荒野の空、イジツの片隅、ユーハングの情景 作:星1頭ドードー
昔と何一つ変わらない地下にある空間、頭上には運よく穴が開いている。
大きさは空の駅にある自動販売機を二台並べたぐらいか。
小さい頃に見ていた時は大きいと感じたものだが、肉体が成長を遂げて再びこの光景を見ると、存外小さく思えてしまう。
感傷深げに眺めていると、穴に兆候が見られる。このタイミングで何かが現れるようだ。
念の為に私以外の者を下がらせて様子を伺うことにしよう。
しばらくして先の見えない穴から小さな何かが地面に落とされ、穴は私達の目の前で消滅していった。
私は地面に落とされている物を拾い上げて中身を覗き込む。
お、これは運がいい。綺麗なねーちゃんの水着姿が掲載されている雑誌だぞ! 昔はよくこれを町のオッサン共に流して食い繋いでたなぁ。懐かしい。
「運がいい、じゃねぇよ船長!! なんだよあれ!?」
何って、この前フィオに伝えたじゃないか。穴だよ、穴。
「そりゃ船長が穴について知っているとは聞いてたがよ! こんな状況だなんて聞いてないぞ!!」
私もこれをどう言葉として表現をすればよいのか分からん。
だからこうしてフィオを直接ここへ案内したんだ。
雑誌をパラパラと巡りながら今年のクイーンはこの子か……などと邪な事を考えていれば、足に痛みが走る。
いつの間にやら私の隣に移動していたユーリアに思いっきり足を踏まれたのだ。
「アンタが時々よく分からない物を私に渡してくれたのは、ここから拾ってきた物だったのね」
そうだよ。
昔っからユーリアにはご飯を食べさせてもらったりしてたじゃん? 子供ながらに恩返しをすべきだと考えてたんだが、当時は孤児だった私にはこれぐらいしか思いつかなくてな。
この地下空間の端には手渡そうか悩んでそのままにしてあった人形が、埃を被りながら今もぽつんと佇んでいる。
熊の姿をしたものから地面に顔を置いてやる気のなさそうにしている白黒の生物。
後にリノウチで知ったのは、これらはユーハングでゆるキャラと名付けられている物だということ。
「せんちょー、ここにある穴って天井に現れたよね? 普通は空で縦に開くものじゃないの?」
そうなんだよね、ガーベラ。
私もここ以外の穴を知ってから驚きの連続だったよ、まさか消滅する時は周囲を吸い込み始めるとか、初めて聞いた時は信じられなかったさ。
「船長が時々作られていたイジツでは見かけない料理もこちらで知られたのですか?」
レシピ本も見かける事があったからね。いくつかここに残してある本があったはずだから興味があれば持っていくといいよ、モア。
「もしかしてアタシは知らない方が良いものを見せられた!? アタシが見た物は全部覚える体質って船長は知ってたよな!?」
ここに連れて来る前に言うたではないか、アカリ。
まさか穴が現れるところを見せてやれるとは思わなかったが、いい経験だと思ってくれ。
それに私がいなくてもここへ確実に辿り着ける人物が欲しかったものでな。悪いな。
「私の目の黒いうちはそんな事は許さないわよ。覚悟しておくことね」
昨日の今日でこれですよ。
いつしか私が本当に自由になれる日が訪れるのだろうか?
別に訪れなくても毎日が楽しいからいいんだけどね。
地下空間へ足を運ぶ少し前。
飛行船に搭乗していた飛行隊からご指名で隊員をお借りし、ユーリアを含めた対策会議という立ち話を始めた時の出来事。
「船長、一言いいか?」
どうした、フィオ? 何か問題でも発生したか?
「いや、特に問題は……ある。なんで私以外の人間がここにいるんだよ!」
「あら、ガドールは私の町よ。何か問題でも?」
「町はともかく、穴に関しては私との秘密じゃなかったのかよ、船長!!」
その事なんだが、ガドール近郊に隠されている場所という事もあり、余所者がうろつくと面倒な事が多くてな。
この町の議員であるユーリアが同伴してくれるとそこら辺の面倒な手間がスムーズにぃ!?
ユーリアのヒールに足を踏まれて痛みが走る。
「私をコキ使おうだなんて言い度胸してるじゃない。あとこれは今まで黙っていた分よ」
グリグリと足を踏みにじられて軋む骨。
周囲にいる他の隊員たちからは、ドン引きするような声が漏れる。
ここで一旦、本日の探索メンバーをおさらいしておこう。
一人目は言うまでもなく……フィオと先に言った方がいいよな? これ以上ご機嫌斜めになったら後が大変だもんな。
二人目はユーリア。理由は先程伝えた通りである。
三人目と四人目はハルカゼ飛行隊からガーベラとアカリをお借りした。
隠された場所へ向うには、当時子供であった私でもそれなりに苦労した場所であり、小柄なガーベラは任務にうってつけであること。
そしてアカリを同伴させる事により、朧気になりつつある私の記憶を引き継いでもらいたい。
今までの道が使えない可能性もありえるので、マッピングをして欲しいのだ。
「ガーベラは成長期! だけど今はまだ小さい事は確かだもんね。それでもせんちょーの手助けが出来るならがんばる!」
「アタシはメモ要員かよー。でもいいのか船長? 重要な場所なんだろ? アタシを連れて行ったら場所とか絶対に忘れない自信があるんだけど?」
いいよ、むしろ覚えて欲しいから連れて行くんだ。忘れないでくれ。
ガーベラも内部に侵入出来た場合、欲しい物があったら好きに持ち出してくれて構わないぞ。
「ロイグを連れてきたら大喜びしそうなところへ向かうんですね」
そして五人目は怪盗団アカツキからモアをお借りする事に成功した。
アカツキの中では小柄でイジツではとても貴重な常識人。
何時ぞやの飛行船で開かれた居酒屋エルちゃんでお世話になった経験があり、手伝って欲しい事があると伝えたらとても喜んで承諾してくれた。
あと、他のアカツキメンバーには内緒という事も付け加えて。
そうしなければ、アカツキ全員で駆けつけてきそうだから。
怪盗団としては正しい行動なんだろうけど。
こうして厳選した人材を集める事に成功した我々は、トラックを一台調達し、私の過去の記憶を遡ることにより一路穴が隠されている場所へと向かう事となった。
「いきなり狭くないか、船長?」
元々は子供の足でも辿り着ける場所、辿り着いた先の目の前には真ん中に大きな亀裂が入った大岩が鎮座しており、この亀裂を抜けた先に自然洞窟がある。
そこを抜けて行かなければ、穴の存在する場所へ辿り着くことは出来ない……と記憶している。
「アンタねぇ、私も連れてけとは言ったけれど、こんな狭い隙間通れる訳がないでしょう?」
「ガーベラ達なら簡単に通れるけどね!」
「成長期、まだアタシも成長期だよな?」
ガーベラは、両腕を上げたまま横移動ですんなりと。
アカリに関しては、おめめのハイライトが消え去りそうになりながら下を見つめ、そそくさと通り抜ける。
「私も通り抜けられそうです!」
腰回りの装備を動かしながらモアも移動を開始し、三人は岩の先へと辿り着きこちらに手を振っている。
横目で残された二人の様子を伺うと、意地でも通ってやると意気込むフィオと、はなから諦めているユーリアという対照的な二人。
「船長! そこで見てろよ! このフィオ様が岩の隙間を通り抜ける瞬間をな!!」
そうは言うけれど、結末は分かり切っているんだ。
ユーリアからは横を向いてろと視線が送られてくるし、十中八九あのご立派なお山が引っかかること間違いない。
熱意のこもった意気込みからフィオが亀裂に突入して数分後、横を向いたままの私の耳にはフィオの呻き声が聞こえてくる。
どうやら無理をして進もうとしたらしいのだが、途中で足が着かなくなる非常事態に陥ったようだ。
必死にガーベラ達が救助を行い、再び全員が大岩の入り口に集まる。
「し、死ぬかと思った……」
「言わなくても普通は分かるでしょ? それだけ立派な物をぶら下げているんだから」
「ガーベラもいつかフィオさんみたいなスタイルになりたいなあ」
女子会とでも言うべき会話をなるべく耳に入れない様に、この先へと進む方法を思考しているとアカリが服の袖を引っ張ってくる。
「船長、胸ってあんなに押し潰れたり変形したりするものなのか? アタシは夢でも見ているんじゃないか?」
私は実際にその様な場面を目にした経験が無いから断言は出来ないが、アカリの目の前で起きた出来事は全て事実だ、受け入れろ。
「アレが現実だっていうのかよぉぉぉ!!」
頭を抱えながら落ち込むアカリをモアが必死に慰めている。
別にお山が全てでは無いぞ? アカリは現状でも十分可愛いし、伸びしろ満載だ。
「……船長はアタシのどこが可愛いと思ってるんだ?」
どこって、そんなにもか細い手足をしていながら元気よく力仕事もこなし、笑顔を絶やさないじゃないか。
私が言うのも変な話だが、笑顔を絶やさずにいられる人は心の強さも備えているぞ? 恰好可愛いをアカリは既に手に入れているのだ。
「分かった! 分かったからもうそれで止めてくれ! そんなに褒められると聞いてるこっちが恥ずかしくなるって!」
赤く染まる表情を慌てて隠す様に手で覆うアカリの姿は、やはり可愛らしい女性である。
本音を言えば美少女なんだけど、女性と言えばちょっと大人に感じるだろうから。
そんな小鳥の姿を愛しく感じながらユーリア達の方へ視線を動かしてみるが、あちらはまだ口論中か。
その矢先、再び誰かに服の裾を引っ張られる。
「あ、あの! 船長から見たら私はどう見えるのでしょうか……?」
完全無欠のモアママにも、何かしら気にしている部分があったのか。
大人組と約一名の前に立ちふさがる大岩。
本来であれば他者の出入りを制限してくれるこの大岩の存在は大変便利であるのだが、大人になってから来ると心底邪魔だな、これ。
しかし時間を掛けてばかりではいられない。
曲がりにもこの先には穴が発生する空間があり、この場所をエライ人達に感づかれて占拠されてしまえば目も当てられない。みんな本音と建前の使い分けが上手だから。
ボヤキのような事を考えながら、ここまで持ち運んできた道具を取り出す。
ノミとトンカチを利用して大岩を少しずつ削り、小さな穴を作り出す。
そこへ火薬量を調節したダイナマイトを一本差し込み、爆破させることで瓦礫の状態にすれば、大人組も洞窟に進入するぐらいの隙間は出来上がるんじゃないかな?
「相変わらず大雑把な作戦よね。そもそもアイツ等にバレたら問題になるっていうのに爆破させて騒ぎにするつもり? バカなの?」
馬鹿です、すみません。
「そんな事をしなくても、この子達がいるんだから代わりに見て来てもらえばいいじゃない」
呆れ顔のままため息をつくユーリア。
確かにその方法もアリではあるのだが、怪我とかしないか心配で不安で。
「船長、この先って罠とか仕掛けられてるのか?」
いいや、ただ洞窟内の光源がヒカリゴケである事と、足元が滑りやすいぐらいだな。
「ならガーベラ達に任せてよ! パッと行って様子を見てくるからさ!」
「三人であれば何かあった場合でも対処は可能だと思います。船長、私達を頼ってはくれませんか?」
なんだろうね、この子達という存在は。
涙腺が緩くなるのが分かる。
「アンタのそういうところ、昔から変わらないわね」
「船長って昔から泣き虫だったのか?」
「そりゃもう何かとつけて今みたいな表情をしていたわよ。フィオは私達とここで留守番でしょ? その間に根掘り葉掘り聞いてみなさい」
そんな恥ずかしい事を聞かれても困るんですけど。
その間にも探索組はテキパキと準備を進めている。
ライト持った? 応急手当の箱にロープもあると便利だよ? 忘れ物は……。
「はぁ……心配性なのも変わらないわね」