荒野の空、イジツの片隅、ユーハングの情景   作:星1頭ドードー

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ザラと心と王子様

 両手を組み、上に挙げて思いっきり背伸びをする。

 長時間、操縦席に乗り込んでいた事もあり、縮んでいた身体からは心地よい痛みと共に息を吐き出すと、頭が冴えてくる感覚を覚える。

 今回は依頼者とのお付き合いもありラハマに帰投する時間が予定より遅くなってしまった。

 とはいえ相手のご厚意を無下に扱う事は出来ず。

 傭兵は信用第一。依頼をこなしてはい、おしまい。では済まない時の方が多い。

 でもそれは嫌な事ではない。私としてはむしろ嬉しいとさえ思う。

 仕事とはいえ自分の行動で助けられている人がいるんだなって実感できるから。

 

 

 今回はレオナとは別行動を取る事になった。

『頼りにしているぞ、ザラ』そんな事を言われてしまえば自然とやる気が沸き出てしまうもの。レオナの一言一句は私の心を動かす。

 それがとても心地よい。昔の私が見ていたらなんて言うのかしら? そんな事を考えてしまうぐらいに。

 

 レオナは仲間を大切にする反面、他者からの好意は鈍感。

 責任感が人一倍強くて、重圧に負けそうになりそうな時も一人でなんとかしようと考えてしまう人。

 今でこそみんなのおかげでそういった部分は改善されつつある。

 これが私とレオナだけの飛行隊だったら……。きっと今頃は私がレオナを篭絡して一緒にイジツ中を逃げ周っていたかもしれない。

 それはそれで……なんて考えが浮かぶ私も悪い子だと思いながら帰り道を歩く。

 

 

 駐機場からラハマの街までの道すがら。夜空には満天の星空。

 歩む速度を落としながら星を眺めている。

 先程まであの空にいたのに、また空を見つめている。

 私はこんなに空が好きだったかしら? それとも好きにさせてくれた人が傍にいたせいかしら。

 今が楽しくて、過去の自分を思い出す事が減っている。

 

 あの時、空の駅での出来事が無ければ、私の差し出した手を握り返してくれた王子様がいなかったら、私はどうしていたのだろう。

 きっと今も地面ばかり見つめていて、この綺麗な景色に気が付かないままでしょうね。

 見るもの、触れるもの、その後に考えるのはいつだってレオナの事だ。

 その想いはいつだって私を幸せに包んでくれる。時折、イタズラ心も生み出してしまう程に。

 

 私はレオナが好き。

 とてもシンプルで素っ気なく聞こえてしまうけれど、この言葉が一番自分の感情を表現できると思う。

 好意、愛情、慈しみ。好きという意味の言葉はたくさんありすぎて、どれを選べばいいのか迷っちゃうから。

 だから全部含めて好き。

 手を握り返してくれたあの日から、ずっと。

 お酒も飲んでいないのに、身体中が熱くなるのを感じる。

 誰かを想う気持ちは、誰にも止められない。

 

 

 少し浮かれ気味の足取りで宿舎へと戻り、自分たちの部屋の前へ。

 隙間から灯りが見えるという事は、レオナが部屋の中に居るはずだ。

 

「ただいま~」

 

 扉を開けて帰宅の挨拶。

 いつもならレオナの微笑みと共に『お帰り』の一言……のはずだが、今日は違うようだ。

 足の先を床に付け、ベッドには一冊の本と共に、少し身体を丸めた状態で横になっているレオナの姿が見える。

 規則正しく呼吸に合わせて身体が動いているのを見る限り、眠気に負けてしまったのだろうか。

 ベッドに近寄り、しゃがみ込んでレオナの寝顔を見つめる。

 いつもならレオナの格好いい姿の一つである細くて長い眉毛も、この時ばかりは可愛さを引き立てる役へ。

 起こさないように指先で優しくなぞる。そのまま少し手を伸ばして髪も。

 どちらもサラサラで宝石の様に美しい。

 愛おしい気持ちと共に湧いてくるのは、母性とほんの僅かなイタズラ心。

 起きちゃうかしら? でもしてあげたくなる衝動は抑えきれそうもない。

 

 ベッドに座り、レオナの頭を私の膝の上にご招待。

 ゆっくりと起こさない様、移動させる事に成功する。

 レオナの吐息が足に当り、少しばかりくすぐったいが、幸福感に満ち溢れている私には、それさえも幸せを感じてしまう。

 日頃の疲れを労う様に頭をそっと撫で、もう片方の手はレオナの指先を擦る様に触れる。

 時折、んっという寝言が聞こえる度に鼓動が高まるが、幸いにして起きる様子は無さそうだ。

 別に変な事をしている訳ではないのだから警戒する事もない。

 だけど一分でも一秒でも長くこうしていたいのは事実。

 何故なら、私の指先をレオナが掴んで離してくれないから。

 

 

「すまない。いつの間にか寝ていたようだ」

「気にしないで、レオナの寝顔はばっちり見せてもらったから」

「それは恥ずかしいな」

 

 しばらくして目を覚ましたレオナ。

 どうやら私を待つ為に、部屋で読書をしていたみたい。

 結果は見ての通りだけれど、私にとっては幸運だったのかも。

 

「それで、私に何か用事でもあったのかしら?」

「今日の任務が終わったらしばらく時間が出来るだろう? 久しぶりの空き時間だ、ザラの前祝も兼ねて二人で飲みに行こうと思っていてな」

 

 レオナの微笑む顔。伝えられる用事。落ち着いたはずの鼓動は再び激しく動き出される。

 もう……こういうところは卑怯だなって思う。

 でもすごく嬉しい。レオナに大切にされているんだと実感して身体中が喜びに沸く。

 

 好き。私はこの先ずっとこの人の傍に居たい。たとえお互いおばあちゃんになっても。

 レオナが困っていたら助けたい。

 レオナが悩んでいたら相談に乗りたい。

 レオナが喜んでくれたら私はとても嬉しい。

 喜びも悲しみも、この先のすべてを分かち合い、一緒に生きていきたい。それだけなの。

 

 いけない。このままでは喜びで身体中が爆発してしまいそう。

 全身がムズムズする。それを抑え込むためにはレオナの協力が必要だ。

 

「レオナ。私を後ろから抱きしめてくれないかしら?」

「突然どうしたんだ?」

「そうしてほしい気分なの」

「いや、だが、しかし……」

「いいから! ほら私に腕を回してっと」

 

 レオナの腕を掴み、半場強制的に私を抱きしめる形へと持っていく。

 寄りかかるように身体を預ける。

 私を優しく抱きしめてくれる腕、背中に当たるレオナの胸、耳に当たるレオナの吐息、全てが心地良い。

 心と身体が落ち着きを取り戻していくのが実感できる。

 これなら大丈夫、一息入れて離れようとしたその矢先、レオナから不意打ちを食らう。

 

「ザラ、一足早いが誕生日おめでとう。これからもよろしく頼む」

 

 私の耳元で囁くようにお祝いの言葉を告げられる。

 頭の中は真っ白に染まり、何も考えられなくなる。

 反射的になんとか感謝の言葉は伝えたが、それだけでは私の気が済まない、こちらは先程からやられっぱなしなのだ。

 今できる事でレオナを驚かせそうな事は何かないか、そして閃く一つの案。

 思い立ったら即実行、レオナに顔を向けて頬に唇を当てる。

 驚きの表情をするレオナを尻目に、反撃に成功した誇らしさを抱き、そのままの勢いで言葉を伝える。

 

「レオナ、好きよ」

 

 自分が表現できる最大の笑顔で想いを伝える。

 お酒が入っている時も含めれば何度目だろう。告白とは程遠い形式、けれど伝える想いは同じ。

 その度にレオナを困らせてしまう。そして返事は決まって同じ内容。

 だけど、聞きたいのだ。その言葉をレオナの口から。

 

 私の耳に吐息がかかる。

 レオナから伝えられた言葉は、私が聞きたかった言葉。今一番聞きたかった言葉。

 その言葉を聞けて幸せに満ちた私は、レオナの腕から抜け出し、手を引っ張りながら部屋から出て、酒場へと歩み始める。

 

「今夜の酒代はレオナの奢りよ!」

 

 驚いた顔をしていたレオナは次第に呆れ顔になりつつも頷く。

 宿舎から出た後は、ゆっくりと夜道を手を繋ぎながら二人並んで歩く。

 空を見上げれば、先程と変わらず満天の星空。

 

 一人で見ていた星空も綺麗だけれど、好きな人と一緒に見る星空は言うまでもなく。

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