自分が転生者であることに気づいたのは中学に上がる前のことだ。
特にきっかけがあったわけでは無い。ある日突然自分が転生者であると自覚して、それを皮切りに生前の記憶が頭に流れ込んできた。
前世の人物像、趣味、特技、好きなもの、嫌いなもの、家族や友人のこと…etc…。自分の中にあるはずもない記憶が入ってきたというのに不思議と違和感なく受け入れられたことを今でも覚えている。
そこからその日を境に自分の日常は大きく変わる…というわけでもなく、変わりない学校生活を送っている。強いて言えば前世の記憶があるためか少し成績が上がったくらいだ。
だがその時の俺はそれで十分だった。その頃の俺は自分には何もないと感じていた。自分には人に自慢できるような特技は無く、称賛を浴びるような立派なことをしてきたわけでもない。
そんな自分に突如として降って湧いた転生者という肩書き。誰に誇れる訳でもない、生きていく上で無くても困らないものではあるが、何もないと自分にとって初めての自分だけの特別であった。
そんなこんなで何事もなく中学に上がりしばらくした頃、学校行事の一環として社会科見学の話が上がった。何でも今年は例年と違い見学場所が変更されるらしい。
場所の名前は『学園都市』
今思えばこれこそ俺の人生の分岐点だったのだろう。
これは転生者である俺が歩む二度目の人生、その始まりの物語。
「また変化なし、かぁ…」
とある教室の端に持っている紙を見ながら項垂れる少年が一人。その紙の上部には“
「トウやんまた溜息ついてるにゃー」
「トウやんのこれは恒例行事みたいもんやからな〜。」
そんな少年をトウやんと呼ぶ二人の男子生徒。片方は逆立たせた金髪、サングラスに金色のネックレスといった派手な風貌で、もう片方は青く染めた髪と耳のピアスが特徴の軽快な似非関西弁長身男。初見さんが思わず目を逸らすキャラの濃さである。
「まあそんな落ち込むなやトウやん。そんな湿気た顔しとるとカミやんみたいになってまうで~」
「そうだぜい。溜息なんかついてたら幸せが逃げてしまうにゃー。なあカミやん?」
「ちょっと青ピさんに土御門さん、人を不幸者日本代表みたいに言うのやめてもらえます。温厚で知られる上条さんも思わず拳を握ってしまいますことよ」
青髪ピアスこと青ピと金髪サングラスこと土御門元春がカミやんと呼ぶこれと言って特徴のないウニ頭、上条当麻は幸の薄そうな顔にうっすらと青筋を立て、早口でまくしたてる。オネェ口調で発言している所を見るに本気ではないであろう。
「おい御三方ぁ、慰めるなら最後までやってもらえますかねぇ。なんなのその俺を介しての醜い争い。茶番劇なら他所でやれぃ」
そんなやり取りを顔色一つ変えずに切り捨てる少年、
「東條はもう帰るのか?」
「あぁ、俺はお前らと違って補習が無いし、明日からの夏休みをどうやって過ごそうか思案するのに忙しいからなぁ。
「くぅ~ッ!何でトウやんは補習免除なんや!おかしいやろ!」
「俺達は親友だと思ってたのに…トウやんは裏切り者だぜよ!」
「というか、ことさら補習って連呼する必要あったか?」
「お前らが補習受けるのも、俺が夏休みをエンジョイできるのも当たり前なんだよなぁ…」
上条、土御門、青ピの三人はクラスの三バカ、通称デルタフォースと呼ばれている。要するにクラス公認の馬鹿というわけだ。成績もその名を冠するに相応しいものであり、結果彼らは補習。一方、東條は彼等とつるんでいるものの成績はトップクラス。彼の努力の賜物ではあるがそれ以外にもこの学校、というより
「そんなことより、もうそろそろ補習についての説明始まるんじゃないかぁ?遅れたら小萌先生にどやされるぞぉ」
「うあマジだ!サンキュー東條!」
「こうしちゃおられん!早く愛しの小萌先生の下へ!」
「それじゃトウやんまたにゃー」
「おぅー、暇な日はいつでも家に来てくれぇ。もちろん菓子よりも忘れずになぁ~」
冗談を言いながら三人を見送り、通学カバンを引っ提げて席を立つ東條。そのまま教室を出て、三人が走って行った廊下とは反対の方向に歩き出す。
「さてと、まずは甘いものでも食ってこの後どうするか考えますかねぇ~」
そう言ってスキップでもしそうな勢いで廊下を進んでいく。東條七知は甘いものに目がないのだった。
side 東條
「お待たせしました。こちらカスタードチョコスペシャルクレープです」
「ありがとうございますぅ~」
学校から徒歩でやって来たのは第7学区ふれあい広場に新しくオープンしたクレープハウス『rablun』。
女性店員から眩しい笑顔と共に手渡されたのは名前から分かる通りのボリューム満点クレープ。新規オープンの店だったから少し不安ではあったがこれは期待値大だな。甘党心をそそられる良いフォルム。並んだかいがあったというものだ。それでは早速何処かに座りながら食べr…
「お客さんこれもどうぞ」
「…何ですかこれぇ?」
先程と変わらない笑顔で手渡してきたのはチョビ髭を生やしスーツを着たカエルのマスコット。その容姿から紳士的なキャラ設定なのだろうという予想を立てることは出来たが、それ以上の事は全く分からんため店員さんに正直に聞く。分からないことがあったらすぐに聞けと小萌先生も言っていたのでこの判断は間違いではないはずだ。
「この子はゲコ太と言いまして、オープン記念で先着百名の方にお配りしてるんですよ」
「へぇ…」
「(う~ん、何というか…正直いらねぇ…どこに付けるんだよこのストラップぅ。)」
付けるとしたら通学カバンだが、正直恥ずかしい。確実に奴らに揶揄われて口論になり、委員長にボコボコにされる未来が容易に想像できる。つまりこれは俺にとっては呪いのアイテムというわけだ。だからと言って善意で配ってるもの受け取らないわけにはいかんし…
「(取り敢えず受け取っておくかぁ。)ありがとうございま~す」
「はい、こちら最後の一個となっております」
つまり俺は百人目のご来店客ということか。なんとも縁起がいい。ここのクレープが絶品だった暁には是非とも常連に…
ドサッ
「…ドサッ?」
「み、御坂さん!大丈夫ですか!」
音のした方に振り替えってみれば、四つん這いで項垂れている茶髪ショート少女とそれを心配して駆け寄る黒髪ロング少女。茶髪ショート少女は何かブツブツと呟いているようだ。
「ゲコ太…ゲコ太が………」
「(…ゲコ太ってこれの事か?)」
どうやら彼女はこのゲコ太が貰えずに落ち込んでいるようだ。崩れ落ちるくらいショックを受けている所を見るにゲコ太にめっぽうご執心なのだろう。
「…あのぅ~そこのお嬢さん」
「え?」
俺の声に反応したのは黒髪ロング少女だけで、茶髪ショート少女は未だに壊れたれラジオのようにゲコ太と連呼している。どうやら俺の声は届いてないようだ。これは重症だな…
「あぁ…お嬢さん。そこで項垂れてるお嬢さんにこれ渡してくれないかぁ。」
茶髪ショート少女との意思疎通は不可能と判断し、黒髪ロング少女に先程貰ったストラップを手渡す。
「これって…いいんですか?」
「いいよいいよ~、そいつもそのお嬢さんに貰われたほうが喜ぶでしょ~」
俺が持っていたところでストラップとしての役目を果たすことはできないだろう。なら俺が持っているよりこの子が持っているほうが良いに決まっている。俺はストラップの扱いに困らず、この子はストラップが手に入れられてニッコリ。正にWin-Winじゃないか。
「あ、ありがとうございます!ほら御坂さんが欲しがってたゲコ太ですよ!」
「………ゲコ太、ゲコ太?」
「そうですよ!親切な人がくれたんですよ!」
黒髪ロング少女は茶髪ショート少女の前にストラップをかざしながら必死に声を掛ける。そんな彼女の呼びかけに茶髪ショート少女はようやく顔を上げる。彼女の目には光がなく、まるでこの世に絶望でもしたんじゃないかと思わせる程に生気がない。そんな彼女の表情は黒髪ロング少女の手に収まっているストラップに目が行くや否や、みるみるうちに目には輝きを取り戻しキラキラし始める。
「ゲコ太…ゲコ太ぁ!」
茶髪ショート少女は黒髪ロング少女の手からストラップをひったくり満面の笑みで頬ずりしている。あまりの変わりように俺だけでなく黒髪ロング少女も唖然としている。
「ゲコ太♪…ゲコ太♪……はっ!」
蕩けそうな笑みから一変、今自分が注目の的になっていることに気づいたようで、その顔は段々と赤みを帯び始め、プルプルと震え始める。
「こここここれは、その違くてっ!」
「………あぁそれじゃあ、俺はこの辺で失礼するねぇ~」
「えっちょ!」
「さようならぁ~!」
俺はその場の空気に耐えられずその場からフェードアウト。後ろから声が聞こえるが気にせずダッシュ。もちろん右手に持っているクレープには細心の注意を払う。
「……はぁ、はぁ、ここまで来れば大丈夫かぁ?」
後ろを振り向いてみても追いかけてくる様子はない。これで心置きなく味わえる。
「…さてとぉ、食べながら帰りますかぁ。」
クレープをムシャつきながら帰路に就く。
その後定期的にクレープハウス『rablun』に並ぶ東條の姿が目撃されるのはまた別の話である。