荒野の空、イジツの片隅、ユーハングの情景   作:星1頭ドードー

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エンマのおしごと

 本日のイジツも晴天に恵まれ、わたくしの操る隼一型も機嫌良く空を飛び回る。

 操縦桿を倒し、旋回を行いながら地上の様子を伺う。地上にいる人達は、皆前を向き、街の復興を夢見て働いている。

 本日のわたくしのお仕事は、ショウトの上空警備。依頼を受けた時は、復興中の町に空賊が現れるのだろうか? その疑問はショウト自警団長であるカミラからの説明で晴れる事になる。

 

「復興中なのをいい事に、警備が手薄な時を狙い、物資をひっそりと略奪している人達がいるんですよ! みんなが苦労して集めた物を盗んでいくなんて許せません! ぷんぷん!」

「それはまた心中お察し致しますが……。それなら地上の警備を増やすべきなのでは?」

「勿論、僅かですが人員を回してはいるのですが、人手が足らないのも事実。相手の手口は町の人達に紛れ込み、白昼堂々と行っているみたいで、私達のやり方ではなかなか尻尾を掴めませんの」

「だからと申しましても、空から監視をしたところで結果は目に見えている様にも思えますが?」

「それならそれで良いのです。私達が町の人達に対して配給が行き届いていないという事実が発覚すれば、対策が取れますから。ですが、もしこれが空賊等の仕業であれば……」

「許されざる悪行ですわね。つまり、ショウトから許可されていない戦闘機が離着陸してきた場合は、通信を試み、身分をはっきりとさせる必要性があるわけですわね」

「応答が無い場合や、明らかな逃亡行為を見せた場合は、私の確認許可を待たずに対応を。撃墜許可をエンマさんに委ねますわ」

「仮にも用心棒であるわたくしに対してそこまで信用してもよろしいので?」

「大丈夫ですよ~。こう見えて人を見る目はあると自負していますから!」

 

 全体的にほわほわとした口調で語るカミラ。でも町に対しての愛情は人一倍。毎日、ショウト復興を目指して日々働いている。

 コトブキとして受けた依頼とはいえ、そのお手伝いを出来るのは、わたくしにとっても誇らしい仕事となりそうだ。

 

 

「いい加減、諦めて投降しなさい! ダニ共!!」

 

 何事も起きず、日々上空から町の様子を伺う日々だったある日、突如その時が発生する。

 一機の屠龍が発動機を始動させ、滑走路へと向かう姿を見かけた。

 事前に渡されていた、本日の飛行予定表には屠龍の文字は無い。大胆不敵というべきか、こちらを舐めきっているとしか思えない行動だ。

 当然ながら離陸させるつもりはなく、上空から抑えつける様に飛行を続けるが、止まる気配はなし。

 それを証明するかの様に、後部座席からこちらに目掛けて威嚇射撃を試みようとする姿が見え、緊急回避を行う。そちらがその気であれば、恨みっこなしですわよ!! 

 一度、高度と距離を取り、屠龍全体を確認。あの形状であれば、甲型か。ならば上向き砲は搭載される前の機体だ。標準装備である機銃も、高度を取りながらであれば問題は無い。

 屠龍から見て、二時方向。そこからわたくしは高度を下げ、主翼全体に向けて一式十二・七粍固定機関砲が火を噴く。

 離陸前の機体など機銃の外しようが無く、面白い様に弾が当たる。一部主翼から火が上がるのを確認出来たが、その様な状態にも関わらず離陸を止めようともしない。

 こちらの問いかけを無視したところまでは、ダニ共なりの気骨があるものかと感じていたが、これでは自ら死に行くだけである。

 ダニ共がどのような理由でここまで命を賭けているか、そんな事は考えたくもない。自分の命すら蔑ろにする奴等がまともな理由など無い。

 後方機銃に注意を払い、今度は十時方向から再び機銃掃射。再び屠龍は主翼部分に銃弾の嵐を一身に受け止める事に。

 再び火の手が上がる。これが契機となりにより、屠龍に搭乗していた人物たちが、機体から脱出していく姿が見える。

 あとは地上に居る自警団に任せれば、相手が逮捕されるのも時間の問題。犯行を起こした理由も、そのうちに分かる事でしょう。

 仕事はこなしましたが、余り気分が良いとは言えず。深い溜息をついているところへ、警備の交代の時間を告げられて、わたくしも地上へと戻る事になった。

 

 

「エンマさ~ん、お手柄ですよ~!」

「捕まった犯人たちから何か聞けましたの、カミラ?」

「はい! 何度も物資をちょろまかしていたのも、あの人達の犯行だと認めました!」

「そうしなければならない理由を聞く事が出来まして?」

「それが、どうやら子供たちの為みたいなんです」

「子供の為? それはまた空賊どもが使いそうな言い訳ですわね」

「私もそうであればと思いたいのですが、真剣な眼差しで伝えられると本当の様に思えまして」

「空賊どもの言葉に耳を貸していたらキリがありませんわよ?」

「もちろん! 全てを信じるつもりはありませんわ! ですが本当に子供が居た場合、私達が動かなければ彼等を見殺しにしてしまう事になる。ここで動かなければショウト自警団団長として許されざる行為と判断致しましたの!」

 

 わたくしの言葉を正面から受け取り、かつ自分の信念の為に行動を起こそうとするカミラの姿が、とても眩しく見え、逆にあっさりと切り捨てようとする自分に対し、慚愧に堪えない。

 生まれ育った環境によるものか、用心棒と自警団という立場の違いから生まれてくるものなのか。わたくしの持つ信念とは少し違いますが……。

 

「丁度、警備の交代でお休みを頂いておりますの。多少であれば時間の融通は……」

「エンマさん! ありがとう~!」

 

 わたくしが発言をし終えるよりも先に、カミラがわたくしに抱きつき、感謝を述べる。

 まだ何をするとも伝えていないのに、この喜びよう。両手を上げて降参のポーズ。敵いませんわ。

 

 

 カミラを含む少数で編成された自警団とわたくしは、犯人が自供した場所へと向かい、数名の子供を見つけだし、保護する事に成功した。

 そして犯行を起こした空賊も含め、ショウトで保護をする事にした様だ。

 

「今更ですけど、本当に受け入れても大丈夫ですの?」

「犯行自体は許されざる行為ですけれども、そうせざるおえない理由と、子供たちの為に嘘の証言を吐かなかった。という点が大きいですわ。彼等の証言のおかげで子供たちの命を救えたのですから」

「わたくしには到底出来ない判断ですわ。罠かもしれない場所へわざわざ向かうだけならまだしも、大人も含めて保護をするだなんて」

「もちろん、これまでの分も含めてキッチリと働いてもらいます! 共に町の復興の為に身体を動かしてもらい、生活を続けていけば、自然と溶け込める様になるでしょうから」

「カミラ、今回の事件を公表するつもりは無いと?」

「ユーハングには、罪を憎んで人を憎まず。という言い伝えがあるでしょう? それに情状酌量する余地がありましたもの。それに……」

「それに?」

「エンマさんが居て下さったからこそ出来た行動ですよ? 人手不足の自警団だけでは、イザという時の対応は難しかったでしょうからね。そんな私たちが無傷で任務を終えられたのもエンマさんがいらしてくれたからですわ! だからありがとうございます。エンマさん!」

「分かりました! 分かりましたから! そんなに何度もお礼を申し上げなくても!」

「ダメです! キチンと受け取って貰わないと! 言葉だけでは感謝し足りない程の事を成し遂げたのですから!」

「わたくしは上空で警戒をしていただけですのに! ああ! もう!」

 

 こうなったカミラは誰にも止められない。お酒も飲んでいないのに、よくこのテンションを保てるものだと感心してしまう程に。

 

 

 成すがままにされていた時、一人の連絡員が駆け足でこちらにやってきた。

 なんでもショウト復興の為に見つけ出した秘密兵器が、無事に稼働したとのこと。動作確認をする為に、わたくしを呼んできて欲しいというタミルからの連絡であった。

 

「秘密兵器? そんなものどこにありましたの?」

「自由博愛連合の爆撃を受けた場所を調査したところ、地下施設と思わしき場所が見つかりましたの! あれはきっとショウトが作られた時に使われたユーハングの機械だと思い、タミルさんに調査をお願いしていましたの!」

「少なくとも、七十年前の代物という事だけは分かりましたわ。それを動かす為に何故私が呼ばれるのかしら?」

「あら? エンマさんは車を運転出来るとタミルさんから伺っていますわ。エンマさんに走行試験をしてもらい、タミルさんがその様子を確認する。といったところでしょうか?」

「運転できると申しましても、野暮用で動かせるように実地訓練をさせられたと言うべきものですよ?」

「まあまあ、多少の違いはあるでしょうけれど、車には間違いありませんから、大丈夫ですよ!」

「もう! 仕方ありませんわね。これ以上待たせるのも気が引けますし、行ってまいりますわ」

「いってらっしゃ~い、良い報告をお待ちしておりますね~」

 

 両手を上げて器用に身体をクネクネと動かすカミラをその場に置き、タミルの元へと歩みを始める。

 

 

「あら! エンマ! 良く来てくれましたわ!」

「これのどこが車ですの?」

「れっきとした車ですわよ? ほら、車輪もちゃんとありますでしょう?」

「車輪? わたくしには歯車に帯が巻かれてあるようにしか見えませんが?」

 

 タミル曰く、これが車輪であり、車体正面には、窪みのある大きな鉄板が備え付けられており、それを上下に動かす為なのか、アームらしきものが取り付けられている。

 

「車とは一体何なのでしょうね……」

「ふふっ。私達が日頃から利用している飛行機と同じ様に、用途が違う物もあるということですわ。しいて言うならば、はたらくくるま。ですわね」

「はぁ、悩んでいても仕方ありませんわね。それでわたくしに何をさせたいわけですの、タミル?」

「エンマにはこの子に搭乗して頂き、基本動作を行った後、そちらにある瓦礫を押して頂きたいのですわ」

「あんなに重そうな瓦礫をこの子が押せると?」

「ええ、上手くいけば道の整備が進み、復興作業が捗りますわ」

 

 確かに。道が整備されれば様々な場面で楽になる。人が歩くにも、いちいち瓦礫を跨いで移動をしていたら、それだけで疲労困憊だ。

 

「分かりましたわ。動かし方は教えて頂けるのですよね?」

「もちろんですわ! あの時、教えた車よりも動かす事は簡単ですから、肩肘張らずに参りましょう」

 

 

 念の為にとタミルから手渡された黄色のヘルメットを装着し、わたくしが乗り込んだ特殊な形をした車は、カラカラと音を立てながら始動する。

 丸いハンドルらしきものは無く、真ん中にある操縦桿により車体を操作出来るようだ。これならまだ慣れ親しんだ形であるから、上手く出来るかもしれない。

 備え付けられた桿には、発動機の回転数を調節するもの、正面に取り付けられた鉄板の上下操作、前進後進の切り替え、両足にはお馴染みのペダルがあり、その間に操縦桿が設置されている。

 タミルの説明を受け、指示通り車を動かしてみる。独特な揺れと共に前へと進むこの子を見て、よくこの車輪で動くものだと一人で感心してしまう。

 

「まあ、エンマったら! 初めてとは思えない程、お上手ですわ!」

「タミルの説明が丁寧だからですわ。それにしても、本当にこれで瓦礫を動かせるので?」

「大きな塊に関しては、砕く必要性はありますが、人の手で移動させるのに手間がかかっていた物に関しては、押し進められるかと」

「それを証明する為に、あの瓦礫を移動させればよろしいのですね?」

「はい! では、よろしくお願い致しますわ!」

「お任せを」

 

 瓦礫を正面に位置するように車を移動させ、正面にある鉄板の高さを調節する。

 発動機の回転数を上げて、鉄板に瓦礫が当たるところまで進め、タミルに確認をしてもらう。

 後はこの子に頼るのみ。ペダルを踏み込み、前進させると、瓦礫の抵抗を受けながらも確実に前へと押し進んでいく力強さ。これが、はたらくくるま! 

 一度停止させ、タミルの方へ視線を移せば、わたくしと同じ様に喜びに満ち溢れた表情をしている。

 

「タミル! この子は大変素晴らしいですわ!」

「こちらからも確認しましたわ、エンマ! これで人の手によって行われていた瓦礫の撤去が捗ること間違いなし! ですわ!」

「ならば早速お手伝いと参りましょう! この子の素晴らしさを皆様にもお伝えしなければ!」

「ええ! ですが慢心せず、安全第一。ですわよ?」

 

 片目を閉じながら人差し指を立て、確認するように問いかけてくるタミル。

 

「当然ですわ。大きな力を操る者として、事故を発生させないよう怠らない様に気を付けますわ」

 

 

 あの後、タミルと共に瓦礫の撤去に苦戦していると聞いた場所へ赴き、あの子の力をいかんなく発揮させ、人の手では幾日もかかる作業を数時間ほどで終わらせる事が出来た。

 日が暮れ始め、保管場所へとこの子を移動させる道中、ショウトの人達から感謝の声と手が振られた。

 わたくし一人の力では決して無いのですが『この子の為にも応えて差しあげては?』とタミルの一言もあり、軽く手を振り返す。飛び跳ねて喜ぶ子供たちの姿を見つけてしまうと、自然と微笑んでしまうのは仕方のないこと。

 

 

 無事にお仕事をこなし、用意されている宿舎へ。本日の一連の出来事に対し、特別手当としてシャワーを浴びさせてもらえた事は、この上ない喜びであった。

 部屋へと戻り、ベッドへ腰を掛けていると、扉からノックの音が聞こえ、返事をする。

 開かれた扉の先にはタミルがおり、手にはボトルとグラス。そして可愛らしいケーキがのせられたお皿を手にしている。

 急いで備え付けられていた机を用意し、そこへ下ろされる品々。

 

「助かりましたわ、エンマ」

「タミル、これはつまり……?」

「ええ、こうして会えた時にお祝いをしようと思い、準備をしておりましたの」

 

 机に並べられた飲み物と小さなケーキを見つめると思い出す。タミルと学校で過ごした日々の事を。今と同じ様にわたくしの為に準備をして、お祝いをしてくれたことを。

 タミルがロウソクを一本立て、火をつける。部屋の電気は消され、揺らめくロウソクの小さな灯が、この部屋の光源となる。

 

「エンマ、お誕生日おめでとう」

「ありがとう、タミル。またこの様にお祝いをして頂けるなんて思いもよりませんでしたわ」

「お互いになかなか時間が合いませんでしたからね。さあ、思う存分消してくださいまし」

「そんなに大袈裟なほど、息を吹きかけなくても消せますわよ」

 

 身体を乗り出し、ふっと息を吹きかける。小さな灯が消え、タミルの拍手とお祝いの声が響く暗い部屋。

 それも次第に目が慣れて、お互いの顔が視認出来る程になる。窓から月明りが流れ込み、それが尚のこと、学生時代を思い出させる。

 

「ふふっ、コトブキの様な盛大なお祝いの仕方は、私には出来ませんが、私達だけが知っている祝い方もある。という事でお許し下さいね」

「許すも何も、感謝しかありませんわ」

「その言葉が聞けて何よりですわ」

 

 タミルは自分が持ち込んだボトルを開け、赤い液体をグラスへ注いでいく。

 

「もしかしてこちらも?」

「ええ、学生だった時と同じ物を用意致しましたわ」

「コソコソと隠れて飲む理由も無くなってしまったというのに」

「何事も、雰囲気は大事ですもの」

 

『さあ』タミルからの一言で、液体が注がれたグラスを手に取る。

 お互いにグラスを机の中央で掲げ『乾杯』と一言。

 口元に寄せ、香りを楽しみ、一口喉を鳴らす。思い出の味が私の心を穏やかにしてくれる。

 グラスに映り込むのは、大きな天満月。揺らす事で形を変え、笑みが浮かぶ。

 そんな私を見つめていたタミルから小さな笑い声。つられてわたくしも笑い出す。

 

 お互いに学生であったあの日の頃に、少しだけ戻れた月夜の出来事。

 そして、あの日から変わらぬ友情に、感謝を。

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