荒野の空、イジツの片隅、ユーハングの情景 作:星1頭ドードー
ドン引きとは、この事を言うのではないかと思った。
査問委員会が開かれる場所まで護衛される為に、カナリア自警団がぶんどった──もとい用意した車へ乗車するまでの僅かな時間の間での行動だった。
襲撃犯と目が合えば全員が顔を背けるほどの反応を示していたので、これ以上我々に関わらないほうがいいと判断してくれたことは、大変ありがたかったのだけれど……。
確かにね、船に残す隊をカナリア自警団に任せた理由として、町に所属する正規の自警団であり、対人戦闘面においても技術を兼ね揃えているという点を考慮しての判断さ。
だからこそ、初手の危険な役目を任せてしまったわけなんだけれども……。
「ささーっ、船長は後ろの荷台にどうぞ! なんでしたら私の隣に座りますか? 自分は大歓迎ですよ!」
ニコニコ顔で手招きをするリッタが運転席に座りハンドルを握っている姿を見てしまえば、色々と察しがつくというものである。
──いや、助手席はアコに譲るよ。まだ他の隊とやりとりする機会が多いだろうしな。ただアコに確認したいことがあるんだがいいか?
「構いませんよ、なんでしょうか?」
首を傾げてみせる仕草を見つつも言葉を続けることにした。
──アコは可愛いからな。自信を持っていいぞ。あ、もちろん外見だけじゃなくて中身もだぞ。あんな奴らに言われたことなんて忘れておけ。なっ?
「お、思い出させないでくださいよ! 恥ずかしいんですから!」
顔が沸騰しそうな勢いで赤くなっていることを自覚したのか、両手で覆い隠しているが隠しきれていない姿が何とも愛らしいものだ。
ミントは私と同意見らしく、そうだそうだと言わんばかりに首を縦ふりまくってるし、ヘレンは相変わらず興味なしといった感じの態度を示している。
シノから伸ばされた手を借りつつ荷台に乗り込み、エルが華麗に足を組んでくつろぐ姿を見ていれば、これから尋問されに向かうとは到底思えないほどの緊張感の欠片も無かった。
トラックのエンジンがかかり、車はゆっくりと目的地であるオーシャン・サンフィッシュホテルへ走り出して行く途中、ふと気になった事があった。
──そういえば、無線機を使用しているが大丈夫なのか? 傍受の可能性も考慮したはずなんだが……?
「それでしたら問題ありません。アカツキの皆さんが内部に潜り込んでからは、彼らの使用する周波数から傍受するタイミング、無線機の種類まで全てこちらに筒抜けになっておりますわ。『いつの間にか立場が逆転している』と、間を挟んでくださっているレオナさんから聞いていますよ」
……この短期間でそこまで調べ上げるとは、次世代の子達はやはり凄いな。
感心している場合ではないが、連絡の安全が確保されたと思っていればいいのだろう。
レオナの苦労が絶えないことに申し訳なさも感じつつ、これで内部協力者も動きやすくなっていれば理想的ではあるけど……どうだかな。
そう考えながらも歩道を歩く通行人から手が振られたり、子供の声が聞こえる度に手を振って返してみせていた。
「あの姿を見なさい。アレシマの住人達も船長の人柄や功績を知っているからこそ笑顔を向けてくれるのよ」
「シノさんの言う通りです! 先程みたいに手を振る方がいらっしゃるということは、船長のなされた事に対して好意的に受け止めてくださっている証拠でもありますよ!」
「ふふっ、ミントってばアコが褒められたからか、珍しく感情的になっているわね」
「エルさんってば! そ、そんなことはないですからね! うぅ!」
「外で食べるコッペパンうめぇ~」
「……ヘレン、貴女はもう少し空気をよんで食べなさい」
賑やかな荷台内で繰り広げられる雑談に、賑やかにやれるうちが一番平和だよなぁ……としみじみ思うと共に、自分自身もまた外の景色を眺めながら物思いに耽ることとなった。
──オーシャン・サンフィッシュホテル内部
私の目の前に置かれたいくつもの無線機から聞こえてくる現状報告に、頭を痛めることになる。
『応答せよ! 応答せよ! こちらはハルカゼ飛行隊! 空からは異変を感じられません! どーぞー!』
『ユーカ! もう少し真面目にやりなさい! レオナさんにご迷惑になるでしょう! 少しは大人しくするように!』
『エリカってば厳しい~!』
ハルカゼ飛行隊は、今朝からアレシマ周辺の哨戒任務を担当してもらっている。
本来ならばアレシマ市立飛行警備隊が行うべき任務なのだが、動く気配が見られない。
警備隊の隊長からの指示か、はたまた査問委員会による圧力か、少なくとも通常とは異なる行動を取られているのは間違いない。
しかし、ハルカゼのおかげでコトブキがマダムとユーリア議員の護衛に専念できることは、非常にありがたいことであった。
それに……彼女たちの報告は、他の隊に比べれば頭痛を感じさせないものだからだ。
『おう! 隊長さんよ! こちらゲキテツだ! 船長の予想通りにコトが進んでいるぜ。引き抜きに応じたら連中が大量に人をよこせって言うからよ、ウチの組の連中からドクダミ一家と大所帯だぜ!』
「……そちらは順調ということでいいんだな?」
『案の定、アッチには私設部隊がいたけどよ、ちょいと挑発してやったら簡単に喰い付いてきやがった。おかげで痴話騒ぎを起こした隙にウチの連中とすり替えてる最中だぜ!』
フィオの高笑いが無線機を通じて響き渡る。
相変わらずの様子に頭を抱えたくなる気持ちを抑えていれば、そこから特徴的な喋り方をする野太い声が複数耳に届いた。
『おやぶ~ん! ゲキテツ一家が惚れこんだ船長ってどんな人だと思う~?』
『そんなの決まってるじゃない、クニヨ。サダクニさんも認めたオトコよ! そ・れ・に、英雄とまで呼ばれる程のテクを持っていると聞いたわ!』
『あたしの嫌いな空賊をボッコボコにしてくる人よ! 絶対イイオトコに決まってるわ!』
『やだっ、カツミったら! こんな公衆の面前でダイタンなんだから! タマの取り合いはこれからよ、ウフフッ♡』
……脅威が一つ潰されたと考えていたら、さらなる難題発生の気配を感じる羽目になった。
どうしろというのか、こればかりは本当に分からん。
しかしながら……現段階ではどうしようもないことは確かなので、フィオに任せるしかないと結論付けるほかなかった。
さて、次はどうしようものかと考えたところで、別ルート経由で情報がもたらされた。
『こちらはアカツキです。レオナさん、聞こえていますか?』
「モアか。どうした? なにかあったのか?」
『いえ、トラブルが発生したわけではなく定期連絡になります。既にご存知かと思いますが、ゲキテツ一家の方々が彼らの私設部隊との入れ替わりに成功したようです。おかげでカランさんの特製薬で行動不能にする手間が省けました』
なるほど、そういうことだったか。
短時間でこれほどの成果を出してくれるとは思ってもみなかったので助かる。
「ありがとう、モア。こちらからも朗報だ。つい先ほどカナリア自警団の活躍によって、船長がこちらへ移動中だ」
『わぁ、さすが自警団の方々です! 頼もしい方々ですね!』
「そうだな。引き続き情報収集を頼む、何かあればすぐに連絡を入れてくれ」
『かしこまりました。それでは失礼します』
そういってモアからの連絡が終わり静かになった部屋の中、どっと疲れが込み上げて来た気がした。
慣れないことばかりしているため、精神的疲労が多くなっていることは間違いない。
船長はこれを毎日行っている。と考えただけで尊敬の念を遥かに超えるものを感じた。
今度、私からも気晴らしに何かを誘ってみようかと考え始めてしまうぐらいには。
『あっ、すみません。お耳に入れてもらいたいことがありました。よろしいでしょうか?』
「どうしたんだ?」
『船長と協力関係にある内部の方を探しているのですが……私たちと接触する気がないようでして……』
「そちらに関しては船長の言葉を信じよう。捜索してくれるだけでも感謝したいくらいだ」
『いえ、気になさらないでください。それともう一点なのですが……彼らの側近にフード姿の人物がいて、ロイグが言うに隙が全く見えないそうです。常に警戒されている可能性が高いかと』
そいつが何者かは知らないが、怪盗である彼女らが警戒する存在である以上は、侮れないことだけは確かだろう。
「分かった。もし仮に出くわした場合は、可能な限り交戦を避けるように。船長の身が一番だ」
『わかりました。それでは、よろしくお願いしますね』
通信が終了したことを示す電子音が鳴り響くと同時に、静寂が訪れることになった。
改めて考えると本当に大変なことが起きているのだと痛感させられるものだが、焦りはなかった。
その理由として真っ先に上がるのは、仲間の存在があってこそだろうと考えているからだ。
信頼できる者たちとの繋がりこそが、何よりも大切なものだからに他ならない。
こうした考えが出来るようになったのも、コトブキの隊員たちから学ばせてもらったことや、経験を積んできたことによる賜物であると思っている。
そして、あの船による出会いの影響が大きいのは、否定しようがなかった。
こうして振り返ってみると、自分の視野狭窄具合がよく分かるというものだが、同時に新しい視点を得られるきっかけにもなったとも言えるかもしれない。
今後も学ばせてもらう為、積極的に皆と話をするべきだろう。
その中にはもちろん船長という存在も含まれているわけで。
そのためにも、まずは目の前の仕事を片付ける必要があるな。