荒野の空、イジツの片隅、ユーハングの情景   作:星1頭ドードー

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船長と穴の存在 おしまい

 ユーリアの恐ろしさ、もとい政治家の恐ろしさを体験していれば、大岩の上から私を呼ぶフィオの声が聞こえた。

 どうした? 何かあったのか? 

 

「一部、脆い箇所があってな。力を込めて蹴り飛ばせば穴でも空きそうなんだよ」

 

 そこから中へ進入できそうってことか。

 

「問題は、崩落しないか不安ってところなんだよなあ」

 

 確かにそれは問題だ。

 先に潜入してもらっているアカリ、ガーベラ、モアの身に危険が及ばなければいいのだが……。

 

「だからといってこのまま突っ立っているわけにもいかないでしょう? あの子たちには無線で知らせて進行を一時停止、警戒するように伝えればいいじゃない」

 

 それもあの子たちを信じるという範囲に当てはまるのかね。

 

「さぁ? ただアンタが思っているよりもずっとタフな子たちではあるわ」

 

 三人にはもっと頼りにして欲しいとお願いされ、ユーリアは私よりも彼女たちを信じているように見える。

 私が心配性すぎるだけかと自虐気味に笑みを浮かびながら無線機を手にして彼女たちに連絡を入れる。

 

『船長、どうなさいましたか?』

 

 モア、私たちもそちらへ向かう道が見つけられそうなんだが、問題があってだな。

 

『問題……ですか。なんでしょう?』

 

 フィオが洞窟に侵入出来そうな亀裂を見つけたのだが、少々荒療治をしなければ人の出入りが難しそうで。

 

『せんちょー、ガーベラたちはどうすればいいの?』

 

 一旦、進行を停止して安全が確保出来そうな場所で待機をしてくれないか? 火薬を使うわけではないから崩落の可能性は低いのだが……。

 しばらくの間、無線機から三人の相談事が聞こえてくる。

 その声に耳を傾けているが、慌てている様子もなく、お互いに協力をし合い安全を確保しようと頑張ってくれている。

 それだけで既に泣きそうなんだけど。

 

『分かりました! こちらも身を隠せそうな場所がありましたので、そこで待機をしていますね!』

 

 三人ともありがとう。可能な限りそちらの身に危険が及ばないように善処するよ。

 

『私たちなら大丈夫です! もし何かあっても船長なら助けに来てくれますよね?』

 

 もちろん、絶対にだ。

 

『期待しているね、船長!』

 

 任せておけ。それじゃあ、また後で。

 通信を切るとユーリアが口角を上げならこちらを見つめている。

 

「アンタ以外は、みんな覚悟を決めているみたいね」

 

 はい、臆病者で、すみません。

 

 

 上にいるフィオに状況を伝え、安全を確保した上で蹴り飛ばすようにお願いをする。

 雄たけびが聞こえ、その直後、衝撃が走り、岩が崩れ落ちる音が耳に入る。

 お願いしておいてなんだけど、本当に蹴り飛ばすだけで出入口を確保できるんだ。

 次世代凄すぎる。

 

 モア達の安否確認と成功を伝えたのち、トラックに積んでおいたロープや杭を持ち出し、私たちも上へ登れるように準備を行う。

 フィオのおかげで引っ張っても大丈夫なロープを目の前にして、我思うところありけり。

 ユーリアはどうする? ここで待つ? 

 

「アンタ馬鹿かしら? 行くに決まっているでしょう?」

 

 その恰好でどうやって登るおつもりで……。

 

「背負えばいいのよ。アンタが、私を」

 

 はい、そうですよね。分かっていましたとも。

 別に嫌というわけでもないし、やってみますかね。

 ユーリアを背負うと、感じたことは以外にも軽いということ。

 身長もあり、お山も大きいにも関わらず、この軽さ。

 ちゃんとご飯食べているのだろうか? 人の心配をする前に自分も食べろと言われてしまいそうだ。

 それじゃ、しっかり掴まってくれ。

 

 ロープに手をかけ、私は背中から伝わる温もりを感じながら、ゆっくりと崖を登り始める。

 ユーリアを不安がらせないようにゆっくりと、しかし確実に登っていく。

 彼女は私の首に手を回し、落ちないようにしっかりと抱き着いている。

 真横にはユーリアの綺麗な顔。耳にかかる吐息。大きく形を変えているお山。

 邪な考えで頭が埋まる前に、さっさと登りきってしまおう。

 

 

「あら、中々の景色じゃない」

「船長! あの運び方はどういうつもりなんだ! あれじゃまるで船長がユーリアの下僕か何かじゃないか!!」

 

 多分ね、本人も使い勝手のいい使用人か何かだと思っているよ。

 でも、そうしないと登れなかったのも事実だしなあ。

 

「ぐぬぬ……船長! ここから洞窟に侵入する時は、私を背負え!」

「動きやすい格好をしていて何を言っているのかしら? それとも甘えたい年頃かしら?」

「違う! 私はこの場所を見つけ、入口を作る作業を行ったんだ! 船長にご褒美を要求してもいいだろう!?」

「はいはい、ちっちゃい身体で頑張ったわね、フィオ。よしよし」

「チビって言うんじゃねえ!! あと頭を撫でるな!!」

 

 フィオの頭を抑え込みながらニヤニヤと笑うユーリア。

 両手を伸ばしてユーリアに掴みかかろうとしているフィオ。

 あの……洞窟に侵入する準備が出来たのですが……。

 

 結局のところ、私は二度も彼女たちのタクシー代わりにさせられて上り下りを繰り返す。

 フィオなんか両足まで私の腰に回してしがみ付き、今も離れてくれない。

 振り払う元気も沸かなく、私はそのままの状態で周囲を伺う。

 子供の頃に見た景色と高さは変わってしまったが、私が知っているあの頃の洞窟そのものだ。

 遠くから聞こえる風切り音、反響する足音。

 懐かしさがこみ上げてくるのがよく分かる。

 しかし、今は感傷に浸っている場合ではない。

 この先に私たちを待っている三人の為にも、先へ進まなければ。

 

 

「あ! せんちょーだ!」

「おっす、船長。合流出来てよかったぜ」

「あの、フィオさんは大丈夫なのでしょうか? 足を痛めていたりとか……」

「だだだ大丈夫だぞ、モア! 船長がな、その、気を遣ってくれたんだ! うん!」

「自分からねだっておいてよく言うわね」

「うっさいぞ、これは船長からのご褒美なんだ。私は仕方なく背負われているんだ!」

「いいなぁ、フィオさん。せんちょー! ガーベラにもご褒美ちょうだい!」

 

 事実と異なることを述べるフィオだが、背中から下りる気配はさらさら無いようだ。

 更にガーベラまでおねだりをし始める中、アカリが口を開く。

 

「その話は一先ず置いといて。それで、これからどうするつもりなんだ?」

 

 もう少し奥へ進めば目的地だ。特に問題がなければこのまま進もうと思うのだが。

 

「りょーかい」

「はい、いつでもいけます」

 

 アカリとモアの返事に反論する者はなく、再び歩き始めて少々。

 ようやく私たちは目的地である、一つの空間に辿り着いた。

 地下洞窟ではなかなかお目にかかれない、自然に出来た空間が広がる。

 そして運よく穴が開くところを目にするのであった。

 

 

 穴から落ちてきた綺麗なねーちゃんの水着姿が掲載されている雑誌を手にしながらフィオに怒られ、各々が感想を述べるところまで話は進む。

 

「船長……見過ぎじゃないか?」

 

 それはそうだ、フィオ。子供の頃と大人になってからでは印象がまるで違うからな。むしろ見ないという選択はないはずだ。

 

「問題はそっちじゃなくて穴の方だろう!? こんな近距離で視認出来て、さらにユーハングの物が落ちてきたんだぞ!? アタシじゃなくても忘れることなんて出来ないだろ!」

「でも、落ちてきた本にせんちょーは夢中だよ」

「船長……見るなとはいえませんが、時と場所を弁えて下さると……」

 

 次世代の皆様から批判とも受け取れる言葉を投げつけられる。

 確かに、今は水着のねーちゃんで浮かれている場合ではないか。

 手にしていた雑誌を丸めて背中の腰部分に差し込むことにした。後でゆっくり読む。

 

「これだけ距離が近ければ、穴の中にも入れそうね」

 

 一度だけ頭を突っ込んでみたことならあるぞ? 

 

「……私の想像以上の馬鹿だったのね。それで何か見えたかしら?」

 

 何も。ユーハングの世界でも観ることが出来るかと思ったが、真っ暗闇の世界が広がるだけだったよ。リノウチで聞いたのと同じだった。

 

「なるほどね。少なくともコインの裏表のようなものではないことは分かったわ」

「けどよ、他の穴と同じでユーハングに繋がっているのは確かなんだろ? 何とかして穴の先まで行けることが出来れば……」

 

 首領に会える。と言ってやりたいが、残念ながらこの場所から縦に上り続けるのは不可能に近い。

 

「……そうだよな。変なことを言って悪かった」

 

 落ち込み気味で頭を傾けるフィオに対し、頭に手を置いて撫でるユーリア。

 先程よりも優しく、落ちつかせるように見えるのは私だけであろうか。

 

「その件もアイツが手を打ってくれているんでしょう? なら信じなさい」

「……おう」

「せんちょーが何とかしてくれるなら大丈夫だよ、フィオさん!」

「自慢できることじゃないけど、アタシらも散々世話になったしな!」

「ええ、だから信じて待ちましょう、フィオさん」

 

 歯痒く感じるだろうが、向こうにいる友人たちに任せる他ない。

 すまないが、もうしばらく我慢してくれ。

 その代わりと言っては何だが、ここに置いてある物で欲しいのがあれば好きに持っていっていいぞ。

 

「わーい! ガーベラここに来てからずっと気になってた物があったんだ!」

「ちょ!? 急に手を引っ張るんじゃねよ、ガーベラ!」

「物がありすぎて何が良いのかも分かんねー」

「私は料理本があれば是非見てみたいです!」

 

 四人はそれぞれ思い思いに無造作に置かれている物の前に移動をする。

 ユーリアは何か欲しい物あるのか? 良ければプレゼントするぞ? 

 

「なら、昔アンタがくれた人形と似た様な物があればそれでいいわ」

 

 人形か。確かそれならぬいぐるみ達と同じ場所に集めて置いてあった気が。

 記憶を呼び覚ますようにしながらも、ゆるキャラと名付けられている物たちを移動させ、一体の人形を見つけ出す。

 最初にユーリアへ渡した時には存在しなかったその人形は、いわゆる白馬の王子様。

 もしもまだ手元に当時の人形、お姫様が残されているならば、それと対を成す物で間違いないだろう。

 少し埃っぽくて悪いが、私からのプレゼントを受け取って頂けますか、ユーリア? 

 

「……ええ、喜んで」

 

 私の手元からユーリアへ渡される白馬の王子様。

 手にしたそれを見つめるユーリアは、初めて出会ったあの時と変わりなく、優しさに満ちた瞳をしていた。

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