荒野の空、イジツの片隅、ユーハングの情景   作:星1頭ドードー

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アンナと船長 前編

 いつもと違う職場、見慣れぬ人達の中で、私の隣には同じ様に舵へ手を置く船長の姿。

 何の気なしに始まった世間話からあれよあれよと気が付けばこの船で操舵を握る事になっていた不思議な出来事。

 もちろん、本業はオウニ商会へ身を置く立場であるから第二羽衣丸が可動しない時に限られた話ではある。

 しかし、私をこの船に送り込んだのもマダムである。のちにマリアもアディ、ベティ、シンディともここで働く機会が訪れようとは。

 そんな私達を船長はどう思っているのだろうか? 疑問と共に送られた私の視線に気が付いた船長は微笑みで返してくれる。

 少なくとも……いや、きっと私達を頼りにしてくれている事だけは、何となくだけど自信を持って言える。

 

 

 隣に停留している一隻の飛行船。その外見は飛行船という丸みを帯びた印象よりも少しばかり鋭さを感じさせる。

 第二羽衣丸と同じ時期に造船されたというあの船は、イヅルマの最新鋭の技術がつぎ込まれており、使用用途の違いも相まって中身の方は第二羽衣丸とはまったくの別物だそうだ。

 操縦室で待機していた私達の他愛もない話。

 そこへマダムが訪れ、会話に加わる。

 

「マダム、あの飛行船は第二羽衣丸とそこまで違いがあるものなのですか?」

「外見に関しては見ての通り。けれど内部設計から積まれている動力源、設備に至るまで、第二羽衣丸とは似ても似つかない。使用されている機械も高性能でしょうね」

「それはラハマよりもイヅルマの造船技術が上回るって事でしょうか?」

「勿論、そこの問題も浮上してくるでしょうけれど、あの船は商業船ではなく実験船に近いのよ」

「実験船……ですか?」

「ええ、羽衣丸、第二羽衣丸共々、操作性は素直な子だと思うけど二人からしてどう思うかしら?」

 

 副操舵手として私の隣に立つマリアと目を合わせて頷く。マダムの言われるとおり、船の大きさと比例しても動かしやすい部類に入るのではないか? 

 マリア、アディ、ベティ、シンディの協力もあり、操舵に関して困った出来事は余り思い浮かばない程だ。

 

「前の子もそうでしたが、この子も素直で扱いやすく助かっています!」

「ありがとう、マリア。アンナはどうかしら?」

「私もマリアと同じ意見です。羽衣丸の操舵を任されている事に誇りを持てるぐらいに!」

「ありがとう、アンナ。今後も貴女達にそう言ってもらえるよう精進していくわ」

 

 船長席に座るマダムから微笑みが配られる。少しばかり照れてしまう私達を見つめながら話が進められる。

 

「あの船はそういった扱いやすさや利便性というものは二の次にされているのよ」

「そのお言葉を聞くと不便とも思えてくるのですが?」

「実際、荷物運びとして利用する場合であればその認識で間違いないわ」

「でもあの船って空賊討伐部隊ですよね? そう考えると……速さに特化されているとか?」

「正解よ、マリア。各町から依頼を受けた時や指示が下された場合、迅速に目的地へと向える様に設計されているのよ」

「なんていうか……大変だなって言葉しか浮かばないのですが」

「実際、飛行隊は勿論だけど運用している船員も大変だと思うわ。今までの船とは中身がまるで違うもの」

「それだけ空賊対策に本腰を入れたという事なのでしょうか……」

「どうかしらね、牢獄で眠らせ続けた人間を引っ張り上げてまで行う必要性があったのか疑問が浮かぶわ」

 

 私達から視線を外して溜息一つ。ユーリア議員もそうだったけど、あの船の船長とは面識があるようで、何かとマダム達が呼び出す事が多い。

 呼び出しを無視したあちらの船長を船ごとラハマまで曳船した事があった。

 そのような状況にもかかわらず、あちらの船長を第二羽衣丸の船長室まで出頭要請をするマダムとユーリア議員。

 その無茶ぶりにロープ伝いで第二羽衣丸まで乗り込んできたあの船の船長。まるであの時のレオナとキリエみたいと話題に上がることが多い。

 直接対話をした事はないけど、コトブキ飛行隊のみんなからも色々と話を伺う限り、変な人ではあるけれど悪い人ではなさそうだ。

 

「アンナ、あの船が気になるかしら?」

「へ? あ、いや船もそうなのですが船長の噂も色々と聞くなぁと思いまして」

「そうね、良くも悪くも変人よ」

「……失礼かもしれませんが、イサオの様な人物でなければよいのですが」

「大丈夫、それだけはあり得ないわ」

 

 私の失礼な発言に対し、そう断言するマダム。私達の視線を集めながら言葉を続ける。

 

「このイジツで他人に対して余計なお節介を焼くほどの変人よ。変態、変人、私の周りにいる友人はそんな人達ばかりね」

 

 口元を押さえてながらも笑いが漏れている珍しいマダムの姿に、私達も苦笑いに似たような表情をしていたに違いない。

 

「でもそうね、私が言葉で語るよりも直接会ってみた方が分かりやすいわね」

「は、はぁ……」

「アンナ、特別手当を与えるから一度あの船で操舵手として働いてらっしゃい」

「マダム!? 突然その様な事を言われましても!」

「貴女にとっても違う船を操縦する事は良い経験になるわ。ついでに船長と会って来なさい」

 

 言葉に詰まる私に対して『言い出しっぺの法則』と呟くマリアをつい睨みつけてしまう。

 絶対に楽しんでる。私以外はみんな笑っているぐらいだもん。

 でも造船されたばかりの船を二隻も触れる機会があるのは今だけ、それも第二羽衣丸とはまったく違うとまで言われている船。

 興味が無いわけではないのも事実だし、少し浮き足立つ自分がいる事も事実である。

 これぐらいでは仕事中毒とは言わないよね……? 

 

「それは命令になるのでしょうか?」

「あら? 命令にした方が楽であればそうするわよ?」

「……命令でお願いします」

「決まりね。こちらから連絡を入れておくわ。あと一つだけ注意なさい」

「注意ですか? 何か特別な決まり事があるとか?」

「船長に取り込まれないように気を付けなさい」

 

 この時はまだ、マダムの言葉を理解することが出来なかった。

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