荒野の空、イジツの片隅、ユーハングの情景   作:星1頭ドードー

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チカと誕生日と伝えたいこと(加筆)

 誕生日ってさ、不思議だよね。

 自分がこの世界に生まれてきた事を祝う日なんて誰が考えたんだろ? 

 孤児として育った私には、一生経験する事が無く分からないままで終わるんだろうなって思ってた時期もあった。

 でも私は運よく一人ぼっちで生きていく事だけは避けられた。

 私と同じ境遇の子達がキマノの廃墟に集まり、チト兄をリーダーにして共存生活を送る事ができた。

 

 その際にチト兄は、集まった子達の誕生日には必ずお祝い会を開いてくれた。

 誕生日が分からない子には、自分達と出会った日を誕生日にしてくれた。

 食料不足による問題でお祝いをする子に特別なご飯を用意することが出来なかった日もあったけど、そんな時はみんなで相談して自分たちの食事を減らし、お祝いする子に自分たちの食事を分け与えたり。

 誰が唄い出したのかも分からないお祝いの歌にのせて誕生日を祝い、一晩中騒いでいた時もあったっけ。

 

 

「懐かしいなぁ」

「珍しいわね、チカが大人しく一人で第二羽衣丸にいるだなんて」

「大人しくは余計だよ、リリコさん!」

「ごめんなさいね、いつもならキリエぐらいしか残らないものだったから」

 

 お詫びも兼ねてなのか飲み物のおかわりを運んできてくれたリリコさん。

 私がいる場所は、第二羽衣丸内部にあるジョニーの酒場。

 マダムからもらった休暇を私以外の隊員はみんな外出に割り当てたみたい。あのキリエでさえどこかへ出掛けていった! 

 今日に限って私は、出掛ける理由が見当たらなくてジョニーの酒場で本を読んでいた。

 自室でもよかったんだけど、不意に心の内側から寂しさが湧いて、本を持ち歩きながら第二羽衣丸を歩き回っていた。

 その時に丁度、酒場で掃除に励んでいたリリコさんを見つけたんだ。

 

「チカは一人で何を物思いにふけていたのかしら?」

「まだストリートチルドレンだった頃の自分を思い出していただけだよ」

「それって私が聞いても大丈夫な話なのかしら?」

「リリコさんなら全然平気だよ! あ、でもキリエには内緒にしてよね!」

「分かったわ」

 

 気が付けば、私と同じテーブルにある席に腰掛けているリリコさん。

 一言返事で素っ気ないんだけれど、物腰が柔らかく私を見つめて微笑んでいる。

 

「それで、チカは何を考えていたのかしら?」

「昔してもらった誕生会の事を思い出していたんだよ」

「誕生会? ああ、直近でチカとケイトの誕生日があるものね」

「そっそ! みんなにお祝いしてもらうのは超嬉しいし! お祝いするのもめっちゃ楽しい!」

 

 コトブキに加入してからも、レオナが隊員の誕生日をお祝いしてくれると知った時、凄く嬉しかった! チト兄と同じ考えをする人がいるんだって! 

 

「今回はラハマにあるお店ではなくて、第二羽衣丸でチカの誕生会を開くのよね? そこへ私の作るカレーを提供してもいいのかしら? いつでも食べれる物よ?」

「いつでも食べた瞬間、幸せになれるリリコさんのカレーが誕生日でも食べられるんだよ! 私、すっごい楽しみにしてるんだから!」

「そこまで言ってもらえるなら、気合を入れて作らなければならないわね」

 

 考え込む様な仕草をし、カレーに使用する食材や煮込む時間などを計算し始めるリリコさん。

 これは特別と言っても過言ではないカレーを用意してくれるのでは!? 想像をしただけでも自分の誕生日が楽しみになってくる! 

 

「不思議だよね! みんなが私を祝ってくれる為に行動してくれているのが、すっごく嬉しい!」

「大切な仲間ですもの、きっとキリエがいないのもチカへのプレゼントを探しに出掛けたのかもしれないわ」

「キリエが!? そうだと嬉し……いや! 変なの渡してきたら怒るよ!」

「二人とも素直じゃないわね」

 

 クスクスと笑い始めるリリコさん。

 湧き立つ羞恥心を紛らわせる為に、用意してもらった飲み物を一気飲みして誤魔化そうとする。

 空になった樽ジョッキをテーブルに乱暴に置き、盛大に深呼吸をする。

 リリコさんは私へのおかわりを用意する為に席を立ち、空になった樽ジョッキを持ち上げてカウンター内部へ。

 私も後ろを付いていきカウンターで中身たっぷりの樽ジョッキを受け取り、再び一口。

 

「落ち着いた?」

「なんとか。もう! リリコさんが変な事を言うから!」

「そういう信頼関係も良いと思っただけよ、悪気はないわ」

「……まぁ、そういう事にしといてあげる!」

 

 横を向きながら素っ気なく返事をする私に、リリコさんが優しく頭を撫でてくれる。

 こういうところは卑怯だなーと感じつつも、リリコさんの柔らかな手にそっと頭を委ねてしまう。

 誰かに頭を撫でられるという行為は好きだ。チト兄が私を褒めてくれる時もこうやって頭を撫でてくれていた影響だと思う。

 子供扱いする為に撫でてくるのは論外だけどね! 

 

 

 カウンターに寄りかかりながら私の思い出話に相槌を打つリリコさん。

 そのおかげで気持ちに整理が出来るんだけど、いまいち分からない事も浮上してくる。

 

「でも未だに分からない事があるんだよね」

「分からないこと?」

「さっき説明したチト兄はさ、自分の誕生日の時は遠慮していたのか分かんないけど、私達が自主的に動き出さないと何事も無い様に振る舞ってその日を終わらせちゃおうとするんだよ!」

 

 あれだけみんなの誕生日は忘れず、出来る限りのことはしてくれるのに、自分の誕生日だけは無関心といってもよいほど。

 みんなで怒ってみても、謝りながら微笑んでいるチト兄の姿が思い浮かぶ。あれは一体なんだったんだろう? 

 

「リリコさんはチト兄がそうしていた理由って分かる?」

「そうね、チカから又聞きでしかないから私の想像でしかないけど、分かる気がするわ」

「なんで!? 私なんてずっと傍にいたのに全然分からなかったよ!?」

「近くにいればいるほど、逆に気が付かないものなのかもしれないわね」

 

 カウンターへ両肘を立て、両手で顔を包む様にしながら私を見つめるリリコさん。

 チト兄とは会った事のないリリコさんでも分かるのに、ずっと近くにいた私が分からないってどういう事なんだろう? 

 

「リリコさん! チト兄の行動について分かることがあれば教えて!」

「ダメよ、私のはあくまで想像だから。きっとチト兄もチカ自身に答えを見つけ出して欲しいと思っているわよ」

 

 んがぁーっ!! そんな事を言われても全然分かんないんだけど!! 

 頭を抱えて天井を見上げてみても答えは降ってこない。

 一旦、思い出を整理してみることにした。

 

 

 チト兄は誰かの誕生日の時は必ずお祝いをしてくれた。

 けど、自分の誕生日は自ら動き出そうとはせずに、私達が無理矢理にでも誕生会を開かないと一日が終わってしまいそうなほどだった。

 私がチト兄の傍にいて、知る限りでは最後までそうだったなぁ。

 

「何か思いつくことはあったかしら?」

「ぜーんぜん。昔の記憶を片っ端から引っ張り出してみたけど分かんないや」

「ならきっと、チト兄からチカに対しての宿題なんでしょうね」

「宿題は嫌だぁぁぁ!! リリコさん! 一つだけでいいからヒント頂戴! おねがい!!」

「ヒント……ねぇ」

 

 私から視線を外して考え込むリリコさん。

 お願いします! いくら悩んでも私の頭じゃ思い浮かばなくて、このままだと一生チト兄からの宿題が解けそうにないから! 

 両手を合わせてお願い事をする様にリリコさんを拝む。

 

「チカは誕生日って言葉に固執しすぎているのかもしれないわね」

「誕生日の話なのに?」

「そ、もちろん誕生日だって大切な日であることに間違いはないのでしょうけどね」

「……ヒントってそれだけ?」

「それだけ」

「余計に分かんなくなったよぉ!!」

 

 リリコさんから与えられたヒントに、つい頭を抱え考え込んでしまう。

 チト兄は私に何を伝えたかったのだろう? こんなに遠回しにしてまで伝えたいことって? 

 頭から湯気が立ちそうなほど、頭を回転させてみても分からものは分からない! きちんと言葉にしてくれなきゃ相手には伝わらないよ! チト兄! 

 そんな私を見ていたリリコさんは、不意に私の頬を両手で優しく包み、視線を合わせてくる。

 

「一生懸命考えているチカにもう一つだけヒントをあげるわ。チト兄が伝えたかった事は既にチカは受け取っていて、チカはそれをきちんと実行出来ているわ」

「リリコさん! 私に教える気まったくないよね!?」

 

 私の抗議もなんのその。

 リリコさんは私に顔を近づけ、おでこをくっつけてくる。

 額と掌の両方から伝わる温もりがとても心地良く、考えごとも忘れてつい目を閉じ、そちらへ意識を集中してしまう。

 その時、リリコさんから発せられた言葉が耳から離れない。

 

「チカがチカらしく生きてくれたなら、それがチト兄の伝えたいことであり、願いなのかもね」

 

 

 らしくない、自分でもそう思う。

 誰かに助言できるほど自分が出来た人間ではないと理解しつつも、チカの悩む姿を見ていたら一言伝えたくなるのだから不思議ね。

 オウニ商会で働く様になって、レオナやザラ以外のコトブキ飛行隊の隊員と関わり合いを持つようになったからかしら? 

 誰かさんに馬鹿甘いと発言した事があるけれど、人の事を言えなくなってきたと実感する。

 

「あ! そうだ! ケイトの誕生日に渡すプレゼントを用意してなかった!!」

 

 先程の私の言葉を聞いて以来、自分の事で悩んでいたのにも関わらず、一転して同じ飛行隊の隊員であるケイトの誕生日プレゼントについて声を上げるチカ。

 

「ちょっと出掛けて来る! リリコさん! 話し相手になってくれてありがとね!」

「どう致しまして、気を付けて行ってくるのよ?」

「分かってるって! いってきまーす!」

「いってらっしゃい」

 

 お互いに手を振り、酒場を出ていくチカの姿を見送る。

 嵐が過ぎ去った後の様に静まり返る酒場には、残された一抹の寂しさ。

 日頃からチカがどれだけ周囲に元気を分け与えてくれているのかよく分かる。

 そんな彼女の為に、少し手間をかけたカレーを作ろう。

 あの天真爛漫な笑顔を魅せてくれるのなら、これぐらい容易い事だ。

 両手を上に伸ばして背筋を整え、酒場の主が戻ってくる前に準備を整えようと動き始めたその時、再びこちらへ駆け足でやってくる足音が聞こえる。

 開かれる酒場の扉と先程までいたチカの姿が再び私の前に現れる、何か忘れ物でもしたのかしら? 

 

「リリコさんに伝えたい事があったのを忘れてた!」

「私に伝えたい事? お礼ならさっき頂いたわよ?」

「それとは別! 町へ向かおうとした際に思い出して急いで戻ってきたんだ!」

「それは大変ね、それで私に伝えたい事って何かしら?」

「リリコさんが手首に付けてるシュシュが可愛いなって! 私のお祝いをしてくれたみんなにお礼としてあげるのはどうかな?」

 

 キラキラとした瞳でこちらを見つめ、そう提案してくるチカに対して、私は自分の手首に身に付けているシュシュを見つめて思う。

 

「どこにでもある普通の物よ?」

「でもリリコさんが身に付けているとすっごく可愛く見えるよ?」

「褒めてくれるのは嬉しいけれど、反応に困るわ」

「なんで? 可愛いのにー」

 

 その言葉を素直に受け止められない私の事など露知らず。

 

「それで、みんなにお礼として渡すのってどうかな?」

「日頃から身に付ける物を渡すのは大変じゃないかしら? 特に飛行隊として働いていれば尚更よ」

「やっぱりダメかぁー」

 

 既にコトブキ飛行隊は、お揃いの青い布地を各々と身に付けているのだから、それ以上は厳しいと思う。

 

「チカ、相手にお礼をしたい時は言葉だけでも十分な時もあるわ」

「でもでも! それだけじゃ私のお祝いをしてくれた事が嬉しすぎて返しきれないよ!」

「なら、こういうのはどうかしら?」

 

 カウンターから出て、チカを手招きで呼び寄せる。

 素直にこちらへとやってくるチカに向けて両手を伸ばし、こちらへと抱き寄せる。

 私の腕の中で慌てる様子のチカが、とても可愛らしいと思いながら。

 

「り、リリコさん! 突然どうしたの!?」

「ユーハングでは、こうして相手に感謝を伝える事もあるみたいよ。どう? 伝わったかしら?」

 

 私の腕の中で慌てていたチカが徐々に大人しくなり、最後は素直に首を縦に振る。

 チカの吐息が身体に当り、こそばゆく感じる。

 少しだけ名残惜しいという感情に自分でも驚きつつも、そっとチカを身体から引き離す。

 

「言葉や物以外でも自分の想いを伝える方法はあるわ。こういった方法では駄目かしら?」

「全然ダメじゃない! むしろこの方がいいかも!」

「チカが納得してくれてよかったわ。さ、ケイトのプレゼントを選びに行ってきなさい」

「ありがと! リリコさん! 今度は私からしてあげるね!」

 

 再び私に背を向けて勢いよく酒場を飛び出していくチカ。

 その後ろ姿を見つめながら腰に手を当て、吐息を一つ漏らす。

 

 生き方を言葉で例えるのは難しいわね、ただでさえイジツは未だに荒事ばかりなのだから。

 それでも、あれだけキラキラと太陽の様に輝く子を見つめてしまったら、目が離せなくのと同時に、自分の考えを押し付けてしまわないか不安になる。

 チト兄は凄いわね、チカから輝きを失わせずに育て上げたのだから。

 出会った事もない人物に感謝をしつつ、私はカレーの下拵えをする前に掃除を終わらせる為、モップへ手を伸ばす。

 

 まずは酒場をチカに負けないぐらい綺麗に磨き上げよう。

 そして、誕生日の当日は、酒場を煌びやかに飾り付けをするのも良いかもしれない。

 考えながら清掃作業を再開していると、不意に口から言葉が漏れる。

 

「誕生日おめでとう、チカ」

 

 らしくない、けれど一日ぐらいこういう日もあってもいいかもしれない。

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