荒野の空、イジツの片隅、ユーハングの情景 作:星1頭ドードー
再び目が覚めた私は、自身の身体の軽さを実感できる程、体調が良くなっていた。
寝起きの気怠さが消え去り、熱も嘘のように引いており、身体が軽い。
カーテンの隙間から差し込む灯に照らされながら上半身を起こすと、傍らに座っていたザラと視線が交わる。
「おはよう、レオナ」
「おはよう、ザラ」
挨拶を交わすと、自然と顔が綻ぶ。
彼女も笑顔を見せて、互いの体温を感じ合うようにそっと私を抱きしめてくれた。
「熱も下がってすっかり良くなったみたいね」
「ああ、ザラのおかげだよ」
「ううん、そんなこと無いわ。レオナが頑張った証拠よ」
「そうか……。ザラ、本当に感謝している。君が居なければ、今頃大変なことになっていたかもしれない」
「ふふっ、大袈裟ね」
「いや、決して大袈裟なんかじゃないさ。実際、ザラには迷惑をかけたと思っている」
「あら? 私は迷惑だと思ったことはないわよ」
「本当か?」
「もちろん」
「なら良かったのだが……。忙しい時期だというのに、看病まで付き合わせてしまったから」
「気にしないで。好きでやっていたことだから」
「ありがとう、ザラ。今度、何か礼をさせて欲しい」
「もう、こういう時まで律儀なんだから」
ザラは苦笑いしながら私の頬に触れる。柔らかな手の温度が心地良い。
「……じゃあ、一つお願いがあるんだけど」
「何でも言ってくれ。可能な限り応えるよ」
「そこまで深刻に考えなくていいわ。簡単なお願い事よ」
「簡単なお願い事?」
「みんなに元気な姿を見せてあげてちょうだい。きっと喜ぶと思うの」
「わかった。すぐに向かうとしよう」
私はベッドから抜け出すと、いつもの服装に手を伸ばす。
ほんの僅か着ていなかっただけなのに、随分久しぶりに感じるのは何故だろうか。
着せてもらった寝間着を脱ぎ、身体を拭き、下着を取り替える。
服を手に取り、袖を通し、ベルトを締める。
それから部屋に置かれてある鏡で、髪を上げ、自分の姿を確認することにした。そこには見慣れた私の顔が映っている。
「ザラ、変な所が無いか確認してくれるか?」
私が言うと、ザラは微笑みを浮かべながら、言葉を発する。
「大丈夫よ。いつものレオナの姿が映っているわ」
「ザラが言うなら間違いないな」
「この時間ならみんな酒場に居るはずよ。私も支度が整ったら向かうから、先に行って顔を見せてあげてちょうだい」
「ああ、分かったよ。それでは行ってくる」
扉を開いて廊下に出る。皆に心配をかけていたことを詫びなければならない。
部屋を出て数分、私はジョニーズサルーンの入り口に到着した。
扉を開けようと、手で触れた時、皆の声が僅かに耳に入る。
『レオナ、大丈夫かなぁ』
『お見舞いしたくても、ザラに止められちゃったから分かんないんだよね』
『だからと言って、病人に対して大人数で押し寄せては、治るものも治りませんわ』
『傍にザラが付いてる。心配ない』
『……そうだよね。早く元気になるといいな!』
そんな会話を耳にしてしまい、私は嬉しさの余り、胸が熱くなる。
皆が私を心配していてくれた。その事実が堪らなく嬉しくなり、思わず笑みが零れてしまう。
このまま耳を立てているのは、皆に対して失礼だ。思い切って扉を開け、中へ入ることにした。
店内に入ると一斉にこちらに視線が集まるが、驚いた顔が次第に笑顔へ花咲く。
「レオナ!」
真っ先に声をかけて来たのは、チカだった。彼女は椅子から立ち上がり、小走りに駆け寄ってきた。
「もう平気なの?」
「ああ、すっかり良くなったよ。心配かけたな」
「よかった! ザラがずっと看病していてレオナに会わせてもらえなかったんだ!」
「すまない。うつしたら大変だからな、許してあげて欲しい」
「もちろん!」
笑顔のチカに手を掴まれ、私の所定位置である場所まで連れられ、座らせてもらった。
「具合悪かった原因ってなんだったの?」
「どうやら仕事の疲れが出ていたらしいんだ」
「まあ、確かに最近は忙しい日々ではありましたわね。疲労が表に出てしまうのも仕方ないことかと」
「だが、しっかり休んだおかげでもっと頑張れる気がするんだ」
「それ、ザラに聞かれたら怒られなくない?」
「……キリエの言う通りかもしれない」
「でも、元気になってくれて安心しましたわ。無理は禁物ですよ」
「ああ、肝に命じておくよ。ありがとう、エンマ」
「レオナ、パンケーキ食べる?」
「そうだな、たまには頂こう」
キリエが食べていたパンケーキをお裾分けしてくれた。朝からよく甘い物を食べられるなと思っていたが、意外と悪くない。
「美味しいな、キリエ」
「えへへ、そうでしょう? そうでしょう?」
自分の好物を分け与えてくれたにも関わらず、嬉しそうに笑うキリエ。
彼女の笑顔を見ているだけで、こっちも自然と口元が緩んでしまう。
「食欲があるのならば、体力が一定値まで回復した証拠。ケイトは安堵した」
「私もケイトと同意見ですわ。まだ油断はできませんが、峠は越えたのでしょう」
ケイトの言葉に同意するように、エンマも相槌を打つ。
本当に優しい子達だ。こんなにも気遣ってもらえて嬉しい限りだよ。
「レオナ、今日も休みにしてもらった方がいいんじゃないの?」
チカが私を気遣ってそう伝えてくる。
「いや、そういう訳にはいかない。体調管理もできないようでは、コトブキ飛行隊の……」
私が言葉を続けようとしていたところ、視線の先には腕を組んでこちらを睨むザラの姿。
「レオナ、何か言いたいことでもあるのかしら?」
「いえ、なんでもありません」
「よろしい。それじゃ、本日もマダムから休暇を頂くという事で。異議のある人はいるかしらー?」
『アリマセン!!』
全員の返事を確認してから、ザラは話を続ける。
「それと、落ちついたらレオナの誕生会をやり直すわよ!」
『サンセイ!!』
「い、いや。流石にそこまでしてもらうのは。当日に体調を崩した私がわる……」
「問答無用! これは決定事項よ!」
ザラの気迫に押されてしまい、何も言えずに押し黙ってしまう。
そうしていると、チカが口を開く。
「やっぱさ、みんなと一緒にご飯食べたいじゃん? 今もそうしているけどさ、なんて言うかトクベツな日はより一層って言うのかな?」
「チカの言う事、分かる気がする。私はこの間、祝ってもらったばかりだけど、やっぱり嬉しかったなー」
「わたくしも、飛行隊で誕生会を開いて頂けるとは思いもよりませんでしたから、とても嬉しかったですわ」
「ケイトもアレン以外から祝ってもらうのは初めてだったが、悪くない」
「ですってよ、レオナ?」
「……はい」
ザラの強い押しに負けてしまった私は、首を縦に振ってしまった。
私の誕生日を祝うため、コトブキ飛行隊の皆が準備を進めてくれることになった。
皆に甘えてばかりで申し訳ないが、今は好意に甘えることにしよう。
「そうと決まれば準備開始! の前に!」
『前に!』
全員がこちらを向き、笑顔で私を見つめてくる。
『レオナ、誕生日おめでとう!!』
「……ありがとう。みんな」
皆に祝福されながら、私は微笑み返した。