荒野の空、イジツの片隅、ユーハングの情景 作:星1頭ドードー
ベッドで寝ているケイトの寝息を聴きながら改めて情報を整理する。
今日の出来事も含めて書き留めていく新しいノートは、今まで書いていた内容に比べてみると日誌のような感覚を覚える。
元々、手元に置いてあったノートは残念な事に自由博愛連合の手の者によって盗まれてしまった。
あの場に遭遇して頭を撃ち抜かれていたかもしれない未来に比べれば、一からノートを書き直すのはそれほど苦ではない。
情報は全て頭の中に残っているからね。
"穴"
イジツに住む者達の生活を一変させた"ユーハング"との出会いの始まり。
彼等から与えられた恩威は、良いもの悪いものと様々であった。
いや、この恩威を正しく使えていれば、イジツにとってこれ以上ない良いものであり、悪いものなど無かったかもしれない。
彼等が何を言うわけでもなく去って行った後、残されたものの為にイジツでは長きに渡る争いが発生した。
幾つもの小競り合いと、一つの大きな争い。
数年後、再び起きてしまうのだけど、そこは誰しも知っていることだから割合しよう。
過去と現在の情報を組み込んで計算をしても、実際に"穴"が開くタイミングや場所は未だにちぐはぐとしている。
的中率であれば、なかなかの結果を残していると思うのだけど、やや物足りなさを感じている。
それもそのはず。的中させたところでじっくりと観察する機会がいままでなかったからね。
だからこそ、再び"穴"が開くタイミングを計算して好きなだけ観察する事が、当面の目標かな。
ふとした瞬間、ケイトから質問された内容を思い出す。
『"ユーハング"に行きたい?』
質問に答えたあの時の思いは、現在も変わらず僕の中で残っている。
それでも不思議とケイトの言葉を思い出すという事は、僕にも何か変化が起きているのかもしれない。
「仮に"ユーハング"に行けたとしても、必ずしもイジツから去って行った理由が分かるとは限らないのにね」
でも、丁度いい機会だ。
普段の僕であれば、こういった方向からの考え方はなかなか発生しない。
依存の知識や計算から離れた場所から考えてみるのも良い刺激になるだろう。
"穴"は何故現れたのか、そして閉じていくのだろうか。
もし、ラハマやイケスカの上空に現れたサイズの"穴"であれば、爆破させずに残せたのならば、形を維持したままイジツに残り続けていたか。
"穴"はどういう原理で発生するのだろう。
定番とも言える考え方をすれば、現在の僕らでは観測出来ない何か大きな力と力がぶつかり合うことで発生した歪みが"穴"と呼ばれ始めたのか。
爆薬という力で消し飛ばせるのが分かった以上は、意外と馬鹿には出来ない考えである。
そうなると"穴"を発生させる力とは一体何だろう?
存在も分からないものに対して思考を巡らせていると、僕の耳にケイトの寝言が届く。
「は……るぐ……んど」
「おや、知らない間に食いしん坊さんになっていたのかな」
再びケイトに身体を向けて腕を伸ばし、頭を優しく撫でる。
夢で美味しい物でも食べているのかな? 僕もご相伴に授かりたいものだ。
無防備で可愛らしい寝顔を魅せてくれる最愛の家族。
「最愛かぁ、物語の中の出来事だと愛の力なんてものもあるけど……」
ケイトではないけれど、あまりに非現実的すぎる。
愛の力で"穴"が開くだなんて流石に考えが飛びすぎだと思う。
けど、先程そういう方向から考えてみようと決めたのは僕だ。
「愛、愛情、慈愛に親愛と」
ケイトの頭を撫でながら、片方の手では思いついた単語をノートに記載していく。
朧気ながらに浮かび上がるのは、人や物に対して何かしらの繋がりを意味している言葉であること。
次はそこを重点に置いて言葉を探し始める。
「友情、親友、仲間に団結と絆かなぁ」
僕自身も関係が多いとは言えない項目。
頭に浮かび上がる言葉は、定番なものしか出てこない。
これではケイトに何かを言える資格は無いなぁ。
苦笑いをしながらも模索していく中で、僕はもう一つの繋がりを見つける。
"ソレ"はとても簡素であるが、人にとって大切なものである事に間違いない。
ただ"ソレ"によって突き動かされた結果、正しい行いであったかどうかは人による。
「願望、欲望、希望、想望」
思えば、イジツは長きに渡り"ソレ"に従い人々が争っていた。
それだけではない。イサオも僕も、現在もイジツに存在する多くの人々が抱いていること。
「願い、欲、希、想い」
僕が考えるに、"ソレ"は人々の"想い"ではないだろうか。
"ユーハング"との出会いが、イジツを一変させ、"ユーハング"が立ち去った後は、残された彼等の痕跡を一つでも多く受け取りたく願い、欲望のままに行動に移す。
長きに渡り一方的な片想いが続き、勝ち取った者も、敗れた者も、いつしか再び"ユーハング"を求めて希望を唱え始める。
それは人々により多種多彩な在り方であったことから"想い"による力は分散され、時間も、場所も、位置さえも分からないまま歪な力となってイジツに"穴"が開く。
一方的な片想いによって開かれた歪な"穴"は、イジツに物だけを与えていく。
人々がそれぞれ求めているものを与えること無く消えていく。
「きっと、今度はこちらから会いに行くのが礼儀なんだろうね」
ラハマとイケスカの上空に現れた"穴"は、もしかしたら両想いになれた最後のチャンスだったのかもしれない。
どちらもイジツの人達による平和の在り方について食い違いが発生した結果、こちらから消し飛ばしてしまったけど。
知識や計算を置き去りにして、感情の赴くままに思考をすると、こういう内容が浮き上がるものなんだね。
僕自身も驚きの物語が出来上がってしまい、自然と笑みが零れる。
寝ているケイトに伝えたらどんな表情をするのだろうか。
辛辣な言葉を返してくるが目に浮かぶのだが、もしかしたら今までとは違う反応を見せてくれるかも? という期待も隠せない。
反応が楽しみだ。
例え、物語にしか過ぎない考え方であったとしても。
それでも、再び僕らの想いが"ユーハング"の人達に伝わり、あの"穴"が現れることを所望してやまない。