夏休み初日。学生はここぞとばかりに羽目を外すためにお日様がギラギラと輝く往来を闊歩する。それはこの学園都市も例外ではない。こんな毎日が土曜日状態で学生たちは友人や恋人と青春の一ページをこれでもかと埋めていく。まさに学生にとって夏休みとはパラダイスなのだ。
だが悲しいかな、そんな栄えある夏休みの始まりを学生寮で過ごすものが一人…
「ひまぁーひままのまぁ~♪」
奇怪な歌を口ずさみながらゴロゴロと無為な時間を過ごす男、東條は見ての通り暇を持て余していた。彼が愛用している紺色のジャージを着用し、何をするわけでもなくボケっとした顔でフローリングを寝ころがる姿は、世間一般に知られる自宅警備員、通称ヒキニートにしか見えない。
「どうしよぉやる事がねぇ…」
しかし彼もビックウェーブに乗ろうと行動はしたのだ。ただ携帯端末に入っている連絡先に片っ端から掛けまくってこの状態なのだ。同情する余地もなく彼はスタートダッシュに失敗したのだ。
「ヤバいぃ、何かしないとぉ…何かぁ…何かないのかぁ…」
それなりに片付いた部屋を物色し始め、あるものを手にする東條。彼の手には紙が握られており、上部には『夏休みの過ごし方』と記載されている。彼はそのお便りに目を通しているとある一点に目が留まる。
「『目標を持って有意義な夏休みに』かぁ…」
東條の脳裏に過るのは昨日通知された
「どうすれば良いのかなぁ…」
『超能力』。それは空想の産物ではなく、科学的に証明・作り出すことがこの学園都市では可能なのである。能力開発の
東條は上から数えて4つ目の
そんな便利な能力止まりの力ではあるが
「……目標探すかぁ」
そんな独り言をボヤきながら空を仰ぐ東條であった。
side 東條
「ここはぁいつも以上に賑わってますなぁ」
仄暗い照明
けたたましく鳴り響く電子音
そんな場所で和気藹々としているリア充御一考
今現在俺がいる場所は学生の三大寄り道スポットの一つ“ゲームセンター”。因みにあと二つはショッピングモールとコンビニである。
…いやね、目標探すぞと息巻いて寮を出たはいいものの、そう簡単に見つかるわけがない訳でぇ…まあ言わば現実逃避といったところだ。
「さあてぇ、預けたメダルで遊ぶかねぇ」
通いなれたゲームセンターということもあり、迷いなく目的の場所へ進む。今日も最初のころからちょっとずつ増えてきて、今では使い切れない程に膨れ上がったコインの消費に励もうかねぇ……んぅ?
「ここにも無いですね。とミサカは落胆の声を上げます。」
「…なんだぁあれぇ?」
俺の視界に飛び込んできたのはコインゲームの台の下を地面に手を付けて覗き込んでいる女の子。その声はどう聴いても落胆の色はうかがえないが、うら若き乙女がこんな公衆の面前で決して綺麗とも言えない床にへばりついて探しているのだ。さぞかし大切なものを探しているのだろう。
……少し話しかけてみるかねぇ
「大丈夫かぁ?探し物なら手伝うよぉ」
俺の呼びかけ顔を上げ、女の子はこちらを見てくる。
「…えぇ?」
その瞬間彼女を見て目を見開いてしまう。
別に顔を見て意外と美少女だなぁとか、ぞの頭につけてるごついゴーグル何だろうかとか思ったからではない。
俺は彼女の顔に見覚えがある。だって
「…君はぁ、あの時のゲコ太娘ぇ?」
「何を訳の分からないことを言っているのですか?とミサカは突然話しかけてきた不審者に警戒の眼差しを向けます。」
「…表情ぉ変わってないよぉ?」
彼女はあの時の喜色満面な顔が嘘のような無表情で俺の前に立っていた。
()()()()()
「また大当たりです。とミサカは自分の強運に驚愕しながら、鼻息を荒くします」
「セリフと表情が噛み合ってないぞぉ」
現在俺は隣に座り、無表情で一定のリズムを崩さずにメダルを投入している少女ミサカさんとメダルゲームをしている。何故こうなったかと言うと、彼女の行動がとても危なっかしかったからである。
俺は最初彼女が大切なものを探していたのではないかと思い声を掛け、それはある意味間違いではなかった。なんと彼女はメダルを探していたというのだ。もちろん彼女が落としたメダルであるのであれば自然な行動ではあるが、彼女が探していたのは“誰かが落としてそのままにしたメダル”である。確かにメダルゲームをするためにメダルは必要であるが」、さすがにこれは想定外だった。
そして当の本人はといえば「これがゲームセンターでのマナーだと聞きました。とミサカは自らの知識を発展途上中の胸を張って答えます。」と言っている始末。因みに彼女は財布を持っていなかったためメダルは俺持ちである。
「しっかし凄いなぁ…預けてたメダルが倍以上になっちまったぁ」
「そうですね、では速やかに交換しに行きましょう。とミサカは交換所を探して辺りを見渡します」
「…ミサカさんやぁ、一体何言いだしてんの?」
「何と言われましても、メダルは交換所なるものに持っていけば現金か景品と交換出来るのでは?とミサカは首を傾げながら貴方に問います」
「…突っ込みたいことは山ほどあるけどぉ、少なくともこのゲーセンにはそんなシステムは無いよぉ」
「…ガーン。とミサカは衝撃の事実に顔を絶望でいっぱいにします」
「表情筋はぁピクリとも動いてないけどねぇ」
この会話で分かる通り彼女は筋金入りの世間知らずのようだ。彼女の服装からお嬢様学校である常盤台中学の学生であることが分かる。きっとゲーセンにも言ったことない箱入り娘なのだろう。微笑ましいことだ、まあ表情と声音の変化が乏しいため正直何を考えているかは分からないが、字面通りに受け取るのであれば結構楽しんでいるのだろう。
「さてとぉ、どうするよぉミサカさん?まだ続けるかい?」
「いえ、メダルゲームは十分堪能しました。とミサカは初めての体験に満足しながら答えます。」
無表情でむふーっと言いながら答えるミサカさん。どうやら満足したようだ。
「それじゃあ、はいこれぇ半分」
「何ですかこれは?とミサカは首を傾げます」
「何ってぇメダルだよぉ。ミサカさんが増やしたんだからぁそれはミサカさんのだろう?」
「これが、私の…?」
俺が渡したメダルをジッと見つめるミサカさん。何か不思議なことを言っただろうか?
「どうしたんだぁ?分け方が不服だったかい?」
「いえそんな事はありません。ただ私はもうここには来ないので預ける意味がありません。とミサカは貴方に進言します。」
「もう来ない?そりゃあまた何でよぉ?」
「それは…機密事項です。」
「なんだぁそりゃぁ?」
機密事項かぁ…まあ言いたくないのであれば聞かないでやろう。色々事情があるのだろう。しかしそれとこれとは話が別だ。
「それじゃあ、メダル預けに行きますかぁ」
「貴方は私の話聞いていなかったのですか?とミサカは人の話をしっかり聞けと目で訴えます。」
「全部口に出てるぞぉ…まあいいじゃないかぁ、君が今来ないと思ってたとしてもぉ、ふとした時にここに来たいと思うかもしれないしさぁ」
「いえ、そんな事は…」
「無いなんてぇ何で言い切れるんだい?先の事なんてぇ誰も分からないんだからぁ。取っとくだけ取っても損はせんよぉ」
元々彼女のおかげで増えたメダルなのだ。それならばこれを処理するのは彼女の役目だ。ここばかりは譲れない。
「…分かりました、では行きましょう。とミサカは先程のメダルバンクに向かって前進します。」
そう言って彼女は歩を進める。どうやら折れてくれたようだ。
メダルバンクへの道すがら俺達の間に会話はなく、周りからはとても仲良しには見えないだろう。というかこの状況よくよく考えたらまずいのでは?中学生と二人でゲーセンで遊んでたなんて、あの三バカの耳に入ったら絶対めんどくさいことになるよなぁ…
「着きましたよ。とミサカはメダルバンクの前に立ち、手順の説明を要求します。」
「お、おぅ了解ぃ…」
考え事は後回しにしよう。どうか知り合いに見られませんように。
そんなことを密かに願いながら、ミサカにメダルの預け入れ手順を説明する。このメダルバンクはパスワードと顔認証による二重認証が施されているため、そのための設定が必要となってくる。まぁ大した手間でもないしちゃっちゃと済ませてしまおう。
「よぉし、これで完了ぉ。ただしぃ二カ月経つと無効になっちゃうからぁ注意してねぇ」
「分かりました。ありがとうございます。とミサカは貴方が無理矢理預けさせた事実に目をつぶりながら感謝を伝えます。」
「人聞きの悪いことを言うでないよぉ。それよりぃ君はどうするんだい?」
「…この後行かなければならないところがあります。」
「そぅかい、ならここでお別れだなぁ」
たかだか数十分ではあったが、中々充実していたと思う。今度は他のゲームも一緒にやってみたいものだ。と言っても彼女はもうここには来ないと言っているし、会えるとしても次はいつになるのやら…
………ダメ元で聞いてみるかねぇ
「おぉい、ミサカさんやぁ」
「はい、何でしょう?」
「…良かったら何だがぁ、連絡先交換しないかぁ?」
彼女と一緒に遊んで、一時期だが自分の悩みを忘れて遊ぶことが出来た。我ながら単純だとは思うがまた彼女と遊びたいと感じたのだ。だから出来ることならここでお別れというのは避けたい。それも彼女が俺とまた遊びたいと感じていればだが…
「いえ結構です。とミサカは貴方の誘いを丁重にお断りします。」
「さいですかぁ………」
こうして俺の夏休み初日は幕を閉じたのである。
side out
「現在の時刻は19時58分」
「第7982次実験を開始します」