荒野の空、イジツの片隅、ユーハングの情景   作:星1頭ドードー

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暁を遮る蒸気 前編

 ある日の朝の出来事。

 私が手に入れた情報を元に、次のオタカラを探し求めて情報収集を行っていた時、突如として部屋に現れたモアが言い出したことから始まる話。

 

「ロイグ! いい加減、部屋の掃除をして下さい! そろそろ怒りますよ!?」

「大丈夫よ! どこに何が置かれているかちゃんと把握してるから!」

「それは掃除を怠る人が良く使う言い訳です! 足の踏み場も無いじゃないですか!」

「いやぁー、それには深い理由があって」

 

 私に向けて怪しげな視線を送るモアの姿。

 調べ物をしている最中は、それらを読み解く為に資料などを手元に置きっぱなしにしてしまう癖がある。

 順調に作業が進行出来れば問題は無いのだが……。

 一つを読み解いて『はい、終わり』なんて事は、滅多に無い訳で。

 次を読み解く為に新しい資料を引っ張り出してくれば、それらが積み重ねられていき、気が付くとそこら中に資料の塔が出来上がる始末。

 モアの言う通り、部屋の中は、足の踏み場もない状態になってしまう。

 でも『私はちゃんと把握出来ているんだからいいじゃない!』と素直になれない自分もいる。

 

「ロイグ、私が部屋の中を掃除して資料の位置が分からなくなるのと、一緒に掃除をしてキチンと場所を把握出来るのと、どちらがいいですか?」

「はい、すみません。今から掃除をします」

 

 本来であれば、手に入れたばかりの怪しげな書類を解読しようと思っていたけど、モップとバケツを持ったお怒り状態のモアに敵う訳もなく。

 先程まで持ち合わせていた反発心など、どこ消え去ったのか、項垂れる私である。

 

 

 私が資料を所定の位置へと戻している合間に、モアは私の衣服を拾い集めている。

 

「ロイグ! この服なんて皺だらけじゃないですか!」

「学園に侵入した時に使用した変装用の服じゃない! よく見つけたわね!」

「よく見つけたわね! ではありません! もう、数少ない普通の服装がこんな風になってしまって……」

「だって、この服装に慣れてしまうと他のが窮屈で仕方ないのよ」

 

 今も身に付けている上下一体型の服に手を当てる。

 私の身体に合った作りになっているおかげで、見た目より動きが邪魔される事が無い。

 中央に備え付けられているファスナーを上げて、愛用のコートを着れば、どのような気候にも対応出来る優れものだ。

 

「この服装であれば、どこへ行っても問題ないもの!」

「ロイグだけだと思いますよ、そう考えているのは」

「そんな! モアなら分かってくれるでしょ!? この服の機能美や快適さを!」

「本来、意図されている着方であれば分かるかもしれません。ですが、ロイグの着方は大胆すぎます!」

「大胆って言われても……少し胸元が開いているだけじゃない?」

「むしろそこが問題です! お嬢様学校へ通っていたのなら、身嗜みや作法などを教わるものではないのですか?」

 

 呆れ気味の言葉を発しながら変装用の服を念入りに整えて衣装棚へ収納していくモア。

 学校かぁ。正直、窮屈だった記憶しか残っていない。

 言葉遣い、礼儀作法などを教わった事は、確か。

 だけど、私の性に合わなかったなぁ。

 それでも学校で教わった事は、後々に役立つ機会が多くあったから無駄とは、思いたくない。

 

「モアに良い事を教えてあげるわ」

「良い事? 一体、何ですか?」

「お嬢様学校だけあってね、授業の一環でドレスを着る事もあったのよ」

「ドレスですか! ロイグならきっとお似合いなんだろうなぁ」

「褒めてくれてありがと! それでね、話には続きがあって……」

「何かあるのですか?」

「意外と胸元が大きく開かれた衣装が多いのよ!」

 

 私の言葉を聞いたモアは、そのまま硬直し、次第に顔を赤く染めていく。

 ドレスと一言で表しても、種類は様々あり、自分の身体を武器として扱える物を選んでいく。

 胸に自信のある子は、胸元が開かれたドレス。

 くびれに自身のある子は、腰の部分が絞められたドレス。

 足の長い子は、そこへ視線を向ける為にスカート丈が短くされたドレス。

 こうして思い出して見ると、随分としたたかな教育方針なのだと、今更になって思う。

 私が着たドレス? あまり拘りは無かったから適当に選んでたなぁ。

 

「ロイグの……」

「どうかしたの、モア?」

「ロイグのえっち!!」

 

 赤く染まった顔で、私に向けてそう言い放つモア。

 一体どんなドレス姿の私を想像したのかしら? 興味が湧いてきて、自分でも分かるぐらいイタズラ好きな表情を浮かべながらモアをからかい始めたのであった。

 

 

 あれだけ散らかっていた私の部屋は、モアの努力と指示によって埃一つ無くなった。

 ただ、からかい過ぎたせいでモアからの指示がとっても厳しかったけどね! 

 

「んーっ! 私もやれば出来るじゃない!」

「出来れば、あそこまで酷くなる前に始めて欲しかったです」

「無事に終わったからいいじゃない。手伝ってくれてありがとね、モア!」

「言い出したのは私ですから気にしないで下さい。でも今度また部屋の中を汚したら……」

「わ、分かってるってば! ほら、お昼ご飯を作らないといけない時間でしょ!?」

 

 二人して近くにある時計へ視線を配れば、太陽が真上に上る時間帯。

 

「もうこんな時間だったんですね。それじゃ私は、ご飯を作りに行きますけど……」

「大丈夫よ! 流石にここまで綺麗にした直後で汚したりする様な事はしないわ!」

「……本当ですか?」

「本当だって! モアは心配性なんだから!」

「なら、ロイグにこれをお返ししておきますね」

 

 唐突にモアから手渡されたのは、雑に折り曲げられた幾つかの紙。

 それを受け取り中身に目を通すが、全く記憶にない。

 これは一体なんだろうか? 

 

「衣服の中に入っていた物なのですが、覚えていましたか?」

「すみません、全く覚えてません」

「もう! 服を脱ぐ時は、必ずポケットの中を確認してから脱いで下さい!」

「ゴメンナサイ」

「先程のロイグの発言を信じてお返しするんですから、作業を初めてはダメですよ?」

「えぇーダメなのー?」

「せめてお昼ご飯を食べてからにしてください! そうしないと部屋に引きこもったまま終わるまで出て来なくなっちゃうじゃないですか!」

 

 モアには私の行動などバレバレだ。

 仕方ない、受け取った紙を綺麗に片付けられた机に置き、モアの肩を掴んで一緒に部屋を出る。

 

「わっ!? 急にどうしたんですか、ロイグ?」

「今度は、私がモアの手伝いをするわ! そうすれば昼食を一緒に食べられるし、一緒に居られるからモアも心配しなくて済むわよね!」

「確かにそうですけど、いいんですか?」

「もっちろん! 何時もお世話になりっぱなしだから、たまには私にも手伝わせて欲しいわ」

「分かりました。お手伝いお願いしますね、ロイグ」

 

 歩きながらなので表情は分からないが、モアの声色を伺う限りでは、嬉しそうなのが分かり安堵する。

 ふっふっふっ、料理の手伝いをして一緒に昼食を頂いた後は、あの紙についてじっくりと調査開始よ! 

 

 

 ──夕食時

 アカツキの皆が集まり、モアの料理に舌鼓を打ちながらお酒が回り始めた事に、私は唐突に例の紙について話を始める。

 

「みんな、ちょっと私の話を聞いてくれるかしら?」

「あら、何事かしら」

「ロイグが話を聞けって時は、大概オタカラの話だろ?」

「次に狙うオタカラを見つけたのだ!? もちろんレアな機体なのだ!?」

「新しい薬を作りたいから、その手の物だと嬉しいのだけれど」

「ロイグ、もしかしてあの時の紙をもう解き終えたのですか?」

「もちろん! これでも怪盗団アカツキのリーダーなんだから!」

 

 私のテンションと裏腹に、皆は落ち着いた様子で私を見つめている。

 

「もう! オタカラが手に入るかもしれないのに、どうしてそんなに落ち着いているのよ!?」

「貴女の場合、実用品よりもロマン重視じゃない。内容を全て聞くまでは、何も言えないわよ」

「リガルに同意するぜ。前回なんか必死こいて盗んだ箱を開けてみれば、中身がこけしだったんだぞ?」

「結局、使い道がなくてそこの棚に飾られているのだ!」

「不気味な表情をしていて苦手なんだけれど」

「あはは……」

 

 どうやら、前回掴まされたガセネタの結果に警戒をしているみたい。

 だけど、今回こそ本物! 全員で楽しめて心も身体も休まる素晴らしいオタカラなんだから! 

 

「この紙に書かれていたのは、イジツで発見された温泉地が書かれていたのよ!」

「温泉って言われてもなぁ。街中に行きゃ銭湯があるだろ? それとは違うのか?」

「これだから脳筋女は。町にある銭湯なんて水を沸かしたものよ。温泉は地下から湧き出す天然物なんだから!」

「へーそうなのか、尻軽女」

「誰が尻軽女よ!?」

 

 リガルとレンジの喧嘩が始まるが、そちらは放置するとして残りのメンバーに話を伝えていく。

 

「でも、実際に温泉と言われてもピンとこないのだ」

「見た事も入った事もないわね」

「ロイグ、そもそも温泉って盗める物ではありませんよね?」

「なんだか気が進まないのだ」

「温泉そのものは、効能が身体に良いとされているから気になるけれど……パスね」

「私の話を最後まで聞きなさいって!」

 

 大袈裟に咳払いをして皆の視線を集める。

 

「確かにモアの言う通り盗む事は出来ないわ。大雑把に言えばお湯だもの。けど、このアジトの近くにも隠されていると知れば……?」

「まさか! こんな近くに温泉が隠されているとでも言うの!?」

「でもよ、インノは地形が複雑でおまけに地面は穴だらけだぞ? どこに温泉なんて隠されているんだよ?」

「ここのアジトが、元はユーハングの施設なのは覚えているわよね?」

「この場所を偶然見つけたロイグが、気に入ったからアジトにしたんだよな?」

「もしかして、その温泉がある場所もユーハングの施設なのだ?」

「流石はベッグ! その可能性が高いのよ!」

「少なくとも穴掘りをさせられる可能性は低そうね」

「温泉……みんなで入ってみたいです!」

「そうよ! 温泉には、身体に良いとされる成分が含まれていて、特に美容効果が絶大と聞いた事があるわ!」

 

 リガルのうんちくが続く中で、レンジが私に『質問』と言葉を投げかけてきた。

 

「その場所があるのは、ここからどのぐらいの距離なんだ?」

「十キロクーリルもしないぐらい場所よ」

「こんなに近くにあって今まで見つからなかった場所が、そう簡単に見つかるのか?」

「この紙……地図には、偽装された入口の場所も書かれているのよ。ただ問題があって……」

「アタシでも何となくだが分かるぜ。所謂、ユーハングの置き土産みたいなものだろ? 温泉を地下から組み上げるポンプやらボイラー等があれば、もう動かない状態だろうな」

「それならベッグにお任せなのだ! パーツさえ揃えてくれれば完璧な状態に元通りにしてあげるのだ!」

「ベッグ! 今日ほど貴女が頼りになると思った日は無かったわ!」

「リガルのベッグに対する日頃の評価がダダ漏れなのだ! 酷いのだ!」

 

 ベッグの抗議も空しく、リガルが再び温泉に情熱を傾けている間、カランは溜息をつく。

 

「どうかしましたか、カランさん?」

「いえ、別に。みんな抵抗が無いものなんだなって」

「抵抗、ですか?」

「温泉なんだから、裸になるのは決まっているでしょう? このままだと全員一緒に入らされそうな雰囲気で憂鬱だわ」

「カランさんはとても綺麗ですし、問題ないと思いますけど……」

「私としては生まれつきの真っ白な肌が余り好みではないのだけどね」

「でしたら、もし温泉が見つかった場合、水質検査を行うという名目で準備を行うから、疲れが出てその日は入浴することが出来ない……なんていうのは通じませんか?」

 

 首を傾げながらそう提案するモアに対して、カランは目を閉じ考えているようだが、しばらくして閉じていた目が開かれる。

 

「変な事を言ってごめんなさいね、モア。でもその気遣いは嬉しいわ」

「気にしないで下さい。誰にも苦手な事はありますから。ロイグ、カランさんに水質調査をお願いしてもよろしいですか?」

「もちろん! こちらから頼みたかったぐらいだもの! お礼は個室のお風呂でいいかしら?」

「話を聞いていたのね。はぁ、それでいいわ。むしろ助かるもの」

「よし! 現地での修理はベッグに! 温泉が湧いた時は、カランに調査をしてもらうわ! ここまで準備が出来て今更、オタカラ探しに付き合わない。なんて言う人はいないわよね?」

 

 周囲にいるメンバーに視線を送って参加者の確認を行うが、そんな必要はなかったみたい。

 変な物ばかり盗むと言われている怪盗団アカツキであるが、もしかしたら今回のオタカラが一番変な物かも!

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