荒野の空、イジツの片隅、ユーハングの情景   作:星1頭ドードー

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アレシマで会いましょう

 ──アレシマ

 この町は、イサオ率いる騒動の後に、上手く立ち回る事で被害を最小限に抑える事が出来た町の一つであり、以前ほどではないが今も変わらず活気に溢れている。

 一部では、反イケスカ派の手によって建物に対して爆撃を受け、瓦礫の山となった場所もあるが、その様な場所にも露店を開き商売を行っている。

 幸いにして普段、私達が利用しているお店は、中央通りから外れにあったおかげか難を逃れている。

 そのお店で私はいつもの紅茶を注文し、待ち人が訪れるのを今か今かと待ちわびている。

 

「ロイグったら、私を待たせるだなんていい度胸してるじゃない」

 

 ここまで待たされるとは思いもよらなかったので、時間を潰せる様なものは所持していない。

 だが、美味しい紅茶を頂いている最中に、私の美しさに吸い寄せられて声をかけてくる殿方を追い払う事の繰り返しを行っていれば、嫌でも時間は経過していくもの。

 美しい私を見つけて声をかけたく気持ちは、とても良く分かるわ。

 けれど、声をかけてくださるだけならまだ軽い方で、中には勝手に相席をしようとする男や、酷いのになれば私の手を握ろうとさえする。

 いくら私でもその様な美しくない振る舞いをされて我慢が出来る訳がなく、少しだけ痛い目に合わせる事でさっさとお帰り願ったわ。

 彼等の誤算はただ一つ、美しい花にはトゲがある事を知らなかったという事ね。

 

 

「……もう帰ろうかしら」

 

 待てど待てどもロイグが来ない。

 そもそも宵っ張りな彼女が、待ち合わせの時間を日中に指定してきた時点でここへ来る事を期待するべきではなかった。

 あちらからの呼び出しだというのにこの対応。今度会った時になんて嫌味を言ってあげようかしら? 

 それとも既に、モアから散々叱られている可能性の方が高そうね。

 想像をしてみるだけでも簡単に浮かび上がる構図なのだから、おかしくて笑えてくるわ。

 

 気が付けば、その光景はアカツキでは日常ともなっている。

 あれだけ個人で自由に活動を行っていたというのに、あの騒動でここまで深い繋がりになるとはね。

 それでも不思議と嫌な気分にならない。

 仕事を終えればまた仕事の生活に、自分でも知らずに嫌気が差していたのかもしれないわ。

 

 カップに残された紅茶を口に付け、一息つく。

 例えそういう気持ちを抱いていたとしても、ロイグにだけは絶対に知られたくないわね。

 面倒という理由も付け加えれば、レンジにも。

 ……そうね、突然湧いたこの暇な時間を利用してアタルの様子でも見に行こうかしら。

 どんな様子だったかを、レンジに伝えてあげれば泣いて喜ぶでしょうね。

 レンジが怒り出す可能性? 堂々と姉と伝えて会いに行かないレンジが悪いのよ。

 

 本日の予定が決まり、私は注文書に金額を置いて店から立ち去ろうと思った矢先、視線に映る一人の女性に衝撃を受ける事になる。

 全体的にピンクを基準とした服装をした女性は、白いフリルを帽子の周囲にまで飾り付けている。

 それだけではない。視線を下ろせば、首元には真っ白なリボンを身に付けて、追い打ちをかける様に、首から下にもハートマークを象った装飾が施されている。

 トドメと言わんばかりに、スカートの裾に何層も重ねられている白いフリルの段々。

 

 あれは一体何なのよ!? 頭の中で理解に勤めようと思考を回転させ続けるが、まったく答えが出てこない。

 だが、一つだけ確定している事がある。

 彼女は、可愛いを重ねすぎた結果、可愛いの迷子になっているという事だ。

 横顔だけを見れば、相当な美女。

 なんて勿体ない。いくらでも手直しすれば、私ほどとは言わないけれど美しくなれる可能性を秘めているのに! 

 

 居ても立っても居られず、私は彼女に向けて声をかけていた。

 

「そこの貴女、随分と攻めた格好をしているじゃない?」

 

 声をかけた女性は、足を止めてしばし周囲を見渡した後、私がお店の席から手を振っている事に気が付き、こちらに近寄って来る。

 

「攻めた格好ってどういう意味かしら?」

「イジツでそんな可愛らしい格好をして外を出回るだなんて、余程自信があるとしか思えないわ」

 

 少し煽りを含めた言い方で伝えるが、私の目の前にいる女性は、目を輝かせながらこちらに顔を寄せてくる!? 

 

「分かりますか! この服装の良さが!?」

 

 彼女から予想外の食いつきにより、お互いの顔が至近距離といっても過言ではない程、近づく。

 私は、自然に両手を前に出し、彼女に落ち着く様にと仕草で伝えるが、効果はなさそうだ。

 様子を伺えば、服装について語りたいという態度がありありと映し出されている事もあり、こちらから声をかけた手前、話を伺う為に席へと案内をする事にした。

 

 

「他のみんなが! 私の私服を見ていつも微妙な顔をするのよ! こんなにも可愛らしい服を着ているというのに理解して貰えないのよ!」

 

 悔しそうに握り拳を作りテーブルを叩く彼女の姿。

 確かに可愛らしい姿だと思う、それは間違いないわ。

 改めて近くで服装を見つめてみるが……やはり過剰すぎるというのが、私の本音。

 私から見ても美しいと断言できる程の美貌を持ち得ているのに、何故こんなにもアンバランスなのかしら? 

 

「イジツでは、まだ少数派の服装である事は間違いないわ。周りが戸惑うのも仕方ないわ」

「でも……って自己紹介がまだだったわね。私はイヅルマでカナリア自警団に所属しているシノっていうの」

 

 シノからの丁寧な言葉遣いとは裏腹に、私はその言葉を聞いた瞬間、口を潤そうとしていた紅茶で思いっきり咽る。

 自警団!? それも最近よく名前を聞くカナリア自警団ですって!? 

 これで私が怪盗団アカツキのリガルだと伝えたら面倒な事が始まるのは、目に見えているじゃない!? 

 そんな私の考えを露知らず、シノは私の身を心配して背中を優しく撫で、口元を吹く為にハンカチまで貸し出してくれた。

 服装は行き過ぎていると思うが、普通であれば出会ったばかりの人間に対して直ぐに出来るような行動ではない。

 美貌だけでなく中身まで美しいだなんて、私とした事が嫉妬を覚えそうになるわ。

 

「突然、咽てしまってごめんなさいね。悪気はなかったのよ」

「無事なら良いのだけど……」

「自己紹介が遅くなったわね、私の事はリガリアンヌとでも呼んで頂戴」

 

 席から一度立ち上がり、スカートの裾を軽く摘まみ改めて挨拶を伝えると、シノから熱い視線が届くのを感じる。

 

「リガリアンヌって仕草一つ一つがとても優雅で素敵ね!」

「あら、ありがとう。家政婦として働いているからこれぐらい出来ないと仕事にならないのよ」

 

 実際は、金持ちの家に忍び込む為に覚えた技術なのだけれど、そんな事をシノは知るはずもなく、先程と変わらず尊敬の眼差しでこちらに視線を送る。

 悪い気はしない。なんせアカツキの面々は、私が日々どれだけ努力を重ねて潜入捜査を行っているのか興味の欠片も無さすぎる! 

 身内よりも敵対関係ともいえる相手の方が理解があるってどういう事かしら? 約束もすっぽかされるし、もう本日は彼女のお悩み相談にでものって過ごす事にしましょ。

 

「シノ、貴女の服装についてなんだけれど……」

「そういえばリガリアンヌも、シャツのラインや袖口、スカートの裾へ素敵なフリルを付けているわね! とても可愛らしいと思っているのだけど」

「分かるかしら! 何店舗もお店を周って、これに合う重ね着用の服を見つけるのに苦労したのよ!!」

「分かります!! 私も初めてこの服を見つけた時に衝撃が走り、購入した後も、もっともっと可愛く出来るんじゃないかと、服以外に小物にまで手を出してしまったわ!!」

「目の付け所が素晴らしいわ! 服だけに飽き足らず、ちょっとした装飾が更に自分を美しくしてくれる事に気が付くだなんて、貴女やるじゃない!」

 

 悲しいかな。どうやら私も服について語りたい欲求が溜まっていたようだ。

 思えば、ロイグは痴女で、モアは大人しめの配色が好み、ベッグは動きやすさと汚れを気にしない服装を、カランなんて白衣を着て医者だと分かればいいとか。

 レンジに関しては言うだけ無駄ね、ゴリラに服を着させても邪魔だと破かれるのがオチよ。

 お互いの熱が冷める事はなく、しばらくの間、口が閉じられる事がなかった。

 

 一通り喋り終え、再度注文をしておいた紅茶に口をつけて落ち着きを取り戻そうとする。

 

「勝手に注文しておいたけれど、口に合うかしら?」

「とても良い香りで心が落ち着くわ」

「それはよかったわ。私も語る相手がいなくて、ついシノに対して情熱をぶつけてしまったわ。余り美しい行為とは言えないわね」

「そんな事はないわよ? 私に向けて好きな事を語るリガリアンヌは、とても綺麗で生き生きとしていたわ」

「貴女は相手に対して本音を伝えてくるタイプなのね。でもありがとう、嬉しいわ」

 

 本音をぶつける相手であれば一体いるけれど、こうしてお互いに好きな物に関して語り合えるのはとても楽しいわ。

 でも私達は、怪盗団と自警団。この楽しい時間もこの場限りの出来事なんでしょうね。

 一抹の寂しさを感じて黙っていれば、シノが口を開く。

 

「あら! もうお昼を過ぎてるのね。楽しい時間はあっという間ね」

「シノは、アレシマに何か用事でもあったのかしら?」

「新作の服があると聞いてイヅルマから飛んできたのよ。でもそれはもういいの、楽しいお喋りが出来ただけで満足だわ」

「とはいえ折角ここまで来たのでしょう? 今からでも遅くはないわ、行ってみましょうよ」

「私の買い物に付き合ってくれるの?」

「勿論よ、ついでに私がシノの服装をコーディネイトしてあげるわ。今の貴女の服装は、可愛いが重ねられすぎて迷子を引き起こしているもの」

「ま、迷子って!?」

「例え好きな服装でもバランスを考えてあげない勿体ないわよ。シノは美しいのだから整えられた服装を着て堂々としていて欲しいわ」

「わ、私が美しいって!? そんな事を言われたのは始め……」

「ほら、行くわよ。私がコーディネイトするのだから覚悟しておく事ね!」

 

 二人分の支払いをテーブルに置き、席を立つ。

 そんな私の後ろを慌てながらも追いかけてくるシノの姿。

 最初は、どうなる事かと思ったけれど、まだまだ楽しい一日が続きそうね。

 

 

 ──イヅルマ自警団詰所

「あ、お帰りなさい! シノさ……ん?」

「何よ、アコ。言い留まるなんて私の服装が何かおかしいかしら?」

「い、いえ! 行きの時と違ってとてもシンプルになっていて驚いたのですが……とても可愛い服装ですね!」

「あら、ありがと。たまたまアレシマで出会った人に全体コーデをしてもらったのよ」

「そうだったんですか! 素敵な出会いがあったんですね! それにシノさんにはそのカチューシャが一番良く似合っていると思いますよ!」

「あの人にも言われたわ。私は少し可愛いに拘りすぎていたみたいで怒られたわ」

「(あれで少しだったんだ……)」

 

 ──怪盗団アカツキ アジト

「ぶははは!! おい、リガルの頭を見てみろよ!! ピンクのフリフリなんて身に付けてやがるぞ!!」

「おかしいのだ! リガルがピンクを身に付けているのだ!」

「……一体どうしたの? 頭に栄養剤でも打っておきましょうか?」

「(コイツらいつか絶対、痛い目に遭わせてあげるわ!!!)」

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