「んー……もっとこう、踏み込んだほうがいいんじゃないか?」
「踏み込む……こうですか?」
「何か違うんだよな……ちょっと失礼」
ある日の昼下がり。俺は妖夢に対して指導していた。
改めて、落ち着いて戦ってみると、教わりかけのように取れる部分が数多くあった。全体的な動きから大まかな道筋を予測するのは得意……というわけではないが、そこそこにはできると思っていた。しかし、彼女の流派はじっくり観察してもよくわからない。恐らく、半人半霊である彼女――達、になるかも知れない――が普通の「人」とは違うからだろう。
指導を頼まれたとはいえ、どこそこの流派で、という風に言われたわけではないので、俺の知ってるものを教えてもいいかもしれない。だが、それには今まで身に付けてきた技を全て捨てさせなければいけないかもしれない。もし何かしらのこだわりがあれば、それは拒否されるだろうが、そうなると俺は、彼女が強くなる方法が思いつかない。
「一回、休憩にしよう」
「分かりました。お茶持ってきますね」
そういって妖夢は、足早に台所のほうへと向かった。
すぐそこの縁側に腰掛ける。どうしようか悩んでいると、背後からお淑やかな声が響く。
「お疲れ様。順調かしら?」
「あー幽々子さん。いやぁそれがなっかなかねぇ……」
西行寺 幽々子。妖夢が庭師として住んでいる白玉楼の主だ。
白玉楼というのは、幽霊達が次の転生を待つ場所で、冥界に存在している。死後の世界といってもいいらしいのだが、にしては生きてる状態でこちらにこれたり、逆に妖夢や幽々子があちら側にいったりと曖昧すぎるように思う。当の本人達はそんなことは微塵も思っておらず、これが「常識にとらわれてはいけない」ということなのかとも思ったが、なんか違う気がする。
そんなことはさておき、今俺が感じているもの、俺の考えを話す。幽々子さんは静かに聞いてくれた。俺が話し終わると、「うーん……」と唸ってから彼女の考えを口にする。
「妖夢の剣術は、妖夢のお爺ちゃんから習ったものなの。だから、捨てようとは思わないでしょうね。剣そのものも同じ。……でも、それを活かした上での新しい技術なら、もしかしたら」
「今までを活かした上での技術……か……」
空を仰ぎながら呟く。一応心当たりがないわけではない。が、彼女に扱えるかどうかだ。
というのも、彼女の使う刀《楼観剣》は、俺の知ってる刀に比べ、彼女の身長に対してかなり長い。しかも、俺と同じく鞘を後ろに背負っているので、その心当たりを使うには、慣れと調整が必要かもしれないということだ。もう一本の刀《白楼剣》は迷いを断ち切るもの。無闇に使えば、相手が幽霊や亡霊だった場合は強制的に成仏させてしまうことになるため、あまり抜かないらしい。となると、二刀流を主にさせるのも難しいだろう。
「なんのお話をしてるんですか?」
と、湯呑を乗せたお盆を持って戻ってきた妖夢に問われる。俺は、置いたのを確認してから、真剣に見つめながら話を始める。
「妖夢。俺は正直、これ以上君に教えることはできないと思う。俺の戦い方と妖夢の戦い方が根本的に違いすぎる。だから、俺の技術をすべて教えても、妖夢が強くなれるとは思えない。ただ、まだ可能性はあるんだ」
「可能性……ですか?それは一体……」
「1つ目は武器を変える。2つ目は戦術を変える。ただ、どっちもお爺さんからの形見……なのかはちょっと微妙だけど、それを捨てることになるのは間違いない。そこで3つ目だ。今までのを続けながら、もう一つ戦術を身に着ける」
「もう一つ……戦術を……」
俺の考える利点は2つある。これまで身に着けた戦術を捨てずに済むことと、状況に応じた切り替えができること。前者はともかく後者は慣れと経験が必要になってくるが、戦闘中の優劣は大きく変わってくるはずだ。今までの戦術に割り込ませる形で覚えさせることになるだろうからかなりきつくなると予想できる。それでも尚、俺の指導で強くなりたいか。そう妖夢に問うと、さも当然のように返ってきた。
「お願いします。私を、もっと鍛えてください」
次回<迷った先に>
迷い込んだ世界で、さらに迷う。