荒野の空、イジツの片隅、ユーハングの情景   作:星1頭ドードー

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船長と巡り合い シアラ

 停泊中の飛行船。その操舵室には、業務に携わる者のいない静かな空間が広がっていた。

 ゆっくりと隣にある滑走路から飛び立つ飛行機を見送り、私は思いを馳せていた。

 ……先程までは。

 

「あはっ。船長ってば、あたしを無視して面白そうな事をしてるじゃない」

 

 シアラは船長席で足を組みながら座り、器用に私の顎を甲に乗せている。

 有無を言わさず女王様から正座の命令を受けた私は、本能的に床へ座っていた。

 

 そのまま押し黙っていれば、足で顎クイされるという前代未聞の屈辱的対応。

 このご褒美は副官のヴィトにしてやれば良いのにと、私が困惑したまま顔を上げれば……。

 天使と悪魔が同居しているかのような、ニコニコと天真爛漫に微笑んでいる彼女、そして欲望をさらけ出した表情で爛々と輝く瞳で見つめてくるシアラ。

 

 まるで構ってもらいたいとおねだりをしている子供のような無邪気さと、裏で抱えている欲望とが相乗効果になっている彼女の表情は、恐ろしや。

 これでは蛇に睨まれた蛙ならぬ、獅子に睨まれた駝鳥である。

 相手の戦意を喪失させる手法として一般的であるが、案外顎クイって需要はあるのだろうか……いや無いか。

 

「船長、アンタはあたしの何なのか。答えてみなさい」

 

 私の顎を指でぐいぐいと押し上げながら、冷たく囁いてくる。

 嬉々として行動しているように見えて仕方ない。

 ……やだもうこの子、根っからのマフィア令嬢じゃないの! 一人前以上の迫力を持っており、私は冷や汗が止まらない。

 

 降参の意味で両手を挙げるが、シアラは変わらず冷たい声色で話しかけてくる。

 

「答えなさいと言ってるのよ。それも分からないワケ? 少し目を離せばコレなんだから、呆れたものね」

 

 顔はニッコリと笑みを浮かべているのに、視線だけで私の心臓を射抜こうとする眼力は抜群。

 それこそ彼女の周囲にバチバチと放電現象が起きそうな威圧感である。

 グイ、と指で顎を押されて私の顔はどんどん仰け反ってしまう。

 

 無理やり視線を合わせたシアラであったが、目が据わっている。

 

「アンタは私の下僕なの。下僕なら主人に対してハッキリとした声で返事をしてみなさいよ。……下僕の分際で何を好き勝手やっているの?」

 

 私に笑顔を向けてそう告げる彼女。しかし、目が笑っていないため背筋が凍るほど恐ろしい。

 圧殺という言葉が似合うような怒りを露わにし、今にも暴力を行使しそうな雰囲気がヒシヒシと伝わってくる。

 

 いえ、それがですね。なんと申し上げれば良いのでしょうか。うーん、どうでしょう? 

 

「なによ。煮え切らない態度ね。私に何かやましい事があるってことかしら? 隠し事をする気なのね? へえー……、そっか、そっかあ! アタシの下僕がご主人様に逆らおうっての?」

 

 にこやかな表情が次第に険しいものに変わっていく。こうなるともう手がつけられない。

 

 いえ、そのつもりは毛頭も無くですね。ええ。

 

 言い訳無用、とばかりにシアラの踵が私の頭の上に乗る。そのままゴリゴリと踏みつけ始めた。

 あだだだ! 痛い! これはガチで痛いって! 靴は脱がれているけど、力強い彼女の脚力で容赦なく踏まれるとちょっとした拷問のようなもの。

 

「へえ、あたしからのご褒美が不満だったと? ご主人様の顔に唾を吐きかける下僕に、躾をしてあげているのよ。感謝されても当然よね?」

 

 これはかなりご立腹の様子である。このような冷たい視線を受けて喜ぶのは特殊な性癖をお持ちの方ぐらいなものだろう。

 私には生憎とそのようなモノは無い。

 罪悪感も相まって痛いはずなのに、痛いのに、体がちょっと反応しているような……これがもしや支配からの……。

 

「まあいいわ。特別にアンタがあたしに伝えたくなるまで、足置き場として使ってあげる。その口で告白する事も有りよ」

 

 もう片方の足も組まれる形で頭に乗せられる。

 船長席の高さと、私の視線から、正直に申し上げますと……スカートの中がまる見えでございます、はい。

 とはいえ、縦線の入ったタイツを穿いていらっしゃるので、具体的に何がどうのと言うわけではないのですけどね。

 

「それで、この騒ぎは一体何なのか説明してくれるかしら? もしまだ言う気にならないようならば」

 

 彼女はそう言いながら少し足に力を入れて頭を踏みにじる。あだだっ! 顔が地面に押し当てられそう! このままでは彼女が話を聞いてくれそうにないので、私は素直に事情を説明することにした。

 

 かくかくしかじか、ペラペラペーラ、と言う事です。

 

「ふーん。ようやくやる気になったってワケね。遅いのよ。馬鹿じゃないの?」

 

 余程不服だったのか、私の頭に乗せたまま更に足へ体重をかけようとする。

 このまま後頭部から床に叩きつけられるかと思ったけど、すんでのところで止まってくれた。

 ふぅ、命拾いした。

 

「そんな楽しそうな事をアタシに黙っていたなんて、ホントいい度胸してるじゃない」

 

 とは言われましても、つい先ほどの会議で決意表明させていただいたあげく、飛行隊の皆様の意見も伺いたかったものでありまして。

 

「そんなもの必要ないわ。長が集って決めたならさっさと始めれば良いのよ。まどろっこしい事をせずにね」

 

 ですが、そうなるとゲキテツ一家はフィオからの命令で動く事になりますが……。

 

 余計な一言だったのだろう、私の顔が一気に地面へと沈む。これが船長の全力土下座。

 尚、効果は特に無い。

 

「はぁ。それだけは気に入らないけど仕方ないわね。この借りは必ず返しなさいよ? ゲキテツ一家としても、あたしとしても、ね」

 

 分かりました、肝に銘じます。でも、そんな期待しないで下さいね……。

 

 そんな事を考えつつも、私は彼女の足から解放されて起き上がった。

 相変わらず船長の私よりも威厳のある姿で着席するお姿を拝見していると、両肘を付いて指をアゴに当てたポーズを取る。

 しっとりとした唇からチラリと舌が見えたのは、私的な意見だが色気があった……と思う。

 

「その件についてはカタが付いたからもういいわ。次よ、次」

 

 次? はて? まだ何かございましたっけ? 私のその表情を読み取ったのか、彼女は指でトントンと叩く。

 

「アンタ、さっきあたしのスカートの中を熱心に見てたじゃない。どう責任取るつもり?」

 

 残念ながら記憶にないですね。いえ、貴女の可憐な容姿からして魅惑的で眼福だと思ったのは間違いございませんが。

 

「タイツを穿いてなかったらどうするつもりだったのかしら?」

 

 問題ありません、いつでも新しい世界へ飛び込めますので。これは経験談です。

 

 真面目な表情で伝えてみるも、フックのような足蹴りが飛んでくる。

 だがしかし、私は甘んじてその攻撃を受け入れた。これぐらいの衝撃はご褒美みたいなものだね。

 ……あれ、もしかして良くない世界へ飛び込もうとしてない? 私……。

 

 彼女の眼光の開いた目と無表情を拝見していると、本日のドジっぷりが招いた過去のアレコレを思い出してゆく。

 

「あたしの下僕とはいえ、情けなくて涙が出てくるわね。……はぁ」

 

 そう溜息を付くと、船長席から立ち上がるシアラ。そのまま操舵室を出て行かれるのかと思えば、私の隣へ立ち、顎で指示されてしまう。

 どうやら私が船長席へ着席しろとの事らしい。

 ボスの命令には逆らえないので私は大人しく従い、手を掛けると、シアラの温もりが感じられるのか、どこか安心感を覚え始めていた。

 

 そんな矢先であった。

 ボスン。

 私の太ももに勢いよく腰をおろしてきた。

 

 更に深く座ると、ふんぞり返るように私を背もたれ代わりにし、背中を寄りかからせてきたのだ。

 微妙な調節が必要だったのか、今度はズリズリとお尻を移動させ、体全部が私に押し付けられると、満足そうな吐息が漏らされた。

 視線を下に向ければ、すっぽりと私の腕の中に呑まれてしまう小柄さであった。

 

 フィオと同じく身長が低い事が弱点と思いきや、ご立派なモノをお持ちであると知る。

 なるほど、世の殿方はこういう小さい子に強く出れないのですね。

 

「罰として、今日は四つ足の椅子ではなく背もたれとして使ってあげるわ。あたしのような可愛いご主人様の熱を感じられて光栄でしょ? 喜びなさい」

 

 シアラの命令に、拒否権などはない。

 私は大人しく頷いてみせると、シアラが足を組み始め、タイツ越しに脚線美が強調される。

 反るようにして頭を私の肩へと乗せられ、彼女が勢いよく体を倒してきた。

 

 そのため、私の視界はシアラでいっぱいになり、彼女しか見えなくなる。

 

「……はふぅ。少し寝るわ。起こすんじゃ……ない……わ……」

 

 最後まで言い切る前に、シアラは私を椅子のようにしたまま、夢の世界へ旅立って行った。

 先ほどまでの勢いはどこへ行ったのか、小さな吐息を漏らしながら。

 さて、どうやってこの状況から抜け出そうと考えてはみたものの、早々に諦める事にした。

 

 何故なら、シアラの寝顔が安心しているものだったからである。

 黙っていれば……は、イジツの女性全員に適応されそうなのでお口チャックしておこう。

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