荒野の空、イジツの片隅、ユーハングの情景 作:星1頭ドードー
穴とはなんぞや?
私の知りうる限りでは、イジツの世界と別の世界を繋ぐとされているものである。
現状ではユーハングと呼ばれる世界とだけ繋がりを保ち、他の世界との繋がりは観測されていない。
稀にユーハング由来とは思えない物や技術を目にする事があった。
だが、それはユーハングの世界の、イジツで例えれば別の町のものである事が、リノウチにいた時に確認されている。
ユーハングはあくまで彼等の世界の一部でしか過ぎないのだ。
そんな彼等の世界をユーハングの言葉で『地球』と言うらしい。
「なんだか船長が珍しく考え込んでるよ、アンナ」
「いま飛行船が向かっている先が、ガドールだからじゃない? ほら、ユーリア議員が待ち構えているとかって」
「船長とは昔馴染み……なんだっけ?」
「そうみたい。今回の用件ではユーリア議員の力が必要らしくてお伺いをたてに行くみたいだけど……」
「マダムから変態と変人って呼ばれる二人が出会ったら、どんな会話をしているか一度聞いてみたいな!」
「マリア、お二人に失礼ですよ」
「ごめんなさーい、船長」
ほいよ、九割ぐらいの確立で変態に罵られる変人の姿が見れるだけだと思うけどね。
マリアに対しての返事にオペレーターから笑い声が漏れる。
イヅルマ組の子達とオウニ商会組が上手く連携を取り合い、この飛行船を問題無く運行させている姿に、船長としては尊敬の念に堪えない。本職はやはり凄いな。拝んどこ。
「船長がまた拝み始めたよぉ、アンナ」
「流石に慣れてきたけれど、マダムから変人って言われているだけはあるよね」
「最近アンナも船長に対して容赦なくなってきたよね?」
「そう見えるなら、私達の後ろにいる誰かさんのせいだと思うよ」
「それもそっか!」
今度は操舵手二人が笑い始める。
どうやら私の影響らしいのだが、残念ながらここでそうです! と胸を張って言えることではないな。
尚も続く二人の他愛のない話を聞いていると自然と笑みが浮かんでくるのを実感できる。
当初は逃げ場のないこの仕事をどうしたものかと思っていたが、この日常が自分にとって心を落ち着かせてくれる居場所になろうとは。
色々と考えごとは山積みであるが、一先ずはユーリアを含め彼女たちにあの場所を見てもらう事が先決であろう。
私がまだ幼い頃に見つけた、地上に存在する穴の事を。
飛行船が無事にガドールへと到着し、仁王立ちで待ち構えていたユーリアに有無を言わさず屋敷へと連行されるのは仕方がないことなのだろう。
彼女からすれば聞きたい事だらけであろうし、私もそれに応えなければならない時期が来たと考えている。
だけどさ、二人でブランコに横並びのこの状況ってどうなのよ? 広々とした室内に置かれているのが一段とシュール差を醸し出しているんだけど。
「ようやくアンタから話を聞く機会が出来たわね、全て白状するまで今夜は寝かさないわよ!」
ユーリアを慕う人達が聞いたら気絶モノな発言をされる。
日頃からこのような調子であるが、見た目麗しく行動力の塊で口の悪い彼女を慕う人達が意外といるのだから不思議である。
私? 何かと理由を付けて餌付けされていれば慕う側に立つと思うよ。
「こっちは聞きたい事が山ほどあるのよ、素直に答えていった方がアンタの身の為よ」
尋問をするかのような口調の割に、表情はなんだか楽し気でブランコを軽く揺らす程度に漕ぎ始める。
特に隠す理由も義理も無いから聞かれた事をそのまま返すだけになるけどいいのか?
「むしろそれで構わないわ、脚色された言い訳なんか聞く価値ないもの」
それもそっか。それでユーリアは私から何を聞きたいのさ?
「アンタが何故、私の前から姿を消し、気が付けばあの戦争時にリノウチ側について、イサオと並んで英雄とまで呼ばれる程の活躍が出来たのか」
ユーリア、ユーリア、一言良い?
「なによ、はぐらかすつもりじゃないでしょうね?」
事前に伝えてあるとおり、私がガドールに寄港してユーリアに会いに来たのだから、この町に穴があった事について聞くのが普通なんじゃないかな?
「はあ? アンタ馬鹿じゃないかしら? 穴なんか最悪の場合、爆破で吹っ飛ばせばいいだけよ。それよりも私の傍から消えた事について嘘偽りなく聞かせなさいよ」
距離感がグッと縮まるような言われ方をされましても。
確かに小さい頃はご飯を恵んでもらったり、それからちょいちょい遊びに来たりはしていたけどさ。
「私が全寮制の学校から戻って来た時に、ガドールから綺麗さっぱりと消えていた事についてよ!!」
そこから!? 私の人生を語らせるつもりっすか!? 約八年ぐらい住んでた牢屋編とか始まっちゃいますよ!!
「学校を卒業してからアンタの姿が見当たらなくなって、戦争が始まったと思ったら新聞にリノウチの英雄とか謳われているアンタを見つけ出した時の私の気持ちが分かるってのかしら!!」
これがガドールの高飛車と名高いユーリアの姿か、確かに恐ろしい。
それでも恐ろしいのは表情だけ。
こちらを見つめている瞳は、勢いとは正反対の意味を表している。
その瞳で私を見ないで欲しい。
説明をしなければならないのに、何て伝えればいいのか分からなくなるから。
「アンタ、私にきちんと説明する気はあるわけ?」
ありますよ、折角牢屋から引っ張り出されてユーリアとまた会えたからね。
「リノウチにアンタ宛てに手紙を何度も送ったんだけど?」
郵便は機能していたみたいだけど、検閲がされていたからその時に破棄されたのかな? あとはずっと空に飛び続ける毎日だったから。
「刑務所にブチ込まれたアンタ宛てに何通も手紙を送ったんだけど?」
どうやら彼方側の人間に全て握り潰されていたみたい。
お世話になった人の娘さんも同じ事を言っていたよ。
「私が……どれだけ心配したか……分かってんの……」
私の足を弱弱しく蹴る靴の音、揺れるブランコに合わせて鎖の軋む音が聞こえ、微かに聞こえるユーリアの声。
耳をすませば、物騒な単語が発せられているのがよく分かるのだが、それも次第に掠れた声となり聞き取れなくなる。
今の彼女に対して私が出来ることなんてほんの僅かだ。
傍に寄り添い、私が経験してきた出来事を彼女に偽りなく伝えるだけ。
それだけで離れ離れになっていた時間を取り戻せるかは分からない、だけど伝えなければならない事だろう。
それが今の私に課せられた責任か。
真面目そうなのは今回だけっす