荒野の空、イジツの片隅、ユーハングの情景   作:星1頭ドードー

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九七式から隼へ 前編

 空の駅、サポでザラの手を掴んでから月日が流れる。

 私達は正規の用心棒として仕事をこなせるようにアレシマ航空運輸局に届け出を提出し、その際に隊の結成も行った。

 名前は『コトブキ飛行隊』私が搭乗している九七式戦闘機に搭載されている発動機から由来する。ユーハング語で良い事の塊みたいな言葉だとザラが教えてくれた。

 その話を聞いて以来、ずっと頭の隅に残り続けていた言葉をようやく形にする事が出来た。

 

「これで私達も飛行隊として活動出来るのね」

「ああ、とは言っても今は二人だけ。依然として受けられる仕事は限られているけどね」

「それだって良いじゃない。今まで通り荷物運びでも、他の飛行隊と共同作業であっても、私達の居場所が出来た事がとても嬉しいわ」

「そうだな、これでようやくスタートラインに立てた気がするよ」

 

 ザラの言葉に同意する。届け出を提出した事により個人間のやりとりで終わる小規模の仕事から、企業から依頼届けが提出された仕事を紹介してもらい、請け負う事が出来る様になった。

 とはいえ受理されたばかりの飛行隊に仕事を与えてくれる企業なんて存在する訳もなく、当面は今まで通り自分達に出来る仕事を請け負い、一歩ずつ積み重ねて信用を得るしかない。

 先の事を考えていると私の額にザラの指先が触れる。

 

「もう! 眉間に皺が寄っているわよ?」

「すまない、考え事をしていた」

「その考え事を言葉にしてくれればいくらでも相談に乗るのに」

「あ、いや……そうだな、配慮が足らなかった。すまない」

 

 私の謝罪におかしな部分でもあったのだろうか、ザラは困り顔をしながらも私の手を取り歩き始めた。

 

「ザラ? 一体どこへ?」

「隊の設立を記念して一杯! の前に買い物に行きましょ!」

「買い物? 何か必要な物があったのか?」

「ええ、とっても大切な物よ。隊としての初仕事と言ってもいいぐらい!」

「それは重要だな。何を購入するつもりなんだ?」

「私達『コトブキ飛行隊』を象徴する色を決めて、身に付ける物を見つけに!」

 

 

 それから幾つものお店を歩き回った。普段から身に付ける物であれば、邪魔にならず、実用的な物を。

 そうザラに提案をしてみれば『レオナらしい』とだけ返される。少しだけムっとなりザラなら何を選ぶのだとオウム返しの様に聞いてしまう。

 

「肌に触れても平気な物がいいわ」

「私と大して変わらないじゃないか?」

「そうね。でも大切なところはそこじゃないの」

「そこじゃない? それはどういう事だ?」

「レオナが自己完結で終わらせずきちんと私に問い返してくれた事。それとさっきのお返しよ」

 

 ザラは目元にあるホクロに合わせるように指を立て、こちらに向けてウインクをする。彼女からすれば少し幼さを感じる行為であるが、不思議と嫌な気持ちは抱かない。

 

「ふふっ、まずは私だけでもいいから自分の気持ちや考えを伝える事から始めなくちゃ」

「な、なるべく意識してみるように心掛ける」

「頑張って、隊長さん。私は何時でもレオナの隣にいるから」

 

 微笑みながら自分の想いを私に伝えてくれるザラ。一人から二人へと変化した事による影響が、想像以上に大きい事だったのを改めて知る。

 だが、こうしてザラが私に機会を与えてくれているのだ。彼女の期待に応える為にもまずは一歩踏み出さなければ。

 

「隊の色については目星がついているんだ」

「あら、どんな色なのかしら?」

「空の色、青に似た色が良いなと考えている」

「青に似た色? 青そのものではないの?」

「ああ、一度無茶をしてどこまで高く飛べるのか試した事があるんだ。その時に見た空の色が忘れられなくて」

「本当に一度だけかしら?」

「……もしかしたら二度かもしれない」

「なら三度目もあるわ。今度は私も一緒に連れて行ってもらうんだから」

「そうだな、ザラにも是非見てもらいたい光景だよ」

 

 あの大空へ高く自由に飛ぶだけの機会を作り、ザラと空の色を共有したい。そんな想いが私の中で湧いてくる。

 

「今すぐにとはいかないけど、それに近い色の物を探してみるよ」

「楽しみだわ。空へ連れて行ってくれる事も、隊の色を見つけ出してくれる事も」

「ザラの期待に応えてみせるように頑張るよ」

 

 手のひらを何度か開いては閉じ、私たちはコトブキ飛行隊としての初任務を遂行する為、アレシマの街中を再び歩き始めた。

 

 

 あれから幾つもの仕事を請け負い、成功や失敗も含めながらザラと共に未来へと進む。

 一人から二人、一機から二機へと変化した九七式戦闘機の主翼と胴体には、コトブキ飛行隊を表すチームマークを。尾翼には個人を表すパーソナルマークが塗装されている。

 そして胸元に隊の色を現した濃い青色の布をリボンに見立てて巻き付けている。

 

『夕日を背にしたプロペラのマークに、濃い空の色だなんて。レオナってば本当に空が好きなのね。一緒に見せてもらったあの空はとても深く感じて本当に素敵だったわ』

 

 あの空を今度はザラと共に見に行く事が出来た。再び見たあの空の出来事をそう伝えてくれるザラの言葉を聞いていると、私の心にまでこみ上げてくるものがある。

 誰かと想いを共有出来るという事は、とても幸せだ。

 だが、その幸せに浸かり続ける事は出来ず、現実は唐突に問題を抱えてやってくる。

 帰り道の最中、その問題となってしまった九七式を操縦しながらザラと解決方法を探る事に。

 

「参ったな。隊の人数に問題がある事は認識していたが、機体に関しても仕事に支障を来たす事になるとは」

『お仕事を着実にこなして依頼主からご指名まで頂ける様になったけれど、運べる荷物の量と火力不足がここに来て問題になるとはね』

 

 ザラの言う通り、有難い事にコトブキ飛行隊を指名してくれる依頼主が現れ始めた頃、私達は幾つかの問題と直面する事になる。

 一つ、搭載量。依頼を受けて荷物を配達する際に九七式では運べる量が限られてしまう。

 なら人数で補うべきか? 余程重要な品物でもない限り人数が増えればそれだけ費用がかかってしまう。ましては現状では助っ人頼みとなり赤字確定である。

 二つ、火力不足。荷物の配達をしていると時折襲い掛かってくる空賊が現れる。

 こちら側からすれば無理に相手を撃墜する理由も無く追い払うだけで済むのだが、装甲の厚い機体や自動消火装置を搭載している機体と出会すとこの上ないほど厄介である。

 結果として消費される弾薬と燃料に心身の疲労も加えてしまえれば、九七式に搭載されている八九式固定機関銃二挺では火力不足は否めない。

 

「今後の事も考えると機体の乗り換えも視野に入れておかなければならないな」

『あら、それじゃ今夜は作戦会議をしなくちゃ。道中で機体のカタログを貰っていきましょ』

「手持ちに限りがあるから何でもとは言えないけどね」

『それでも妥協しちゃダメよ。こういうのは直感と想像が大切なんだから』

「直感は分かるが想像はどういう事だ?」

『私達二人だけじゃなくなって編隊を組める様になった時の姿を想像しましょ。各機バラバラでも個性があって良いと思うけど、折角飛行隊を名乗っているのだから機体も統一されていた方が格好いいじゃない』

 

 同意を得るかのように九七式の翼を振り、こちらに問いかけてくるザラは何時だって私を導いてくれる。

 

「そうだな、そこの部分も含めて検討するとしよう」

『明日は久しぶりのお休みだから目一杯買い出しをして遅くまで喋りましょ! そうすればきっと良い案も浮かぶわ!』

「寝過ごしてホームへ向かうのが遅くならない程度にな」

『分かってるわよー』

 

 楽しげな声と共に空高く舞い上がっていくザラの機体。それを追いかけるように私も操縦桿を引き上空へ。

 私の操縦に素直に応えてくれる九七式戦闘機。何年乗り続けて来ただろう? 思えば空に上がる時は必ず九七式と共にいた。

 愛着は言うまでもなく。それでも先へ進む為には置いていかなければならないのだろうか? 

 心にモヤモヤとしたものを抱えながら、私たちは帰路につく。

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