外伝 とある原石の神造人形(エルキドゥ) 作:海鮮茶漬け
エルキドゥ〈アサシン〉では起点のエーテルとの接触が無いため、本編とは違いエルキドゥを宿すこと無く科学一辺倒で物語は進みます
1.暗部
「や、やめてくれ私が悪かった、私だってしたくてしたわけじゃ無いんだ!!」
とある路地裏。表の世界とは切り離された、冷たく暗い闇が包み込む絶望がそこにはあった。
男の顔を含め、全身の至るところが腫れ上がっていた。ここで長時間拷問を受けていたのだろう。しかし、それではおかしな事がある。
見た限りそこは特段特殊な場所というわけではない。よく街の中にある、建物と建物の隙間に空けられたただの空間だ。拷問をする場所としては不適格だ。
だが、この街ではそんな何の変哲もない空間に意味を持たせることができる。
例えば、この通路の入り口付近に設置されている、両隣の建物のこのそれぞれの位置と色合いは、この路地裏に入り辛くしている。
右の飲食店をしているあのカフェの内装は、集客力を高めるために落ち着きながらも、目を引く色合いのインテリアを配置していた。左の画材屋は派手な色合いのポスターと、大きく崩した文字が書かれた看板で、どのような物を取り扱っているのか分かりやすい。
このよくある光景の何が変わっているのか?
人間は目で得る情報が九割と言われているほどに、視覚へ依存している。その視覚に錯覚のような誤認させる情報。あるいは、嫌悪感を抱かせる視覚情報を与えると人間は簡単に騙されてしまう。
色彩感情というものがある。色を見る事によって落ち着いたり、気分が落ち着かなくなったり、好奇心を掻き立てられたりする現象だ。黄色のような好奇心を抱かせるものではなく、赤色のような集中力を乱す色を使用すれば、路地裏に意識を向ける人間は減るのだ。
さらに、不自然になりすぎないように、日の当たり具合から路地裏に陰影を付けさせ、時間帯や両隣の建物のライト次第で、自由に人々の意識を変えて通行の数を調整することも可能だ。
そして、施された技術はそれだけではなく、音響にも科学技術を取り入れている。この建物の壁には音を吸収し、別の音に変えるように計算された、特殊な切れ込みと素材が使用されている。
音とは波だ。固有の音波が声となって人の口から放出される。ならその音波に変化をつけたらどうなるか?
波の大きさ、高さ、間隔を変えてしまうともう原型は一切残らなくなる。そして、自由に音を変えられるということは、人が嫌がる音というのも作り出せるのだ。
つまり、助けを呼ぶ声が要り組んだ路地裏で、特殊な壁に反響し生理的に嫌な周波数になってしまう事で、反って人が寄り付かなくなってしまうのだ。
最初はこのようなところで拷問をし始めた相手を、侮蔑と共に内心嘲笑していたが、幾ら大声で助けを呼んでも反応しない街並みに絶望した。そう、希望から絶望に叩き落とす意味でも、ここは有効なのだ。
そして、これを看破できる者は暗部でもそうはいない。何故ならこれは暗部の人間のやり口とは違うからだ。純粋な科学によるもののため、暗部の人間のような狡猾さが感じにくい。
このようにして、人が不自然に通らなくなる路地裏が生まれるのだ。これは、何か障害物を置いたりするなどの手間や、痕跡を残さないようにすることができる。
その中心に追い込まれた中年の男は、目の前の相手に向かって必死に懇願をした。
「私が知っている情報は全て吐いた!本当だ!信じてくれッ!」
「確かにもう情報は持ってないようだね。資金集めのために利用されたのが有力のようだ」
「もう決して裏切らない!今回の詫びは必ずする!賠償金も幾らでも用意しようッ!」
男は脂汗を出しながら動くこともままならない身体を動かし、ひたすらに命乞いをする。それしか自らが生き残る道がないと既に分かっているからだ。
自分よりも遥かに年下の小娘に、こうして無様な姿を晒していることに憎悪を抱くが、それでもこうするしか方法が無い。
「(そして、まだ私には勝ちの目が幸運にも残っている!)」
そう、目の前の少女は他の暗部とは違った。それも決定的に。
まずその身のこなし。暗部で生きていれば間違いなく出てしまうクセのようなものが一切なかったのだ。
敵に不意討ちされないように周囲を観察するための視線、死角をなるべく隠すためのポジショニング、やたらと長く戦闘の邪魔にしかならない髪。
そこから導き出される答えは一つ。
「(コイツは暗部に入ってからそこまで日が経っていない……)」
このような場所をセッティングされたのは、おそらく百パーセント私を殺させるため。では何故?
絶対に私を殺すことができるこの場所で私を殺せるのか。それがコイツの課題なのだ。今までコイツは人を殺したことがおそらく無い。そのためのここだ。ここならば殺せなかったは通じない。殺すか殺せなかったかの二択のみ。
「(ならばその理由を与えてしまえばいい。私に付くほどのその理由をッ!)」
暗部に堕ちるものは何かしらの理由がある。それを聞き出し付け込めば、生存を掴み取ることができる……!
「何か欲しい物があるのか……?必要ならばその全てを用意してみせよう!だから私を──」
「
「……へ?」
パンッ!という発砲音と共に男の体が傾き、地面へと倒れた。この空間ならば例え
その人物は使用した拳銃を再び腰のベルトに挟み、近くに居た下部組織の人間に死体の後始末を命令し、その場から離れる。
入り組んだ路地裏を通りながら彼女は依頼主へ無線を繋いだ。
「依頼は完了したよ。彼は情報は持っていないただの駒のようだったね。あとは、君が私有している部隊が片付けるという話だったから、僕はここで引かせてもらおう」
『それで構わない。報酬は口座に振り込んでおく』
「了解」
そう言って通話を切った。次の依頼がくるまであの人物とは話すことは無いだろう。路地裏から出て賑わっている街並みを通り抜ける。先ほどの惨劇を生み出した人物とは思えない、リラックスした平然な様子だった。
そんな彼女は内心思う。
「(暗部落ちとかマジクソゲー。常に命懸けとか本当に馬鹿だわ)」
外見と中身が全く違いすぎた。外見がたおやかさを持つ美しい少女なら、中身はこたつで寛いでいるちゃらんぽらんである。
外見と中身が一致しない彼女であるがそれにも理由があった。彼女は『とある魔術の禁書目録』の世界に転生させられた転生者なのだ。
元は男であったがその容姿はエルキドゥのモノであり、性別は女という奇妙奇天烈な事になっていた。唯一説明できる神が現れないため、一人で意味が分からないなりに、色々順応して生きていこうと思った矢先、木原に目を付けられたのだ。
それが複数の木原ならば、対衝突させて均衡状態を作ればよかったのだが、俺に狙いを付けたのは木原幻生ただ一人。他の有象無象の科学者が相手になるはずもなく、俺は木原幻生の手によって暗部へと落ちた。
そんな流れで暗部へと落ちた俺は、最初に考えていた上条勢力に入ることを早々に諦めた。これは色々あるのだが、一番の理由は上条のハードスケジュールを鑑みてだ。
上条ならばきっと暗部からも救い出してくれるだろう。
そうなれば、上条は間違いなく変わってしまう。上条が「自分には誰かを助けることはできない」と、考えるようになれば原作通りにはならず、この世界が破滅する。
そのため、自分が暗部から救い出される未来は捨てることにした。このクソみたいな暗部で強かに生きていく事にしたのだ。
決して上条の物語には関わらず、一方通行が暗部を解体してくれるその時を待つ。それが最善手なのだから。
仕事にも慣れたものだ。最初は殺すのを躊躇うかと思ったが意外にもそんなことはなかった。この世界は余りにも『とある魔術の禁書目録』の世界そのものだったからだろう。
最初に出会った木原幻生はもちろん、他の原作キャラも原作通りにしゃべり、原作通りに動き、アニメ通りの声をしていたのだ。そんな分かりきったキャラが平然といる世界が、現実と言われても実感などできるわけがない。
それこそ、暇なときは「(このキャラに声当ててる人誰だったっけなー?)」なんて声優クイズをしてしまうほどに、そのまんまなのだ。
先ほどの射撃もガンシューティングで遊んでいるような感覚だった。
このゲームの達成条件は《上条と関わらず暗部が解体するまで生き延びる》。これを見失わなければオールオッケー。
仕事も終わったのでシャワー浴びてさっさと帰りたいところなのだが、このあとに大事な約束がある。
その目的地まで歩いていると人垣の向こう側に知人が居た。
「仕事は終わったよォだな」
「
「アイツと二人きりなんざ死ンでもゴメンだ」
そこに居たのは、十二歳にして濁りきった目をしている
肩甲骨まである切り揃えたロングに、ぱっつんの前髪と耳元の髪が金色に色が抜かれている。服はパンク系でところどころ空けられた革には紐を通しており、全体的に地肌が見えてしまっているが、そんな彼女に色気を感じないのは、歳が十二歳程度と低く幼いためだけではなく、その黒く澱んだ雰囲気によるものだろう。
そして白いフードつきのコートを頭に被っている。しかし、袖を通していないため、被ったフードのみで落ちないようにしていた。
どこぞの世界最高の原石の白ランを思い出すが、あっちはフードですらなく肩に羽織っているだけだ。あれで風に飛ばされない第七位に比べれば全然大したことはない。
そんな彼女は人目に映らないようにするためか、イルカのバルーンを持って一人で壁に寄りかかっていた。彼女に近寄ると黒夜は壁から離れ、約束の場所まで二人で一緒に並んで歩いていく。
歩き出すと隣の黒夜が話し掛けてきた。
「また、科学者共と何かの開発か?」
「いや、今回は
「あの
そう、あれは俺の思い付きで生まれたものである。それというのも、
それというのも敵の能力が
前世ではトリックアートを道路などに描き、目の錯覚で車のスピードを落とさせるという利用がされていた。
それを思い出した俺は「ならそれを取り入れちゃえば何か使えるんじゃね?」と木原の爺に言ったところ、「悪くないねぇ」などと言って、人を無意識で操り、おまけに音響ベクトルを計算され尽くした障害物に当て、人が寄りつかなる周波数に変換するなどと、予想外過ぎるゲテモノな空間が生まれてしまった。
「へえ、あの場所を他の人間も使っているのかい?全然知らなかったよ」
「利権でも主張してみるか?別にあそこはアンタの私有地でも何でもねェから、十中八九無理だと思うけどな」
そう、あの区画は木原幻生の私有地だ。あの爺が好き勝手させてるなら、別にそこまで隠しとく理由は無いのだろう。俺としても別にどうでもいいし。
そのまま、とりとめの無い話をしながら二人並んで歩いていく。暗部に落ちてから色々あって黒夜とは出会ったけど、まさか黒夜とこんな関係を築くまでになるとは、当初は思ってもなかったな。
そういう意味じゃあの子もそうなんだけどさ。
「あれから君の方は順調かい?」
「ああ、もう少ししたらサイボーグは実戦で使いモンになる。あとは時間だけだ」
そんな会話をしていると目的地に着いたようだ。少し見渡してみると、そこにはお目当ての人物が一人で紅茶を飲んでいた。
黒夜の話からなんとなく察していたが、やはり俺達より先に来ていたようだ。
俺達がそのテーブルに近付くと、カフェテラスに一人で居る少女がこちらに気付く。
「ほんの少しだけ遅刻ですよ、天野さん」
黒夜と同じ背格好にして、股下ギリギリまで攻めたニットを着ている茶髪の少女、
黒夜と絹旗が一つのテーブルに、無事争いなく集まった。これは本来ならば絶対に起こり得ないことだ。
新約まで読んでいるから分かるが、黒夜と絹旗の組み合わせは絶対にあり得ない。彼女達は性格的にも
では、どうしてそんな二人が一緒に待ち合わせをしているのかというと、もちろん俺が原因だ。
では何故俺と彼女達がこうして仲良く一緒に居るのか。それは一つの共通点があったからだ。
俺と彼女達との共通点は一つ。
『暗闇の五月計画』
学園都市の闇が生み出した悍しい実験の一つである。
本編とは違った箇所が幾つかあることに気が付きましたか?外伝でありながら伏線を色々張ってみます。
次回の投稿は未定。
◆作者の戯れ言◆
最近fgoで、長女、次女、施しの英雄、授かりの英雄、呪腕先生のパーティー編成を、『みんなはプリキュア!』って名付けて出撃するのにハマってる
あと、話数評価ってなんですか?知らないので知っている人が居るなら、それについて教えて欲しいです