荒野の空、イジツの片隅、ユーハングの情景   作:星1頭ドードー

34 / 131
いい推しの日[イサオさん]

生まれた時から僕は、全てを手にしていた。

何一つ不自由なく育った僕は、ただひたすらに自分の才能を伸ばすことに力を注いでいた。

手にしたこの力を何に使えばいいのか、そんなことすら考えず、ただひたすらに。

周りの大人達は僕のことを天才だと言うけれど、それすら当然のように受け止めていた。

だって、本当にそうだったから。

僕は何でもできた。何をやっても一番になれた。

みんなが出来るようなことは、僕にとっては簡単すぎてつまらなかった。

だから、もっと難しいことができるように、もっと高いところを目指して、誰も僕を掴む事が出来ないところまで、僕は飛んでいくんだ。

そして、いつかこの世界を、ひっくり返す。

僕の夢見た世界にするために。

それが、僕の役目なんだって思っていた。

 

 

ブユウ商事の会長室にある大きな窓から、青空を見上げる。

今日もいい天気だ。

 

「待つのは退屈だねえ」

「彼等がイケスカに到着するまでには、まだ時間がございます」

「まっ、そうなんだけどね」

「……イサオ様」

「わかってるよ。こんな風に窓の外を眺めていても何も始まらないってことはさ」

「では、何か?」

「別に? ちょっと気になっただけだよ」

「……」

 

執事に視線を向けると、彼は小さく首を振った。

確かに、僕がこんなことを言うのは珍しいかもしれない。

だけど、たまにこうなることがあるのだ。

ふとした瞬間に、どうしようもなく胸の奥底がざわつく時がある。

その感情を、僕は知っている。

 

「まったく。もう勝負は決まったのに、まだやるのかな」

「悪しき根性論ですな」

「死に急いじゃダメだよねえ」

 

でも、それが彼等の仕事だし、仕方がないとは思うけど。

それにしても、随分と嫌われているみたいだ。

僕達、自由博愛連合の邪魔をしてくる連中、反イケスカ連合。

その中心にいる、オウニ商会とコトブキ飛行隊。

リノウチ大空戦で助けた子が、恩を仇で返しにやってくるとはねえ。

 

「例え彼等の狙いがイケスカに開く『穴』だとしても、僕の計画に支障はないから構わないんだけどさ」

「左様でございます。形勢はこちらが圧倒的有利、今更、彼等に出来ることなどありません」

「まっ、ここで連中を完璧に潰せば、僕に歯向かう様なバカな奴等もいなくなるでしょ」

「はい」

「そして、イジツを制するのは、この僕だ」

「ええ、イサオ様ならば、必ずや成し遂げられるでしょう」

 

執事の言う通り、僕がこのまま空を眺めていても、事は済む。

だが、僕抜きで、再びあの楽しい空戦を起こされるのも癪に障る。

 

「……やっぱり、面白くないよね」

「イサオ様」

「出撃したーいなっ」

 

僕の言葉を聞いた執事は、表情を変える事無く口を開く。

 

「改修に時間が必要でございます」

「仕方ないねえ、とりあえず時間稼ぎ?」

 

執事の答えに、僕は溜息をつく。

 

 

僕は、幼い頃からずっと、空が好きだった。

風を切り、雲を突き抜けて、どこまでも高く飛んで行く。

そこには、何にも縛られない自由な世界が広がっている、そんな空に憧れた。

そして、僕の邪魔をしようとする奴等を、空から消し去る時の胸の高鳴りを知った時は、今まで感じたことのない感情が沸き上がってきた。

僕は、生まれて初めて、自由を手に入れたんだと。

 

僕の思い描いた理想の世界にする為に、邪魔なものは全て消してしまえばいい。

『穴』を手に入れ、僕がこの世界を自由で満ち溢れた素晴らしい世界にするんだ。

僕は、この世界で誰よりも優れた存在でなければならない。

僕よりも優れている人間なんて、この世に存在してはいけない。

僕が一番じゃないと意味が無いんだよ。

僕は、この世界の主役なんだから。

 

「それじゃ、始めようか!」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告