荒野の空、イジツの片隅、ユーハングの情景 作:星1頭ドードー
私は船長室から各隊の隊長へ連絡を入れる。
そう、これから起こり得る事態について共有をするのだ。
そのために事前に打ち合わせしておいた内容を復唱してもらう形で報告を受けつつ、今後の対処方法を取り決めることにした。
会議室には、コトブキからはレオナ、ハルカゼからはユーカ、アカツキからはロイグ、ゲキテツからはフィオ、そしてカナリアからはアコが来ていた。
全員が集まることができたことを確認した上で、話を始めることにしよう。
──全隊の長に集まって貰った理由は察しがついているだろうが、今後についての方針を決める必要があると考えてのことだ。
「おう、アレシマにカチコミかけてくるんだろ? このフィオ様に任せておきなっ!」
椅子に座りながらも器用に高笑いをするフィオに向けて、ユーカ以外の隊長は少々呆れ気味の視線を送ることしかできていなかった。
しかし、彼女自身はそれを意に介さず楽しげに振る舞っている様子であり、ある種のポジティブさに助けられることもある。
「ゲキテツが騒いだら余計に目立っちゃうでしょ? タダでさえアレシマの裏社会を傘下に治めてるって噂が流れてるんだから」
窘めるかのように口にした言葉に反応したのは、ロイグであった。
顎に手を当てニヤリと笑みを浮かべる様は、怪盗団のリーダーにふさわしい振る舞いを見せてくれた。
「ふぉあああ! フィオさんってホントにマフィアなんですね! カッコイイ!!」
目を輝かせるユーカに対して、フィオは小さく笑うと自慢気な表情を浮かべた。
彼女にとって褒めよ讃えよはご褒美のようなものらしく、嬉しそうに高笑いを続ける。
ユーカの性格からいって本心からの称賛であることは言うまでもないだろうし、おそらくお世辞などとは無縁な存在であるということも理解しているはずだ。
「あのーできれば自警団の前でそういった話は控えて頂けると助かるのですが……」
恐る恐ると挙手しながら声を上げるアコのごもっともな意見を耳にする最中、満面の笑みを浮かべたフィオは平然ととんでもない発言を投下していった。
「なーに、こういうのは勢いだ! 船長に無理難題を押し付けてきた連中を蹴散らせばいいだけの話じゃないか! 簡単だろ!?」
おどけたように言い放つものの、その表情には自信がありありといった感じであり、微塵も崩れることなく立ち振る舞いを続けている点は賞賛に値するのではないだろうか。
そんな彼女を前にして誰も口を挟むことのできない空間ではあったが、唯一冷静に物申したのはやはりと言うべきか、この場で最も知名度の高いレオナだった。
「相手は権力を振りかざし立ち回りを武器にしている厄介な組織だ。船長を監獄から解放させ、今の地位に置くことで間接的に空賊の力を削ぎ落し、自分たちは無傷を保った状態で活動している。いわば虎視耽々と狙い澄ましているんだ。隙を見せようものなら命取りになるぞ」
瞳を鋭く細めながら発する言葉が重く響いた瞬間に誰もが黙り込む。それほどまでの迫力があったということだろう。
それを感じ取ったフィオは腕を組んで考える仕草を見せた。
少しの間を置いて考えがまとまったのか口を開く。
「だったらどうすればいいんだよ。真正面から奴らのお得意な方法で挑めば負け戦になっちまうぞ」
「そうね、わざわざ相手の土俵で勝負する必要はないんじゃないかしら? 向こうとしては優位に立ったつもりなんだし、それを利用すればいいじゃない?」
すかさずフォローするように、言葉を紡いだロイグの提案に同意したのはレオナであった。
その言葉を聞いたフィオは静かに頷きつつも考え込んだ様子だが、すぐに顔を上げて答えた。
「……とはいえよぉ、ゲキテツ一家にできる事といや荒療治しか無いんだよなぁ。このままだと船長の力になれない。首領代理として仁義を通さなきゃならねえ」
腕を組み真剣な表情を見せる彼女は本気で悩んでいるのだろう事は理解できたが、私に対して恩義を感じているのなら気にせずともよいと、何度も伝えたはずだが、どうも理解してもらえないようである。
その証拠に、今も何かできないかと模索していることが見え見えである。
ただし、その気持ちそのものは嬉しくはあるが。
再びそっと挙手しながら発言権を待つアコが視界に映り、どうぞと視線で促すことにした。
「悩み事は尽きないと思いますけど、まずは一つずつ片付けていきましょう。私たちはチームです。それぞれが出来ることを行い最善を目指して行動するのみです。なので各自の役割を見極めて連携を深めていきたいと思います」
穏やかな声音の中に落ち着きを取り戻しつつある雰囲気が垣間見える気がした。
責任感が強くて真面目な性格だけあって頼りになる存在だ。
──そうだな、アコの言う通りだ。まずは私がアレシマに辿り着く日からの作戦を立てなければならない。仮の案であるがこちらで準備したので説明させてもらおう。初手はこの提案書を読んでくれ。内容に関して補足がある場合はその旨を記入してくれたらいい。質問等あれば受け付けるぞ。
彼女らに配り終えたあとで改めて紙束を手に取り開くと、ゆっくりと視線を動かし始めた。
その様子を見届けてから自身も音読を開始すべく意識を切り替えようとした。
──まず、前日にオウニ商会のマダムルゥルゥとガドールからユーリアがアレシマに到着予定で話を通してある。各町の代表兼出資者としてな。道中まではコトブキ飛行隊とハルカゼ飛行隊が護衛として付き従ってほしい。
「コトブキはオウニ商会へ所属している以上は、こちらとしても問題はありませんが……この船の護衛は他の三隊で編成されるのですか?」
──いや、護衛はカナリア自警団のみとなる。怪盗団アカツキとゲキテツ一家には事前にアレシマへ到着してもらい、自分たちはここに居るぞと存在を知らしめてくれ。酒場で呑むのもいいし、買い物をしているだけでも構わない。あくまで普通が一番だからな。
「私たちが目立つことで何かが起こるの? ただ目立つだけなら予告状でも送り付けた方が効果的だと思うんだけど?」
──それでは彼らと明確な敵対関係になってしまうので我慢してくれ。頼みたいのはその逆なのだから。
「逆? ってことは私らがアイツラの側に着いたフリをするってことか?」
その通りだと告げた途端に、皆が一様に困惑顔を見せ始めるのも無理はない。
誰だってそう思うに違いないのだ。
──彼らにとって私は反逆者だ。そんな者に付き合う傭兵やフリーランスなどたかが知れていよう。故に話を持ち掛ければ、泥船から逃げ出すチャンスだと判断する者も多いと想定するだろう。
「あのー、ここに居る人達って船長から離れる気はさらさら無い人ばかりだと思うんですけどー?」
「ユーカの言う通りだ。ここにいる面々は船長の意思に賛同しておりますし、貴方のためなら喜んで力を貸す者たちばかりだと断言できます」
レオナの力強い言葉に全員が首を縦に振ることで同意を示してみせる。
それを見て少し照れくさくなりながらも、感謝の気持ちを込めて頭を下げた。
──ありがとう。だが、この作戦は裏が取れているからこその発案だ。
「裏……ですか。それはスパイか何かの情報網ということですか?」
静かに頷くと、彼女らからすれば意外だったようだ。
何せ自分たちが知らない間に、私が何処かの間者と繋がっている可能性を示唆されたわけなので、警戒するのも無理もない。
「……それって信じても大丈夫なの? 信用ならないんじゃないの?」
ロイグの言葉に同調するかのように、他の者達からも疑問の声が出てくるのは当然のことであった。
彼女たちの言い分を否定しようとは思わないし、むしろ正しい認識なのだろうとも思う。
なにしろ素性不明の者を信用しろと言われて素直に頷けるものなど、ただのお人好しだということもまた事実だからだ。
──私から言えることは、情報提供者は昔、空で戦ったことがある者だと言うことくらいだな。それ以上のことは全てが終わってから本人に直接聞いた方が良いだろう。
「空といいますと……リノウチ大戦に参戦したパイロットの方でしょうか?」
肯定も否定もしない。沈黙を貫くだけだ。
「それならば私からはこれ以上追求するつもりはありません。船長を信じます。皆はどうだ?」
同じ空を飛んだレオナの問いかけに、反対するものはいなかった。
あの大戦を利用するような形になっているのは、なんとも皮肉めいているじゃないか。
きっと天罰を受けることになるだろうと思うと溜息が出た。
だがまぁ、今更の話だったなと苦笑するしかない。
私の未来よりも彼女たちの未来が大事だ。
その積み重ねの先にこそ、辿り着けるべき場所があるのだと思う。