荒野の空、イジツの片隅、ユーハングの情景   作:星1頭ドードー

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ケイトにカメラと思い出を

 ケイトの手元にあるのは、一台のカメラ。

 これは写真を撮影する為の機材であり、新聞を発行している報道関係者の多くが利用している。

 その事から専門職である者が扱う道具ともいえる物である。

 事前説明も無しに突如としてアレンから手渡され『ケイトの日常を撮影してきて欲しい』と言われたが、使用方法が分からないままであった。

 それをケイトなりにこのカメラについて調べ上げ、試し撮りを行う事にした。

 

 まずは沈胴式レンズを引き延ばし、回転をさせてロックをする。

 そうする事により、撮影した際に写真がボヤけてしまうのを防ぐ為とされている。

 カメラ上部に取り付けられた回転ノブを操作する事でフィルムを巻いていく。

 その際に聞こえてくるカチッという音がとても心地よい。

 シャッタースピードを操作して好みの数字に矢印を割り当てた後、レンズの絞りを調節していくのだが、手に納まる道具としては操作が複雑で工作機械のようにもケイトは思えてしまう。

 再び回転ノブを操作し、数字をゼロの位置まで戻す作業を行い、左上に備え付けられた窓から撮影対象を覗き込む様に構える。

 そのままでは撮影対象が二重の状態で見えるので、それを重なり合う様に調節する為、レンズ箇所に備え付けられている距離計を操作する。

 あとはシャッターボタンを押すだけで撮影が完了する。

 

 ここまでの操作を行い、ようやく一枚の写真が撮影出来るのだ。

 この先にも、フィルムを現像する為の工程があるのだが、今回は撮影にだけ集中する為に詳細は省く。

 カメラが報道関係者ぐらいにしか普及していない理由も良く分かる。

 

「ねーねーケイト、何を撮影したの?」

「キリエが大口を開けてパンケーキを頬張る瞬間」

 

 チカの質問に答えるケイトの言葉を聞いて、キリエが盛大に咽る。

 レオナとザラがいない事と、珍しく対面で座っていたせいもあり、キリエの正面の位置で座っていたエンマの顔には、キリエの食べかけパンケーキが盛大に降りかかる。

 それを拭い去ろうともせず、握り拳を作り怒りを露わにするエンマへの恐ろしさと、その怒りの矛先であるキリエに対しては、心の中で謝罪をする。

 

「キリエぇ! 貴女という人は!!」

「ゴメンってエンマ! 元はと言えばケイトが!」

「ケイトは貴女の姿を撮影しただけでしょうに!」

「撮影しただけって!? 人がパンケーキを食べようとしている瞬間を撮られたんだよ!?」

「日頃からあれだけ口を広げて食事をしているキリエにも非はありますわ! 良い機会ですから徹底的に食事のマナーを叩き込んで差し上げますわよ!!」

「食べた気もしない食事方法なんてヤダよーっ! 好きな物は好きな様に食べるのが一番幸せなんだ!」

 

 一枚だけ残されていたパンケーキを口に咥え、席を立ちこの場から逃げ出し始めたキリエ。

 キリエの意見に同意であるが、随分と器用な真似をする。

 その様な状態でどうやってパンケーキを味わうのか、ケイトとしてはそちらに興味が湧く。

 

「待ちなさい! キリエ!!」

 

 エンマも即座に反応し、キリエの背中を追う様にして酒場から出て行く。

 

「ああなったエンマは止められそうにないよね」

「峻烈可憐の二つ名は伊達ではない」

 

 二人の様子が可笑しかったのか、チカはお腹を抱えながら笑っている。

 その姿も写真に収めておこうと思い、手短にカメラの操作を行い、撮影を行う。

 

「あーっ! ケイトってば私まで撮った!」

「チカが楽し気に笑っていたので、趣旨に合わせて撮影をする事にした」

「趣旨って確かケイトの日常を撮影してくるっていうのが目的なんだっけ?」

「そう。アレンからカメラを手渡され、マダムからは既に撮影の許可を得ている」

「相変わらず何を考えているのかよく分かんないよね、アレンって」

「同意」

 

 どこから手に入れたのかも分からないカメラを突然渡されて、ケイトの日常を撮影してきて欲しいと言われても、正直なところケイト自身も日常というものが良く分かっていない。

 それにマダムから第二羽衣丸内部での撮影許可が下りるとは思わなかった。

 第二羽衣丸は新造されたばかりの飛行船である。

 先代の時よりも最適化された箇所も多々あり、流石にそういった特定区画での撮影は禁止であるが、コトブキ飛行隊が立ち入る事が出来る場所であれば基本的に大丈夫であるという。

 

 残されたフィルムの枚数を確認するが、まだ終わりは見えそうにないのが現状だ。

 次回の羽衣丸出航までにフィルムの枚数をゼロにし、アレンにカメラを返却するのがケイトの宿題だとも言われている。

 この宿題を早々に終わらせる為の唯一のヒントは『日常』

 ケイトにとって日常とは一体なんであろうか? 自問自答を繰り返しながら角ばっているカメラの部品を指先でそっと撫でる。

 

「何を撮影するのか悩んでいるなら羽衣丸の中でも散歩してきたら? そこで遭遇した人を片っ端から撮影するとか!」

「それはケイトの日常と呼べるものだろうか?」

「呼べるって! みんなと同じところで食事をして、寝泊まりしながら働いているんだよ? その生活を日常と呼ばないでなんて言うのさ?」

 

 さも当たり前の様に言い切るチカには恐れ入る。

 だが、その言い分は理に適う。

 尊敬の念を視線にのせてチカを見つめていると、照れたような仕草をし、テーブル越しのケイトの肩を力強く叩いてくる。

 チカにはケイトの考えている事などお見通しのようだ。

 正直なところ肩が痛いので止めて欲しいが、心の中で湧き立つ感情はとても素直である。

 

「あっ! ケイト笑ってるじゃん! 一枚撮らせてよ!」

「断固拒否する」

 

 

 酒場で一旦チカと別れ、ケイトは首からぶら下げたカメラを携帯し、第二羽衣丸を散策する。

 ラハマに停泊中という事もあり、日頃よりも人の数は少なめである。

 通り過ぎようとしていた娯楽室からは、一羽の鳴き声と一人の泣き声が聞こえてきた。

 出入口から顔だけそちらに向けて覗き込むと、見慣れた鳥と男性の姿がケイトの視線に写し出される。

 

「グアァーァアー」

「おっ、お疲れさん。一人とはまた珍しいじゃないか?」

 

 第一遭遇者は、第二羽衣丸でも船長を務めるドードー船長とサネアツ副船長である。

 どうやらドードー船長の毛づくろいを手伝っているようで、副船長は手にブラシを握りしめていた。

 

「グアッ!」

「いったぁ!? やります! やりますから脛を蹴らないで!」

 

 手が止まっていた副船長を注意するかのように一鳴きするドードー船長。

 再び動かされる副船長の手に持つブラシによるものか、気持ちよさそうな声を鳴らす。

 これもケイトの日常なのだろうか? 不安になりつつもカメラを構えて一枚撮らせてもらう事にした。

 

「ドードー船長、ケイトに視線を合わせて欲しい」

「グアァーッ!」

「あ、あの。俺には何か指示はないのでしょうか?」

「副船長はそのままドードー船長の手入れを」

「あ、はい」

 

 分かりやすく落ち込む副船長を尻目に、ドードー船長の翼は大きく広がる。

 自慢げに見せつけてくるその姿を一枚、なお広げた翼の影響で副船長の姿がごく僅かしか写らなかった。

 

「ドードー船長、感謝する」

「グアッ!」

「副船長も」

「え? 俺も?」

 

 その言葉に頷いて返す。

 こうして一枚ずつではあるが、ケイトの日常を撮影出来たのもここでドードー船長の手入れをしていた副船長のおかげであると、ケイトは思慮する。

 身体を振るわせ、手入れの為に座り込んでいた副船長は突然立ち上がり、自身の胸を強く叩き咽る。

 飽きれた様に視線を送るドードー船長を余所に、大変嬉しそうに喋り出す副船長。

 

「これでも副船長として船を預かる身だからね、何か困った事があれば直ぐに相談してくれたまえ!」

「用件は既に済んだ。第二羽衣丸が出航した際にまた世話になる」

 

 礼を伝えたつもりではあるのだが、副船長にはうまく伝わらなかったようであり、ふたたび膝から崩れ落ちて四つん這いの姿へと変わる。

 ケイトの言葉に一喜一憂する副船長をどうしたものかと思考を巡らせていると、ドードー船長が一鳴き。

『任せろ』という風にも聞こえた為、頷きその場を後にする事にした。

 その直後、後ろから再び鳴き声と泣き声が聞こえてきたが、用件は済んだので散策に戻る事にしよう。

 

 

 格納庫で煎餅を齧りついていたナツオ整備班長を一枚、アンナとマリアが休憩をしている姿を一枚、アディ、ベティ、シンディがハーヴィーで売られている新作のドリンクを片手に持つ姿を一枚。

 撮影をしていて感じた事は、一人一人が其々違った反応を示すという事。

 

 ナツオ整備班長であれば、魂が吸い取られると言い放ち拒絶反応を示す。

 反面、アンナとマリアは興味深そうにカメラを眺め、ケイトも含めた三人で撮影を試みようとした。

 アディ、ベティ、シンディであれば、自分達の事よりも新作のドリンクを手に入れた事を自慢そうに前へと突き出した姿が撮影されている。

 

 では、いまケイトの目の前にいる二人はどういった反応を示すのであろうか。

 正直なことを思えば、ケイトでも分かるぐらいシンプルでかつ明確な行動を示すのであろう。

 

「ケイトじゃないか、こんなところで何をしているんだ?」

「レオナ、ザラ、お帰り」

「ただいま~。あら、ケイトの首からぶら下がっている物って、もしかしてカメラかしら?」

「カメラ? 急にどうしたんだ?」

「アレンに手渡され、ケイトの日常を撮影するという宿題をこなす為に散策をしていた」

 

 レオナは額に手を当てて深い溜息、ザラは空笑いをしながら頬を掻く。

 そういった仕草を取りたくなる気持ちは、大変良く分かる。

 誰かに何かをさせようとするアレンは、何時だって突然言い出すのだから。

 

「ここで出会ったのも偶然ではないとケイトは推し測る。なので二人を撮影させて欲しい」

「アレンに負けじとケイトもずいぶんと押しが強くなってきたな……」

「いいじゃない、折角だから記念に撮影してもらいましょうよ」

「感謝する。出来れば可能な限り二人には寄り添って欲しい」

「それは本当にケイトにとっての日常なのか?」

「ケイトだけではないと明言させてもらう」

 

 ため息をつくレオナに対して、自然と腕を通して寄り添うザラは笑顔だ。

 ケイトには分からない感情であるが、二人が一緒に居る事で安心や幸福が得られるのならば、それで十分ではないかと最近は思う事にした。

 問題はザラからの愛情表現に対してまったく気が付かないレオナである。

 だが、撮影をする為にカメラの窓から見つめた二人は、取材で撮影された時の様な凛々しい姿は一切見せず、自然体で微笑みをケイトに向けてくれる。

 二人がその姿をケイトに見せてくれた瞬間、ケイトはコトブキ飛行隊に入隊して良かったと思わさせる程であった。

 

 

 レオナとザラに感謝を述べて別れた後、フィルムの残りの枚数を確認するが、ようやく半分を切るかどうかといった状態である。

 数字として現実を見せつけられると、ケイトの日常が如何に狭い範囲で過ごしているという事を思い知らされる。

 その様な事を思考していると、不意に後ろから声をかけられる。

 

「あら、ケイト。こちらで何か撮影をされていたので?」

「エンマ、先程までレオナとザラを撮影していたが、そちらはキリエを捕まえる事は出来たのか?」

「全くもって腹立たしいのですけど、街中に逃げられてしまいましたのよ。流石にあのままの姿では追う事が出来ず、今しがたシャワーを浴びてきたところですわ」

 

 髪を下ろした状態のエンマは、毛先を指に絡ませてながら発言する。

 

「エンマ、是非その姿の状態を撮影したいとケイトは要望する」

「ケイト、わたくしは云わば素顔とも言える状態ですのよ? 恥ずかしくて撮影には応じられませんわ」

「そんなことはない、エンマはそのままでも十分綺麗だ」

 

 ケイトの発言に、エンマは一瞬驚きの表情を作るが、即座に呆れる様を見せつけて溜息を付く。

 

「貴女も随分と口が上手くなりましたわね」

「事実を伝えているだけである」

「そういうところを指摘しているのですよ?」

 

 上品に笑い出すエンマに対してケイトは返す言葉が浮かばない。

 何故なら事実を述べているだけなので、ケイトは嘘を付いている訳ではないからだ。

 

「でも褒めてくださった事には感謝致しますわ。そのお礼に一枚だけでしたらお付き合い致しますわよ?」

「感謝する、エンマ。先程の様に毛先を指で撫でている姿を撮影したい」

「はいはい。酒場でキリエを撮影してからそれほど時間が経過していないのに、撮影対象者に指示を送れる程の立派なカメラマンに成長していますこと」

 

 口では我儘を言うエンマであるが、こちらの要望をすんなりと聞き入れてくれる。

 細長く綺麗な金色の毛先を摘まみ、自身の前へと導き、愛おしそうに指先で愛でる。

 ケイトの要求以上の仕草を見せつけてくるエンマには脱帽である。

 それと同時にこれほど貴重な場面を見逃す手はない。

 手早く準備をして撮影をしようとした瞬間、エンマの指先から逃げ出した金色の髪が光に反射してキラキラと輝き放つ。

 カメラの窓越しからでも分かる、余りにも非現実的な光景で思わず息を飲む。

 ケイトの指が無意識にシャッターボタンを押してくれた事に感謝を覚える程であった。

 

 

 お嬢様状態のエンマと近くに居続けるのは危険とケイトは判断する。

 手短に礼を伝えて距離を置く。

 不審がられるだろうが、あの破壊力は凄まじいの一言である。

 しかしどうしたものか、残りのフィルムを第二羽衣丸内部で消化出来るとは到底思えず。

 日常といえば、日頃から搭乗している隼一型も対象になるだろうが、アレンの判定を考えると却下、或いは減点対象とされる可能性が高い。

 宿題の再延長はご免である。

 仕方ない、町へと向かい撮影対象に出来そうなものを探索してくるしかない。

 レオナに一言連絡を入れて、ラハマの街中へとケイトは向かう。

 

 見慣れた街並みを歩き、よく立ち寄る書店を一枚。

 キリエやチカとアイスを購入するお店を一枚。ついでに購入したアイスも。

 作業を淡々とこなす様にも見られがちだが、意外な事にケイトの心は静かに弾む。

 いつもは見慣れた景色も、この小さな窓枠の中に写し込み、カチッっと音を立てて撮影が完了すると新鮮に見えてくるのだから不思議だ。

 

「あれ? ケイトじゃん! ケイトも逃げ出してきたの?」

 

 アイスを口に含みながら声の主に身体を向けると、そこには同じくアイスを手にしながらこちらに向かってくるキリエの姿がある。

 

「もごもごもご」

「食べきってからでいいってばー」

 

 キリエの言葉に甘え、先にアイスを消化する。

 

「失礼した」

「はやっ!? 前から思ってたけどケイトってアイスを食べるの早すぎない!?」

「そんな事はない。キリエのパンケーキを食べる速度に比べれば」

「いあいあ、いくら私でもそこまで早く食べれない……って、そういえばあの後エンマと会った?」

「会った。特にキリエに対して怒りを抱いた様子は無かった」

 

 シレっと法螺を吹く。

 素直に腹立たしいと思っている事を伝えれば、いつ帰ってくるか分からなくなるからだ。

 

「よかったぁ。あんまりしつこいから羽衣丸の通気口に一旦身を隠して、隙を見つけて町に逃げてきちゃったんだよねぇ」

「パンケーキを咥えて逃亡したりと随分と器用な事をする」

「いやぁそんなに褒められても」

「褒めてはいない」

「デスヨネー」

 

 ケイトの言葉に項垂れながら返事をするキリエ。

 それもすぐに姿勢を元に戻し、会話は続く。

 

「アレンからの宿題は終わりそう?」

「半分と言ったところか」

「急に写真を撮れー! なんて言われても困るよねー」

「同意、だが皆の協力のおかげでここまで進んだ」

「あと半分かぁ、何かあるかな?」

 

 顎に手を当てて考え込むキリエ。

 撮影するのに良さそうな場面を思いつこうとしているみたいであるが。

 

「キリエはケイトの手伝いをしてくれるのか?」

「当たり前じゃん! 折角二人とも町へ逃げ出してきたんだし、それに二つの頭は一つに勝るだっけ? そう言ったのはケイトだよ?」

 

 逃げ出した部分については……意味は違えど似たようなものなので割合しよう。

 キリエもキリエで当たり前の様にケイトに協力をしてくれる。

 チカもそうだが、出会った当初とは随分と印象が変わったとケイトは感じ取る。

 

「そうだ! ケイトの好きなハンブルグサンドでも食べに行こうよ!」

「それは構わないが、何をするつもりなのか?」

「ケイトの好物であるハンブルグサンドを撮影するのもいいんじゃないかなって」

 

 食べ物を撮影するのはどうなのだろうかと返事をしようとする前に、アディ、ベティ、シンディの時を思い出す。

 彼女達は自分達よりも新作のドリンクを前面に出してきた。

 それはつまり、自分達の姿よりも流行品を手にした喜びを前面に出したかったからなのだろうか? 

 

「アディ、ベティ、シンディの撮影をした時、自分達よりも新作ドリンクを写して欲しそうにしていたのを思い出す」

「それそれ! きっとあの三人も美味しいと感じた物を共感して欲しかったり、こういうのもあるんだよってみんなと共有したいんだよ!」

「なるほど、その発想はケイトには浮かばなかった。流石、キリエ」

「いやぁーそれほどでも? それほどでもー!」

 

 キリエとチカ、共通点のある二人に是非伝えたい事がある。

 照れたからといって誤魔化す様にケイトの肩を力強く叩くのは止めて欲しい。

 

「いいなぁー私もカメラ欲しくなってきたかも! 各町の名物パンケーキを撮影してノートに貼り付けて一言書き! いいかも!」

「オウニ商会の社内広報に一枠作れそうである」

「それ、いいね! 今度マダムに相談してみよっかなー」

 

 一人盛り上がるキリエ、これが他の隊員であれば何が対象になるのだろうか。

 ケイトは言うまでもなくハンブルグサンドであるが、キリエはパンケーキ、チカならカレー、エンマは紅茶と茶菓子、ザラならやはりお酒であろう。

 レオナは……記事を見たせいで身体が緩んだ人向けにトレーニング術や機材の紹介を掲載しそうだ。

 

「ケイト! はやくはやく!」

 

 ケイトの勝手な想像を思い描いていたら、少し先でこちらに手招きをしながらその場で大きく足踏みをしているキリエの姿。

 案内無しでケイトオススメのお店まで辿り着けるのだろうか? いや、それは野暮というものか。

 これから味わうハンブルグサンドへの期待感と、二人して逃げ出してきたという罪悪感をスパイスに、高鳴る胸を押さえながらケイトはキリエの後を追うのであった。

 

 

 アレンにカメラを渡されて幾日。

 フィルムを使い切る事に成功したケイトは、アレンにカメラを返却する為に病院へと訪れる。

 

「予想以上に早くてびっくりしたよ、備え付けてあったフィルムだけじゃ足らなかったかな?」

「皆が協力してくれたからである。こういう事は事前に伝えて欲しい」

「そうしたらケイトは引き受けてくれた?」

「前向きに考える」

「うーん、遠回しな拒否をされてしまった」

 

 ケイトの返事などお見通しだろう、いつも通りの笑顔で笑うアレンの姿。

 

「アレンに質問がある」

「何故、ケイトに一風変わった宿題を任せたか。という事?」

「そう、理由を聞きたい」

「僕なりのケイトへの誕生日プレゼントかな」

「それなら既に言葉として受け取っている」

「まぁ、そうなんだけど。兄としてはプレゼントも用意してあげたいなって」

「それが宿題と、どう繋がっているのか?」

 

 カメラを触りながら微笑んだままのアレンは言葉を続ける。

 

「今回渡したカメラには、モノクロフィルムを入れておいたんだ。上手く現像して写真に出来れば、いつの日かケイトが歳を重ねた時に、写真が切っ掛けで彩鮮やかな記憶が呼び覚まされるかもしれない」

「来年の事を言えば鬼が笑う」

「確かに。でも迅雷ちゃんが言ってただろう? お婆ちゃんになっても飛ぶって。あの言葉にはコトブキ飛行隊、もちろんケイトも含まれているだろうね」

 

 キリエの性格からすれば、アレンの言う通りだ。

 ケイトも含めた六人でコトブキ飛行隊なのだから。

 

「ケイトは予定などをノートに書き留めているだろう? 紙に文字として記録しておく事も大切ではあるけど、ノートを他人に見せるような機会は滅多にないだろう?」

「他人に見せる様な物でもない」

「そうだね。誰かに見せても基本的には自分の事だけ書かれていて、他人からすればこんな事があったかな? ぐらいで終わってしまうだろうね」

 

 実際、ケイトのノートにはケイトの事ばかりが書かれている。

 コトブキ飛行隊としての活動についても書いてはあるが、スケジュールとしての面が大きい。

 

「でも写真なら撮影者と対象者が存在し、そこにいなかった人達が写真を見ても、写し出されている人物や風景といったもので会話を始める事が出来る」

「当人達の思い出だけでなく、当時の雰囲気も残せると?」

「正解。流石はケイト、よく分かってらっしゃる」

 

 自分の考えが伝わった事に喜びを表すアレン。

 お酒が注がれている容器の中身を飲み干して、気持ちよさそうに声を上げる。

 

「まぁ本当は自分でプレゼントを用意出来れば一番よかったんだろうけど、僕の足はこんな状態だからね。ケイトに内緒でプレゼントを用意する事さえ出来ない。ならプレゼントそのものをケイトに用意して貰えばいいかなってね」

「つまり、アレンの長い説明はそれらしい建前であり、ケイトはケイトの為にカメラを渡されて撮影をしていたという事か」

「んー何の事だろうー?」

 

 誤魔化そうとするアレンの頬を軽く摘まみながら引っ張るが、何事も無かったように笑い続ける。

 素直に感心をしていたケイトの心を返して欲しい。

 

「ごめんごめん。でもケイトを想っての事だから許して欲しいーなっ」

「許さない」

 

 もう片方の頬も同じ様にして摘まみ、アレンの口を封じる事に成功する。

 全くを持って酷い兄である。

 

 

 ようやく落ち着きを取り戻したケイト、両頬に赤みを帯びているアレン。

 たまには良い薬である。

 

「けどよかったよ。ケイトの話を聞いてみれば、一人で宿題を終わらせた訳ではなさそうだ」

「コトブキだけでなくオウニ商会の人達にも手伝ってもらった」

「うんうん。このフィルムには様々な人物や色々な物が写し出されているんだろうね。見るのが楽しみだ」

「それは恥ずかしい」

「そう感じられるのは、ケイトの世界が広がった証拠だね。僕とケイトの二人だけの世界から、コトブキや羽衣丸を通じてイジツに関わる様になれたんだ。ケイトの兄として誇らしいよ」

 

 ケイトの頭を優しく撫でるアレン。

 こういう時のアレンに反撃する方法をケイトはまだ見つけていない。

 

「きっと、この広い世界を僕よりも知る事が出来ると確信しているよ」

「なら、ケイトは知り得た知識をアレンに伝える役目を担う」

「それはどうもありがとう。でも自分の事も大切にするんだよ?」

「……分かった」

 

 頭に置かれていた手が離れ、寂しさを覚える一方、アレン以上に世界を知るという期待も圧し掛かる。

 それでもきっと、コトブキやオウニ商会の人達、ケイトが出会った人達と、アレンがいてくれるなら、可能だとケイトは信じる。

 ケイトの表情を見つめているアレンと視線を合わせ、頷く。

 いつでも微笑みを絶やさないアレンは、いつまでもケイトの目標だ。

 

「改めて、誕生日おめでとう。ケイト」

「ありがとう、アレン」

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