荒野の空、イジツの片隅、ユーハングの情景 作:星1頭ドードー
「うーっ! いくら掘ってもそれらしい物が出てこないー!!」
「チカちゃん。無理したらあかんよ。一度休憩を取ったらどうだい?」
「もうちょっと! もうちょっとだけ頑張ってみるよ! ジーサン!」
一輪車、スコップ、ツルハシを交互に持ち替えながら、焼失してしまった店の瓦礫を片付けるチカ。
どうしてこのような作業をしているのかと言えば、彼女なりの理由がきちんとあるのだ。
───ラハマ
私は今、ラハマにあるオウニ商会の建物へと足を運んでいる。
なんでも戦闘機で運べる物を何処かへ輸送して欲しいのだとか。稼働状態にある機体で都合がつくのが私だけだから。
レオナとザラの機体は最優先で修理が行われ、比較的まだ損傷が少なかった私とケイトの機体。
水に引っ掛けた後に橋へと胴体着陸したエンマ機、キラキラのおっさんに穴だらけにされたキリエの機体はもうしばらく時間がかかりそう。
そしてつい最近になってようやく私の機体が修理完了したと班長から聞いた!
折角だから試運転も兼ねて他の町にある図書館までひとっ飛びしようと思っていたら、マダムに呼び出されたという訳。
「あれ? チカじゃん。こんなところで何してんの?」
「マダムに呼び出し食らったんだよ! キリエこそ何してんのさ? どうせパンケーキ屋巡りだろうけど」
「どうせってどういう意味さ! これほど唯意義な時間の過ごし方なんて他に無いんだけど!」
「それはキリエだけっしょ! いい加減、復帰出来ないとブクブクに太るよね!」
「私は太りませんー! パンケーキは私を裏切らない! 私の心と身体を優しく包み込んでくれる生涯の友だから……」
「そうやって油断してっと、その服の下にある身体が更にだらしなくなるよ!」
「だらしなくないし!! 着痩せするタイプだし!! 何なら見せてあげようか!?」
「宿舎で寝る前に散々見てるからいいよ!!」
私を煽るチカ。是が非でも現実を目の当たりさせて、差というものを見せつけてやらなければ!
服に手をかけると「やめろよぉぉぉ」という声と共にチカの手が伸びる。
邪魔はさせまいと掴み合いになり、顔は近距離で睨み合い。私を侮辱するのはまだしも、パンケーキを貶す輩は許さん!! パンケーキで太るなんてありえないから!!
相変わらず小柄な体格の割に腕っぷしが強いんだから! だが私にも負けられない戦いというものがあるのだよ!
チカを踏み台にして私は本日三軒目のパンケーキ屋へ向かわなければならないのだ!!
「騒がしい。ここでじゃれ合いは他の人達に迷惑」
『じゃれ合いじゃないし!!』
気が付けば至近距離にケイトの姿。いつもの事ながら気配を消して近づいてくる癖がある。病院の時も、いとも容易く人の真後ろに立っていたし!
「ケイトじゃん! ケイトは何してたん?」
「アレンの病院。頼まれ事を少々。二人は」
「チカと道端で合っちゃってさ、困っていたところだよ」
「困るって挨拶しただけじゃんか!」
「パンケーキを貶した者には制裁を!」
「訳分かんないし!」
「二人とも、この場で騒いでいた事がレオナにバレたなら」
レオナにバレたら? それはおっかない形相と大声によるレオナからのお説教が始まる事を意味する。
チカも理解したのだろう。視線がキョロキョロとせわしなく動き、掴み合っていた手が弱まる。
怒られるのはともかく、外出禁止にでもされたらたまったものではない! それを回避するにはどうするべきか? 答えは簡単だ、チカと仲良く談笑していた事にすればいい!
お互いに同じタイミングで手を離し、肩に手をまわして軽く叩き合う。結構いい音がするが、軽くだ!
「喧嘩なんてしてないし! ちょっとしたコミュニケーションの一種だよね、チカ!」
「そうそう! いつものやつだから! 喧嘩なんて一切してないし!」
「ケイトにアピールをされても困る」
「あ! そういえばチカ! マダムに呼び出されてたんじゃなかったっけ!?」
「げっ! 忘れてた! 急がないと! それじゃね!!」
私たちに手を振り走りながら去っていくチカ。前を見ないと危ないなぁとか思いながら背中を見つめる。
「でもマダムがチカを呼び出すって珍しくない?」
「現状のコトブキの稼働状況を考えれば、レオナ・ザラ以外、唯一飛行可能状態にあり任務に就く事が出来るのはチカだけ」
「なるほど~。という事は仕事かぁ」
「心配?」
「べっ、別に心配なんかしてないし!」
まぁそれでも、何事も無ければそれに越した事はないけど。ち、チカの事じゃなくて機体の事を心配してるだけだし! 班長に負担をかけさせたら大変だよなぁ! とか!
……誰に言い訳してるんだろ、私。
「チカ、依頼内容は伝わったかしら? 確認の為に復唱して頂戴」
「このケースをガドールに居るユーリア議員に手渡して、サインを貰ってから帰還すればいいんだよね?」
「そうよ。……大丈夫かしら?」
「大丈夫だってマダム! キリエにだって出来たんだから私に出来ない訳が無い!!」
「現状、機体が稼働状態な子で動ける子はチカしかいないものね。不安だけどお願いするわ」
「不安って!? ガドールなんて直ぐそこじゃん! そんなにマダムからの信用ないのかなぁ私……」
「違うわよ、チカ。貴女の能力を疑っている訳では無いの。問題はチカと彼女の相性に不安を抱いていただけの事よ。まぎわらしい言い方になってごめんなさいね」
「相性? って事はマダムは私の操縦技術を疑っている訳じゃないんだね!?」
「そう言っているじゃない。私の可愛い小鳥ちゃん達を疑うような真似はしないわよ」
「へへっ! 流石マダム! それじゃ行ってきまーす!」
「いってらっしゃい。気を付けるのよ」
「分かってる分かってるー!」
勢いよく部屋から飛び出していくチカ。扉を閉める事すら忘れる程に。
軽い頭痛を感じるが頼んだのはこちら側。わざわざ扉を閉めるのに人を呼ぶ必要などないので椅子から立ち上がり自分で扉を閉める。
オウニ商会としては急ぎの案件ではないのだけれど、彼女の性格を考えると今の内に請求をしておかなければケチだと思われたくないとか何かしら理由を付けてラハマまでやってきそうな勢いである。
イケスカ動乱後、自分を反乱分子として扱った奴等を見返すかのようにガドール評議員に返り咲く。あの行動力を考えればいつこちらに向かって来てもおかしくない。
その時はきっと、いつも通り、踏ん反り返るような態度で堂々と正面からやってくるのでしょうね。彼女らしいとつい口元が緩んでしまう。
そんな彼女の相手をチカに任せるという今回の任務。
「……やはり早まったかしら」
今更撤回しようにもチカの事だから駐機場まで走って行ってるでしょうね。
───ガドール
「ユーリア議員? このブランコって座ってもいいの?」
「良いわよ。少し時間を頂くから好きに遊んで頂戴」
誰が来たかと思えばコトブキの一番小さい子がやって来た。確かチカという子よね。
突然やってきたかと思えば、私の親衛隊に遠慮ない態度で接して、ここの部屋まで連れられてきたかと思えば許可をする前から立ち入るクソ度胸。今度、ルゥルゥに会ったら何て言って差し上げましょうか。
私の部屋に置いてあったブランコとシーソーが気になっていたのか、ケースをこちらへ引き渡してからも部屋の中をキョロキョロと見渡していた。
その後の発言が先程の内容だ。目の前で大人しく出来ないのであれば、せめて視界から外れてくれればこちらも作業がしやすい。
ケースの中身に入っていた請求書を覗き込む様に確認する。別にどうって事のない金額ではあるけれど、そろそろ本気で一度ルゥルゥに価格交渉でもしてみようかしら。彼女がどんな顔をして私を見つめてくるのか。
私の相手にしてくれている時のルゥルゥは本当に大好き。困り顔、呆れたような表情、それでも私に付き合ってくれる彼女が大好き。
お互いに一つの場所で主となっている今でも、昔と変わりなく接してくれる。その態度は時として馬鹿な野郎共を勘違いさせて近寄らせてしまうのだから鬱陶しい。
おかげで学生時代は大変だったわ。ルゥルゥもルゥルゥよ。誰であろうと接し方を変えないのだから。一人一人潰して来たこちらの身にもなって欲しいわ。
「おーい? ユーリア議員? 聞こえてないのかな?」
「聞こえているわよ。何かしら?」
「手が止まっていたからもう終わったのかなって」
「ルゥルゥにどれだけ値切ってやろうか考えていたところよ」
「うわっ! 悪い女だ!」
「交渉術と言って貰いたいわね。それで私に何か伝えたい事でもあるのかしら?」
「お仕事が済んだのなら一緒にブランコで遊ばないかなって!」
「……はぁ?」
唐突な提案に思考が混乱する。確かにブランコは二人分置いてあるが、一緒に遊ぶという展開になるとは夢にも思わなかった。
チカがはよはよ! とこちらに手招きする。仕方ないわね。付き合ってあげてもいいわ。
隣にあるブランコに座り、二人して意味もなく漕いでいる。彼女は立ちながら漕いでいるので結構な勢いだ。
この間、聞いた話を不意に思い出す。私には関係ないけれどこの子なら食いつきそうな話だ。
久しぶりに誰かが私とブランコに付き合ってくれたのだから、これぐらい教えても問題は無いわよね。
「そういえば貴女、確か海のウーミが好きだと言っていたわね?」
「ユーリア議員も知ってるの!?」
「これでも本は片っ端から読んで来たわよ。伊達に議員を務めていないわ。それで今も好きなの?」
「もちろん! 図書館で新しいのが出てないかチェックするぐらいだもん!」
「なんでもイケスカ動乱が発生する直前に海のウーミの最新作が発売されたらしいのよ」
「え? えぇぇぇぇぇ!!」
想像以上の食いつきだ。よほど好きなのだろう。あんな絵本……と言いたいところだけど、本棚に収まっている事は内緒だ。
「どこ!? どこにあったの!?」
「残念だけど、私が聞いたのはショウトの町で見かけたという噂話よ」
「ショウトって! 爆撃されて跡形も無くなっちゃったじゃん!」
「もし実際にあったとしても、今頃は焼け焦げて跡形も無くなっているか、地面の底にでも埋まっているでしょうね」
「くぅーっ! イサオの奴め! あいつにはホントガッカリだよ!!」
本一つでここまで本気で悔しがれるのだ。羨ましささえ感じられる。私も後回しにしておかないで確保……って違うわよ!
唐突にチカがブランコから飛ぶ様にして降りる。その降り方は危ないわよ、チカ。
そのままブランコから離れるのかと思えば、こちらに振り向き、私の真後ろへと移動してくる。
そして私の座っているブランコに足をかけて二人乗り。
「ちょ! ちょっといきなりどうしたのよ!?」
「一回やってみたかったんだよね! 二人乗りって!」
「だからって勢いをつけすぎよ! もう少しゆっくりと漕ぎなさい!」
「やーだ! ユーリア議員は大人しくしすぎだよ! たまにはこうやって豪快に漕ぐのも悪くないって!」
久しぶりに味わう両足が地面から離れる感覚。そういえばここまで思いっきり漕いだのはどれくらいぶりだろう。
後ろから伝わるチカの楽し気な声、自分の髪が大きく揺れ、天井さえ見える角度まで漕がれるブランコ。
天真爛漫とは聞いていたけれどここまでとはね。でもいいわ、久しぶりに楽しんでいる自分がいる事も確かだもの。
この子達と関わる様になって、私も少しは落ち着いたということかしら。
ウーミの新作を探すのはオタカラを探す様なものだろうけど、無事に見つかる事を祈っているわ。
……見つけたらこっそりと私にも見せなさいよね!
そして話は再びショウトへと戻る。
ユーリア議員から話を聞き、再びケースを渡されてマダムの元へと帰還する。報告を終わらせた後にマダムとレオナから許可を貰ってここまで足を運んだのだ!
だけど言わずもがな、復興中とはいえ一面瓦礫の山。とはいえ皆の顔は俯く事無く精一杯生きている。俯いたままじゃお腹も膨らまないしね!
ショウトの人達に片っ端から書店のあった場所を聞き、そこへ到着すると一人のジーサンがいた。
なんでも小さいながらも本屋を開いていたのだが、言わずもがな、爆撃によってお店は跡形も無くなってしまったのだ。
ジーサンにウーミの事を聞くと本当に新作が出ていた! 由来不明、出所不明ながらも僅かに入荷していたという!
しかし! 何度も同じ事言うが! お店は無い! 僅かながらにある可能性としてはこの山盛りの瓦礫の下! ここまで来て諦めてたまるもんかっ!
休憩中だったジーサンから道具を借りてひたすら瓦礫の撤去作業を行う。ウーミはどこだ!!
情熱と勢いだけで見つかれば苦労はしない。僅かながらに撤去できた瓦礫の下には本の欠片も見当たりはしない。
「うぅーっ! ここまで来て成果ナシか!」
「チカちゃん。そろそろ日も暮れてしまう。帰る場所があるのならそろそろ帰りなさい」
「でもジーサン! 目の前にあるかもしれないのに簡単に諦められる!?」
「それでもチカちゃんを待っていてくれる人達がいるのなら、その人達の事も考えてあげなさい。本であればいつか必ず出会えるから」
「……うん。分かった。でも諦めたわけじゃないんだからね!」
「せやせや、諦めなければまた出会えるさ」
名残惜しいけどジーサンとはここでお別れ。手を振ってまた今度!
急いで駐機場に走り、ラハマへと帰還する。予定より少し遅れてしまいそうでレオナに怒られないかヒヤヒヤだよ!
ラハマへ帰還後、宿舎まで急ぐ。マズイ、予定より少しだけ時間が遅れてしまった! 怒られても仕方ないけどレオナに帰還報告だけはしておかないと!
宿舎に入り、レオナ達の部屋へと向かう途中、ちょっとした広間にレオナとザラが椅子に座って待っていた。ザラに至ってはまたビールを飲んでいる!
「チカ。予定よりも帰還が遅いぞ。何処を寄り道していたんだ?」
「ごめんなさい!! ショウトでの用事が諦められなくてギリギリまで粘っていたらこんな時間に!」
「予定報告にあったウーミの新作探しだったな。それでどうなったんだ?」
「それが……」
レオナに経緯を話す。本そのものは存在していたのだけれど、爆撃で瓦礫の下に。店のジーサンと瓦礫の撤去をしていたが見つける事が出来なかった等を。
「それで予定よりも帰還が遅れたのか」
「ごめん。心配かけたよね」
「そうねぇ。だけどきちんとした理由があって、他の人を助けていたのなら仕方ないんじゃないかしら? ねぇレオナ?」
「……はぁ。今後は気を付けるように」
「っ! ありがと! レオナ! ザラ!」
こちらも都合も察して許してくれた二人に対して嬉しさの余り、つい抱きついてしまう。
ザラはぎゅーって抱き返してくれた。ちょっとお酒臭いけど、アルコールの影響か暖かく、何よりも柔らかい!
レオナは少し困り顔になりながらも優しく私の頭を撫でてくれた。孤児院に居る子たちはみんなこうして貰えているのだろうか。少し羨ましい。
二人に抱きついてようやく落ち着いた私にレオナが話しかけて来る。
「そうだ、チカに渡しておきたい物がある」
「私に? 何かあったっけ?」
「何かって今日はチカの大切な誕生日じゃないか」
「あーそういえばそうだった。あれ? でもケイトと一緒に祝ってくれるって話しじゃなかったっけ?」
「お祝いも兼ねた食事会はな。だけど今日はチカの日だ。それはそれ、これはこれだ」
レオナが足元から綺麗に包装された物を取り出す。とても綺麗でキラキラしたやつだ!
「コトブキからチカへの誕生日プレゼントだ。チカ、誕生日おめでとう」
「おめでと! チカ!」
心の底からぎゅーっとした感情が沸いてくる。嬉しくて堪らなくて我慢が出来ない程に。
再び二人に抱きつきたくなる衝動を抑えてプレゼントを受け取る。嬉しいけれど泣いちゃダメだ! もうちょっと我慢! 我慢!
きちんとお礼を言わないと! チト兄に怒られちゃうもんね!
「ありがとう! 大切にするね!」
やっぱりレオナ以外の元で働くなんて想像できない! 私はようやく自分の居場所を見つけられたんだ!