『暗闇の五月計画』
この実験の目的はただ一つ。学園都市第一位である
一方通行の力が使えるなら良いことかと思うかもしれないが、能力者の演算はその人物の人格の一部分を担っているため、それを植え付けられれば人格が分裂したり、廃人になってしまう事が起こる。
だが、この学園都市の科学者にモラルなどがあるわけないため、
そうして生まれたのが一方通行の防御力を反映した能力、
その研究機関は黒夜によって科学者達が虐殺され、計画は凍結しその幕を閉じた。そして、正史での二人は別々の組織に入り、敵対する以外では関わらないようになるのだが、今はそうではない。
それなりに人が通る街並みの中で、俺達は一つのテーブルに三人集まった。
「それじゃあ、さっさと会合を始めようぜ。こんなところに長居するなんざ吐き気がするね私は」
席についた黒夜が切り出した。それを聞いて絹旗も言葉を発した。
「ええ、ここにただ座っていても超始まりませんしね。それに、こんな陰険な顔見ながら飲むドリンクは、どんなものでも超不味くなりますし」
「そう言うこった。まあ、絹旗ちゃんがその股下ギリギリのニットで誘った、脂ぎったオッサンと一夜をホテルで過ごしたいってンなら、俺達は喜んでここを離れてやるけどォ?
あっ、もしかして既にこのあとのご予定が埋まってたりするう?いやー、私としたことが全く気が回らなかったなー。もしかしてお邪魔しちゃったかな絹旗ちゃーン?」
「超ふざけてンのかお前。この私がそんな安い真似をするとでも?舐めたこと言ってるとその腐った使えねェ脳ミソ、力ずくで引き摺り出すぞ」
そんな開口一番に喧嘩を吹っ掛けまくる二人は、まさに油と水。決して混ざり会うことなどない正反対の二人だ。
これが一方通行の攻撃性と防御性をそれぞれ獲得したためか、はたまた生来のものなのかは、今では確かめようもない。
このままでは、確実に辺りが更地になるだろう戦闘が始まってしまうことだろう。しかし、幸運にもそんな彼女達に声をかける少女が居た。
「君達、仲が良いのはいいことだけど先を進めようか」
「……これがアンタには仲良く見えンの?もしかしてその目って節穴?」
「私としても超心外です。眼科行った方が良いと思いますよ」
二人の少女から辛辣な声が投げ掛けられるが、彼女に苛ついた様子は無い。
「そうかい?僕から見れば二人はじゃれついているようにしか見えないけどね。それと、海鳥どちらかと言えば君の方が節穴じゃないかな」
「あ?」
黒夜は天野の返答に、苛つきよりも疑問を抱いた。こういうとき、彼女は飄々と返事をするのが常なのだが、何故か幾らか刺があるような返しだった。
「(まさか、こんなしょうもないことでこの女から冷静さを奪ったつーのか?)」
今までになかった反応に意表を突かれるが、そのあとに言われる言葉のせいで、そんな感情は全て吹き飛んだ。
「
「ッ!?」
その放たれた言葉に黒夜は驚愕する。
「(どォいう事だ?前回会ったときに能力増強のため、サイボーグ技術を取り入れた事は確かに言った。
察知されるなどあり得ない。口止めは当然やったしそれをこの女に察知されないために、今まで接触をなるべく絶ってきた。そのはずの秘密をこうも簡単に看破されるとは流石に予想の範囲外だ。
「それで最愛はどうだい?馴染めているかな?」
「ええ、作戦通り超上手くやっていますよ。察知されるなんて間抜けなことはしていません。全員が女子だから変に気を使わなくていいですし。
……それにしても落ち着きませんねここは。大丈夫だと頭では分かってるんですけど」
そう言って絹旗が目を向けるのは、数メートル先の人がよく通る歩道だ。このテーブルからほんの数メートルでしかないため、聞き耳を立てれば簡単に話の内容を聞かれてしまうだろう。
「こうも無防備に表の人間が居る空間で裏のことを話すのは、私としても気持ち悪いね。いくらここが最も内緒話に適しているとはいえな」
「ここの有用性は折り紙付きだよ」
「ハッ!アンタが言うと違うね。
木原幻生のやり方と違うのは、ここを一から作り上げた訳ではないのである。元々ここは店主が偶然物を配置したものでしかなく、周りの建物も偶然そこに建てられているものでしかない。
だが、それに意味を持たせればどうなるのか。
「
本来なら通行人の意識が向きにくい程度のカフェのテーブルに、『黒の髪色の少女が二人居る』という事実を挟み込むだけで、何故か人は意識を別の方に向けてしまう」
ここにもそのゲテモノの技術が使われている。一番奥の席である事はもちろん、物の配置と配色で人の意識から自然と外れてしまうのだ。
さらに、長い黒髪の人物がこの風景に溶け込むと、意識を無意識的に外してしまい、そちらに視線を向けることが無くなってしまう。
そして、草むらの陰に隠された幾つかの小型の機械。これが三人の声を遮断している。というのも、店内に流れているBGMは、天野があらかじめ頼んで流して貰っている。
それにも秘密があり、そのBGMと草むら音が機械から放たれる音を、ぶつけ合うと音が相殺しあい遮音膜が形成されるのだ。とはいっても自分達の周囲に展開しているため、二メートルまで近づかれば聞こえる程度のものだ。能力や盗聴器を使用されれば当然聞かれてしまう。
「だけど、僕の気配を察知する力を使えば、ここでの話を誰かに聞かれることは万に一つも無い」
「まあ、私達は『暗闇の五月計画』っていう繋がりもあるから、ただの同窓会っつー言い訳もできるしな。無防備なのが安全性を高めるなんて不思議な話だ」
何か一つの技術でなく、様々な要因で作り出される空間のため、見抜くことは難しくさらに保険まで用意している周到さだ。
「というか、他人の意識から外れるためにわざわざ黒髪のウィッグまで付けたんですか?」
「不安要素を取り除くのにやり過ぎなんて事はないからね。どうだい?似合ってるかな?」
そう言って、黒髪のウィッグの髪を一房掴みながら天野は尋ねる。「ええ似合っていますよ。緑色の方があなたには似合いますけど」と端的に絹旗は答え、手元にある紅茶に口を付ける。
「そういや、あの鬱陶しいほどに長い髪はなんだよ?あの奇天烈な髪色からしてアンタの自前か?」
「あの長髪は油断させるための道具さ。あの男が他に情報を持っていれば言うことを聞くフリをして、探りを入れたんだけどね。
でも、やることが少なくなって良かったと言えば良かったのかな?」
そう、今の天野は長髪ではなくセミロングの長さだった。一度だけかなり伸ばしていたがそれで満足したのか、それ以降はセミロングが固定となっている。
そのスーパーロングはウィッグにして、それも駆け引きに使って再利用しているなど抜け目がない。
「最愛の
そう言って彼女は二人の少女へと視線を向ける。二人の少女からも批判の声は上がらない。どうやら二人とも天野と同じ意見のようだ。
この二人は何も仲良しこよしで共に行動しているわけではない。共通の利害の一致があったために、こうしてチームを人知れず組んでいるのだ。
そんな二人を見て笑みを作った天野は、宣言するかのようにその言葉を言った。
「『グループ』『スクール』『アイテム』『メンバー』『ブロック』がぶつかるこの抗争に乗じて、暗部全体を手中に納め、統括理事会の一席を手に入れる」
この章では第一再臨のセミロングが、普通の髪型になります。FGOしてるかたならなんとなく分かりますよね?
あと、三人称は仕様です。