荒野の空、イジツの片隅、ユーハングの情景   作:星1頭ドードー

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ハンターさんとイジツ狩猟記
01.イサカの依頼 ボタンイノシシとアノマロカリス


 砂と埃にまみれた壮大な荒野。

 俺はここで依頼者から頼まれた仕事の為に、全身を擬態させ、大地と一体化して獲物を探し求めていた。

 

「んー、今日も現れないか」

 

 諦めかけ、持久戦に持ち込む準備をと考え始めた時、ヤツがゆったりとした足取りで現れた。

 四つ足で大きな体躯を体毛が覆い、大きな鼻の周りにはご立派な牙が二本。

 ユーハングの連中が名付けた名称で言うならば、イノシシというヤツだ。

 体長は一クーリルくらいはある。なかなかデカイ奴であるのは間違いない。

 ただ、問題はこいつがただデカいだけではないって事だ。俊敏で牙を利用した体当たりを食らえばひとたまりもない。

 そのせいで追い払う事も出来ず、何件もの田畑に被害が起こっているらしく、困り果てて俺に駆除の依頼がまわって来たという訳だ。

 

「どうやらお前が今回の標的のようだ」

 

 ゆっくりと、ヤツに悟られないようにボウガンを準備する。

 こちらには気が付いていないヤツの目玉に照準を合わせ、ブレを最小限に抑える為に呼吸を整えて、心臓の鼓動をも抑え込む。

 引き金に指を当て、静かに引く。バシュっと音が鳴り、矢じりの付いた矢が、ヤツの片目に命中した。

 目つぶしを食らったヤツは大きくよろめき、前足をバタつかせ、痛みでのたうち回っている。

 

「さあ、行くぞ」

 

 ボウガンを投げ捨て、通常よりも長い"く"の字に曲がった刃物を手にして、ヤツに向けて駆けだす。

 狙いはもちろん首筋、この位置ならば確実に仕留める事ができるはずだ。

 

「おおぉ!」

 

 勢いに体重を乗せて、刃先を喉笛へと叩き込んだ。

 刃先が深々と刺さると、肉を切り、骨に突き当たり、そこでようやく止まった。

 

「やったか!?」

 

 思わず口から出た言葉をすぐさま取り消したくなる程の手応え。だが、これで手負いだ。次に来る攻撃は避けることが出来るかもしれないと思わせるものだった。

 "グルルルッ" 喉からうなり声を上げて威嚇しているのか、それともまだ死んでおらず最後の抵抗のつもりなのかはわからない。

 しかし、もうコイツは戦う事が出来ない程に弱っていることは確かだった。

 油断せずに刃を突き立てたまま、さらに力を込めてねじ込んでやる。

 すると何か柔らかいものを切断するような感覚の後、完全に動きは止まり、次第に命の力が失われていった。

 

「はぁ……終わったぜ」

 

 刃物の血振りをして、背中に括り付けていた鞘に納める。

 

「こいつはいつも厄介なんだ」

 

 地面に横たわる獲物を見る。

 今回倒したのはボタンイノシシ。見た目通りの重量級のイノシシだ。

 しかも図体の割に動きはかなり素早いうえにタフときている。その上、危険を察知した際に見せるあの異常なまでの回避能力も持ち合わせているという難敵でもある。

 

「それでも毒が無いだけマシな部類だよなぁ」

 

 イジツには毒のある動物なんてざらに居るわけだしな。

 

「依頼者には、この牙を持っていけば証拠になるだろう」

 

 そう思い、俺は牙を引き抜く為に、今も影で寝転がっているアイツを呼ぶ。

 

「カピバラさん! 解体するから手伝ってくれー!」

 

 俺の声が聞こえたのか、岩陰からゆっくりとした動きで現れる生物。

 その大きさは約七十センチクーリルほどだろうか。体は灰色と茶色の縞模様で覆われ、小さな丸い目が顔の中心にポツンとある。鼻と口元は黒く塗りつぶされたようで、どこか間抜けにも見える顔をしている。

 

「今から解体するから、道具を手渡ししてくれないか?」

 

 "クエエエ"という鳴き声した後、カピバラさんは背中に背負っていた道具を下ろして俺に差し出した。

 それを受け取り、解体作業に入る。

 今回は、依頼人が指定してきた期限がある為、急いでやる必要があるのだ。その為には無駄なくスピーディーな処理が求められる。

 手早く作業を行い、血抜きは既に終え、あとはこの内臓を取り出し、綺麗にした皮を残して他は全て剥ぎ取るだけだ

 

「よっと」

 

 ナイフを使って毛皮の内側に切れ込みを入れ、そこから手際よく肉を削いでいくと真っ白い肌が姿を現す。

 そしてその下に更に薄らと膜があり……。

 ここで一度作業を止めた俺は切り取った表皮を持ち、立ち上がる。

 次はいよいよ本命、胃と腸の洗浄をするのだ。これをしないと腐敗臭が強く漂ってしまう事になるので、非常に重要な工程といえる。

 ちなみに何故ここまでする必要があるかというと、臭いに釣られて別の獣が襲い掛かってくる可能性が高くなるからだ。

 俺はカピバラさんが渡してくれた桶の中に入っていた水を使いながら胃の内容物を吐き戻していく。

 二回程吐き出し終わる頃にはカピバラさんは飽きてしまったのか、地面に背中を擦りつけて遊んでいた。自由過ぎる。

 

(まあいいか)

 

 今は他にする事もないし、このまま作業を続けていこうと思う。

 最後に水を流して終了だ。ついでに他の内蔵も出しておこう。

 カピバラさんに指示をして内臓を全て取り出してもらった後は、ラハマ産の塩を振りかけておき、残りの部分を全部まとめて縛り上げた。これで運搬が楽になるはず。

 

「よし、それじゃ依頼者の元へ戻るぞ」

 

 荷物をトラックに押し込めていたら、辺りは既に夕暮れ時となっていた。そろそろ日が沈むころかなと思い空を見上げれば、そこには茜色に染まった雲が一面に浮かんでいる。

 その雲の合間を悠然と飛び回る一羽の鳥。その姿が妙に幻想的で見惚れてしまう。

 しかし、現実は運転席にいるのは俺。助手席には、何故か俺の言葉が通じ、一緒に行動を共にする様になったカピバラさん。

 なんとも野郎臭い、もとい獣臭い車内で感傷に浸かり始めようと思った直後、無線機から声が聞こえてくる。

 

『ハンター、こちらはイサカだ。そちらの状況が知りたい』

 

 今回の依頼者である、ゲキテツ一家幹部のイサカから直属の連絡が来た。

 通信機越しでも分かる程の緊張の色を滲ませているイサカは、一体何を考えているのだろうか。

 

「依頼されていた害獣なら無事に退治したぞ。解体作業をして荷造りをしていたら遅くなった。もう少しで到着予定だ。……それより何かあったのか?」

 

 俺からの返事を聞き、安堵の溜息を漏らすような声が聞こえる。

 俺達は現在イサカ組のシマであるキノクの街に向かっている最中であるのだが、続けて飛んできた無線によって、状況が覆される事となった。

 

『タネガシ近辺の空の駅跡地付近で、毒性を持つアノマロカリスの集団が発見された。至急そちらに向かい、奴等を追い払ってくれないか?』

 

 なるほど。確かにそれは急を要する案件かもしれんな。

 ボタンイノシシに続き今度は猛毒を有するアノマロカリスとは、相変わらずイジツは危険な生物が多いようだ。

 

「了解した。追い払うだけでいいんだな?」

『そうだ、下手に奴等を始末したりすればどうなるかは、私よりも詳しいだろう?』

 

 確かにな。準備もせずに毒持ちを始末した日には、周囲がどのような惨劇になるか分かったものではない。

 幸い、少しばかり脅かしてやれば逃げてくれるのがありがたい話だ。

 

「こちらハンター、了解。すぐに急行すると伝えてくれ」

 

 俺はそう伝えるなり、アクセルを踏み込みエンジンを吹かした。

 

 

 空の駅跡地。

 周囲にはそれなりに建物が存在し、人々が生活を営んでいる場所ではあるが"街"と呼ぶには少々寂しい雰囲気を感じるところであった。

 その町でイサカに指定された一件のバーを探す。そこにいる人物と協力をし、仕事を果たすというのが目的らしいが。

 

(この辺の筈だが)

 

 店は直ぐに見つかり、早速店内へと入る。客は少なくガラリとしていたのが印象深い。

 カウンターの席に腰かけ、マスターらしき人物に声をかける。

 

「すまない、イサカという人物から協力を頼まれたハンターなのだが、話は通ってはいないか?」

 

 声を掛けるとグラスの掃除を中断させ此方にやってきたマスターがこちらに視線を向ける……が。

 

「あら、アンタなのね! アノマロカリスを追い払ってくれる人って! イイ男じゃない! アタシ好みの顔つきよぉ!」

「お、おう、そりゃ光栄だよ……」

「うふっ、ねぇねぇ、ちょっと付き合わない? サービスしちゃうんだからぁ!」

 

 俺の両頬を挟み込むように掴みグイグイと顔を近付けてきたのは、豊満な肉体を持ったオカマだった。

 

「ま、まってくれ! その前に一仕事を終わらせなくてはいけないんだ!」

「そうだったわね。もう! あたし達の出会いを邪魔するだなんて、全くイケナイ子ねぇ!!」

 

 ぷりぷりと怒った仕草を見せるオカマ。見た目がアレだけに違和感しか感じない。

 というか今何気にサラッととんでもない事を言われた気がするが、ここは流しておく事にしよう。

 

「それで、そちらに何か作戦でもあるのか?」

 

 話を戻せば、オカマも落ち着きを取り戻し真面目な表情に変わった。

 

「えぇ、そうなの。さっき言ったけれど、あの一帯にアノマロカリスが集団でいて、とても危険よ。町の安全の為にも放置しておく訳にはいかないから、イサカに連絡を入れたのよ。そうしたらアナタみたいな素敵な人が派遣されて来るだなんて嬉しい限りよ!」

「そいつは有難いが……。ちなみにその集団の数とか分かるのか?」

「数ねぇ……。大体十匹前後じゃないかしら」

 

 十匹だと!? 数だけでも脅威だというのに、毒まで持っているとなると厄介極まりないだろう。

 そんなのを相手にしろと言うのだ、俺一人じゃどうする事も出来やしないぞ!! 

 ……いや、待て。そもそも今回は仕留めるのではなく追い払えばいいのだ。可能性があるかもしれない方法が思いつく。

 問題は、その為にどれだけの被害が出るかという事くらいなものだろうか。

 よし! こうなればヤケクソも同然! "やるしかない! "という覚悟が決まった所で、店の扉が開かれ誰か入ってきた。

 顔を向ければ、現れたのは何と依頼者であるイサカだった。

 

「すまないがハンターは来ていないか? 私と連絡を取っていた人物なんだが」

 

 オカマが首を捻って此方を一別した後に答える。

 

「ああ、アノ人の事なら丁度来た所よ。ほら見てご覧なさいな」

 

 イサカはその言葉を受け、こちらに振り向いた。そして目を合わせると共に彼は呟く。

 

「貴様か……? "神出鬼没のハンター"とは」

 

 沈黙が流れる。お互い目をそらさず相手の出方を待つ時間が続いた。そして先に動いたのはイサカの方であった。軽く息を吐き出してから俺に話しかけてくる。

 

「まずは自己紹介を済ませよう。私はイサカ。ゲキテツ一家の幹部だ」

「ハンターだ。それとこっちは相棒のカピバラさん」

 

 カピバラさんは慣れた様子で二本立ちし、片手を挙げて挨拶をする。その姿にオカマは黄色い歓声を上げた。

 

「きゃーっ、カワイーッ! 抱かせてもらえるかしら!」

 

 落ち着けとツッコミを入れそうになるのをグッと抑え込み、カピバラさんに確認を取る。

 

「大丈夫か、カピバラさん?」

 

 "クエエエ"という鳴き声が聞こえたが問題は無いようだ。

 

「良いってさ」

 

 それを聞いて嬉々として抱きしめるオカマの姿。カピバラさんもそれなりに大きいサイズなのだが、オカマにとっては小さい方に入るらしく軽々と抱え上げられている姿はシュール過ぎる光景だった。

 イサカは軽く咳払いをして、再び会話を始める。

 

「依頼内容は既に伝えたが、あの場所に巣食っているアノマロカリスの退治に協力して欲しい。無論、当初の依頼から追加で料金は支払う」

「報酬についてはカタが付いてからでいい。この町の安全が最優先だ」

 

 イサカは驚いた表情で此方を見つめる。それから少しして口を開いた。

 

「まさか金よりも町の安全を優先する人間だとは思わなかった。失礼だが、正直もっと俗物的な考えの持ち主なのかと思っていたよ」

 

 確かに金は大事だ。それは間違い無い。しかし俺はそれだけではないとも考えている。

 それに……。

 

「この店の雰囲気が気に入ったからな。ただでさえ客が少ないっていうのに、これ以上減ってしまったら寂しいだろう?」

 

 そう言って笑みを見せれば、オカマは瞳を潤ませた後に抱きついてきた。

 

「うぅ~ん、アンタ本当にイイ男ねぇ!! アタシ惚れちゃったわぁ!」

「あ、ありがとう……」

 

 困惑していると、今度はカピバラさんが腕を叩いてきた。何だろうと見れば、彼の顔がすぐ目の前にあった。

 驚いていると頬ずりをされる。柔らかい毛の感触が心地よかった。

 

「話が逸れてしまったが、引き受けてくれて感謝する。早速だが作戦会議といこうではないか」

 

 イサカの言葉に俺は静かに首肯した。

 

 

 それから数時間後。

 場所は変わってアノマロ……いちいち長いので毒マロと称す。奴等がいる場所までやってきた。

 イサカやオカマ……ではなく、ドクダミ一家のボスであるタカオやクニヨ、カツミにシグコが協力を申し出てくれたのだが、人数が多くなってしまうのを避けるべく俺達だけでやって来た。

 目的は勿論、あいつら毒マロを町へと進入させない為である。その為に色々考えた末に思いついたのが、夜間寝静まった頃合いに、騒音とかがり火を焚いて派手に騒ぐというもの。

 これで毒マロが町へと近づかないように誘導しようという魂胆である。ま、後は根気勝負といったところだろうか。

 ふと気になって傍らのカピバラさんを見る。

 すると眠たそうな顔をしながら欠伸をしていた。緊張感がない気もするが今の状況ではそれが頼もしくもあったりする。

 

「よし、毒マロが起きださない内に準備を始めるぞ、カピバラさん」

 

 カピバラさんに声を掛けるとコクりと縦に頭が振られた。

 毒マロの集団がいる位置を確認し、逃げ道を確保させつつ、その周囲を囲むように油を撒いていく作業を開始する。

 最初は中々手間取ったが回数をこなすうちに段々と手際よくできるようになった。

 そして俺とカピバラさんは、両左右の端で待機していた。合図は俺が油に火を付け、カピバラさんは目の前にある大きな銅鑼で威嚇する段取りとなっている。

 そしてその時が訪れる。

 

「イサカ、聞こえるか? いつでも行けるぞ」

 

 通信機で連絡を入れる。すぐに返事が返ってきた。

 

『分かった。十分気を付けてくれ』

「分かってるさ、じゃあまた後でな」

 

 短く返事をしてから、通信機を切った。

 それから相棒へ指示を出す

 

「んじゃカピバラさん行くとするか! 派手に行こうぜ!!」

 

 "クエッ"と元気のよい声と共にカピバラさんが鳴くのを確認したのち、俺は点火棒を取り出した。

 次の瞬間、油が勢い良く燃え上がった。

 同時にカピバラさんが思いっきり銅鑼を叩き始める。

 耳障りな音が辺りに響き渡り、毒マロ達が騒ぎ出し始める様子を横目にしつつ、俺も雄たけびを張り上げる。

 状況が把握出来ていないだろう毒マロ達は、群れの一匹がこちらで作っていた逃げ道へと向かって駆け出す。

 それを追う様に他の毒マロ達も次々と逃げ出す様子が見えたのを確認するのと同時に、俺は大きく溜息を付く。

 奴等からすれば"何アレ!? 怖ッ、ヤバ過ぎじゃない!? ちょっとマジで早く逃げるよぉ! "って感じだったろうな。

 まっ、手段はともかく、依頼通り追い払う事が出来たんだからヨシとするか。

 再び無線機に手を伸ばし、イサカへ連絡を入れる。

 

「イサカ、聞こえてるか?」

『ああ、聞こえている。そっちはどうなった?』

「全員町から反対方向へ逃げていったみたいだから安心しろ。一応、俺達の方でも確認しとくけどそっちも頼む」

『了解した』

 

 短い返事の後、少し間を置いてから空に聞こえるのは、イサカが搭乗する零戦二一型の発動機の音だ。程なくしてイサカの機体が見えてくる。

 片手を大きく上げて振ると、それに答えるように機体を左右に振りながら毒マロが逃げていった方角へ飛び去っていった。

 俺の周囲は、先程までの喧騒が嘘のように静かな夜空が広がっている。

 カピバラさんの様子を見に行けば、銅鑼の衝撃で仰向けになってひっくり返っている姿が目に入った。

 そんな姿に思わず笑みを浮かべてしまうが、いつまでもそうしてはいられないので助け起こす。

 幸いにも怪我などはなく無事であった。

 

「大丈夫か? カピバラさん」

 

 尋ねればコクっと力強く頭を上下させた。

 

 

「この町を救ってくれたハンターさんに乾杯よぉ!!」

 

 ドクダミ一家のボスであるタカオが音頭を取りグラスを掲げる。

 それを切っ掛けに皆が一斉に歓声を上げた。

 テーブルには所狭しと料理が並べられており、それぞれが好きなものを摘まんでいく。

 

「ハンター、ご苦労だった」

「おっと、悪いな」

 

 酒の入った瓶を持ったイサカに言われてグラスを差し出せば注がれる。

 トクトクと音を立てながら透明な液体が満たされていき、芳しい香りが鼻孔を刺激してきた。

 口に含めばアルコール特有の苦味が広がってくるが、それもまた悪くない。

 

「しかし、まさか本当に毒性アノマロカリスを追い払うとは……」

 

 しみじみと語るイサカの言葉を聞きながら俺は、空になったグラスに酒を注ぎ足す。

 

「まぁ、何とかなって良かったぜ。流石に何度もあんなのを相手にしていたら堪らんからな」

「そうだな……それで報酬の件なんだが、最初の依頼と緊急依頼の分を上乗せしておく」

「そりゃありがたいが、良いのか? こんなに貰っても」

 

 提示された金額は、普段なら間違いなく大喜びできるほどのものだったのだが、如何せん今回ばかりは素直に喜べなかった。

 狩猟をしたわけでもなく追い払っただけなのに、こんなに貰えるものなのかと思ったからだ。

 だが、イサカは首を縦に振った。

 

「問題無い。今回の依頼はお前が居なければ達成できなかったものだ。このくらいは当然の対価だ」

「そう言って貰えるのは嬉しいが……。ああ、そうだ。俺のトラックに捌いた肉を載せてあるんだが、引き取って貰えないか?」

 

 俺の提案にイサカは目を丸くした後、口元を緩めた。

 

「ふふっ、そういう事ならば引き受けよう。お前も中々難儀な性格をしているようだな」

「あんな量を一人で処理しきれる訳がねえからな。適当に食べちまってくれ」

「分かった。では、後ほどトラックの所に案内してくれ」

 

 その言葉と同時に差し出される手を見て、俺は笑顔を浮かべる。

 こうして、俺は今日も無事に仕事をやり遂げたのであった。




神出鬼没(しんしゅつきぼつ)のハンター
自由に現れたり隠れたりすること。
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