荒野の空、イジツの片隅、ユーハングの情景   作:星1頭ドードー

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ケイトとチカの添い寝

 羽衣丸の船内。その中で割り振られた四人部屋の一つに、ケイトは居る。

 同居人は言うまでもなく、エンマ、チカ、キリエの三人だ。この部屋にいる間、ケイトも含めた四人は其々好きな事をしている。

 キリエとチカは二人で喋る回数が多い。時折、チカがキリエをからかうような発言し、その内容に対して反論が出来ない場合の多いキリエは、チカの所持品であるアノマロカリスの人形へ憂さ晴らしをするかのようにポカポカと殴りつけ、チカが悲鳴を上げるのが一つのパターンだ。

 一方で、二人の何時ものやりとりを呆れるように眺めていたエンマは、手にしていた帳簿を見つめて溜息一つ。

 自分自身の金銭のやりくりに対してではなく、実家の帳簿なのだろう。何時の日に言っていた発言を思い出す。

 

『これでもコトブキ飛行隊に所属する様になり、イケスカ騒動後は両親を騙そうとする不逞の輩はこれでも減りましたのよ? ゴロツキ飛行隊などと呼ばれておりますが、一定の効果はあるみたいですわ』

 

 その様に発言をしつつも目が据わっており、何かを思い出したのか、不気味に笑い出し、握られていた鉛筆はへし折られる。精神的に相当溜め込んでいる事が分かる反面、そういった部分もゴロツキ飛行隊と呼ばれる所以なのでは? と、ケイトは思う。

 ケイトは一日の予定を立てる為、壁に身体を預けながらノートに計画を記載していく。筆を止め、思考に耽る間は、山折りにしていた両足を伸ばしたり、戻したり。身体の硬直を防ぐ為でもあるが、他にも理由はある。

 

 

「不眠症対策かぁ」

「何か良い手はないか、アレン」

 

 目の前には、ケイトが持ち込んだアルコールを摂取するアレンの姿。お土産として持ち込んだケイトも大概であるが、受け取って早々に飲み始めるアレンもどうなのだろうか。

 

「治療の一環として行われているのは、毎朝決められた時間に起きること」

「騒がしい人達が同室にいるおかげで問題ない」

「起きてしばらくぼーっとすること」

「そうしなければ思考が定まらないので、朝と空いた時間に行っている」

「羽衣丸に搭乗している時も、太陽の光に浴びたりはしているかい?」

「敵襲があれば。それ以外では羽衣丸の構造上、難しいところではある」

「まぁそうだよねぇ」

 

 頭を傾け、真剣に考えてくれるアレンの姿。片手に持ち合わせている飲み物がアルコールでなければ、頼りになる兄の姿であるのだが。

 

「何かストレスは抱えてないかい?」

「ケイトの目の前にいる甲斐性無しについて」

「特に無さそうだね」

 

 再び手にしているアルコールを摂取し、満足そうに息をつくアレン。怠惰を人の形にしたような人物であるが、ケイトでは思い浮かばないような発想力を持ち合わせていることが不思議でならない。

 

「仕事柄、どうしても時間が不規則になりがちなのは、仕方のない事なんだろうけどね」

「だが、放置しておく訳にもいかない。悪化して皆に迷惑はかけたくない」

「ケイトがそんな事を言うとは思いもよらなかった。レオナに預けたのは正解だったようだね」

 

 本人を目の前にして、その様な事を言われても反応に困る。寝不足が原因で何かが起きてからでは遅いのだ。事前に対処出来るのであれば試してみる価値はある。

 

「そうだ、あの子に相談してみたらどう?」

「あの子、とは」

「チカだよ」

 

 どうしてそこでチカの名前が出てくるのか、その時のケイトには理解が出来なかった。

 

 

「ケイトが相談ごとなんて珍しいじゃん!」

 

 羽衣丸内にあるジョニーズサルーン。そこでコトブキの皆と食事をする際に、アレンの言葉を思い出し、チカに事情を伝えてみた。結果的にチカ以外にも意見を聞く事になったのだが。

 

「簡単じゃん! 毎日ちゃんとご飯を食べて、バッーって身体動かしたら自然と眠くならない?」

「みんなチカみたいに単純じゃないって事っしょー」

「はぁ!? ならキリエだったらどうするんだよ!」

「そんなの決まってるじゃん! パンケーキを食べれば心も身体も癒される! 嗚呼パンケーキ、君は何故パンケーキなんだい?」

「頭湧いてんじゃない?」

 

 チカの一言で始まる二人のじゃれ合い。三つの溜息が聞こえてくるが、放置しておこう。

 

「ケイトが不眠症とは、早く伝えて下されば相談に乗りましたのに」

「現状、日常、仕事に支障はない。だが、このまま続くようであれば、問題が発生するのは目に見えている。アレンに相談をしたところ、チカに聞くといいと助言を貰った」

「チカに? それはまた何と言えばよろしいのやら」

「私は何となく分かる気がするなぁ」

「まぁ! それは一体なぜですの、ザラ?」

「ケイトとチカは真逆の性格をしているから。とでも言えばいいのかしら」

 

 チカは太陽と表しても良い程、明るくさっぱりとした性格の持ち主だ。表情も豊かでザラの言う通り、ケイトとは真逆と言っても過言ではない。

 

「あの飲んだくれの事だ、それ以外もあるだろう。広い知識を持つケイト、経験豊富なチカ、この二人が手を組めば、意外なところから解決策が浮かぶとアレンは考えたんじゃないか?」

 

 どうやらレオナも心当たりがあるようで、その様に発言をする。だが、現在チカはキリエと口喧嘩中。様子を伺えば、どうやら今回もチカの勝ちの様だ。

 

「それでも解決出来そうになかったら一言頂戴。私がレオナにしてもらった安眠する方法をケイトにもしてあげるから」

「ザラ!? あれはザラが私の腕に……」

 

 ケイトの目の前で、もう一つの何時ものが始まる。隣にいるエンマも、またかといった視線を送り、半ば呆れ気味に食事を再開している。

 ケイトも食事を再開しよう。一日に必要な栄養を摂取しなければ、身体を休める事もままならない。

 

 

「ケイト! 今日は一緒に寝よっ!」

「拒否する」

「うんうん、やっぱり眠れない時は……ってなんで!?」

「チカは寝相が悪い」

 

 食事を済ませた後、敵の気配も無い事から規定通り、早めの就寝時間。その際に上段で寝ているチカがアノマロカリスを抱えてやってきたのだ。ケイトにも拒否する権利はある。

 

「チカってば、前にみんなで横一列で寝てた時も大の字で寝てたもんね!」

「キリエ、貴女がそれを言える資格は無いと思いますが……」

「誰かと一緒に寝ると心が落ち着くんだよ! ケイト!」

「あの時は、チカの腕がケイトの顔に当たらないか肝を冷やした」

「もう! とにかく一緒に寝よ! さぁさぁ!」

 

 チカが勢いよくケイトの布団に潜り込んでくる。その際、ケイトの身体に重みを感じ、その場所へと視線を移せば、そこにはアノマロカリスの姿が鎮座していた。正直、怖い。

 左腕にはチカがしがみ付く様に自分の腕を絡ませ、気が付けば足にも。これで不眠症が解決出来るとは到底思えず、状態だけでいえば、アノマロカリスに贄として捧げられるケイトの図が頭を過る。

 

「はぁー、ケイトって暖かいね!」

「恐怖からくる緊張により体温の上昇していると推測」

「そんなに怖いのかなぁ、マロちゃん」

 

 ケイトの上に乗せられていたアノマロカリスは、チカに押し突かれてケイトの右側へ。目が合ってしまった。チカとアノマロカリスに挟まれたケイト。眠りにつく以外、逃げ場は無い。

 

「チカ、この状況でどうすれば眠りにつく事が出来るのか?」

「んー、簡単簡単。ケイトの腕に伝わらない?」

 

 伝わる? 何がと思考していると、僅かにではあるが、腕を通じてチカの鼓動を感じ取れる事が判明する。

 

「チカの心臓の鼓動が伝わる」

「それそれ、後は目を瞑って私の鼓動に集中していれば……」

 

 全てを言い切る前に、チカは眠りに入ったようだ。この睡眠の早さは、憧れさえも抱いてしまう。

 これ以上は考えていても仕方ないのだろう。言われたとおり目を瞑り、チカの鼓動に集中してみよう。

 チカの小柄な体格を動かす心臓。普段、あれだけ活発に動き回るチカとは思えない程、寝ている時の心臓の鼓動は一定の感覚を保ち、ケイトの腕に伝わる。

 自分以外から伝わってくる、命の形。片側の腕と足が拘束された状況下。普段であれば不眠症に拍車がかかりそうなものなのだが、不快な気持ちは一切ない。右側を除く。

 そこへ何時もより、よく聞こえてくるチカの寝息。合わせるようにケイトは呼吸をする。

 

 とくん、とくん、と伝わる鼓動と、チカの温もり、心地よい吐息。

 何故、チカはこの様な方法を知っているのだろうか。これがアレンやレオナの言っていた経験というものだろうか。

 気になる事は山ほどあれど、今日はどうやら思考する時間すら無いようだ。

 有り余る程あったはずの思考の時間は、既に刈り取られ、意識が無くなるのも今や目前。

 このまま朝を迎えられたら、ケイトの意識はどのような状態で目覚めるのだろうか。寝る事が楽しみと感じるのは、もしかしたら始めてかもしれない。

 

 起きたら真っ先にチカへお礼を伝えよう。そして今後は、アノマロカリスと添い寝は勘弁して欲しいという事も。

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