力を区切りながら放出してみる。すると形は違うが同じように弾を出すことに成功した。とにかく相手の弾を避け、相手に弾を当てればよいのだろうか。ふと思いつき剣を抜く。そして弾の前に移動し、剣を振る。思ったとおり斬る、というか弾くことができた。これならいけると思った瞬間のことだ。少女はある言葉を叫んだ。

「スペルカード!『霊符 夢想封印(むそうふういん)』!」

 その言葉の後から弾の動きが変わった。避けられないことはないし同じように斬れるだろうが、初めての俺にこの密度は難しい。どうするか悩んでいると、魔理沙の同じような叫びが聞こえた。

「スペルカード!『恋符 マスター……スパーーク』!」

 俺の前を通って、あの少女に向かって一直線に弾が通った。急な乱入攻撃に彼女は被弾し、落ちた。あの落ち方ではおそらく意識がない。俺はすぐさま彼女の下へ向かう。手を出し、なんとか抱え、ゆっくりと降りる。着地した瞬間に魔理沙が声をかけてくる。

「サンキューイチハ!助かったぜ」

「さ、さん……?」

「あぁ、そういうの知らない人か。サンキューっていうのは「ありがとう」って意味だぜ」

「なるほど、知らない言葉もあるもんだな」

 ゆっくりと彼女を地面に下ろしながら会話する。

「にしてもお前、結構強いのな。幻想入りしていきなり弾幕ごっこできるなんて大したもんだぜ」

「まあ、あの弾から魔力感じたから同じくらいの量で真似しただけなんだがな・・・と目、覚ましそうだ」

 少女はゆっくりと目を開ける。どうやら大丈夫そうだ。

「悪いな、霊夢。邪魔させてもらったぜ。あと、お前を助けたのはイチハだ」

「……そう」

 体を起こし、俺のことをみて言う。

「ありがと、それとごめんなさい。急に攻撃して」

「いやいやいや、いきなり落ちてきたりして、普通だ何だって言えるやつのほうがおかしいだろ」

「あ、それ私のことバカにしてるか!?」

 いきなり喧嘩吹っかけられたときはどうなるかと思ったが、こうしてみると普通の女の子だ。あの世界に帰れなくても、ここでならコレまでどおり生きていけると、そんな気がした。




次回<湖に浮かぶ館>
 彼は、自らの寝床を確保するため、勧められた場所へと向かう。

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