荒野の空、イジツの片隅、ユーハングの情景   作:星1頭ドードー

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アンナと船長 後編

 マダムの提案から始まったこの出来事は、あの日から幾日か経過したのちに現実のものとなる。

 コトブキ飛行隊と共に私はあの船へと出向し、船長直々の出迎えを受ける。

 レオナさんの着任報告は日頃よりも気合の入れられたものであり、ザラさんだけはレオナさんと共に並び立ち、それ以外の隊員たちは慣れたものなのか、各々気さくに挨拶を交わして船内へと進んで行く。

 

「オウニ商会所属、第二羽衣丸主操舵手のアンナです。よろしくお願い致します」

 

 レオナさんからの紹介に合わせ船長に向けて自己紹介をする。

 船長からも自己紹介を頂き、差し出された手を掴んで握手を交わす。

 手袋越しですまないと一介の船員に過ぎない私に謝罪をする船長。今日は特別、手が冷たいので驚かせてしまうだろうからと。

 

「気になさらないでください。船長さえよければもう一度」

 

 私の我儘のような提案に少し驚いた表情をする船長。それでもすぐさま手袋の留め金を外して着脱。

 再び差し出された手を掴む。本人の仰るとおり冷たい手をしているが、想像していたよりも柔らかなその手は、壊れ物を扱う様に優しく私の手を握り返す。

 よろしく。短くとも優しさが伝わる言葉と共に手は離され、船長は微笑む。

 あとの事は頼む。レオナさんにそう伝えると私達が来た道へと歩き始めた船長。

 

「あら、マダムから呼び出されたのかしら」

「もしかして私たちの着任を待たれていたのでしょうか?」

「きっとそうだろう。飛行隊だけでなくフリーランスで契約している人達に対しても、着任と離脱の際には必ず立ち会う方だから」

 

 何故か自分の事の様に誇らしげに語るレオナさん。その様子を楽しそうに眺めているザラさん。

 事前に聞いてはいたが、この様なレオナさんの姿を見るのは初めてだ。

 

「さっ、ここで立ち尽くしていても仕方ないわ。中を案内するから行きましょう、アンナ」

「あ、はい!」

 

 ザラさんの言葉に従い、私はあの船へと足を踏み入れる。

 

 

「ふーん。アンタ、なかなか上手じゃない」

「あ、ありがとうございます?」

 

 この船へ着任をしてから数日。毎日が驚きで溢れ返る。

 操舵手からこの船の扱い方を説明してもらい、その時が来るまで予習をしておこうと思っていたら、その日から主操舵手としてコキ使わ……働かせられるとは誰が予想出来るのであろうか。

 私に扱い方を説明をしてくれた操舵手は、副操舵手として私の隣に。習うより慣れよとは彼女の弁。

 それだけでも心は緊張やらいろいろと交じり合って大変なのにも関わらず、気が付けばこの船は船長の合図と共に出航。

 無事に目的地へ向けて飛行船を航路まで動かせた時には、安堵の息をつく。

 

 少しだけ心に余裕を感じられる様になった頃に気が付いたのは、この船に搭乗している人達の濃さだ。

 いま私の後ろにある船長席に座りながら会話らしき言葉を交わしている、ゲキテツ一家のシアラさんもその内の一人。

 ゲキテツって確かタネガシを統一しているマフィアよね? なんでマフィアが空賊討伐に手を貸しているの? そもそも当たり前のように船長席にいるのは何で? 

 

「あたしがここで眠りにつけるぐらいだもの。誇っていいわよ~」

「誉め言葉として受け取っておきますね」

「そうそう、素直に受け取りなさい。誰かさんみたいに性格が捻じ曲がると人の言葉を素直に受け取れなくなるわよ」

 

 そう言いながら船長席のひじ掛けを指先でトントンと叩く。まさか船長の事だろうか? 

 

「とてもその様には見えませんでしたが……」

「上辺だけで取り繕うのが上手ってことよ」

「シアラさんは真正面から物申すのが上手そうですね」

「あら、言うじゃない。それはそうよ、マフィアがコソコソしていたらナメられてお終いだもの」

 

 私の言葉に機嫌を損ねるかと思いきや、笑みを浮かべながらそう発言するシアラさん。やっぱりまごうことなきマフィアなんだ。

 両手を天井に向けて背筋を伸ばす。その姿だけ見ていれば、華奢でキラキラとしていてとても可愛いのに。

 

「オウニ商会で操舵手を務めているだけの事はあるわね。これなら空賊に襲われても大丈夫そうで安心したわ」

「オウニ商会の事を知っているんですか?」

「あの大騒ぎの中心にいて知らないヤツなんてイジツに……それなりにいるわね」

 

 該当する人物でも思い浮かんだのだろうか、こめかみに手を当てて溜息をつくシアラさん。振り払うように頭を動かし、席から立ち上がる。

 

「まっ、しっかりやんなさい。この船にいる間は飽きる事なんてないでしょうから」

 

 それはどういうことだろう? 問い返そうとすれば、既にシアラさんの姿は見当たらず。隣にいる操舵手の方は半笑い。

 なんていうか、この船のペースは独特すぎる。それは勿論、搭乗している人物が生み出す方のペースであるが。

 天井を見つめながら深呼吸。やっぱりこの反応が普通よね。そんな言葉が操縦室を飛び交う。

 そんな最中、シアラさんと入れ替わるように誰かが操縦席へと訪れる音が聞こえた。

 最初は誰かが来る度に気になっていたけれど、この船でその様な事を気にしていたら首が持たない。

 何故なら時間に合わせた船内放送や船長を呼び出す為にしょっちゅう人が出入りするんだもん。きっと今回もそうなんだろうなと思っていた。

 お疲れ様。隣から聞こえてきた声は、彼女ではなく船長の声であった。

 

「せ、船長!? 失礼しました!」

 

 何で副操舵を握っているのか、疑問が頭に浮かぶがそれらを押しのけて挨拶をする。

 私の驚きに動じず、笑みで返す船長。

 多少は慣れた? そう問いかけてくる声色は、優しく私に伝えてくる。

 

「おかげさまで。どちらかと言えば船よりも人付き合いに慣れが必要そうですけど」

 

 違いない。その言葉で再び操縦室には笑い声が響き渡る。オウニ商会とも違う雰囲気だけど、悪くないと感じる自分がいる。

 

「船長、この船についてお聞きしたい事があるのですがよろしいでしょうか?」

 

 私の問いかけに頷いて返してくれた。

 そこから幾つもの疑問を投げかけては丁寧に返事をしてくれる船長。

 

 この船は求められている燃料のオクタン値の基準が非常に高いということ。

 その為、試運転もままならない状態が長らく続き、得られた結果はごく僅か。イヅルマは試験船として造船したにも関わらず、早々に見切りをつけて解体も視野に入れていたらしい。

 しかしそこで捨てる神あれば拾う神あり。何時どこで誰が見つけ出したのか討伐部隊設立の為にとイヅルマを説得し、母艦として運用される事になる。

 アレシマに本部を置くエライ人達の考えは分からん。船長のボヤキが耳に入る。

 

「でも、燃料の確保はどうなったんですか?」

 

 再度疑問を投げつける。けど船長は嫌な顔一つせずに私の問いかけに答えてくれた。

 オクタン値の高い燃料は必要だけど、あくまでこの飛行船の性能を最大限引き出すのに必要なだけであり、飛行速度や多少の動力低下に目を瞑れば基準値の燃料でなくても飛行船としての役割は果たせるのだと言う。

 それでもナンコーの石油が必須だけど。と、加える様に教えてくれた。今まで補給作業を行っていた場所にラハマが多かったのはそういった理由があったのだ。

 

「なんていうか、体よく押し付けられました?」

 

 それな。笑いながらそう答える船長。

 まあ、大変なのは私でなくて船員の皆だろうけど。その言葉で今度はブーイングの嵐が操縦室に響き渡る。

 やっぱり自由だ。大変な任務に就いているにも関わらず、深刻さを感じさせず皆好き勝手に感情を露わにして楽しんでいる。

 その光景を眺めていると、私も自然と笑みが零れてしまう。

 それを指摘され、再び様々な感情が混ざり合い、笑い声が絶えない状況に。

 マダムが仰っていた直接会うという意味にはコレも含まれていたのだろう。

 

 せっかく船長に取り込まれないようにと警告して頂いたのに、それも悪くないと感じさせる雰囲気を作り出すのが、この船長なのだ。

 私が悪いわけじゃないもん。と、誰に反論しているのやら。




後日、オペレーター全員に奢る事を約束された船長の財布は、軽さを覚える
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