紅魔館の食堂だと思われる場所。館自体が大きい割に、集められた人……でいいのかはわからないが、住人であろう者は少ない。
本を読む紫の少女。それに付き添う悪魔。先ほど寝ていた門番。この館の主である吸血鬼。そしてその専属と見られるメイド。他にも妖精が集まってはいるが、周りで見ているだけという印象だ。おそらく主要人物がこの5人なのだろう。
「さて、それじゃあ自己紹介から始めましょう。美鈴」
「はい!」
赤髪で緑の服を着た女性、つまり先ほどの門番だ。
「紅美鈴です!《気を使う程度の能力》を持ってる門番です、よろしくお願いします!」
次に口を開いたのは紫の少女。抑えているのかはわからないが、彼女は魔法使いとして妥当な魔力を持っているようだ。
「……パチュリー・ノーレッジ。《火水木金土日月を操る程度の能力》を持ってる」
「私はこぁって呼ばれてます。よろしくです」
「この紅魔館のメイド長をしています、十六夜咲夜です。《時を操る程度の能力》を持っています」
「改めて、私がこの紅魔館の主、レミリア・スカーレット。能力は《運命を操る程度の能力》よ」
「じゃ、最後は俺だな」
立ち上がり、黒影剣士団式敬礼をして名乗る。
「イチハ・リーゼリヴ・ノヴァ。気軽にイチハって呼んでくれ。剣術と魔法が扱える」
敬礼からすぐに直り、椅子に座る。レミリアは紅茶を口に含んで飲み込んだ後、笑みを浮かべてから口を開く。
「自己紹介は終わったわね。私達のほうは名前だけで呼んでもらって構わないわ。あなたは?」
「俺も呼び捨てで結構」
全員が頷き、俺のほうを向く。
「先に、私たちのほうから質問させてもらって良いかしら?」
頷いて、了承を示す。
「まずは一つ目。咲夜が扉を開けた時、剣に手を掛けていたのはどうして?」
「どうしてって言われてもな……時を操られたっていうのを感じて危ないと思ったから、としか言いようがないな」
その言葉にレミリア以外の全員が驚愕したようだ。確かに、元の世界でもそう簡単に会得できるものではなかったが。
「じゃあ、もしかして私の能力にも気付いていたり?」
「多分、門の辺りだろうな。普段なら引き返してるところを入っていってた。あの後、操られたような感覚があった」
「ということは、私達の能力の影響から危険を感じてってことでいいのかしら?」
「まあ、そんなところだな」
意を得たり、というかのように頷き、周りに目を配る。気配を察してか、4人も頷く。
「こっちからは以上よ。あなたから何か、ある?」
そう聞かれて少し考えるが、思いつかなかったので目線で先を促す。
「本題に入るけど、いいわね?イチハ、あなたがここへ来た理由は?」
博霊神社での出来事から、こちらの世界で通じるだろうと言う単語を選びつつ、自分が幻想入りというものをした存在だと言うこと、この紅魔館に住まわせてほしいこと、住む際の条件があるならできること全てをのむということを話す。
「なるほどね……分かったわ。でも、条件の達成が先ね。咲夜、彼を地下室に案内しなさい」
すると咲夜を含めた周囲がどよめき、パチュリーが声を先ほどよりかなり大きな声を上げる。
「待ってレミィ!いくら彼が剣士で魔法も扱えて能力も持ってるとしても、"彼女"に敵うはずがないわ」
「やってみなくちゃわからないわ、パチェ。死んだらそれまででいいじゃない」
……彼女。「死んだらそれまででいい」と言う発言。そして周りのどよめき方とパチュリーの焦り方。これは人間の命を軽視していると言うよりも、何かに対して"希望はあるが諦めている"のではないだろうか。人の命を軽視しているなら、止めたりはしないはず。まずそもそも中に入れないのではないだろうか。なら、俺になにか――。
そのとき、俺に向けられる一つの目線があった。それは、メイド長である十六夜咲夜。懇願ともとれるその目は、俺を動かすのに十分だった。
「分かった。連れて行ってくれ」
「いいの!?あなた、死ぬかもしれないのよ?」
「本来ならとっくに死んでるはずだ。もう一度何かの役に立ってから死ぬなら構わんさ」
「・・・そう。なら止めないわ」
そうしてパチュリーの静止を断り、レミリアから“仕事”の内容を聞いた俺は、咲夜に地下室へと案内してもらうのだった。
次回 <破壊と崩壊>
二つの力がぶつかり合う。