荒野の空、イジツの片隅、ユーハングの情景   作:星1頭ドードー

83 / 131
船長と穴の存在 そのよん

 じゃれ合いとしか思えないユーリアとフィオの口喧嘩を、一旦止めさせる事に成功した私は、私達もここ以外から中へと進入出来る入口を探索しないかと提案をする。

 異論は無く、正面を向き合っていた二人の間には、僅かな距離が離される。

 そうそう、人間には、適正な距離感というものがあるものだ。

 

「それで私たちは、何をすればいいのかしら?」

 

 そう発言するユーリアの姿に目を通すが……いうまでもなく野外で行動するのに相応しいとはいえない服装だ。

 いつもの大きな帽子。いつもの深緑で統一されたスーツとヒール。整えられた髪型と二の腕を組む癖。

 この様な野外ではなく、室内の会議の場で口論を用いて戦う女性の姿だ。

 だからといってお仕事を与えないと拗ねるんだよなぁ、ユーリアって。

 

「アンタ、よく私の顔を見て溜息を付けられるわね。最悪なんだけど」

「その恰好じゃ仕方ないよな! それに比べてこのフィオ様は、船長の希望通りに動ける様、身支度をしておいたぞ!」

「身支度って、フィオもいつも通りじゃない」

「だからこそだよ! 何時でも行動出来る様に、普段から動きやすい格好をしてだな!」

「はいはい、つまり荒くれ者って事ね。ってそういえば曲がりにもマフィアだったわね、野暮な事を言ったわ」

「ぐぎぎぎ……」

 

 地団太を踏みながらも言葉が出てこない模様のフィオ。

 これならば、ローラかイサカのどちらかを連れて来ればよかったかもしれない。

 あの二人であれば、フィオをなだめるか、ユーリアの発言も柔らかく受け流してくれたものだろう。

 それに、意外と大岩の隙間も潜り抜けて……身長差でやっぱり駄目か。

 この場にいない二人の事を、考えていても仕方ない。

 

 ユーリア、一先ずそれぐらいにしておいてあげて、フィオにやって貰いたい事があるから。

 

「なんだ!? 私に何をして欲しいんだ、船長!」

 

 私は、大岩に背中を預けて自身の前に指を組む。

 フィオってこういうの好き? よければちょっと上から辺りを見渡して来て欲しいんだけど。

 

「おう! そういうのを待っていたんだ! このフィオ様に任せておけ!」

 

 胸を張って軽く叩き、自信満々な声を聞けて一安心。

 フィオは、私から距離を取り初めて身体をほぐす様に、軽くジャンプをして待機をしている。

 私は、フィオを無事に大岩の上へと持ち上げられる様に、指をほぐす。

 お互いに準備が整ったところで視線で合図を送る。

 勢いよくこちらに走って来るフィオ。

 いままで一切触れずにいたけれど、これだけは言わせてくれ、局部が物凄い事になっている。

 そこにばかり意識を取られフィオに怪我をさせてしまっては、悔やみきれない未来が待っている事だけは、確かだ。

 

 邪念を捨てて、勢いそのまま私の指に足を乗せたフィオを、思いっきり上に突き上げる。

 余りにも勢いが強くて軽々と大岩の上を飛んでいるフィオは、それでも余裕なのか足を畳んで一回転してからの着地。

 こればかりは、彼女の身体能力の高さに驚きを隠せない。

 気が付けば、フィオに対して拍手を送っている自分がいる。

 

「どうだ! これぐらい朝飯前よ! なーっはっはっは!」

 

 満足気に腰へ手を当て、大笑いをするフィオを眺めながら私の頭に過るのは、次世代って凄いなという思いであった。

 

 

「それじゃ、ちょっくら辺りを探索してくる。勝手にどこかへ行ったりするなよ!」

 

 フィオを置いて何処かへ行ったりしないさ、声が届く範囲で私達も探してみるから、そちらからの探索は、頼んだよ。

 

「おう! 任せとけ!」

 

 身軽に大岩の上を動き回るフィオ。あれが若さというものか、はたまた天性の身体能力というべきか。

 

「私達は、何をすればいいわけ? 言っておくけどあんな動き、私には出来ないわよ?」

 

 私にも無理です。似たような動きをしただけで足が攣って明日には、全身筋肉痛になるのがオチだから。

 だから私達なりの方法で探索するとしようか。えーっと確か迷子になった時に使用する……。

 

「左手の法則ね。闇雲に歩き回るよりは、幾らもマシね。それじゃ行くわよ」

 

 大岩に左手を付けて先陣を切るユーリア。

 その後ろを、無線機を手にしながら付いていく私の姿を見て、飛行船の船長という肩書を持つ者だと気づく人はいるのだろうか? どう見ても主人と従者にしか見えない。

 そんな事をつい考えてしまうのであった。

 

 

 外部から探索を始めてはや数十分。流石に一度、休憩を挟んだ方がいい。ユーリアに至ってはヒールを履いての行動だ。

 ユーリア、ユーリア、疲れたから休もうぜ。

 

「アンタね、それでも男でしょうが。私より先にバテてどうするのよ?」

 

 そうはいうけど、これでもお勤めを終えて出所した身なんだ。

 この仕事の立場上の問題もあって、中々体力が戻らなくて苦労しているよ。

 

 私としては、ただの笑い話。けれどユーリアにしてみれば笑える話ではないようだ。

 それでも足を止めてくれている内に、手ごろな岩にハンカチを敷いて休もうと仕草を送ると、しぶしぶ腰を掛けてくれた。

 

「アンタってば、いつもそうよね。知らぬ存ぜぬなのかと思えば、誰よりも先に異変に気付く。ルゥルゥと一緒で私の一番嫌いなタイプ」

 

 その割にルゥルゥとは仲が良いじゃないか。彼女とは、損得関係無しで付き合っている様に見えるけど。

 

「それはルゥルゥの困る顔が見たいからよ。ってアンタ相手に取り繕っても仕方ないわね」

 

 ポケットからスキットルを取り出してユーリアに向ける。

 私がお酒が苦手なのは重々承知、水とだけ伝えるとあっさり受け取ってユーリアは、喉を鳴らす。

 容器から口を離し、落ち着きを取り戻す様に、薄く息を吐き出す。

 貴重な姿では、ないだろうか。普段のユーリアは、例え何があっても人に弱みを見せる様な行動は、絶対にしないのだから。

 

「二度目だったのよ。相手を掌で動かしながらも、それを相手には、全く嫌だと思わせずに動かせる人間を見たのは」

 

 つまり、嫉妬的な何か? 

 

「そっ、イケスカ騒動の時に思い知らされたわ。私にもっと人を動かせる力があったら、ルゥルゥ程の能力があれば……」

 

 その先に紡がれる言葉は、彼女には相応しくない。

 ユーリアの唇に、人差し指をそっと押し当てると驚いた表情をこちらに向けて来る。

 だが、私は、その態度に構わず首を横に振るだけ。

 それだけで彼女なら解る。無いものねだりをしても仕方ない事に、過ぎた事を考えていても、時間は、有限である事に。

 柔らかな唇の感触から指を離すのが、惜しいとさえ感じてしまう。

 しかし、いつまでもこうしてはいられないのも事実。

 名残惜しいけれど、そっと指を離してお互いに向き合う。

 

 慰めにしか聞こえないだろうけれど、ユーリアにしか持っていない力も良い所も知っているつもりだよ? 現在進行形でお世話になっているぐらいだからね! 

 私を牢屋から引きずり出した連中を相手に、ルゥルゥと結構無茶しているんでしょ? あんまり……。

 

「無茶するな。って言いたいワケ? 私が好きでやっている事だから気にする必要は、無いわよ」

 

 あーいや、確かにそう言おうと喉元まで出てきたんだが、伝えるべき言葉は、そうじゃないよな。

 こんな私だが、いつも気に留めてくれていて、ありがとう。

 昔馴染みなんて呼べる相手は、ユーリアだけだし、何よりそんなにも小さな頃からお世話になりっぱなしで申し訳ないんだけどさ。

 丁度、伝えるには、いい機会だよね。

 うん、改めてありがとう、ユーリア。

 

 ガドールに着いた直後に連行されたあの日は、謝ってばかりだったから、今度は、可能な限りの感謝を込めてユーリアに想いを伝える。

 こうして素直に感謝を伝えられるのも、きっと彼女達と出会ったおかげなんだろう。

 もうしばらくの付き合いになってしまうが、船長としての責務は、きちんと果たそうと心に誓うのであった。

 

 あとユーリアさん、ヒールで私の足を踏むのは、止めて頂けませんでしょうか? 

 他の誰かの事を考えているのが、彼女には筒抜けなのだろうか。

 だとしたら、人の心を読むという末恐ろしい能力を用いているではないか。

 一生逆らわない事にしとこ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告