荒野の空、イジツの片隅、ユーハングの情景   作:星1頭ドードー

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船長と査問委員会 そのご

 信じてくれた。

 船長は、私が信じて欲しいと訴えかけるよりも先に。

 

 ──アコ! 信じているぞ!──

 

 先ほどの言葉が繰り返し鮮明に蘇り、脳内を駆け巡る。

 嬉しさのあまり座りながら地団駄を踏む私をリッタは横目にしつつ、溜息混じりに言った。

 

「だんちょ~、今は感動に浸ってる場合じゃないですよぉ。自分たちは今できる精一杯のことをしなきゃいけないんですから!」

「わ、分かってますよ! でも……仕方ないじゃないですかぁぁぁ!!」

 

 涙腺崩壊寸前に追い込まれているのは言うまでもないんだけど、つい先程までのやりとりを思い出すたびにニヤけちゃうくらいに嬉しくて堪らない。

 

「仕方ありませんね。自分も同じ気持ちですから。いいなぁ~あんなに情熱的な呼ばれかたをされて羨ましいな~」

 

 同じように笑顔を向けてくれる団員を見ると安心します。

 やっぱり持つべきものは同じ悩みを抱えた同士ですね。うん。

 

 さて、問題は荷台にいらっしゃるお二人さん。

 アレシマの副町長……は、正直なところオマケみたいなものなので無視してもいいとして。

 本命の女性については、イヅルマを巻き込んで色々とお世話になった方なのです。当然、悪い意味で。

 

 あの飛行船は、元々イヅルマの造船技術の下で開発された試作船であることに加え、性能面においても試験段階の技術が注ぎ込まれたものでした。

 

 当然、町としては機密情報に該当するわけで。

 しかしながら彼女は富の力で得た権力からなのか、どこからか情報を嗅ぎ付けて彼らに存在を知らせました。

 

 それは彼らの中で自身の地位と価値を高めたいという浅ましい欲求に駆られたからでしょうか。

 それとも単に自分が有利に立っていることを周囲に見せつけておきたかったのでしょうか。

 

 真意は未だ不明のままとなっています。

 

 ただ言える事は、分からないまま終わることなどあり得ないということだけ。

 少なくとも、私たち自警団も含めてイヅルマ議会が満足するまで終わらないということ。

 

「ここの広場でチラシ配りをしていたら船長がわざわざ迎えに来てくれたのを思い出すなぁ」

「いやいや、それは流石に思い出補正が過ぎるんじゃないかな~って思うんですけど」

 

 リッタさんが現実を突きつけてきますが、それは横に置いといて。

 

 船長からすれば最悪な船出の始まりでもあったのでしょうが、私にとっては決して悪くありませんでした。

 むしろあの日をきっかけにして、私たちの人生がまた新しく変わったと言っても過言ではありません。

 

 この短い間にどれだけの出来事があったかと思い出すと、まだ足りないと欲張りな私は思ってしまうんです。

 もっともっと色々な場所を訪れてみたいし、色んな人たちと話をしたいし、仲間たちと笑い合いたいと思うんですよ。

 

 そのために今の私たちに出来ることは何でしょうか。

 答えは決まっていますよね。

 

「お二方、駐機場に着きましたよ。急なお話でしたので機体の工面に苦労致しましたが、何とか用意が出来ました」

 

 荷台から何やらうるさい声が響きましたが、無視しておきましょう。

 リッタさんも呆れて物も言えないのか、淡々と進めているようですし。

 

 私たちはお二人の召使いではなく、口約束で交わされただけの関係。

 それもアレシマからの脱出までというお話。

 これ以上、ノイズ音を耳にしても意味がないですもんね。

 

「ただし気を付けていただきたいことがあります。貴方がたの集めた人員が使用していた零戦二一型の機体なので、傍目から見ると空賊と間違われやすいのと、特有の塗装が施されております。そのため、なるべく人目を避ける移動ルートを通ることをおすすめします。あとはそうですね──」

 

 こちらが説明をしているにも関わらず、飛行警備隊は動かないから平気だと言い捨て、副町長は機体へ乗り込んでいきます。

 とーっても嫌な予感しかしないんですけどね。

 

「あっ、すみません。貴女はこちらへお願いします。特等席が用意してありますので」

 

 私なりの精一杯な皮肉を言ったつもりなのに、彼女は上機嫌で案内をするリッタさんの後をついて行ったのを見て思うわけです。

 未だ状況を理解されていないみたいですね、と。

 

「こちらはアコ。容疑者を連れたリッタさんが飛行船へ移動を開始しました。特等席だと伝えたら喜んでいましたので、道中逃亡の可能性は低いと思います。あとはお願いね、エル」

『わかったわ。ヘレンとリッタの三人で船内にある独房へ移送させておくわ。あとちょっとだから頑張りましょう』

「うん、お互いにね。シノさんとミントさんの方は何か進展あったかな?」

『アカツキからいただいた情報の場所で、町長を無事保護することができたと連絡があったわ。これで本来の空賊討伐部隊を取り戻す事ができるわね』

「そっか……良かった。こちらも目標が滑走路に向かい始めてるから、予定通り決行できそうだよ」

『まあ、それならサプライズが必要ね。頑張ってちょうだい』

「もちろんだよ。必ず成功させてみせるから。待っててね」

 

 エルとの打ち合わせを終えたところで、副町長が操る機体が視線に映る。

 まだ地上にいるにも関わらず、ふらふらと不安定に動かす様子が見えた。

 危なっかしいなあと思いながら、最後の仕上げに取り掛かることにする。

 

「あーあー、こちらはカナリア自警団団長のアコです。ハルカゼ飛行隊、応答求む──」

 

 

 ──時間にしてどれくらいだろうか、長くも感じたし、短くも感じる曖昧な時間を体感していた。

 ハルカゼの役割は哨戒任務担当であり、アレシマ周辺空域にて巡回を行っていた。

 

 本来ならアレシマの人達が担当するはずなのに、船長の言ってたとおり一機たりとも離陸してくる気配は無かった。

 仮にも私たちだって傭兵なのに、いいのかなぁという気持ちを抱く。

 

 だけど、これって多分信頼されてるってことなのかな? なんだか嬉しくなった私は口元を緩ませながら操縦桿を握って飛んでいた。

 

「でも暇なものは暇なんだよねー」

『ユーカってば、さっきから同じことばかり繰り返しているわよ。少しは真面目にやりなさい』

「そうはいうけどさー、特に何も起きないんだよ? こんなのだらけちゃうってば、エリカー」

『ガーベラはみんなと飛べることが楽しいから別にいいかも?』

『まぁ、ガーベラったら。でも仕事はキチンとこなさないとね』

『アタシはユーカと同意見だぜ。このままじゃ身体がカチカチになりそうだもん』

『で、でも。何も起きない方がいい気がするけど……』

 

 私の言葉を皮切りに、次々と言いたいことを言ってくれる。

 こういう時、みんなが一緒のチームで良かったと思えるんだよね。

 

 隊長と副隊長って役割は存在してるけど、意見を言い合える関係が心地良いと思ってしまうんだもん。

 あ~、ずっとこんな感じで過ごせたらいいんだけどなー。

 

 ハルカゼだけじゃなくて、船長も含めたみんなと、もっともーっと空を飛び続けたい。

 その為に、船長は直談判に行ってくれてるわけなんだけど……どうなったのかな? 上手くいけばいいけど、失敗した場合は……? 

 

 うう、怖いことばっか考えてると、胃の奥あたりが痛くなってくる。

 ここは考えることをやめよっと! 大丈夫! なんとかなるはずだよ! うん! 

 そんなわけで思考をポジティブに切り替えた時のことだった。

 

『あーあー、こちらはカナリア自警団団長のアコです。ハルカゼ飛行隊、応答求む──』

「ハルカゼ飛行隊隊長のユーカです! 感度良好であります!」

『よかった。みなさんにお願いがありまして……』

 

 え~! なんだろ! アコさんからお願いなんてワクワクしてきた! 期待しちゃっても良いってことだよね! 

 

『駐機場から飛び立とうとしている零戦二一型を見つけたのですが、そちらでも確認できますでしょうか?』

 

 無線を聞いていたみんなが同じ方向へ視線を移すと、確かに飛び立とうとしている機体が見えた。

 

『うーん、どこかで見た顔っぽいけど、さすがに距離があってガーベラでも判別できないや』

『というか、あの機体って空賊たちがよく使う塗装が施されてないか?』

『ひょえええ! ままま、まさか本当に空賊とか! 指名手配犯とかじゃないよねー!?』

 

 みんなの声がハモったと同時に、アコさんの言葉が続く。

 

『あーソウデスネー。ソウカモシレマセンー』

 

 なんか普段と違う声色なんだよね。気のせいかなあ……。

 

『こほん……こちらからでは間に合いそうにありませんので、撃墜をしていただけませんでしょうか? 責任は私が負う形で構いませんので』

「……えーっと……念のため聞きたいんですが、中に誰が乗っているのか分かります……?」

『悪党です。それもとびっきりの。そいつ等の悪巧みはもう見ていられないくらいの醜さで、再三と船長を侮辱するなど常軌を逸する行いを続けていました。いまこそ正義を貫く時だと思います』

 

 やっばい。どうしよう。

 いつもの自然体で毒を吐くアコさんじゃなくて、意図的としか思えない喋り口調で煽ってくるものだから余計に怖さが倍増してきてるぅ!! 

 

 とりあえず聞くことだけ聞いとこ。もしかしたら勘違いかもしれないし。うん。

 

「わ、わかりました……可能な限り離陸前に撃墜しておきます……それと一応の確認なんですが、もし最悪のパターンに陥りそうなときは、どうすれば……?」

『大丈夫ですよ。あの手の連中は一度痛い目を見ておく必要があると『私』は学んだのです。船長はお優しいですから止めに入ろうとするかもしれませんが、『私』から無理でしたと報告を入れますので安心してくださいね。船長から全幅の信頼を寄せられている『私』に全てを委ねてください!』

「アッ、ハイ、ヨロシクオネガイシマース……」

 

 明らかに圧を掛けてきているアコさんに思わずカタコトになってしまう私だったけど、この際どうでもいいことだった。

 やりとりはみんなにも聞こえているため、全員の機体が動揺するかのように揺れている。

 

 かくいう私自身も例外ではないんだけどね! どうしてこうなった!? 全然わからないんだけど! なんで急にこんなことになってるの!? 

 

 混乱状態に陥る頭で考えても埒はあかないと判断し、頭を冷やす意味を込めて大きく息を吸い込み、吐き出す作業を繰り返した末に出た決意を口にする。

 

「みみみ、みんな! まずはあの機体を止めよう! その後に事情説明をして、間違いだったら全力で謝罪を兼ねて土下座するしかないよ! 今の私たちはユーハングのことわざにある、ゼンカモンの猫──」

『落ち着きなさい、ユーカ。言いたい事はみんな分かってるから』

 

 エリカの冷静なツッコミが入ると同時に、少しばかり緊張が解けた気がした。

 やはり頼れる副隊長の存在である彼女がいるといないとでは雲泥の差だ。ありがたや~。

 

『で、でも、ユーカの言ったことわざなんて聞いたことがないんだけど……ベルは分かる……?』

『多分、「前門の虎、後門の狼」と言いたかったんだと思うわ。ダリア』

『どうすりゃゼンカモンなんて言葉が出てくるんだか。サッパリわからないけどな、アタシは』

『まーまー、そこはスルーしてあげるのが優しさだと思うよ、アカリ』

 

 み、みんなの優しさが心に突き刺さる! 遠回しにバカにされているのがよくわかるだけに余計辛いんですが! 

 うぅ……! それでも頑張るしかないかー! こうなったら最後まで突っ走ってやるっ!! 

 

「と・に・か・く! 私たちは与えられた任務をこなすだけだよ! エリカ、ベル、ダリアは相手機の離陸を妨害して! アカリとガーベラは私と順番に射撃を行って行動不能にするよ! いいね、それじゃあ行くよ! ハルカゼ飛行隊──」

 

『一機団結!!』




連休中に終わらなかったよ。
隊長さんたちの個別話はifルートの予定。

次回で本編は最後となります。多分。
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