荒野の空、イジツの片隅、ユーハングの情景 作:星1頭ドードー
生まれた時から僕は、全てを手にしていた。
何一つ不自由なく育った僕は、ただひたすらに自分の才能を伸ばすことに力を注いでいた。
手にしたこの力を何に使えばいいのか、そんなことすら考えず、ただひたすらに。
周りの大人達は僕のことを天才だと言うけれど、それすら当然のように受け止めていた。
だって、本当にそうだったから。
僕は何でもできた。何をやっても一番になれた。
みんなが出来るようなことは、僕にとっては簡単すぎてつまらなかった。
だから、もっと難しいことができるように、もっと高いところを目指して、誰も僕を掴む事が出来ないところまで、僕は飛んでいくんだ。
そして、いつかこの世界を、ひっくり返す。
僕の夢見た世界にするために。
それが、僕の役目なんだって思っていた。
ブユウ商事の会長室にある大きな窓から、青空を見上げる。
今日もいい天気だ。
「待つのは退屈だねえ」
「彼等がイケスカに到着するまでには、まだ時間がございます」
「まっ、そうなんだけどね」
「……イサオ様」
「わかってるよ。こんな風に窓の外を眺めていても何も始まらないってことはさ」
「では、何か?」
「別に? ちょっと気になっただけだよ」
「……」
執事に視線を向けると、彼は小さく首を振った。
確かに、僕がこんなことを言うのは珍しいかもしれない。
だけど、たまにこうなることがあるのだ。
ふとした瞬間に、どうしようもなく胸の奥底がざわつく時がある。
その感情を、僕は知っている。
「まったく。もう勝負は決まったのに、まだやるのかな」
「悪しき根性論ですな」
「死に急いじゃダメだよねえ」
でも、それが彼等の仕事だし、仕方がないとは思うけど。
それにしても、随分と嫌われているみたいだ。
僕達、自由博愛連合の邪魔をしてくる連中、反イケスカ連合。
その中心にいる、オウニ商会とコトブキ飛行隊。
リノウチ大空戦で助けた子が、恩を仇で返しにやってくるとはねえ。
「例え彼等の狙いがイケスカに開く『穴』だとしても、僕の計画に支障はないから構わないんだけどさ」
「左様でございます。形勢はこちらが圧倒的有利、今更、彼等に出来ることなどありません」
「まっ、ここで連中を完璧に潰せば、僕に歯向かう様なバカな奴等もいなくなるでしょ」
「はい」
「そして、イジツを制するのは、この僕だ」
「ええ、イサオ様ならば、必ずや成し遂げられるでしょう」
執事の言う通り、僕がこのまま空を眺めていても、事は済む。
だが、僕抜きで、再びあの楽しい空戦を起こされるのも癪に障る。
「……やっぱり、面白くないよね」
「イサオ様」
「出撃したーいなっ」
僕の言葉を聞いた執事は、表情を変える事無く口を開く。
「改修に時間が必要でございます」
「仕方ないねえ、とりあえず時間稼ぎ?」
執事の答えに、僕は溜息をつく。
僕は、幼い頃からずっと、空が好きだった。
風を切り、雲を突き抜けて、どこまでも高く飛んで行く。
そこには、何にも縛られない自由な世界が広がっている、そんな空に憧れた。
そして、僕の邪魔をしようとする奴等を、空から消し去る時の胸の高鳴りを知った時は、今まで感じたことのない感情が沸き上がってきた。
僕は、生まれて初めて、自由を手に入れたんだと。
僕の思い描いた理想の世界にする為に、邪魔なものは全て消してしまえばいい。
『穴』を手に入れ、僕がこの世界を自由で満ち溢れた素晴らしい世界にするんだ。
僕は、この世界で誰よりも優れた存在でなければならない。
僕よりも優れている人間なんて、この世に存在してはいけない。
僕が一番じゃないと意味が無いんだよ。
僕は、この世界の主役なんだから。
「それじゃ、始めようか!」