荒野の空、イジツの片隅、ユーハングの情景 作:星1頭ドードー
──―ジョニーズサルーン
私以外のコトブキ飛行隊のみんなは、休暇を利用して外出中。
私は何時も通り、リリコさんの特製パンケーキに舌鼓を打ちながら幸せに満ち溢れていた。
「うん! 美味い! やっぱりリリコさんお手製のパンケーキが一番!」
「本当に好きね、飽きないのかしら?」
「こんなに美味しい物が飽きる訳ないよ!」
私の返事が何かおかしかったのか、リリコさんは微笑みながらテーブル拭きをしている。
そこへ酒場に向かって走る足音が聞こえた。
「はぁはぁ、やっぱりここにいた」
「フクセン? どったの?」
「ルゥルゥからキリエを呼んでくる様に言われてね。休暇中なのでどこにいるかと思ったら、案の定ここにいたから」
そう言って息を切らせながら近づいてきたのは、羽衣丸副船長のサネアツ。通称フクセンだ。
マダムに頭があがらないし、普段は頼りないフクセンだけど、やる時はやる男……だと思う。全部マダム絡みの時だけなのが玉に瑕だけど。
それでも結構世話になってもいるから、無下にも出来ない相手の一人だ。
「で、なんの用事?」
「ルゥルゥから至急の呼び出しだよ、会いに行ってきてくれるかな?」
「ほーい」
私はパンケーキを口に押し込みつつ立ち上がり、マダムの居る部屋へと向かう。
(いったいなんだろ?)
ノックをして名前を告げると「入ってらっしゃい」と言われ、素直に扉を開く。
そこには、少し豪華な椅子に座りながらキセルを利用して喫煙をしているマダムの姿があった。
「マダム、私の事を呼んでいるってフクセンから聞いてやってきたんだけれど?」
「そうよ。休暇中にごめんなさいね。キリエに仕事の依頼が舞い込んで来たの」
「私に? 名指しで?」
「えぇ、その通り。貴女がコトブキ飛行隊に加入する前に勤めていた、トンボ便からご指名よ」
トンボ便とは、主にラハマ近郊で配達業務を行っている会社だ。
私はコトブキ飛行隊に加入する前はそこで勤めており、仕事をして、生活費を稼ぐようになっていた。
今更、何の用だろう? 喧嘩別れした訳でもないから、変な話では無いと思うんだけれど。
あーでも、赤とんぼの扱い方で整備班と喧嘩した事はあったなぁ。まさかそれ?
「何だろう? 私、何かしたかなぁ?」
「依頼内容だけを聞く限りでは、そういった事ではないわよ」
「うーん……分からん」
腕を組みながら考えてみたが、私には何も思い浮かばない。
そんな姿の私を見ながらマダムが発した言葉は、予想外の答えであった。
「貴女に配達業務を手伝って欲しいそうよ」
「……へ?」
マダムの言葉を聞き、一瞬呆気にとられた後、思わず声が出た。
私はマダムからの勧めもあり、久しぶりに前の職場であるトンボ便の事務所に入る。
懐かしいなぁ、まだそんなに経っていない筈なのに……なんかもの凄く昔の様に感じる。
「おぉ、キリエちゃんじゃないか!? 久しぶり!!」
「いい加減"ちゃん"付けは止めて欲しいんだけど!」
「すまんすまん、つい癖でな」
私がトンボ便の事務所に入って早々、私よりもだいぶ年上の男性が出迎えてくれた。
この人は、確かトンボ便の社長さんだったはず。名前は憶えてないけど。
顔馴染みだからなのか、私の顔を見た途端、嬉しそうな表情をしながら歩み寄ってくる。
それにしても「キリエちゃん」なんて呼ばれたのはいつ以来だろう?
「おっちゃんも元気そうだねー」
軽く挨拶しながら近寄る。すると社長さんも笑顔で返してくれた。
奥にある机を指差されると同時に座れと言われたので大人しく従うと、目の前には私専用の湯飲みが現れる。
まだ残ってたんだ。なんだかむず痒くなるけれど、差し出されたのでありがたく受け取った。
相変わらずお茶の入れ方は雑だけど、まぁいっか。とりあえず熱い緑茶を一口飲むことにした。
「ところでさー、おっちゃんが私に用事があるってマダムから聞いてやってきたんだけれど?」
「それだ! 早速依頼内容の話に移るんだが、キリエちゃんに頼みたい配達があってな」
「マダム相手に特急料金を払ってまで私に頼まなきゃいけない事なの? 結構ふんだくられるよ!」
「おう! 最初に金額を聞いた時は目玉が飛び出るかと思ったがな、事情を説明して本人が納得するなら、融通を利かせてくれるって言ってくれてな!」
「それで直接会って来いって言ったのかぁ」
「そういうことよ」
そういって机に地図を広げるおっちゃん。そこには様々な記述がされており、懐かしさを感じる。
「昔、キリエちゃんに担当してもらった地区があっただろう?」
「結構、メンドクサイ場所を割り振られた記憶があるんだけれど」
「あの頃から、既に赤とんぼの操縦はキリエちゃんが一番だったからなぁ」
「整備の人にはよく怒られてたけどねー」
そう言いながら昔の出来事を思い出す私。
配達先も滑走路もない僻地だったり、突風が吹いてるぐらいじゃ休みにならなかったしなぁ。
「それで、私はどこへ何を運べばいいの?」
「引き受けてくれるのかい?」
「どうせ暇だったし、引き受けるよ」
私の返事を聞き、満面の笑みを浮かべるおっちゃん。
「この地図にも記載されている通り、昔キリエちゃんがよく配達しに行っていた家に数件、送り届けて欲しい物があるんだよ」
そういって地図上に赤いマーカーで書かれた部分をトントン叩くおっちゃん。
その部分を見ると、ラハマからジグザグに遠ざかる配達ルートが記載されている。
(あー、こんな所も配達していたなー)
過去の思い出を辿っている間にも、話は進む。
「それで、配達する物ってなんなのさ?」
「手紙だな。三軒ほど届けて欲しいんだが」
「それだけの為に、マダムに高いお金を払う契約をして私を呼んだわけ? 素直に郵便屋に任せた方がいいって!」
予想通りの反応を見せたと私に対してニヤニヤするおっちゃん。
はぁ、これ絶対仕組まれたパターンだよ……。マダムの入れ知恵かな?
私は呆れたように溜息をつく。
「そんなこと言うなって」
両手を合わせてお願いポーズをするおっちゃん。
「たった三軒の荷物運びのために、わざわざ私を呼びつけたんだよね?」
「キリエちゃんだと安心して頼めるんだよ。昔から赤とんぼを綺麗に飛ばしている姿を見ていたしな。それに届け先はキリエちゃんと面識のある人達だ」
「うぐっ……」
昔の出来事を思い出し、少し恥ずかしくなった私を見て、笑うおっちゃん。
このおっちゃんはいつもこうやって調子の良いことを言うんだから。
「はいはい分かったよ! まったく、おっちゃんはしょうがないなー」
おっしゃあ! と言いたげにガッツポーズを取るおっちゃん。
もう何度目になるかも分からない、おっさんの手玉に乗せられてる気がしてきた。
……まあ、昔から操縦に関しては褒めてくれてたし、今回だけ許してあげよう。
私は気持ちを切り換えることにした。そして再び姿勢を改め直す。
仕事を引き受ける以上は、真面目に対応しないとね。
そんな感じで、あれよあれよという間に出発準備は整った。
目の前には久しぶりに搭乗する、トンボ便の塗装とマークが描かれた赤とんぼ。
配達物も手紙だけという事もあり、積み込みも早く済み、日が真上に差し掛かる前にはラハマの街を出ることができそうだ。
私はコクピットに収まり計器を確認しながら、始動準備を開始し、赤とんぼの心臓部である発動機が静かに振動を始めたのを確認する。
そのままスロットルをゆっくり開けると、赤とんぼが空に羽ばたき、私達の大空を飛び立つ。
眼下に街の景色が見えなくなった辺りで飛行速度を上げて目的地へと目指す。
しばらく飛んでいくと、昔の事を思い出していた。
「そっか、もうあれから何年も経つんだねぇ……」
突然、私の元へ訪れた幼馴染のエンマと共に現れたのは、コトブキ飛行隊のみんな。
彼女達との出会いが切っ掛けで、私の生活が大きく変わったと思う。
単に仕事と割り切って飛んでいたのが、いつの間にか、誰かを守るために飛ぶようになり、今はこうして自分の意思で仲間を大事にするようになっているんだもん。
人生って分かんないものだよね。
今だから思うことだけれど、あの時、手を伸ばしてよかったなと、首元に巻いてあるマフラーに手を当てながらそっと微笑む。
「確かここら辺だった様な……。あったあった」
ぽつんと見える一軒家。上空を赤とんぼで一回りして挨拶代わり。
窓際に人影らしきものが確認できた。
よしよし、問題なさそう。このまま降下を開始してゆっくりと庭先に着陸した赤とんぼから私は降りる。
そして玄関のドアノブを握って勢いよく開けた。
「こんちはー、お届け物でーす」
扉の先ではこの家の主であるおばちゃんが笑顔で待っていた。
「あらぁ、キリエちゃん久しぶりじゃない」
「やっぱり"ちゃん"付けで呼んでくるし」
「だってキリエちゃんの呼び方のほうが可愛いし。ほら、中に入ってお茶でも飲んでいきなさいな」
「いやぁーまだ配達が残っているんだよねぇ」
「そう? 残念だわぁ」
(ホントに全然変わってないなぁ、この人は)
相変わらずな調子の良さを見せてくるおばちゃんに苦笑いしつつ立ち話。
足元にはここの住人である猫が一匹。すり寄ってきたので頭を優しく撫でる。
「今日は何を持ってきてくれたの?」
「手紙だよ。突然、トンボ便の社長に呼び出されて配達してくれって頼まれたんだ。はい、コレ」
私は封筒を差し出す。それを受け取って、早速中身を確認したおばちゃんが嬉しそうに顔を緩ませる。
「どうしたの? なんか良い事でも書いてあった?」
「娘からの手紙で、子供が出来たみたいなのよ!」
「ほぇーおめでとー」
「ありがとう」
満面の笑みを浮かべるおばさんは、嬉しさを隠し切れないのか、私に抱きついてきた。
本当に良かったと思っているのが、体温と共に伝わる。
「元気に生まれて来ますように」
「大丈夫、絶対生まれてくるって」
ただその一言だけを返す。私の言葉なんて気休めにしかならないだろうけど。
おばちゃんに別れを告げ、次の配達先を確認する。
地図によると……うぅ、ここからそう遠くないところだけど、着陸するのがちょっと面倒な場所だ。頑張って行かないと。
そんな風に意気込んで操縦桿を握り、私は赤とんぼの高度を上げた。
しばらく飛び続けている中、前方にラハマとは違う小さな集落の姿が見える。
ただ……あの集落は、私がこの仕事をしていた時よりも、ずっと前から変わらない。
色濃く集落に止まる瘴気。イジツではよく見かける風景の一つ。
(そういえば、次の配達先のおばあちゃんがここに昔住んでいたって言ってたなぁ)
時代の流れと共にイジツも変化していく中で、こういう場所は年々増えていく傾向にあるって、ケイトが言ってたなー。
確かにイジツを空から見た時に、緑っぽい土地が減っているのも分かるような気がする。
ぼんやりと考えつつ私は配達先に向けて飛行を続けた。
赤茶けた地面に、枯れ草が目立つ大地の上を通り過ぎて行き、ようやく目的地に降り立った私は、そこに存在する建物の扉を叩く。
「こんちはー、トンボ便ですー」
すると扉が開いたので手紙を渡すと、住人は驚いた表情をする。
「ああ、キリエちゃんかい。久しぶりだねぇ」
「みんな"ちゃん"付けなのは、どうにかしてほしいなぁ……」
私としては少し困り顔になってしまうんだけど、そんなに笑顔で見つめられると強く否定も出来ない。
「キリエちゃんは、いい意味で変わらなくていいわね。それにしてもキリエちゃんはどうして此処に? 確か用心棒の仕事を始めたと人伝で聞いたのだけれど」
「まさかー、休暇中にトンボ便の社長が仕事を押し付けてきたんだよ」
私の言葉を聞いて、納得という表情を見せるおばあちゃん。
「あまり無理をしては駄目よ。身体を大事にしなさい。女の子なら尚更ね」
「うん、ありがと。気をつけるよ」
少し照れ臭い。優しい言葉を掛けてくれたお礼を伝えた時、視界にふと見覚えのあるモノが映った。
先程、通過した集落の写真だ。
私の視線に気が付いたおばあちゃんが口を開く。
「あの場所は、今も人が住めない環境のまま放置されているの」と寂しげな声で答えた。
「それでも」と言葉を続ける。
「生きている限りは、いつか何か変わるかもしれないって信じているから」
それを聞いた私は、ただ黙ることしか出来なかったのである。
私が赤とんぼで上空へと舞い戻るまで、おばあちゃんは手を振り続けてくれた。
小さく見えなくなるまで、見守ってくれていた姿を思い出す。
……きっと大丈夫だ。何があっても前に進むことを止められない限り、希望はある筈だから。
赤とんぼを操縦しながら私は思う。
(私も頑張らないと)
操縦に乱れが無いことを確認しながら赤とんぼを操り、最後の配達先へと機体を向ける。
そして辿り着いたのは……建物自体が朽ち果てており、今にも倒壊しそうなオバケ屋敷だ。
「相変わらずボロいなー」
「ボロくて悪かったな、嬢ちゃん」
突然背後に響いた声に驚き、振り返るとそこには、頭にタオルを巻き、髭面で作業着を着たおじいちゃんが立っていた。
「出た! オバケ!」
「誰がオバケじゃい」
私の発言に怒ったらしいおじいちゃんは、手に持っていたスコップの先を突きつけてくるので、慌てて謝る。
私を見て「全く変わってないなお前は」と言ってきた。
「今日はどうしたんじゃ? 用心棒はクビにでもなったか?」
「違うし、そもそも私は仕事で来たのっ!」
私は斜めがけバッグから手紙を取り出し、突き出す。
それを素直に受け取るおじいちゃんは「そうなのか?」と疑問の声を上げるも、それ以上追求してこなかった。
(まったくもう……すぐからかってくるんだから)
ため息をついている間にも、手紙に目を通し始めてしまったのを見て、仕方がないから質問することにした
「それで……昔からおじいちゃんはここで何をしているの? 掃除?」
「似た様なもんじゃい。ま、掃除はついでじゃがな」
「ねぇ、おじいちゃんってさ、いつから一人でこんな事をしてんの? ここらへんには誰も住んでいないはずなのに」
その言葉に少し考えた後、こう答えてきた。
「そうさなぁ……嬢ちゃんがまだ生まれる前の頃だったと思うが、わしの知り合いが病になってなぁ。その薬を買う為に借金してな、それから暫くの間はずっと働いていたよ」
遠い過去を思い出したのか、懐かしむような口調で話し、その後で少し顔を曇らせたのが分かった。
それで私は察した。踏み込んではいけない場所に興味本位で足を踏み入れた事を。
「……ごめん、思い出せたくない事、話させちゃったみたい」
「何を言うとるんじゃ? 知り合いの事なら薬のおかげで、今も元気に筋肉を愛しておるし、借金など、とうの昔に返したわい」
「返せ! 私の気遣いかえせぇ!!」
思わずツッコミを入れてしまい、頭を抱える。
私の様子を見ながら、おじいちゃんが笑っているのが気配でわかった。
「この手紙もソイツからのモノじゃったわい。礼を言うぞ。ほれ、これで機嫌を治せ」
渡された袋の中に入っていたのは、小さなパンケーキ! やった!
受け取ったパンケーキに目を輝かせている私を見ながら、再び微笑みかけるおじいちゃん。
私もつられて笑顔になり、早速パンケーキを頬張った。
その場でパンケーキを完食した私は「ごちそーさま」とお礼を伝えると「おお、いい食いっぷりだのぅ」と笑顔を浮かべているおじいちゃん。
「嬢ちゃんはやっぱり子供っぽいな。初めて会った時も同じような感じでパンケーキを食べとったのぉ」
「うっさい! 私だってイロイロと成長してるんだから! それに私には『キリエ』って名前があるんだから!」
「それも最初の頃からずっと言っとったな」
「そうだよ! 何度も言うよ! これからは『嬢ちゃん』とか呼ぶの禁止ね!!」
「分かった分かった。次からは気をつけるわい、キリエちゃん」
ニヤニヤとした顔をするおじいちゃん。絶対反省してないし、わかってる上でやってる。
そうでなければ、毎回、私の好物であるパンケーキを寄越したりしない筈だからだ。
これ以上、相手にしていても時間の無駄になると思い直し「そろそろ行くね」と伝えて立ち去ろうとする私に向かって、おじいちゃんが声をかけてきた。
それは「気をつけていくんだよ」という言葉だった。
「うへぁー疲れた……」
今日の最後の配達を終え、太陽は既に地平線に沈みかけており、薄暗い空が広がっている。
飛行帽のおかげで寒さは問題無いけれど、一日中ゴーグルを着けていたから跡が残ってるんだろうなー。
(早く帰ってシャワー浴びたい……)
赤とんぼを操縦しながらそんなことを考えつつ、飛行ルートを再確認。
異常なし。このまま行けばそろそろラハマが見えてくるはずだ。操縦席から見える景色に目を移す。
夕陽によって照らされる雲の海。空に舞う赤とんぼの影は、とても綺麗だ。
無事に辿り着いたラハマの町に足を踏み入れる。
駐機場に赤とんぼを停めて、整備士さん達に声をかけてから事務所へと向かう。
ドアを開けると、朝に見た光景とはまるで違い、大賑わいになっていた事務室の様子に驚かされ、唖然としてしまう。
「お帰り、キリエ」
「うえぇ!? みんな、どうしてここに居るの!?」
驚いている私を他所に、声をかけるレオナ。
「あなたが帰ってくるのが遅いから、みんな心配していたのよ」
「ごめん、ザラ。そこのおっちゃんが全部悪い」
私に指を差されたおっちゃんは「なんのことかな?」と惚けた様子を見せている。
「キリエ、人を指差してはいけませんわよ」
呆れた表情のエンマと、怒られた私を笑うチカの姿。
「怒られてやんのー!」
「ぐぬぬ、うっさい!」
騒がしい中、適当な椅子に座ると机の上に私専用の湯飲みが現れる。
「……ケイト、何してんの?」
「見ての通り、お茶を用意してきた。身体を冷やしたままでは悪影響が出る」
ケイトはお茶を乗せていたトレーを抱えながら、そう答える。
「あ、ありがと」
ケイトの用意してくれたお茶を一口飲む。うん、美味しい。
私がお茶を飲み終わるまでの間、ケイトはじっと見つめてきている。
なんだか落ち着かないんだけど……。
「キリエ、何か忘れてはいないか?」
ケイトの言葉に首を傾げながらも考えてみるけど、特に思い当たる節が無い。
「え、何かあったっけ? ……あっ」
そこでようやく思い出す。
「ただいま!」
『お帰りなさい、キリエ』
お互いの顔を見て笑い合う私達。こうして、今日も私の一日が過ぎていく。
「って間違ってないけど! そうじゃないでしょ! 今日はキリエの誕生日を祝う日だろ!?」
チカのツッコミに周りは「はっ」とする。
「そういえばそうだったわね」
「すっかり忘れていましたわ」
ザラもエンマもあからさま態度で私を見ていない。
レオナは目を瞑り、ケイトに至っては無表情を貫き通している。あ、ちょっと口の端が震えた。
これは間違いなく笑ってる顔だよ、コレ!
「からかうのもそれぐらいにしてやりな。キリエちゃんは純情なんだから」
「ねぇ? 焦った? 焦ったっしょ? キリエ!」
おっちゃんのフォローにもならない言葉に、ニタニタした顔で近づいてくるチカの表情が、これまた憎らしい。
手を前に出してチカと威嚇し合っていた時、レオナが咳払いをして言葉を発する。
「冗談はこれぐらいにしておいて。そろそろお暇させてもらおう。私達がいては仕事の邪魔になってしまうからな」
レオナに促されて、席を立つ一同。
おっちゃんから「仕事じゃない時でも気軽に立ち寄ってくれ」との言葉を貰い、手を振って別れた。
先頭を歩くレオナとザラを追う様についていく、ラハマの街並み。
人工の灯りに混じる夜景はとても美しくて、見ていて飽きる事はない。
六人で見るその景色は特別で、いつまでも見ていたくなる程に素敵だと思う。
その時、歩みを止めたレオナがこちらに振り返る。
「どしたの? レオナ?」
「さっきの様に誤解させてしまったら悪いから、今の内に伝えておこうと思ってな」
「あら、ここで伝えるの? レオナも心配性なんだから」
「大事な事だろう? こういった事は」
「そうですわね。一人、キリエの事となると心配性になる方もおりますことですし」
エンマの視線の先には、チカの慌てた姿があった。
「し、心配なんかしてないし! ちょっと遅いなーとは思ったけど!」
「ツンデレ」
「……ケイト、どこでそんな言葉を覚えてきたの?」
「海のウーミに書かれていた。普段はそっけない態度をしているが、きっかけ一つで好意的な態度に変化する……」
「それ以上は説明しなくていいから!!」
恥ずかしさに顔を赤らめるチカ。可愛いやつめ!
それを眺める私達という図は、もう珍しくない光景になりつつある。
「はいはい、話が逸れていってるわよ」
ザラが軽く手を叩いて二人の間に割り込む。
そして、本題に戻る為に必要な一言を口にするのは、決まってレオナである。
「折角だ、同時に伝えるとしようか」
全員が賛成すると、レオナが口を開く。
私は少しだけ緊張しながらも、その言葉を受け止め、返事をする覚悟を決めている。
『キリエ、誕生日おめでとう!!』
「ありがと! みんな!」
これから先も、ずっとみんなと一緒なら良いなって、心の底から思う。