荒野の空、イジツの片隅、ユーハングの情景   作:星1頭ドードー

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其々の滑走路

「かーっ! 一仕事終えた後の一杯は、格別だぜ!」

「同意だ。今となっては、これが唯一の楽しみでもあるからな」

 

 仕事を終え、帰り道の途中にある空の駅までやってきた俺達は、早々にビールを口にして一杯始める。

 

「そんなしみったれた事を言うなよ、フェルナンド! 俺たちの夢は、まだ道すがらなんだぜ?」

「ナサリン飛行隊の再興か? 確かにまだ時間は、かかりそうだ」

「それは分からないぜ? 仕事自体は、前よりも増えてきている。どこかでチャンスを掴む事が出来れば、間借り組から卒業出来る可能性だってあるさ!」

 

 言葉を交わしている傍らで、フェルナンドの奴は、淡々とビールを口に運んでいきやがる。

 それでも、満足気な笑みと共に口を開く。

 

「しかし、そのチャンスとやらも、新規参入者が増え続けている今の現状では、見つかるものだろうか」

 

 俺は、フェルナンドの言いたい事を理解し、溜息を漏らす。

 確かに、仕事が増えて稼ぎになると知れば、用心棒に転向してくる奴もいるだろう。

 今でこそ人手不足も相まって、余所の隊に間借りさせて貰う事は、そう難しくはないのだが……。

 夢の達成には、急がなければならない案件である事も確かだ。

 

「ならば、まずその問題を解決する方法をだな」

「ほう? 何かいい案でも考え付いたか?」

 

 フェルナンドの言葉にニヤリと笑い返す。そして先程考えついた案を、奴に話し始める。

 

「答えは簡単さ! 俺とフェルナンドが星を増やし続ければ、入隊希望者が続出するって寸法さ!」

「フェルナンド、未だにこの馬鹿と付き合うとは、物好きな奴だ」

 

 俺達の会話に割り込む様に入ってきたのは、元ナサリン飛行隊の隊員であったロドリゲスだ。

 現在は、空の駅ロータで働いているのだが、手にしたジョッキを見れば、一仕事を終えてきたのだろう。

 

「馬鹿とはなんだよ、ロドリゲス!」

「馬鹿は、馬鹿なりに精一杯なんだ。許してやってくれ」

「フェルナンド、お前までそう言うか!?」

 

 俺がそう言うと、フェルナンドは少し呆れた顔をする。

 

「それが出来ていれば今頃、こんな苦労はしてないだろう」

「そ、そりゃ確かにそうなんだが……」

 

 濁す様な返事をする俺の言葉に、フェルナンドはやれやれ、といった表情で言う。

 

「まあ、お前らしいと言えば、らしいか」

「その寛大な心も、神父をやっていた頃からくる経験ってやつか?」

「いいや、夢を捨て切れない馬鹿が二人ってところさ」

「フェルナンド! お前って奴はよぉ!」

 

 相変わらず不愛想な態度に宿る熱い魂。俺でなけりゃ勘違いされちまうぜ! 

 気分が良くなった俺は、ビールをつぎ足して、仕切り直しの乾杯だ! 

 

 

「ロドリゲス、仕事の方は順調なのか?」

「毎日、ジイサンに扱かれながらも続けているよ」

「お前さんは、ナサリンにいた時から手先が器用だったからな。補充作業も慣れればすぐだろう」

「おかげで自販機の相手から店舗の補修作業まで、様々な事を押し付けられてる」

「あのジーサン一人じゃ管理するのが限界だったろうからな! 体よくコキ使われてるってわけか!」

「そんなところだ」

 

 ジョッキに口を付けて美味そうに喉を鳴らすロドリゲスの姿。

 口では、悪態を付きつつも、今の生活は、満更でもなさそうだ。

 

「今のところ上手くいっていないのは、俺達だけかぁ」

「茨の道を選んだのも自分自身だ、我慢しろ」

「よくアドルフォの相手を務めているものだな、フェルナンド?」

「なに、腐ってもナサリン飛行隊の隊長は、俺だからな。目を離した隙に何か事を起こされたらたまったものでは無い」

「俺への扱いは、子供か赤ん坊か何かかよ!?」

 

 皮肉交じりの失笑で分かり合う二人に対して抗議する。

 

「そういえばナオミとは、あれからどうなんだ?」

「相変わらずの熱々っぷりよ! 今はちょいと理由があって一緒に仕事はしていないんだけどな!」

「他の女を口説いているところを見られて以来、絶賛喧嘩中だ」

「フェルナンド!? それは黙っておけよ!」

「意地を張らずに、さっさと頭擦りつけて謝って来い。お前の相手をしてくれる唯一の女だ」

「馬鹿言うなよ! この世界には、数多のカワイイ子ちゃんで溢れ返っているんだぜ? 声をかけてあげなきゃ男が廃るってもんよ!」

「まず、この男に結婚の意味を叩き込む方が先じゃないか、神父さんよ?」

「念の為、アドルフォをフォローすれば、あの時は困っている女性の手助けをしていたところでな、そこへ現れたナオミが、その姿を見て勘違いをしたのも原因だ」

「そう! あくまで手助けだったんだよ! それなのにナオミの奴が話しを聞いてくれなくてよぉ……」

 

 いつだって俺は、ナオミ一筋で生きてきたというのに、あのタイミングで久しぶりの再会なんざ神様も酷すぎるぜ。

 

「……誰か仲介を頼めそうな奴に、心当たりはないのか?」

「コトブキの隊長辺りであれば、請け負ってくれるだろうが……今会わせたところで良好な関係に戻るとは思えん」

「それもそうだな。よし、アドルフォ、野暮な事を聞いた俺も悪かった。今夜は飲むぞ」

 

 ジョッキを掲げてそう宣言するロドリゲスに続くように、フェルナンドの奴もジョッキを掲げてやがる。

 チクショウ! 俺は何て良い仲間に巡り会えたんだ! 仲間に万歳だ! 

 

 そこから始まる宴、とはいっても自販機から出した食べ物を、つまみにして酒を飲み、他愛の無い話しをするだけだ。

 空の駅で働いていると、色んな奴等と出会う事も再開する事もあるとロドリゲスが言う。

 無駄玉打ちのチャンピオンだったミゲルの奴は、今でも空を飛んでいる。

 ただし、弾の撃ちすぎなのは変わらないようで、今じゃ荷物運びの仕事ばかりやらされているんだとよ。

 所属先からは、撃てない機体に乗りながら周りを良く観察しろと言われているようだ。

 イスマエルの奴は、ロドリゲスと同じ様に地上に降りた。

 明るく世話好きな奴だったから、次の仕事自体はあっさりと見つかったらしい。まったく羨ましいもんだぜ。

 

 それでも、久しぶりに仲間の名前が聞けて、お互いにこの荒野でしぶとく生き延びている事が知れてほっとしたのも事実。

 再びアイツらと空へ……というのは、無理も承知。

 ならば、アイツ等の口から『あのナサリン飛行隊に所属していたんだぜ』と自慢させてやれるぐらいに活躍してやらねぇとな! 

 

「ナサリン飛行隊、復興に向けてカンパイ!!」

「飲み過ぎだぞ、アドルフォ。一体何度目の乾杯だ」

「けしかけた俺も悪かったが、こんな日もたまには悪くない。そうだろ?」

「……ふぅ、今日だけだぞ。また明日から間借りする隊を見つけなければ」

「分かってる、分かってる! 俺に任せておけって!」

「やれやれ、どちらが隊長なんだか分からんな」

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