荒野の空、イジツの片隅、ユーハングの情景   作:星1頭ドードー

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荒野のコトブキ飛行隊 後編

 ──―富嶽製造工場

 イケスカとアレシマの間にある山岳地帯に建設されたこの場所は、富嶽を組み立てるための工場と、飛行訓練のための飛行場が併設されている。

 周辺には、あの戦いで撃ち落された戦闘機などが今も放置されたままだ。

 私の目に映る巨大な格納庫には、富嶽が存在し、出撃準備が行われている最中であった。

 機体の整備を担当する整備員たちが慌ただしく動き回り、燃料の補給などに追われている。

 その様子を眺めていると、横から私に声をかけてる女性がいる。

 

「お疲れ様です。今よろしいでしょうか?」

「ああ、かまわない」

「良かった。予定通り、私達アレシマ市立飛行警備隊の警護はこちらまでとなっております。以降はイケスカ空軍へ引継がれます。書面共々、間違いが無ければこちらにサインを」

「わかった。……問題ない。これで良いか?」

「はい。確認いたしました。ご協力に感謝します」

 

 そう言い、女性はこちらに敬礼をする。

 

「私達は用心棒だ。そこまで丁寧な扱いをされると困るよ」

「申し訳ありません。つい癖でして……」

 

 彼女は苦笑いをしながら謝っている。

 

「コトブキ飛行隊といえば、イジツで名の通った飛行隊。その隊長とお聞きしておりましたので、もっと怖い方なのかと思っておりましたが、優しい方だったのですね」

「買いかぶらないでくれ。私達なんてまだまだだよ。それより、今日は本当にすまなかったな。ここまで送ってくれただけでなく護衛までしてくれるとは思わなかったよ」

「いえ、これも仕事のうちですから。それでも不思議なものですね。私達が共に同じ空を飛ぶ事になるなんて。少し前までは考えられませんでした」

 

 彼女の言うとおり、私も彼女も、こうして肩を並べて空を見ているのが不思議に感じる時がある。

 

「あの時はまさかこうなるとは思っていなかったが、今は感謝しているよ」

「私もですよ。ただ、これからどうされるのですか?」

「私達は私達に出来る事をやるさ。君たちは?」

「同じです。自分達に出来る事を。アレシマの空を守るのが私達の役目ですから」

 

 そう言って、彼女は微笑む。

 

「そうか、ではお互い頑張ろう」

「はい!」

 

 私も彼女に釣られて笑う。

 だが、それも束の間、彼女が所持している無線から連絡が入る。

 

『隊長、離陸の準備が完了しました。いつでもいけます』

「わかった。直ぐ行く」

 

 無線機を切り、彼女は再び目の前にいる私に顔を向ける。

 

「申し訳ございません。もう少しゆっくりと話しをしていたかったのですが、出発の時間が来てしまったようです」

「気にしないでくれ。こちらも引き止めてしまい悪かった」

「とんでもない! お暇な時がありましたら、我がアレシマ市立飛行警備隊をお尋ねください。歓迎しますよ!」

「ありがとう。その時はお世話になるよ」

「ええ、是非!」

 

 私も彼女も互いに手を差し出し握手を交わす。

 彼女が立ち去ると同時に、滑走路に飛燕の姿が現れる。

 ハ四〇の発動音が夜明け前のイジツに鳴り響き、その音と共に、機体が地上から離れていくのが見える。

 飛び立つ機体を見送りながら、私は一人呟く。

「私も、私に出来ることをやるとするか」

 

 

 私の案内に従い、ユーリア議員、マダム・ルゥルゥ、コトブキ飛行隊の皆様が、富嶽の前に姿を現す。

「こちらが、今回護衛をして頂く富嶽でございます」

 

 私は機体の方へと歩みを進める。

 

「相変わらず馬鹿みたいデカいわね」

「こんな物を作り上げて飛ばしたのだから、イサオの執念は恐ろしいわね」

「あの時は、よく撃ち落せたものだ……」

 

 富嶽を間近で見て、それぞれが感想を述べているのが聞こえてくる。

 私も初めて聞かされた時は驚き、そして呆れたものだ。

 

「出発までまだ時間がございます。お約束通り、隅から隅までお調べ下さい」

 

 此度の富嶽は、弾や爆弾を搭載せず飛行する。

 とはいえ、我々の言葉だけで信用して頂く程の時間もある訳もなく、それならば当人達に確認をさせた方が早い。

 私の言葉を皮切りに、コトブキ飛行隊の皆様は興味深そうに富嶽を調べ始めましたが……。

 

「お二方は宜しいのでしょうか?」

「私が見て分かる訳ないでしょう? コトブキに任せておけばいいのよ」

「護衛を務めるのは彼女達。ここまで来て私達がするべき事は無いわ」

「彼女らを信頼されているのですな。よろしい事です」

「そういう貴方は、イサオの執事として、何か思う所はないのかしら?」

「無いと言えば嘘になりましょう。しかし、それは私個人の思いでございます。些細な事で支障を来たしてはなりませぬ」

「……随分と変わった人ね」

「変わり者でなければイサオ様の執事は務まりません」

 

 私はそう答え、笑みを浮かべる。

 

「貴方も大概よね。それでいて忠実でもあるんだから」

「恐れ入ります」

「褒めていないんだけど……。まあいいわ」

 

 ユーリア議員は溜息をつき、その様子をマダムルゥルゥが苦笑いしている。

 そうしている間に、こちらへ近づいてくるレオナ様の姿が見える。

 

「マダム、ユーリア議員。こちらでも調べた限り、執事の言う通り弾薬や爆弾の存在は確認出来ません。非武装の状態である事に間違いはないのですが……」

「どうしたの、歯切れが悪いじゃない」

 

 レオナ様は少し考え込んだ後、口を開く。

 

「爆弾倉に妙な物が設置されています。あれは一体なんでしょうか?」

 

 視線がこちらへと集中する。無理もないでしょうな。

 

「今回の任務に必要不可欠な物。で、ご納得して頂けますでしょうか」

「無理ね、さっさと吐きなさい」

「では、ここにいる御三方にはお伝えしておきます」

 

 私はそう言い、富嶽に設置してある物についてお伝えする事を決めた。

 

 

 大気が震え、巨大な飛行機がゆっくりと大地を移動し始める。

 私はルゥルゥと遠巻きに富嶽を見つめていた。

 主翼と胴体には、忌々しい自由博愛連合のマーク。そして尾翼にはサクラの花弁が。

 

「何度見ても、この光景は信じられないものね」

「私もそう思うわ」

「あら、ルゥルゥも?」

「当たり前よ。この間まで争っていた相手ですもの」

「確かにね」

 

 私とルゥルゥはお互い顔を合わせて笑う。

 夜明け前のイジツの空は青く澄み渡り、風も穏やかだ。

 

「ねえ、ルゥルゥ」

「何かしら?」

「これで僅かでもイジツは良い方向に向くのかしら?」

「さあ?」

「そこは『そうね』って言ってくれてもいいんじゃないかしら?」

「そうだったわね。ごめんなさい」

 

 ルゥルゥはクスリと笑う。

 全く、こっちは真面目に聞いてるのに。昔からこうなんだから。

 

「そんな顔をしないで、冗談よ」

「分かってるけど、もう少し言い方があると思うの」

「私にその手の気の利いた台詞を期待しても無駄よ」

「知ってるわよ」

 

 私達は肩をすくめ合う。

 

「でも、これだけは言えるわ」

「何かしら?」

「貴女がイジツの未来を憂いているように、イジツに住む人達も自分達の将来に不安を持っている。それが今、こうして私達の目の前にある光景だと思うの」

「……ありがとう」

「礼を言う必要なんて無いわ。これは私が自分で決めた事なのだから」

 

 彼女は微笑む。

 私は彼女の隣に立ち、同じ景色を見る事しか出来ないけれど、それでも出来る事があるはず。

 今は、ただ祈るしかないのだけれども。

 

「それよりも、夢見人である貴女ならイケスカで起きる光景を目にしたいのではなくて?」

「アレを聞かされた後に、私も連れて行けだなんて言える訳ないでしょう?」

「誰も揶揄ったりはしないわよ?」

「私が恥ずかしいのよ!」

 

 私は深い溜息をつく。

 

 

 イジツの空を、富嶽と共に飛ぶ。

 徐々に空は明るみを取り戻していく。夜明けまであと少しというところか。

 ふと、遠くに見えてきたのは、巨大な飛行機雲。

 それはまるで、今の私達のように思えた。

 イジツを、これからの未来を明るく照らす道標であるかのように。

 

『こちら管制塔、こちら管制塔、コトブキ飛行隊、聞こえますか? 応答願います』

 

 無線機が鳴っている。

 

「こちらコトブキ飛行隊、隊長のレオナです。感度良好。現在、進路に変更は無し。目的地は変わらず」

『了解。こちらでもレーダーにて捕捉しています。現在のところ敵は確認されておりませんが、くれぐれも注意をお願い致します』

「了解した」

 

 管制塔との通信が切れると同時に、一機の疾風がこちらに近寄ってくる。

 

『敵は確認されていない。か、不思議なものだな、我々はこの空で戦った相手だというのに』

「同感だ」

 

 私は短く答えた。

 だが、不思議と恐怖は感じない。

 それは、お互いに命を懸けて戦い合ったからなのかもしれない。

 少なくとも、私はそう信じたいと思っている。私の隣を飛んでいる疾風のパイロットも同じ思いだろう。

 心地良ささえ感じる沈黙、穏やかな空気の中を、無線が再び鳴り出す。

 

『レーダーに反応あり! 敵機多数!』

 

 緊迫した声が機体内で響く。

 迎撃態勢の指示を出そうとするより先に、疾風のパイロットから無線が飛ぶ。

 

『コトブキ飛行隊はそのまま富嶽と共にイケスカへ向え。ここは我々が対処する』

「何を言っている!?」

 

 思わず叫んでしまった。

 

『作戦の主役は富嶽とコトブキ飛行隊だ。どちらかが欠けた状態でイケスカへ辿り着いても意味は無い』

「しかし……」

『安心しろ。これでもあの戦いで生き延びた者だ。これ以上、言葉は必要か?』

「……分かった。だが、無理はするな」

『そちらこそな』

 

 無線が切れ、疾風が反転し離れていく。

 統率のとれた綺麗な編隊だ。彼等はもしかして……。

 いや、今はそれを考える時ではない。彼らの想いに応える為にも私達はイケスカへ向かわなければ。

 

「全員、敵は味方の疾風に任せる。このまま予定通りイケスカへ向うぞ」

『了解!!』

 

 皆の声を聞きながら、私は操縦桿を握る手に力を入れる。

 

 

 富嶽の窓からイケスカの街並みが見えてきた。

 私の護衛として連れてきたイサオ様の直轄部隊は、前哨戦に駆り出され、コトブキ飛行隊は我々よりも先行して、敵からイケスカの空を守ろうとしてくれている。

 町への被害を最小限に食い止めようとしているのだろう、人気の無さそうな場所を中心に敵機を撃墜する姿は、素晴らしいの一言。

 手筈通り、イケスカ空軍と地上部隊の高射砲は、沈黙を保ったままだ。これでいい。

 

「富嶽、イケスカ上空に差し掛かります」

「よろしい。爆弾倉を開け、装置を起動させろ」

「了解」

 

 私の合図で座席に座っていた者が操作を始める。

 その瞬間、けたたましい音を立てながら装置が稼働し始め、独特の音が鳴り響く。

 徐々に全開へ差し掛かる爆弾倉。

 やがて、その時が来た。

 

「準備、完了しました」

「よろしい。進路そのまま、イケスカ上空を通過せよ」

「了解!」

 

 開かれた富嶽の爆弾倉から地上へと舞い落ちるアレを、自身の目で確認出来ない事が、唯一の不満か。

 

 

 イケスカの管制塔から再び敵の報告が上がる。

 数はそれほどではないが、こちらは護衛対象が存在し、自衛する手段を持たない。

 

「ザラ! エンマとチカを連れて先行してくれ!」

『分かったわ、レオナ』

「ケイトとキリエは、私と共に富嶽の援護を」

『了解!』

「もうじき夜が明ける。朝日には十分注意を!」

 

 編隊を新しく組み直し、敵機に備える。

 前方に見えたのは無数の黒い点。今回の件を嗅ぎつけてきた自由博愛連合の残党か、漁夫の利を狙う空賊だろう。

 いずれにせよ、私達の邪魔をする者達であることに変わりはない。

 ブリーフィングで執事から伝えられた通り、イケスカ空軍と厄介な高射砲は沈黙を保ったままだ。

 これは彼らなりの私たちに対する敬意の表れでもあるのだろう。

 そして、私達もそれを無駄にするつもりもない。

 私達がすべきことは、富嶽を守り、イケスカを守ることだ。

 ザラからの無線でイケスカの防空圏に侵入しつつある多数の敵機を確認する。

 

『敵多数確認! おそらく敵の主力よ』

「数は?」

『ざっと見て十六機以上はいるわね』

「了解した。引き続き、敵の動きに注意を払いつつ、富嶽の進入コースを確保してくれ」

『了解』

 ザラとの通信が切れると同時に、今度はケイトから無線が入る。

『こちらケイト、敵機を視認。距離はおよそ百五十クーリル』

「了解した。私もすぐに行く」

 

 私はスロットルレバーを握りしめ、操縦桿に手を添えた。

 夜明け前の暗い空を切り裂くように翼を煌めかせながら、キリエが向かってくるのが見える。

 

「キリエ、聞こえるか」

『うん!』

「ケイトが先行して敵をかく乱し、相手の編隊を崩す。私とキリエは一機ずつ確実に落とすぞ」

『分かった!』

 キリエが速度を上げるのを確認し、私も機体を前に進める。

『こちらケイト、間もなく敵と接触』

「了解した」

 

 無線機越しに聞こえてくる風切り音の中に混じるプロペラの音。

 ケイトの機体が敵の先頭にいる機体の鼻先をかすめる。

 

『敵、散開』

 

 ケイトの淡々とした報告と同時に、敵機の編隊がバラバラになった。

 

「富嶽へ、これより戦闘を開始する」

『了解した。気をつけてくれ』

「そちらもな」

 

 スロットルを一気に押し込み、機体が軋む音を立てながらも、機体が加速する。

 同時に、照準器が迫りくる敵機の姿を捉える。

 緊張はしない。ただ、いつも通り標的を見据えるだけだ。

 引き金を絞った。

 高速で撃ち出されたそれは瞬く間に敵機を捉え、飛行能力を失わせる。

 

「次!」

『さっすがレオナ!』

『お見事』

 

 そのまま周囲を見渡すと、味方から逸れた敵にキリエが狙いにかかる。

 発射された弾丸が敵機の主翼を貫いていく。

 

『星ひっとつ!』

『ケイト機、一機撃墜』

 

 キリエは持ち前の空間把握能力を活かし、ケイトは冷静に狙いを定めて敵機を落としていく。

 瞬時に味方を半分失った相手は、逃走を図ろうと機体を反転させ始めた。

 

「深追い無用! このままザラ達の援護に向かう」

『了解!』

 

 私の指示でキリエが機首を返し、ケイトがそれに従う。

 

「管制塔、他に敵機は確認出来るか?」

『コトブキ飛行隊と交戦中の敵以外は確認出来ません。味方部隊の疾風が敵機との交戦を終え、こちらへ合流すると報告があります』

「了解した」

 ザラ達に合流すべく機体を向かわせる中、無線機越しに執事の声が届く。

『ご無事ですかな?』

「問題ない。そちらこそ大丈夫か?」

『おかげ様で。富嶽も無事に進入コースへ突入出来ました。朝日が昇ると同時に開始したいと思います』

「了解した。私達は合流して露払いをしておく」

『ありがとうございます』

 

 執事と連絡を終えた後、キリエが声を挙げる。

 

『結局さ、富嶽は何をしようとしてるの? イケスカ上空を飛行して、はい、お終い。な訳ないよね?』

「答え合わせは、ザラ達と合流して落ちついたら教えるよ」

『むぅー。ケイトは何だと思う?』

『富嶽でなければ行えない事だとケイトは推測する』

『……まっ、すぐに分かるか!』

「そうだな、あと少しだ。私達も急ごう」

 

 

 私達がザラと合流し、残る敵機を相手にしている間にも、味方部隊の疾風が合流すると、相手は踵を返してバラバラに飛び去って行った。

 コトブキ飛行隊は再び編隊を組み直し、富嶽の斜め後方へ位置する。

 

『はいはーい! レオナ! さっきの答え合わせが欲しいでーす!』

『答え合わせ? それって富嶽にあった、よく分かんないヤツ?』

『爆弾倉に設置されていた事から、何かが投下されると考えられる』

『ここまで来て、変な物ではないでしょうね? ザラは何か知っていますの?』

『残念ながら私も知らないわ。知っているのは執事から直接話を聞いた三人だけ、ねーレオナ?』

「あ、あまり怒らないで欲しい、ザラ。直ぐに分かる事だったから!」

『べーつにー、ちょっと拗ねてるだけだからー』

「こ、今度奢らせてもらうよ! 好きなだけ飲んでいいから!」

『その時は付き合ってくれる?』

「勿論、朝まで付き合うよ」

『それじゃ許してあげる! あの太陽に誓ってね!』

 

 ザラの言葉と共にイジツを照らす太陽が現れる。

 それと同時に行われる富嶽からの贈り物。

 

『あれ? 雨とか降ってないよね? 防風に水滴が付くんだけど?』

『あーーーーー!!』

『チカ! 突然大声を揚げてどう致しましたの!?』

『キラキラした何かが富嶽から落ちてる!!』

「許可するから、少し富嶽から距離を離して見てみるといい。それで答えが分かるはずだ」

 

 私がそう伝えると、チカは真っ先に編隊から離れていく。

 チカを追う様にキリエやケイトも富嶽から距離を置き始める。

 

『えっと……。つまり、どういう事なのでしょうか?』

「富嶽の爆弾倉に設置されていたものは、雪を人工的に降らせる装置だったんだ」

『雪って、あの白くてフワフワしたもので合っているわよね?』

「ああ、本来なら自然現象の一つとして発生するものだが、イジツでは温暖な気候の関係上、滅多に見られる現象ではないな」

『それをわざわざ危険を冒してまでイケスカ上空でお披露目ですの? 呆れてものも言えませんわ』

「そこまでしなければ、今のイケスカ市民たちが空を見上げる事が無い程、疲弊しているという事なんだろう」

『確かにそうかもしれませんけど……』

『でもさ、空が綺麗になって良いじゃん! 私は好きだけどなー!』

『同意。硝煙にまみれた空とは比べものにならない』

『私も私も! だけど、すぐに溶けちゃいそうだよね』

「溶けたらまた降らせればいいさ。その時はイケスカ市民が頑張ってくれるだろう」

『一層の事、恒例行事にすれば、楽しみが増えるわね』

「確かに。それも狙いなのかもしれないな」

『まるでラハマにある雷電みたいな扱いですわね。富嶽の整備は大変そうですが、たまにであれば、そう悪くはありませんわね』

「そうだな」

 

 それから暫くの間、私達は降りしきる雪の結晶を眺めていた。

 やがて日が完全に上り始め、機体に陽光が差し始めると、富嶽は徐々に高度を上げていく。

 

『あっ! 雲の切れ目が出来てきた!』

『夜明けの虹って奴だっけ? 始めてみたかも!』

『美しい光景。アレンにもこの景色を見せてあげたい』

「……確かに凄いな。私も初めて見たよ」

 

 私達は日の出を見ながら機体を上昇させ、再び編隊を組む。

 眼下に広がる荒野は、少しずつ緑を取り戻し始めていた。

 

 

 イサオ様。これでようやくイケスカの町を落ち着かせる事が出来そうです。

 あの装置を作る様にと命令された時は、富嶽の時と同じく呆れたものです。

 元は自身の趣味でございました手品の為に作られたと知ったら、彼女らはどの様な顔をされるでしょうな。

 しかし、まだ油断は出来ない状況。我々の行動に反する者がイケスカを襲う機会も増えていくでしょう。

 ですが、ご安心して頂きたい。イサオ様を信じ、着いて来た民達がイケスカを守る事になるでしょう。

 イケスカ動乱と呼ばれた戦により、離れた者もおりますが、イサオ様を慕う者はまだ居ます。

 どうか、その事だけは忘れないで下さい。

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