荒野の空、イジツの片隅、ユーハングの情景 作:星1頭ドードー
ここしばらく依頼らしいものが無く、カピバラさんに手伝ってもらいながら小屋の整理を行っていた。依頼が無い時はこうして掃除や整備を行い、暇を持て余さない様にしていたのだ。
どうしようもない物量に関しては、イサカとレミが協力してくれたおかげで、少しずつ片付いてはいるが、それでもまだまだ先は長そうである。
だが、いつまでもダラダラ過ごすわけにもいかないので今日中にある程度終わらせようと意気込んでいた時である。
コンコンと誰かがドアをノックしてきたようだ。
カピバラさんが出迎えに行った後、一人の男性が入ってきた。
「失礼、こちらにハンター殿が住んでいると聞いて来たのですが……」
「ああ、俺がハンターだが、何か用かい?」
男性は丁寧に一礼すると自己紹介を始めた。
「初めまして、私はゲキテツ一家のシアラ組で副長を務めておりますヴィトと申します。以後お見知りおきを。実は折り入って頼みがあるのです」
「そういう事なら椅子に掛けてくれ、今お茶を出そう」
「お構いなさらなくて結構ですよ」
「いいんだよ、俺が飲みたいだけだからな」
棚の奥にしまい込んだ茶葉を取り出し、お湯を沸かす。
カップに注いでからテーブルの上に置く。
「それで、話というのは何だい?」
「はい、単刀直入に言わせていただきますが、我々に協力して頂きたい事があるんです」
「ふむ」
「実は我々の長であるシアラ様から難題を吹っかけられてしまいましてね、その解決策を探しているんですよ」
「ほう」
「そこで貴殿の知恵をお借りしたいと思いまして」
「……」
正直に言おう。面倒くさい。
特殊な事情が絡まない限り解決出来るものではないだろうし、それにそもそも俺が動く必要は無いんじゃないか? ここは断らせてもらおう。
「悪いが断るよ」
「理由を伺ってもよろしいですか?」
「難題が何であるかは知らないが、俺はタダのハンターだ。獲物を狩る意外は大した事は出来ん。そんな奴に相談したところで大したことにはならないと思うぞ。力になれるかどうかも怪しいしな」
「……もし、狩りをして頂く事で解決できる問題であるのならば、依頼を引き受けて頂けますか?」
「それなら問題はないな」
「ありがとうございます!」
その後、詳しく話を聞いたところ、どういう表情をすれば良いのか分からなくなった。
つまりこういうことだ。
シアラから課された難題とは、甘い物を持ってこいというものだ。
イジツにおいて甘味はそれなりに高級品であり、一般的な家庭で食されることはおめでたい時ぐらい言っても良いくらいだ。
それをとにかく持って来いとの事だった。
もちろん、普通の菓子類でも構わないようなのだが、より美味なものが良いという条件付きだ。
これはもう完全に嫌がらせだと思うのだが、一体何を考えているんだろうかね、この人は。
依頼だけあって、一応報酬は出るらしく、提示された額は手間暇を考えたら破格といって差し支えなかった。
それだけで済むのであれば簡単なものであるし、何か裏がありそうな気がしてならないが……。
しかし、いくら何でも無茶苦茶すぎるだろうと思わざるを得ない内容である。
「シアラに持っていった甘味は、どうなったんだ? 食べたのか?」
「えぇ、食べて頂く事は出来たのですが……」
「ちなみにどんな反応だったんだ?」
「『これじゃない』と言われ、三時間ほど椅子として扱って頂けました!」
……なんとも言えない気分になった。
シアラ組の連中は、シアラを女王として扱い、ご褒美と称して罵声や蹴りを頂ける事が最上の喜びとしているらしいが、俺にはとても理解できない領域の話だな。
それはさて置き、シアラにとって一番美味しく感じるものとなると難しいものがあるな。
「……ん? そういえば俺が狩りをする事で解決するって言ったな。あれは本当なのか?」
「はい! 我々が甘味について徹底的に調べたところ、とある生物から採取できる物が、甘くみずみずしい味わいであり、それがシアラ様の好みの可能性があるという事が判明しました!」
「へー、そいつは凄いな」
「ですが捕獲が非常に困難なため、我々は今まで手を出せずにいたのですが……」
「成程、だから俺に手伝って欲しいと」
「そういうわけです!」
それならば確かに俺の出番かもしれん。
腕を組みながら色々と想像していると、カピバラさんが俺の足の上に乗り、顔をこちらに向けて何かを訴えている。
「カピバラさんも食べてみたいのか?」
コクコクと首を縦に振るカピバラさん。野菜や果実が好きだったもんな。
「分かった分かった。余りそうだったらカピバラさんにやるから、今は我慢してくれ」
頭を撫でると嬉しそうに鳴いてから足から下りていった。
「よし、そいつについて詳しく教えてくれ」
「分かりました、まずは──―」
こうして、俺達は狩りの準備を始めたのだった。
ヴィトの話を詳しく聞いて、俺は今回の獲物にアテがついていた。
今回は討伐ではない。ヤツから甘味を分け与えてもらうのが主な任務となる。
その為には、ヤツに対してお土産を用意しなければならない。
俺とカピバラさんは、だだっ広い荒野にやって来て、今まさに準備を始めようとしていた。
とはいっても特別な事をするつもりはない。罠を仕掛けるだけだ。
ターゲットは、擬態タコと呼ばれる生物の一種である。この辺りの荒野にも生息しているらしいのだが、名前の通り隠れるのが上手い生物であり、人前に姿を現すことはない。
そこでタコツボと呼ばれる仕掛けを用意する。
地面に穴を掘り、その中に餌を仕込んでおく古典的な狩猟方法である。餌は干し肉と乾燥させた果物だ。
それらを幾つか設置した後は、一晩置いて朝を待つだけである。
では、待ち時間はどうするのかというと、ここは一つ、罠作りを手伝ってくれた人達に一杯奢るのも悪くないだろう。
俺とカピバラさんは、近くにある空の駅ロータへと足を運んだのであった。
空の駅は、その名の通り飛行機乗りの休憩場であり、搭乗者が一息入れたり、機体の燃料補給を行う事が出来る場所である。
そこで働いている管理人のジイサマと、従業員のロドリゲスに挨拶をしてから、食べ物の自動販売機から、適当に買ってきた物をテーブルの上に置いた。
「無事に戻ってきたか、ハンターの兄ちゃんよ!」
「おかげさんでな。作成するのを手伝って貰った仕掛けを無事に設置してきたぞ」
「ほぅ、そいつは良かったな。ところで、何でお前はそんなデケェ生き物を膝に乗せてんだ?」
ジイサマの視線がカピバラさんに向く。
カピバラさんはニコニコしながら俺の膝に乗っている。
「あぁ、こいつは俺の相棒で名前はカピバラさん」
「はっはっはっ! 名前まで付けてんのか! 随分と気に入ってんじゃねぇか!」
「随分と助けて貰っているからな。愛着も湧くさ」
「ま、その気持ちは分からんでもねえぜ。ところでオマエさんはこの後、どうするつもりなんだ? タコを捕まえるにも一晩待たなきゃならんだろ?」
「手伝いをしてくれた二人に一杯奢ろうと思っていたところさ」
「おぉ、殊勝な心がけじゃねーか。そういう事なら遠慮なく飲ませてもらおうか」
「俺もいいのか?」
「勿論さ。一番多く仕掛けを作ったのは、手先が器用なお前さんなんだからな、ロドリゲス」
「出来る事をしたまでだが……。ありがとよ、ハンター」
その後、俺達の晩酌が始まったのである。
乾杯の音頭の後で早速ビールを喉に流し込む。冷えた炭酸が疲れた身体に染み渡るようだ。
ジイサマが豪快にジョッキを傾けている隣で、ロドリゲスはマイペースに飲んでいく。
カピバラさんは、自販機で売られていた小さなパンケーキがお気に召した模様。両手で持って頬張るようにして食べている。可愛いものだ。
「ハンターの兄ちゃんよ、この時代に気球で移動とは優雅なもんだな」
「そうだな。バーナー付きとはいえ、風任せで気楽に飛べるのは良いもんだよ」
「空賊に襲われないのか?」
「何度も球皮を撃ち抜かれたものさ」
「大丈夫なのか!?」
「心配すんなって、アイツら俺を墜落させたら無条件で物が手に入ると勘違いしているからな。地上戦に持ち込めばこちらのもんよ」
「流石はハンターと呼ばれているだけのことはあるな」
「ありがとよ、ロドリゲス」
男三人と獣一匹、酒が入ればくだらない話でも盛り上がるもので、気が付けば俺達は、椅子に座ったまま眠りこけていた。
翌朝、カピバラさんに起こされた俺は、少し寝ぼけた状態で身支度を整えた後に朝食をとる事に。
適当な自販機から、サンドイッチや飲み物を購入して、テーブルの上に並べていく。
ハムサンドやタマゴサンドなどの定番のものから、ピザトーストやホットドッグなど変わり種もある。
「いただきます」
『クエエエ』
俺の真似をするようにカピバラも声を上げる。それが妙におかしく思えて笑ってしまった。
今日も天気は良好。雲ひとつ無い青空が広がっている。設置したタコツボの様子を見に行くには絶好の日和だろう。
朝食を済ませた後で、ジイサマやロドリゲスに別れの挨拶を告げてから、俺はカピバラさんと例のタコツボへと向かったのだった。
「おっ、ちゃんと引っかかってるじゃないか、偉いぞ、カピバラさん」
『クエッ』
カピバラさんが嬉しそうに鳴いた。昨日の作業中に教え込んだ通り、しっかりと罠を仕掛けてくれたみたいだ。
タコツボの中には、見事に引っ掛かった大きな偽装タコの姿があった。
奴の吸盤が張り付いているのは、木製の樽の蓋の部分で、そこに紐を結び付けておいて、木の棒を使って引っ張り上げれば捕獲完了というわけだ。
「よし、残りの罠も全部回収しよう」
『クエーッ』
全てを回収し終えたら、偽装タコを締め上げていこう。
まずはタコの胴体を捌いて、中身を取り出す必要がある。タコの頭を切り落とし、内臓を取り除き、足先も切り分けた。
「相変わらずヌルヌルしていて気色悪い癖に、美味いんだよなぁ」
『クエェ~……』
俺の呟きにカピバラさんも同意するかのように鳴き声を上げた。
腹を割かれたタコの身に包丁を入れていき、身を解していく。こうすると味がよく引き立つのだ。
イジツでは、肉を食すのに焼くか揚げる方法が定番であり、携帯食用に干物にする事も多いのだが、コイツは調理法次第では生のまま食べる事も出来る。
しかしながら余程の変わり者出ない限りは、生で食そうとする者など皆無だ。
『クエ~』
この変り者の筆頭が今まさに目の前にいるカピバラさんであり、俺が捌いている身の欠片を口に運んでご満悦の様子。
そんなカピバラさんを見ながら、俺はふと思った。
もしかしたら、イジツにやってきたユーハング出身の人間が作った料理が、こういう風に変化したのかもしれないと。
「……」
まあ、今はどうでも良い事だな。
これをヤツの所まで運び、甘い物と交換して貰うとするかね。
再び気球に火を点けて飛び上がる。目指すはヤツがいると思われる場所だ。
しばらく飛んでいると目的の場所に辿り着いたので、ゆっくりと高度を下げていく。
眼下に広がるのは荒れ果てた大地と深い渓谷。どこを飛んでも変わり映えしない光景だ。
気球を渓谷の底に着陸させ、解体した偽装タコが入っている箱を背負った。
それからしばらく歩いた先に、大きな洞穴を見つける。俺の予想が正しければこの奥にヤツがいる。
中に入って行くと、薄暗い空間が待ち構えていたので、用意しておいた松明の灯りを頼りに歩いていく。
足音が響く空間を黙々と歩いているうちに、開けた空間に出る事が出来た。ここが目的地だ。
天井の一部から外の光が差し込んでいる中、ヤツはそこにいた。
大きな甲羅を背負い、そこから手足と頭を出し、地面にへばりつくようにしているのは、亀と呼ばれる生き物だ。
ただし、普通の亀と違うのは、その大きさだ。全長3クーリル近くある巨体である。
背中の甲羅が割れて、そこから太い幹が伸びており、そこには果実のような物が実っている。
この果実をシアラに届ければ、今回の依頼は達成となる。気に入ってくれればだが。
ヤツは俺の存在に気が付くと、身体を起こしながら威嚇するような鳴き声を上げてきた。
「待てって、俺は何もする気は無い」
背負っていた箱を降ろしながら俺はヤツにそう伝える。これはお前にやるから好きにしてくれという意味を込めての行動だ。
ヤツは警戒しつつも近づいてきて、箱の中身を確認する。
『クークー』
『クエエエ』
カピバラさんが、亀と会話をしているようだ。
『クエ?』
『……クー』
何かやり取りをした後で、カピバラさんがこちらに振り返る。
『クエェー』
「お、マジ? いいのかい?」
カピバラさんがコクコクと首を縦に振る。どうやら交渉は成立したらしい。
「それじゃ遠慮なく頂戴しますと」
亀の背中に実っている果実を二房ほどもぎ取り、皮袋の中へと入れておく。一房はカピバラさんへのご褒美だ。
「ありがとよ! また縁があれば会おうぜ!」
「クー!」
美味そうに偽装タコを食している亀に礼を伝え、その場を後にした。
ヴィトに連絡を取ると、直接シアラの元へ持って行って欲しいという指示を受けた。
指示された通り、気球を操作してシアラ組のシマへ。
そして目の前には立派な館の前に、ヴィトが待ち構えていた。
「待たせたな。依頼の品を持ってきたぞ」
「ありがとうございます、ハンター」
「シアラの様子はどうだ?」
「変わらずです。未だお気に召した物はない様子で、手下たちにご褒美を与え続けています」
「女王様も大変だな。それじゃ俺は帰る。止めるなよ」
「ここまでいらしたのですから、是非とも直接お渡しして頂けないでしょうか!」
「嫌だよ! 気に入らなかったら豚とか呼ばれてお馬さんゴッコで三時間だろ!?」
「それはシアラ様からのご褒美ですから!」
「俺にはそんな素質はねえ! 巻き込まれるのは御免だ!」
「そこを何とかお願い致します!」
あの後、何とか説得を試みようとしたが、ヴィトは頑として譲らず、結局根負けしてしまった。もうこうなったら早く済ませてしまうに限る。
館の扉を開き、シアラの待つ部屋へと向かった。
部屋の前まで来ると、中の気配を探る。中にいるのは一人だけだ。
ヴィトが扉をノックし、入室の許可を求める。
「失礼致します、シアラ様。例の物を持参しました」
『入りなさい』
「はっ」
許可が出たので、ヴィトとカピバラさんと共に室内に入る。中ではシアラがソファに腰掛け、優雅にお茶を飲みつつ寛いでいた。
「あら、アンタが噂の"怪怪奇奇のハンター"ね。思ったより普通じゃない」
「そりゃどうも」
「それで、ヴィトと手を組んで一体何を持ってきてくれたのかしら?」
「これだ」
革袋の中からシアラに渡す予定の品を取り出す。それだけにも関わらず、部屋中に甘い香りが広がる。
「……へえ、悪くないわね。ちょっと食べさせて貰えるかしら?」
「ああ」
自分で食えよと言いたいが、この女王様に伝えたら何が起こるか分からない。
房から実を切り取り、それを摘んでシアラの口元に持っていく。
すると彼女はパクっと一口に食べると、モグモグと噛みしめ飲み込む。
「ん、合格点をあげるわ。ヴィトの奴が何か企てているのは知っていたけれど、様子見しておいて間違いはなかったようね」
「そりゃどーも。それじゃ俺は帰らせて貰うぜ」
「待ちなさい」
早々に引き上げようとした俺の首襟をシアラが掴み、そのまま引き寄せてくる。この華奢な身体のどこに力があるというのだ。
「せっかく来たんだから、もう少しゆっくりしていきなさい」
「いや、もう依頼達成したから帰らせてくれ」
「アンタに決定権なんて無いわよ」
「なんて横暴な!」
思わずため息が出る。だが、その態度が気に入らなかったようで、更に強く引っ張られた。
「んぐぇ!」
「黙りなさい。命令に背いた罰は必要でしょう? ほらこっちに来なさい。たっぷり可愛がってあげるわ」
「おい、待ってくれ、やめ……」
抵抗も虚しく、気が付けば俺は四つん這いにされ、シアラの椅子にされていた。
背中に感じるのは柔らかい感触。重みを感じさせない軽さなのに、しっかりと押し潰してくる弾力はまさに女王の名に相応しいものだ。
……ヴィトは? カピバラさんは? 助けを呼ぼうにも、声を出せばシアラの機嫌を損ねるだろう。
「ふふん、いい眺めねぇ。まるで馬みたいで可愛いわぁ」
「なんて羨ましい! シアラ様! 私にもご褒美をください!」
「ヴィト、コイツを連れて来た事は褒めてあげるから、今すぐ部屋から出ていきなさぁい」
「例えシアラ様の命令であっても従う……」
「うっさい、邪魔よ」
「ありがとうございます!」
シアラの無慈悲な力によって、ヴィトの身体が部屋の外へと慌ただしい音を立てながら遠ざかるのを聞きながら、この後の事を考える。
まずはこの場をどうやって切り抜けるべきか。
「ところで、そろそろ退いてくれないかな?」
「ダメに決まってるじゃない。まだあたしのご褒美を受け取っていないもの」
「いらないから! 家に帰してくれ!」
「さっき言ったでしょ? たっぷり可愛がってあげるって」
「だからそれが嫌なんだっての!!」
首を動かせる範囲で動かし、周囲を伺う。
カピバラさんは、シアラから手渡された果実を夢中で頬張り、とても幸せそうだ。
一方、俺の背中に座っている女王様は実に楽しげである。
「あはははは、本当に馬が居るのねぇ。初めて見たけれど、面白い生き物ね。気に入ったわ」
「お気に召されたなら光栄です……」
「ねえ、どうしてアンタはこんな仕事をしているのかしら?」
急に質問されて少し戸惑ったが、素直に答える事にする。嘘をつく理由もないしな。
「毎日、飯を食う為には金が必要だからだ。世の中は世知辛いからな」
「お金の為に命を懸けるのは馬鹿げてるとは思わないのかしら?」
「ま、それはそうだけどな。それでも生きていくには仕方がない事だし、やりがいもある仕事だよ」
「へえ、そうなのね。あたしはそういうの考えたことが無かったわ」
そう言うと、何故か彼女はクスリと笑った。
「生きる為だったら、もっとマシな方法だってあるんじゃないかしら?」
「例えばどんなだ?」
「例えば……そうねぇ、こういうのはどうかしら? あたしがアンタを飼ってあげるわよ。衣食住に不自由はさせなくて済むわ。それにあたしのペットとして相応しいように教育も施してあげる。そうしたら一生安泰じゃないかしら?」
「……お前、俺の話聞いてた?」
「もちろん聞いていたわよぉ。どうせロクでもない人生を歩んでいるのでしょ? だったらあたしが飼い主になってあげても問題ないと思うのよね。あたしのモノになれば、そんなくだらない人生ともおさらばできるわよ」
随分と上から目線な言い方だなと思ったものの、考え方次第ではシアラの優しさとも言えるのかもしれない。
飴と鞭の使い分けも上手いし、顔が良いからか、こうして見つめられるとつい甘えたくなる気持ちも分かるような気もしてきた。
とはいえ、ここで彼女の誘いに乗るわけにはいかないな。
「……悪いけど、遠慮しておくよ。自分の身ぐらい自分で守れるから」
「…………」
沈黙が走る。何か変なことでも言ってしまっただろうか? すると突然、シアラが笑い始めた。
「あはははははっ!! なにそれ!? 断られると思ってなかったわ! アンタ、面白すぎよ!! 気に入ったわ。あたしのモノにならないのは残念だけど、これからも遊び相手として飼ってあげるわ」
「えぇ……そこは諦めてくれませんかね?」
「やーよ。 さて、次は何をしようかしら。そうだわ! このまま椅子にしてあげるから、大人しくしていて頂戴ね」
「勘弁してくれ、もう疲れたよ……」
「あらぁ、情けない子ねぇ。まあいいわ、とりあえず今はこれで我慢しておいてあげる。ほら、口を開けなさい。餌をあげるから」
言われるままに口を開けると、瑞々しい果実が入り込んでくる。
噛む度に溢れる果汁は、乾いた喉を潤すのに十分すぎるものだった。
シアラはというと、満足気な表情を浮かべ、鼻歌を歌い始める始末。
やはりこの依頼、最初から断っておくべきだった。後悔先に立たずとはよく言ったものだ。
怪怪奇奇(かいかいきき)のハンター
常識では考えることができないような不思議なこと。