荒野の空、イジツの片隅、ユーハングの情景 作:星1頭ドードー
例え、手元に場所が記載された地図があったとしても、アジトから比較的近い場所に存在するとはいえ、上空からの偵察も必要だ。
地図を解読をした私が偵察に加わるのは前提としても、後二人ほど人手が欲しい。
となれば、力仕事もこなせるレンジと機械に詳しいベッグを連れて行くのが妥当かなあ。
私の考えをみんなに伝え、残りのメンバーはいつでも出撃出来る状態で待機していてもらう事にした。
デコボコだらけの地形をしているインノで、同業者に遭遇する事などありえないとは思うが、念には念をというヤツだ。
──翌朝
「それじゃちょっと行ってくるわね」
「気を付けてくださいね、ロイグ」
「レンジ! 何が何でも探し当ててきなさいよ!」
「分かってるよ! はぁ……美肌はともかく、本当に有るのならさっさと温泉に入って一息入れたいぜ」
「ユーハングが残した機械に興味があるのだ! ベッグはそっちの方が楽しみなのだ!」
「大丈夫だと思うけど、修理と題して分解しすぎないようにね、ベッグ」
コンビを組んでいる者通しの会話に耳を傾けていると、当初は淡々とした仕事仲間であった集団が、今では結束みたいなものを感じられる雰囲気を作り出しており、胸の奥から嬉しさが溢れ出る。
みんなを抱きしめたくなる衝動を抑えつけて、私たちがやるべき事を思い出す。
この続きは、温泉を見つけ出してからのお楽しみにしておこう。
私の愛機である鍾馗に火を入れ、ベッグの整備してくれた発動機、ハ四一が快調に稼働し始める。
レンジの愛機である隼一型も、ベッグの飛燕についても同様で、問題なく飛行可能な状態である事が、音を伝って私に教えてくれる。
待機班の仲間に合図を送り、私は馴染んだ操縦桿を握り締め鍾馗を操縦する。
手を置いたスロットルレバーを引き、速度を上げながらアジトの滑走路から機体をイジツの空へと飛ばす。
高度を上げて安全が確保された後に振り向けば、レンジとベッグが隊列を組んで飛行している事が確認できた。
頭に過る事がある。
この楽しい空は、いつまで飛び続けていられるのだろうって。
『ロイグ、考え事をしながらの飛行は止めておいた方がいいぞ?』
『何かあったのだ、ロイグ?』
「んーなんていうか、いつまでこの空を飛んでいられるのかなって不意に思っちゃって」
『はぁ? そんなこと自分が空を飛びたいと思い続けていれば、いくらでも飛び続けていられるだろ?』
『レンジが良い事を言ったのだ! 明日は雨が降るのだ!』
『なんでだよ!? 普通に考えればそういうもんだろ!』
二人の率直な意見に自然と笑みが浮かぶ。
そうよね、こんな世界だもの。
空を飛ぶぐらいは、自由にやらせてもらっても良いわよね!
「ベッグの言う通り、明日は雨が降るかもしれないわね!」
『おい! ロイグまでそんなこと言うのかよ!?』
「冗談に決まってるじゃない。ありがとね、レンジ!」
『お、おう。素直に礼を言われるとそれはそれで……』
『もしかして照れてるのだ? レンジは素直じゃないのだ!』
『ベッグ!!』
目的地まで直ぐそこだというのに、レンジとベッグは、じゃれ合う様に機体を操り空を飛んでいる。
その光景を、私は笑いながら見つめていた。
『地図上ではここら辺なんだよな? 何も見当たらないぞ?』
『相変わらず複雑な地形なのだ』
私たちの目の前にあるものは、インノ周辺でよく見かけるデコボコとした地形が広がっている。
他の地域でよく目にする細く深い渓谷とは違い、地上には大きなクレーターが幾つも存在し、周囲の山……と呼ぶより丘に近いだろうか。
階段にも似た段々状で積み重ねられ、高さを得た丘が広がる。
目標地点に存在する丘は平べったく、機体を着陸させても問題無い様にも見えるのだが……。
「ねぇ、二人とも。この丘を見て何か感じないかしら?」
『不自然なほど平なのだ! 自然に出来上がった地形ならもう少しゴツゴツしていてもおかしくないのだ!』
『言われてみればそうだな。って事は、この下にユーハングの施設が隠されているって事か?』
「その可能性が大きいわ! 周囲を確認してから着陸してみましょ!」
二人から返事をもらい、私たちは丘へと着陸を試みる。
上空から大きな岩が幾つも存在するのを確認出来たが、徐々に丘へと近づくとそれらを避ける様にして一つの線が存在するのが明らかになった。
やっぱり。これって滑走路よね? 岩をどかして作り上げたのか定かではないが、明らかに人為的なものを感じる。
二人に無線で伝え、気を引き締め直して機体を操り、私たちは目標地点へ着陸を実行した。
「しかし、凄い量の砂だな」
「誰も来た形跡がないのだ。これは期待できそうなのだ!」
私たちを待ち受けていたのは、砂嵐によって積み重ねられた砂と、覆う様にして隠された滑走路である。
足で地面の砂を払い、力を込めて踏み込んでみるが、自然と出来上がる固さではない。
ここに何かかしらの施設が隠されていることは、間違いなさそうであるが。
「地上に降りて辺りを見回しても、景色がいいだけね」
「ここにユーハングの施設が存在してるのなら、この下にあるんだろうな」
「なら、この丘を探索して下れそうな道を探すのだ。見晴らしがいいから迷子になる可能性も低いのだ!」
「そうね、手分けして探してみましょ」
ベッグの提案を実行に移し、それぞれが丘から下へと降りれそうな道を探して数十分、唐突に聞こえた声は、レンジからのものであった。
「おーい、二人とも! ちょっとこっちに来てくれ!」
その呼び掛けに応え、私とベッグがレンジの元へ駆け寄ると、そこに現れたものは、地面に置かれている鉄の板。
念入りに周囲の砂を払いのけて全貌を明らかにすると、枠が存在し、板には取っ手のようなものが取り付けられている。
「これってもしかして扉?」
「その可能性は高いだろうな。じゃなきゃこんな場所に鉄板が置かれているなんてありえないだろ?」
「お手柄なのだ、レンジ! ついでに早く開けてみるのだ!」
「わーったよ! 大きさといい、取っ手の位置といい、左右に開くタイプだからアタシだけでも開けられるだろ」
「頼んだわよ、レンジ」
上下開放型の扉では無いとすれば、この扉の先には歩いて下れる階段の様なものが存在する?
扉の大きさからみても随分と広い道になりそうだけれど。
レンジの気合のこもった掛け声と共に、片側の扉が鈍い音を立てながら開かれていく。
「くっそー。重さは大したことないが、錆び付いているせいか妙に苦労するな」
「やっぱりレンジを連れて来て正解だったわね。私たちだけじゃ開ける事すら出来なかったかも」
「力仕事はみんなアタシかよ!?」
「それだけレンジを頼りにしている証拠なのだ! 潤滑剤も必要なさそうなのだ!」
「あるなら先に言え!! つーか使えよ!?」
「仕方ないのだ、機体に載せてあるから取りに行ってくるのだ!」
ベッグが飛燕に載せている整備道具を取りに駆け出していき、レンジがその場で深い溜息をつく。
「ベッグのヤツは、どこにいてもベッグだな」
「そこがベッグの良いところじゃない。コロコロ変わるより良いと思うけれど?」
「その言葉、リガルにも聞かせてやりたいぜ」
「ま、まぁ、リガルはリガルで良いところはちゃんとあるから!」
「今の台詞は聞かなかったことにしておく。その代わりにもう片方の扉は、ロイグが開けてみろよ」
「私が!?」
「物は試しっていうじゃねーか。最初から諦めずに一度ぐらい試してみたらどうだ?」
「無理だと思うけどなあ」
妙に急かすレンジに後押しされる様に、私はもう片方の扉を引き上げる為に移動する。
軽く膝を曲げて、上半身をやや折り畳む様にしながら扉に設置されている取っ手を握り締める。
「それじゃいくわよ?」
「おー頑張れー」
私の正面に位置するレンジからの空返事にブーイングを向けながら、握りしめた手に力を込め、全身を使いながら精一杯引き上げようと試みる。
「んっ! んんーっ、くっ……ぅんっ!」
「おーこりゃスゲぇな」
レンジが何を言っているのか分からないが、少なくともこの扉は私の力ではビクともしない。
息も絶え絶えな状態になった私は、呼吸を整える為、握り締めた手に込めた力をゆっくりと抜いていく。
「はっ、はぁはぁ……やっぱり私じゃ無理よ」
「それはザンネンだったな。まぁ目的は達成出来たからこれでチャラにしておくぜ」
「も、目的? 扉を開ける以外に何かあったっけ?」
「昨日、モアが叫んでいただろ? 『ロイグのえっち!!』ってな」
胡坐をかきながらニヤニヤとした視線をこちらに向けながら、そう言い放つレンジ。
視線の先を追ってみれば、先程までとは違い、少しはだけた上半身と自分の両腕に挟まれ押し上げられている胸。
そこへ一滴の汗が落ち、谷間へと吸い込まれていく。
再びレンジに視線を向ければ、お腹を抱えながら笑う姿が見えた。
その瞬間、全てを悟り、私の羞恥心が限界を越えそうになり、レンジに向けて大声を上げる。
「レンジのえっち!!」
「そんな恰好してるロイグが悪いんだろ? アタシから言わせてもらえりゃ今のロイグはエロイグだ!」
「変なあだ名を付けないでよ!!」
「いやはや、モアが何を叫んでいるのかと思えば、こういう事だったんだな」
「違うから! いや、違わなく……絶対に違うから!!」
モアをからかった時もそういう話題であったけれど! 息が乱れていたり汗が流れ落ちた姿を見せたわけではないもん!
レンジに向けて全力で反論するも、受け流されるばかりで埒が明かない。
そこへ道具を取りに行っていたベッグが戻ってきた。
「そんなに大きな声を張り上げてどうしたのだ?」
「聞いてよ、ベッグ! レンジったら私の事をエロイグとか言い出すのよ!」
「そうなのだ、レンジ?」
「見ての通りだろ? アタシは間違っちゃいないと思うが、ベッグはどう思う?」
「ベッグ! そんなことは無いわよね? 私は普通よね?」
私の訴えに、道具を置いて腕を組みながら考え始めるベッグ。
そこは迷わず私の言い分を肯定して欲しいなっ!
「確かに。ロイグの言う通り、少し上半身がはだけてるぐらいでは、エロイグとは言えないのだ」
「ベッグ! 信じていたわ!!」
「ベッグの知っている限りでは、飛行船へと潜入する際に変装していた服装がエロイグなのだ! あれは凄かったのだ……」
「ぶははっ! 確かにあの時の恰好は凄かったよな! 足なんか丸出しで、胸も脇も見せつけてたもんな!」
「そうなのだ! あの時の姿は、エロイグなんて言葉じゃ足らないのだ! ドエロイグなのだ!」
ベッグの言葉にレンジは再び笑い出し、発言した当人まで一緒になって笑い始めた。
私に再び何かが沸き立つ。
これはきっと羞恥心ではなく……。
「ロイグが怒ったのだ! お怒りなのだ!」
「帰ったらモアに伝えてやろうぜ!」
「二人とも! 後で覚えてなさいよ!!」
あの変装だってちゃんとした理由があって着こなしていたのに!
昔、学校で似たようなドレスを着た時は、誰もそんな事を言わなかったのに!
誰が最初に言い出したのだろう