カゲロウ・ソードワールド外伝~東方華陽炎   作:壱ノ瀬 葉月

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 少女達から、この世界について聞いた彼は、寝床の確保へと動く。


第2話<湖に浮かぶ館>

 あの唐突な戦闘から1時間程後。俺は霊夢にこの世界――幻想郷というらしい――について教わっていた。要約すると、この幻想郷は、博麗大結界によって幻想郷外部と遮断されている――それでもたまに出入りはあり、入ってきたときは大体《幻想入り》といって出ることはほとんどないらしい――ということと、妖怪か人間かにかかわらず、無意味に殺されることはないということ。

 そして、これが最も重要だと言うのが、「スペルカードルール」である。この幻想郷では揉め事や紛争を解決するために用いられる手段で、人間と妖怪が対等に戦う場合や強い妖怪同士が戦う際に必要以上の力を出さないためのルール――これは「規則」とか「定め」という意味らしい――だそうだ。

「なるほどな、大体わかった。で、俺はそのスペルカードって言うのは作っておいたほうがいいのか?」

「異変起こすなら必要かも。でも、逆に解決する側なら特にいらないと思うわ。だって、全部避けてしまえばいいもの」

 実際彼女だけでどれだけの種類を持っているのかはわからないが、全部避けられるとは思わない。つまり、俺が思ったのは――

「簡単に言うなよ霊夢」

……魔理沙も同じことを思っているようだ。

「そんなことよりだ霊夢、イチハ、今夜寝る場所どうするんだ?」

「自分の家でいいじゃない」

「もう忘れてるのか?イチハは今日来たばっかりだぜ?」

「……なんだ?夜ってそんな危ないのか」

 元の世界では一時期野営をしていたので今日は別にいいかと思っていたのだが、危ないとなるとそう簡単にはいかなくなる。

「まあ、危ないといえば危ないわね……。どうしましょうか、神社にも魔理沙の家にも空きはないし……」

「紅魔館でいいんじゃないか?」

 また新しい言葉が出てきた。多分話の流れでは建物なのだろう。どこでもいいのだが、誰が住んでいるのかわからないのはさすがに勘弁したいので、とりあえず聞く。

「なあ、その紅魔館……だっけ?には誰が住んでるんだ?」

「まあ、主は吸血鬼よ。血はそこまで吸わないけどね」

 ――うわぁ、嫌な予感。

 ただ、吸血鬼といえどそんなに吸わないと聞いて、正直ほっとした。斬られて死ぬ覚悟はあっても血を吸われて死ぬ覚悟は無い。

 霊夢はそのまま境内裏を指差す。

「行くならあっちのほうね。そのまま飛んでいけば湖が見えるから、そのちょっと前で高度下げてね。霧があるけどそのまま入って。そしたら建物が見えてくると思うわ。けどこの時間じゃきついと思うわよ」

「行くだけ行ってみるさ。野営にも多少は慣れてるしな。今日はありがとうな」

「どういたしまして。そうだ魔理沙。途中までついてってあげたら?だいたい一緒なんだし」

「そうだな、てゆーわけでイチハ、競争しようぜ!」

 なぜそうなるのか。まあ、やらない理由はないので俺も準備をする。

「じゃあ合図はしてあげる。・・・よーい、始め!」

 ちょっと気だるそうな霊夢に見送られながら、意気揚々と進み始める魔理沙と、俺は飛ぶのだった。

 

 

 

「早くないか……イチハ……」

「まあ、4分の3くらいは出したな」

「アレで4分の3かよ!?」

 逆に4分の3のあの速度であの差はすごいと思うのだが。彼女が手を伸ばせば多分足首をつかめただろう。

「じゃあな。紅魔館はあっちだぜ」

「ああ、ありがとうな」

 魔理沙と別れ、しばらく飛ぶと湖が見えてくる。高度を下げて霧の中に入ると、大きいが窓の少ない館があった。門の前で降りると、門番らしき人影があった。しかし。

「うわぁ……」

 無意識に呆れ全開の声が出る。

 門に寄りかかって赤い髪で緑の服を基調とした女性が寝ている。果たしてこれは起こしたほうがいいのか。いや、起こしたほうがいいのは確実だ。問題はその後だ。起こして変に誤解されたらたまったものではない。でもまあ、多少はいいかと肩を叩いてみる。しかし。しかしだ。

「反応しねぇし・・・」

 強くゆすっても起きない。何回か後ろの門に頭をぶつけてしまったが、それでも反応は一切なしだ。いっそ蹴ったり殴ったりしてやろうかと思ったが・・・

「・・・やーめた」

 俺はあきらめて、門を飛び越えた。そこで俺は立ち止まる。普通なら引き返すべきだ。しかし俺は、なぜか飛び越えるという選択をした。というか誰かにそうさせられた気がする。そんな違和感をもちつつ玄関へ向かい、扉を叩く。その瞬間でのことだ。先ほどとは違う強い違和感に襲われた。もっと詳しく言えば、時間を操られる感覚。

 魔法には当然種類があり、俺は習得していないが、時間操作系も当然ある。そして俺はそのときの感覚がわかる。いや、わかるように鍛えた。今のは時を進める、もしくは戻すといったものではなく、止めるもの。瞬時に飛びずさり、剣の柄に手を添える。開いた扉の先には、白銀の髪をした青い目のメイドがいる。俺を視認し、体勢を理解した瞬間、目が赤い光を帯び、太もものナイフに手をかけようと――。

「よしなさい、咲夜」

 その声が響いた瞬間、目が青に戻り、残りの分を開ける。体勢を戻し、館の中へ入る。なんとなく予想はしていたが、ここにもうっすら違和感がある。こちらは空間にだろうか。外はいじられていないが、中がいじられて広くなっている。奥の階段にいる少女。実体のある羽を持つということはおそらく彼女が例の吸血鬼だろう。

「私はこの紅魔館の主、レミリア・スカーレット。あなたを歓迎するわ」

「どうも、主様。多分その様子じゃ、俺のことは知ってるようですね」

「さて、どうかしら」

 しらばっくれるか。だが先ほどの2回、いや3回の違和感に関して何かしら聞き出す方法はあるはずだ。

「ずいぶん警戒してるようね。……ああ、なるほど。あなた、咲夜の能力に気付いてるのね」

「……そこのメイドさんの仕業もあったか」

「あら、もしかして私の能力も?」

「どちらが、まではいきませんがね」

「そうそう、敬語やさん付けだとかはいらないわ。咲夜、彼を案内しなさい。それと、皆を集めて」

「畏まりました」

 そうして俺は、ある一室へと通されるのだった。




次回<紅茶と魔法>
紅魔館の主に仕えるメイドに案内されたのは、ある大きな一室だった。

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