移動中、そしてその前にレミリアと咲夜から聞いた話では、地下室にいるのはレミリアの妹、フランドール・スカーレットで同じく吸血鬼。《ありとあらゆるものを破壊する程度の能力》を持っているのだが、名前から分かるようにその能力が危険らしく、もし外に出したら何人が殺されるか――いや、壊されるかわかったものではないということだ。
「いざとなったら殺してもよい――とお嬢様はおっしゃっていましたが、恐らく・・・」
「本当のところは殺してほしくないだろうな……。そのくらい分かる」
頑丈そうな扉が目の前にある。聞いた話からの予測だが、この程度は簡単に能力で壊せそうなものだ。その疑問を感じたのか、咲夜が説明してくれる
「今、この中では能力を封じる結界が張られていますが、誰かが入ったら効果は切れるでしょう。私は念のためにお嬢様のところまで戻ります」
「ああ、構わん。上手くいったら連れて行けばいいのか?」
咲夜は頷く。俺も頷き返し、扉を押して、部屋に入った。
咲夜がすぐに扉を閉じる。すぐに暗闇に包まれる。気配はある。なら、その気配から大体の場所を探る。
「あなた……誰?」
少女の声。レミリアに似ていると言われればそんな気はする。だんだんと慣れてきた目でその姿を捉える。
金色の髪に赤い服。細く白い手足。背中には羽らしきものが生えている。なんと言えばいいのだろうか。細めな木の枝に7色の宝石がくっついている、と言えば想像しやすいだろうか。
「イチハ・リーゼリヴ・ノヴァ。咲夜に案内されてきた……いや、してもらった、かな。だいたいの話は聞いてるよ、フランドール・スカーレットさん」
「……そう。でてって」
「そうはいかない。俺はあんたの姉さん……レミリアに頼まれたからな。妹を助けて、と」
強く首を振る気配。
「お姉様はそんなこと言わない!言うはずがない。……どうしてもでないっていうなら……」
目と思われる場所が紅く光る。羽についてる宝石っぽいアレもそれぞれの色に光り、暗闇を遠ざける。その顔に宿っていたのは――幼さと、強い狂気。
「あなたはこれから、私のおもちゃよ!!」
これは明らかにやるつもりだ。剣を抜き、構えながら動く。フランドールは飛びながら自分の周りに球状に弾幕を張っていく。こちらも弾幕で牽制しつつ接近を試みるが、スペルカードを使われる。
「スペルカード!『禁忌 クランベリートラップ』!」
4箇所に配置された魔法陣からピンクの弾幕と青の弾幕が周りから自分のほうへ向かってくる。瞬間的にピンクの弾幕に規則性を見出し、実質のところ青だけを避けていく。そして隙を見て俺も浮遊し、同時に前進する。
「あはは!分かったんだ!」
そういいながらスペルカードから普通の弾幕に切り替える。先ほどと同じ球状だが、今度は放つ頻度が多い。かすりつつではあるが避け、少しずつ、確実に迫る。
「スペルカード!『禁忌 レーヴァテイン』!」
今度は燃え盛る大剣を生成して振りかぶってくる。剣で迎撃し、弾く。実体はないはずだが、かなり重い。5回、6回とやればもたないだろう。ギリギリのところもあるがほぼ全てを避けることにし、隙を見て《バースト・レイン》を放つ。やはりそこは吸血鬼の特性だろうか、複数の蝙蝠となって避ける。そしてそれを弾幕で数匹落とす。
彼女の動きが少し鈍る。だがそれも気休め程度で、すぐに次の行動へと移る。その顔には、今までなかった焦りと、悲しさがある気がした。
先ほどの攻撃が効いたのか、弾幕量がいくらか少ない。だが、攻撃力はほとんど変わっていない。もしこれ以上きつくなるようなら《崩壊》を発動させようかと考えながら戦っていると、かなり大きな隙ができた。普通ならここで突撃するだろう。
――背後にある気配に気付かない限りは。
攻撃態勢に入ったと感じたところで、振り返りながら剣を振るう。2つの軽い感覚と1つの嫌な感覚、具体的に言えば、人を切る生々しい感覚がした。その瞬間、俺はしまった、と思った。彼女の気配は覚えたつもりだったが、どうやらさきほどのスペルカードらしきものは、気配も分割するらしい。あのときのことを思い出しかけるが無理やりせき止める。俺もまだまだだと痛感しながら、彼女の下へと急ぐ。
斬ったのは腹部だったらしく、深くは無いが出血が多い。気も失っている。すぐに回復魔法を――と思ったが、果たして吸血鬼に効くだろうか。初心者で無知な俺がやるよりも専門の人――たとえばパチュリーを呼んだほうが早い。ロングコートを脱ぎ、彼女の傷口に当て、外側に向けて押さえながら運んだ。頼む、死なないでくれ、そう願いながら――。
結果として、フランドールは助かった。今は大図書館という場所でパチュリーが治療している。俺はレミリアと咲夜に説明を求められ、あったことだけを話した。
「……というわけだ。これは俺の未熟さと油断が引き起こしたことだ。罰があるってのなら、なんでも受ける」
「そう。じゃあね……」
レミリアの口元に怪しい笑みが浮かぶ。多分だが、こんなことになったら皆思い浮かべる感情。そして、俺がここに来てからのこの短期間で何回も思っていること。
――うわぁ、嫌な予感。
その恐怖もつかの間、レミリアからその罰が伝えられる。
「私の護衛でもしてもらおうかしら」
「お嬢様!?」
「大丈夫よ、咲夜。私を殺そうなんてしない、そうでしょう?」
頷く。俺には咲夜の気持ちは分かる。大切な人を傷つけられたくないという思い。俺も彼女を傷つけられたりしたら――待て。彼女とは誰だ?俺にそんな感情を抱けるほどの女性はいただろうか?俺がそんな関係まで進めそうなのはレイナくらいだが、彼女は非常にこっそりとクロトに思いを寄せている。だが、他に誰かいたような……。
「どうかしましたか?」
咲夜に顔を覗き込まれ、我に返る。笑顔で首を振りながら、俺は思うのだった。何か、誰か大切なことを忘れている気がする、と。
次回<剣士>
出会ったのは、白髪の小柄な剣士だった。