荒野の空、イジツの片隅、ユーハングの情景 作:星1頭ドードー
私をからかう二人を追い掛け回して数分、このままでは不毛であると判断し、一時停戦の協定を結びこの事については一旦お預け。
再び開け放たれた扉の前に三人が集い、私が扉の先にある階段の強度と罠の有無を調べている間に必要な道具をレンジに取りに行ってもらった。
「ほれ、言われた物を持ってきたぞ」
「ありがと、レンジ」
「そっちの首尾はどうなんだ?」
「今のところ罠らしきものは発見できず。この階段を下ってみるしかなさそうね」
「広いとはいえナカナカの深さなのだ。足元に気を付けて進むのだ」
レンジに取りに行ってもらった道具の中からランタンを取り出し、専用の容器から燃料を注入して備え付けられたポンプを幾度か動かす。
マントルを利用してカラヤキをしたのちに点火。
そこから微調整をしながら火を落ち着かせれば、光源としては文句なしのランタンが出来上がる。
「一番明るいヤツを持ってきたのか」
「うん、これなら火が消えにくいし明るさもバッチリだからね。それじゃ二人とも私の後を付いてきてくれるかしら」
「了解したのだ!」
地面に接地されていた観音開きの扉、その先にある階段を一歩ずつ慎重に下っていく。
徐々に地上から離れて行くと、足元の階段にうっすらと自分たちの足跡が残る。
砂の代わりに埃が積み重ねられているようだ。
放置されて随分と時間が経過していることは、間違いなさそうである。
三人とも口元に布を当て再び階段を下り続けると、正面には壁と中間地点なのだろうか、平らな部分が現れる。
そして右折路と更に下る階段の存在も。
「みんな、体力の方は大丈夫かしら? あそこで休憩することも出来そうだけど」
「アタシは大丈夫だ。上を覗けば空が見える位置だしな」
「ベッグも平気なのだ。ランタンで周囲を確認してから再進行で問題ないのだ」
「了解したわ。今のところは問題ないけれど、あの曲がり角の先からは少し慎重に行くわね」
三人の足音が響く。
ユーハングの施設と呼ばれた場所の中でも随分と頑丈に出来ているのがよく分かる。
……本当にアレは温泉が書かれた地図だったのか不安がよぎる。
「うっし、一先ず目に見える場所の最奥まで着いたな」
「曲がり角の先だけど……ランタンで照らして見た限りだと階段は短いわね」
「すぐそこってことなのだ?」
「罠が配置されている様子も無さそうだから、ベッグの言う通りすぐそこみたいね」
「なら急ぐのだ、ロイグ! 機械がベッグを待ってるのだ!」
「ちょっと、後ろから押さないの!」
ランタンを向けて再度確認。
終わりが既に見えていることは間違いなく、壁や足元を叩いてみても崩落の危険はなさそうだ。
それでもゆっくりと慎重に階段を下り、あっさりと辿り着いた最下層。
そこで私たちを待ち受けていたものは、町でも見かけることが出来る銭湯の暖簾であった。
「おいい、どうみてもこれって銭湯じゃねぇか!」
「ラハマで見た事があるのだ! 銭湯なのだ!」
「お湯に浸かる習慣は、やはりユーハング由来だったのかしら?」
「そういう問題かよ!? アタシたちが探しているのは温泉で銭湯じゃないだろ!」
それを言われてしまえば、ぐうの音も出ない。
だが、仮にもここはユーハングが作った銭湯。
本当にそれだけの為に、地下を掘ってまで施設を作り上げるものだろうか?
私が思考を巡らせていると、ベッグの声が聞こえる。
「ロイグ! ここに電気系統を操作できる基盤があるのだ!」
「動かせそう、ベッグ?」
「仕組み自体は問題ないのだ! だけど発電機を見つけて動かさないと電気を付けるのも無理そうなのだ……」
しょんぼりするベッグの頭を撫でて、次の目標を決める。
「一先ずは電源の確保ね。このランタンだけじゃ探索に制限がかかってしまうもの」
「発電機か。そういう物は、施設の裏側とかに置いてありそうなもんだが」
「この中を通って奥に行ってみるのだ!」
最初はただの銭湯かと思いきや、意外と何かありそうな雰囲気に当てられて私も楽しくなってきた。
オタカラ探しは外れが多い。
だからこそ、当りを引いた時の熱狂や感動は言葉では言い表しにくいほど、心が沸き立つ。
例え、今回のオタカラが普通の銭湯だったとしても、ユーハングの人々が手がけた銭湯を見つけられただけでも自慢話に出来そうだわ!
入口の暖簾をくぐると、性別ごとに分かれるような表記がされている壁があり、当然ながら女性の方へ。
目の前には、木材を利用した床、網状のかご、衣服棚、扇風機と私たちも知っている定番の景色が広がる。
一言心の中で謝りを入れて靴を履いたまま、その先にあるはずの浴場へと進むと、驚愕するものを見つけてしまった。
「凄い……」
「これってユーハング人が描いた絵……だよな?」
「ベッグでも分かるぐらい立派で凄いのだ!」
こういっては失礼ではあるが、町で見かけた銭湯の壁画とは比べ物にならないほど繊細かつ大胆に描かれた山の絵は、迫力が段違いである。
「この山はユーハングにあるフジサンって言うんだっけか」
「イジツにはこんな綺麗で立派な山はないのだ」
「素敵ね……。この壁画を眺めながら日々の疲れを癒していたのかしら?」
だとすれば、とんでもなく贅沢な入浴だ。
私の中では、既にこれ以上ない程のものが見つかってしまい、本来の目的さえ忘れてしまいそうになる。
「ロイグ! 電気を使える様にしてからゆっくりと眺めるのだ!」
「そうだぜ。ついでに風呂も使える様にすれば、贅沢気分を味わえそうだしな!」
二人からの言葉に頷き、周囲を確認する為にランタンを動かすと、壁際のところに設置されている扉が目に入った。
近寄りノブを回してみるが、鍵が掛けられており開ける事が出来ない。
とはいえ、この程度で諦めていたら怪盗の名が廃る。
持ち込んできた道具の幾つかを鍵穴に通し、指先に伝わる感触を頼りに道具を動かすと、当たりの感覚を得てゆっくりと道具を回す。
「よし、開いたわ」
「さすが怪盗ロイグなのだ! レンジならノブごとむしり取って終わりなのだ」
「なんか言ったかあ、ベッグ?」
いつものじゃれ合いが背中越しで聞こえてくる。
裏側に通じていそうなこの扉の先で、発電機と換気が出来る窓を探してみよう。
ランタンの火が燃え続けているのだから、どこかに空気が通る場所が必ずあるはずだ。
道中、木で出来た窓がいくつも存在しているのが確認でき、三人でつっかえ棒で一つずつ固定していく。
そこから見えた風景から察するに、この施設がある場所は丘の中間地点の高さにあり、傍にあるクレーターの跡がよく見えた。
換気も兼ねて開けた窓により、光源の確保もでき、ここではランタンが必要ないほど明るさを得ることが出来た。
そのおかげでベッグが好き放題に走り回り、お目当ての物を見つけたのか私を呼びつける。
「ロイグ! 発電機を見つけたのだ!」
「どう、動かせそう?」
「今から整備してみるのだ! よければ燃料を少し分けて欲しいのだ!」
「分かったわ。ランタンの分が僅かだけど残っているはずだから使って頂戴」
「ありがとなのだ、ロイグ!」
私から燃料を受け取ったベッグは、整備道具を取り出して一心不乱に作業にのめり込む。
これはしばらくかかりそうだ。
でもベッグならやり遂げてくれると信じ、レンジともう少し奥へと進む事にした。
「お、これってボイラーじゃないのか?」
「こっちにあるのは、地下水をくみ上げるポンプみたいね」
「つーことは、流石にユーハングとはいえ温泉を引き当てるのは難しかったってことなのか?」
「実際に地下水をくみ上げてみてカランに調査してもらうまでは、何とも言えないわね」
「まっ、アタシとしちゃあの浴場でお湯に浸かれるなら悪くないと思うけどな」
「そうね。問題は私たちの手には余る施設ってことかしら?」
「言いたい事はなんとなくだが分かるぜ。ここはアタシたちが独占していいような場所じゃないと言いたいんだろ?」
「ご明察。調べ尽くした後になるけど、情報屋を通じて誰かがここで銭湯を営業してくれるのが理想的かなぁ」
「丘を整備すれば駐機場も十分な広さを確保出来るしな」
みんなにも意見を聞いてからになるが、可能であればそうしたいと私は思う。
ロマンは十分すぎるぐらい受け取ったからね!
二人で他愛もなくこの施設の活用方法を語っていると、来た方向から機械の唸る音がし始めた。
「ベッグのヤツ成功したみたいだな」
「一旦戻って確認してみましょ」
来た道を戻りベッグの姿が確認出来ると、傍にある発動機が唸りを上げて動いているのが私でも確認できる。
「あ、丁度いいところに戻ってきたのだ!」
「流石ね、ベッグ!」
「これぐらいお茶の子さいさいなのだ! あとは漏電の確認をすれば無事に電気が使えるのだ!」
「この先にボイラーとポンプがあったぞ。その確認が済んだら見てくれよ」
「了解なのだ! レンジはベッグの手伝いをするのだ!」
「分かったから! そう急かすなよ」
「人手が必要そうね。私は待機しているみんなにここへ来てもらうように連絡を入れてくるわ」
二人の返事を聞いて私は地上に置いてある機体の元へと歩き始めた。
「そういうことなのよ。だからみんなこっちに来てもらえるかしら?」
『了解しました。リガルさんとカランさんを連れてそちらに向かいますね、ロイグ』
『ロイグ!! 温泉は見つかったの!?』
「今のところは分からないわ。だからカランに調査をお願いしたいのよ」
『その様子だと湧いて出ているみたいじゃなさそうね』
「残念な事にね。いまベッグ達が施設の設備を復旧してくれているから、それが終わるまでは……掃除かな?」
『話を聞く限りでも埃が凄そうですもんね。そちらの準備もしてから向かいますね』
「お願いね、モア」
最後にリガルの叫びが聞こえた気がするが、気にせず交信を打ち切り私も再び施設へと戻ろう。
入口等の説明はしておいたから、私がここで待っていなくても辿り着けばみんな下りてきてくれるだろう。
最初とは違い、足取り軽く階段を下って施設の入り口まで戻れば、そこにはベッグとレンジの姿がある。
「あれ? 二人とも、もう点検は終わったの?」
「ベッグのヤツがやる気がみなぎっていてよ、散々コキ使われたところだ」
「おかげで大まかな応急修理で済んだのだ! これでいつでも安全に電気が使えるのだ!」
「なら明かりが使える様にしてくれるかしら?」
「お安い御用なのだ! ポチっとなーのだー!」
ベッグの操作により、ジリジリと音を立てながら地下に明かりが灯されていく。
それは階段から入口、施設内部と満遍なく灯されていき、眩しさを感じるほどであった。
「成功なのだ!」
「ランタンの明るさとは比較にならないな。眩しくて仕方ない」
「じきに目が慣れるのだ。我慢するのだ、レンジ」
「仕方な……ってベッグ! お前はちゃっかりゴーグル付けてるじゃねぇか!」
「こうなると分かっていたのだ。だから装着しただけなのだ!」
「だったら先にアタシらにも言えよ!」
他の設備を見てくるのだ! そう言い残してベッグは颯爽と私たちの前から逃げ……消え去っていった。
「はぁ……今日はアイツに振り回されっぱなしだ」
「ふふっ、ベッグもあんなにはしゃいで楽しそうで何よりだわ」
「アタシらには理解出来ない楽しさがあるんだろうな。とはいえそのおかげで助かっているんだが」
「ねっ! 私たちもベッグの点検が終わるまでにある程度進めないと」
「あー……思っていたほどじゃないが、埃が溜まってるもんな」
「モアが掃除道具を持って来てくれるから、本格的なのはそれからね」
役割を終えたランタンの灯を消し、レンジと再び施設の中へと入り使えそうな道具がないか調べながらモア達の到着を待つのであった。