ベル君に「まだだ」を求めるのは間違っているだろうか 作:まだだ狂
『ふふっ……それじゃあ改めて、行きましょうアイズさん!』
『うん!』
決して離れぬようにと手を繋いで黄昏の館を後にするベルとアイズを、コソコソと物陰から覗き込む影が三つ。
先程の一幕を背後から見守っていた影達は息を潜めて、絶賛
和やかに笑い合い緩やかな足取りで
「「「…………」」」
少しずつ離れていく距離。
二人の背が目を凝らせば何とか目視出来る程まで遠ざかった時、影達の間には僅かな緊張が走った。
誰かの息を呑む音が、鮮明に空間へと響き渡りどこか重々しい雰囲気を醸し出すが……
次の瞬間。
「ア、ア、ア、アイズさんが男の人と手をぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「ちょっ! レフィーヤ! 声が大きいってば!」
「むぐぅ! むぐぐぅ!」
影の正体は、アイズと同じ【ロキ・ファミリア】の眷属であるレフィーヤ、ティオナ、ティオネだった。
そして【ロキ・ファミリア】の団員でありアイズに強い憧れを抱くレフィーヤ・ウィリディスの、悲鳴に近い叫び声が辺り一帯に響き渡る。
レフィーヤによる突然の奇行に、ティオナは思わず彼女の口を塞ぐ。幾ら距離が離れたとは言え、ここまで大きな声を上げてしまえば二人に怪しまれてしまうかもしれない。
ましてやアイズは、レフィーヤと同じ【ロキ・ファミリア】の眷属なのだ。何があったのか気になり、戻ってくる可能性だってある。
そうなってしまえばアイズとベルの関係を探るべく、コッソリ尾行しようとしている己たちの作戦が無駄になってしまう。
「ちょっ! うわっ! レフィーヤ、力強すぎだって! ねぇティオネ~、見てないで手伝ってよ~!」
エルフの中でも起伏が激しいレフィーヤは口を塞がれても尚、ティオナに激しく抵抗して暴れ回る。レフィーヤの目には、仲睦まじく笑い合うアイズとベルの姿しか入っていないらしい。
「むぐぅ!! むぐううう!! むぐぅううううううう!!」
憧れのアイズが己の知らぬ男と手を繋いでいる現実に、レフィーヤは完全に暴走状態だ。
Lv5であるティオナを以てしても、火事場の馬鹿力を発揮しているレフィーヤを抑えることが出来ない。
思わずティオナは、姉であるティオネに助けを求める。Lv3とは思えないレフィーヤの馬鹿力を前に、己だけでは抑えるのがやっとなのだ。
「はぁ……ティオナ、あんたLv5でしょうが……って本当に凄い力じゃないっ!」
「さっきからそう言ってるじゃん!」
「むぐぅううううううっ!!」
そんな妹の様子を見てジト目気味な
幾らレフィーヤが正気を失っているとしても、ティオナが大袈裟に言っているだけだと考えていたティオネはしかし、予想以上の抵抗に目を見開いて驚く。
「レフィーヤ、落ち着いて~!」
「あんた一体どこから、こんな力出してんのよっ!」
「むぐぅ!! むぐぅうううっ!!」
──それから少しばかりの時が経ち。
「「「はぁ……はぁ……はぁ……」」」
ティオナとティオネが必死でレフィーヤの暴走を押し留めたことにより、何とか窮地を脱した三人。
まるで『
アイズとベルがどんな関係なのか気になる三人の「アイズの心を奪ったのは誰だ! 尾行大作戦!」は、既にかなり雲行きが怪しいものになる。
「ぜぇ……ぜぇ……やっと落ち着いた……」
「はぁ……はぁ……すみません……アイズさんが男の人と手を繋いでいるのを見たら……つい我を忘れてしまいました……」
いざ二人を追おうと意気揚々としていた三人だが、開始直後にボロボロな状態だ。主にレフィーヤの暴走によるものなのだが。
しかしレフィーヤにとって憧れの人物であるアイズが、見知らぬ男と
白兎は己の与り知らぬところで、森の妖精に標準を定められることになるのだった。
「そ・れ・よ・り・も・! あの男の子、絶対に〝未完の英雄〟だよっ! いいな~アイズ、いつの間に仲良くなったんだろ~」
アイズと手を繋ぐベルの容姿を見て、ティオナはすぐに〝未完の英雄〟であると気づいた。白髪赤目というどこか兎を彷彿とさせる顔立ち。
そして何よりもベルが放つ雄々しい気配が、英雄と呼ばれるだろう証となってティオナの前で一番星のように輝く。
何度も耳にした、〝英雄の凱旋〟。この目でみたいと何度だって願った、〝未完の英雄〟とミノタウロスによる死闘。
──手を繋ぎ笑い合いながら歩く二人の後ろ姿を見たティオナは、
「ふぅ……最近になってアイズの様子が変だと思ってたけど、やっぱりこういうことだったのね」
遙か遠くに見える二人にも恐らく気づかれていないだろうと、ティオネは安堵の吐息を吐く。
もしやと思ったが、やはりアイズも己のように恋をしていたのだと、合点がいったティオネは満足げに頷いて見せる。
元よりアイズの変化が良い方向に向かっているのは、【ロキ・ファミリア】の誰もが分かっていた。表情に乏しかったアイズはよく笑うようになり、恥ずかしがるようになり。
とても感情豊かな可愛らしい少女へと、変貌を遂げていたのだから。
だからティオネが気にしていたのは、アイズが誰と出会って恋するお姫様になったのかだった。
そしてティオネの求めた答えも、既に示された。アイズは、オラリオ中で噂になっている〝未完の英雄〟ベル・クラネルに恋心を抱いたのだと。
「え! ティオネさんは分かってたんですか!」
「そりゃあ団長に想い焦がれる私からしてみれば、一発よ?」
「誰がどう見ても恋する女の顔って感じだったもんね! 多分、気付いてなかったのレフィーヤだけだって」
【ロキ・ファミリア】の誰もがアイズの変化に薄らと感づいていたのだが、レフィーヤだけは例外だった。まさかアイズが己の知らぬうちに恋をしていたなどとは、全く考えつかなかったのだ。
フィンに恋するティオネは元より妹のティオナですら気づいていたのだから、レフィーヤのアイズに対する憧れの
「えぇぇぇぇぇぇぇ!! わ、私だけだったんですか! 私だけが状況を分かっていなかったと、お二人はそうおっしゃるんですか!」
「うん」
「ええ」
「そんなぁ……」
まさか自分以外の団員たちがアイズの変化について予想できていたと知ったレフィーヤは、驚きの余り再び叫び声をオラリオに響かせてしまう。
ティオナとティオネに告げられた残酷な現実に、レフィーヤの鋭く尖ったエルフの耳が心なしか垂れ下がっているようにも見える。
「って話してる場合じゃないって! 今日は
「それは不味いですね……とても不味いです……ティオナさん! ティオネさん! 早く追いかけましょう!」
「おおー!」
ベルとアイズは少しでも共に過ごしたいと想う恋人のように、緩やかな歩みでオラリオの街を進む。
既に三人の視界には、豆粒のように小さくなったベルとアイズの影が映る。
これ以上会話を続けていたら見失ってしまうと感じたティオナの号令により、三人も
「ちょ! あんたたち……! ……はあ、面倒なことにならないと良いんだけど……」
──英雄譚の第一章は、既に幕を上げている……
○
大通りに並ぶ出店は、いつも以上の活気を見せていた。
売りに出されている品は千差万別で、訪れる人々もオラリオに住む市民や冒険者と多種多様だ。
商店が立ち並ぶ建物には
(凄いなぁ……こんなに沢山の人が、街を埋め尽くしている。僕が守りたいと願った笑顔で溢れかえってるんだ……)
ベルの世界を埋め尽くすのは、多くの笑顔。かけがえのない日常。守るべき確かな幸福が、オラリオの街に咲き誇っている。
賑やかな雑踏へと誘われていくベルとアイズは、小物やアクセサリーなどの出店を冷やかしたりして
「あ……」
「……」
ゆったりと屋台を回っていた二人だったが、アイズがとある屋台を目にしたことによりその歩みが止まる。
アイズの視線の先には潰した芋を油で揚げた食品、じゃが丸くんが販売されていた。己の大好物を前にアイズは目の色を変えて、ジーと視線を屋台へと向けていた。
そんなアイズの様子を見たベルは、じゃが丸くんを売っている屋台へと近づき店主へと声をかけた。
ベルの目に映るアイズがじゃが丸くんを求めているのは明白で、その一歩を踏み出さないのは己と繋いだ手を離したくないからだと、揺らぐ金色の瞳を見れば分かるから。
ならば己が共に歩み出せば、何も問題はない筈だ。
「すみません。普通のじゃが丸くんと、じゃが丸くん小豆クリーム味を一つ」
「あいよ! ……って何だい、何だい! アイズちゃんじゃないか! 今日は彼氏君とデートかい?」
「え、えっと……その……ベルとは……」
「真っ赤に照れちゃって可愛いねぇ! 彼氏君、こんな別嬪な娘は他にはいないんだから、大事にしなきゃ駄目だよ!」
「あはは……」
どうやらここの店主とアイズは、顔見知りらしい。店主は一度ベルに視線を向けると、次にアイズと繋ぎ合う手を見て快活に笑った。
異性との色恋に疎いと思っていたアイズが、こうして己の前に想い人を連れてきたのだ。店主はとても嬉しそうに、ベルとアイズへ喋りかける。
店主に恋人だと勘違いされたアイズは、恥ずかしさから顔を赤らめて俯き。ベルはどう言葉を返したら良いのか分からず、誤魔化すように乾いた笑いを浮かべる。
「あの子、中々やるわね」
「グギギギ……アイズさんと手を繋げるだなんて、羨ましい過ぎます! あのヒューマン……!」
ベルとアイズを少し後ろから見守っているティオネは、少年の見せた些細な気遣いに少しばかり感心し。
レフィーヤは二人が繋ぎ合う手を見て、怨霊のような恨めしい声を上げる。
「あたしお腹減ってきちゃった……おじちゃん! 串カツ一つ!」
幼子のように無垢で天然気味なアイズが恋をしたと聞き、最初は悪い男に誑かされてはいないかとティオナは少しばかりの不安を抱いていた。
だがベルとアイズの様子を見れば、そんな不安はあっという間に吹き飛んだ。
二人の
──英雄が望むかけがえのない日常が、オラリオに広がっていた。
○
場所はギルドの本部に作られた、第二事務室。
異様な緊張感に包まれるこの空間にはベルのアドバイザーでもあるエイナと、彼女の上司である獣人の男性が向かい合っていた。
お互いに言葉を発することは無く、重々しい空気だけが二人の間にのしかかる。
「おい、チュール……ここに記載されていることは、本当に、本当に……間違いないんだな」
「はい……」
第二事務室が静寂に包まれる理由は、ただ一つ。ベル・クラネルの【ランクアップ】、もとい冒険者としての活動記録にあった。
上司の視線が一度エイナに向くと、再び書類に記された文字の羅列へと戻っていく。
上司の手にある書類に書かれていることは、最初から最後まで『
「はぁ……〝未完の英雄〟については、私も嫌というほど耳にしている。〝英雄の凱旋〟やLv.1の新米でありながらミノタウロスを撃破した話などは、特にな……」
既に上司にも、ベル・クラネルについて多くの噂が流れ込んできた。
聞いた当初は何を馬鹿なと呆れていたが、噂の全てが真実であったと己が手に持つ
「ベル・クラネル……【ランクアップ】に要した期間は約半月……これまでのモンスター撃破
口にするだけでも、可笑しな笑いがこみ上げてくる。
たった半月前に冒険者になったばかりの少年の活動記録とは、とてもじゃないが考えられない。
現在のLv.1からLv.2への【ランクアップ】
なのにこれは何だ? 半月? 新米の冒険者が、僅か半月で【ランクアップ】したというのか?
上司は手に持つ書類を何度見直しても、夢を見ているような現実感の無さを痛感するのみ。
「……その全てが
加えてベル・クラネルは、ダンジョンを一人で探索していた。
新米の冒険者がたった一人で、ゴブリンの群れを相手にし。ダンジョン・リザードを切り刻み。フロッグ・シューターを鏖殺したなど、正気の沙汰とは思えない。
──それは正しく、英雄の所業だろう。
「提出させたチュールには悪いが、ベル・クラネルについての
「はい……」
ベル・クラネルの【ランクアップ】までの
「これではLv.1の冒険者に向かって『死ね』と断ずるようなものだからな……」
「う……それは……」
これこそが効率的に【ランクアップ】出来る方法などと他の冒険者に発表などした暁には、ダンジョンでの死亡者が急増し、大きな問題に発展することは明白だ。
上司の呟きに、エイナは言葉を詰まらせる。
エイナ自身も、正にその通りだと思っているから。この書類を作成していて、己は何度ベルに驚異したことか。
「既にベル・クラネルは、多くの冒険者から憧れの目で見られている。そんな中でこんなものを公開などして見ろ……自殺志願者が急増する未来しか見えん……」
〝英雄の凱旋〟から始まり、Lv.1でありながらミノタウロスを〝
「この件は私が誤魔化しておく。上への説得も私がしておこう」
「申し訳ありません……」
上司はこの件をどう扱うべきかと、思わず目尻を押さえ顔を顰める。半月という常軌を逸した【ランクアップ】だが、今はまだ誤魔化すことは可能だ。
しかしもし……もしこれからも今と同じような速度で、【ランクアップ】を繰り返していくのだとしたら……
ベルが歩むだろう未来を予想してしまった上司は、現実から逃避するように己の考えを振り払う。
──それこそあり得ない話だ。〝未完の英雄〟であろうとも、人間であることには変わりない。人知を越えることなど、不可能だろう。
──だが、だからこそ、人々は想ってしまうのかもしれない。心より期待してしまうのかもしれない。鋼の意志を持ち無限の可能性を背負う英雄ならば、あらゆる者の予想を超えて雄々しく進むのではないかと。
「それと……あまり軽率な真似は慎むように」
「……はい、今後は注意します」
話の最後にベルの情報を大声で叫んでしまったことについて上司から注意され、エイナは深く頭を下げる。冒険者の情報漏洩は、ギルドだけでなく【ファミリア】同士のもめ事にも発展しかねない。
それを注意一つで済んだのだから、優しいものだろう。
心の中で部下思いな上司に感謝し、エイナは第二事務室を後にした。
「ふぅ……ベル・クラネル、か……」
己一人となった空間で上司は、再びベル・クラネルの活動記録を眺める。
「……誰にも出来ぬことを成し遂げた者が、英雄だと言うのならば……」
──英雄とは何か。己にとって英雄とは、前人未到の道を往く者だ。
「ベル・クラネルは、もう既に英雄なのかもしれないな……」
どこか寂しげに呟くその声音は、英雄の征く道を憂えているようでもあった。
○
大通り沿いに建つ、とある喫茶店。ドアを開き店の中へと入るロキは店員と少しばかり言葉を交わし、二階に続く階段を登っていく。
ロキの視線の先には、紺色のローブを纏った麗しき
フレイヤの姿を捉えたロキの瞳は、まるでナイフのような鋭利さを放ち始める。
浮かべる笑みからはおちゃらけた印象を受けるにもかかわらず、鷹を思わせる朱色の瞳からは油断の欠片が一切感じられない。
ちぐはぐな雰囲気を纏う今のロキは、どこか
「よぉー、待たせたか?」
「いえ、私も少し前に来たばかりよ」
表面上は仲の良い神友同士である二人だが、浮かべる笑みは互いを威圧しているようにも見えた。
「「…………」」
何故ロキがこの場に己を呼んだのか、フレイヤは分かっている。ロキもまたフレイヤが己の呼び出した要件について理解してして、この場に来たと勘づいている。
探索系ファミリアの頂天に位置する【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】。
現在のオラリオを二分するほどの実力を持つ両派閥の間では、日頃から勢力争いが絶えることは無い。
──隙あらば蹴落とす。
お互いが様々な意味で意識しあい牽制しあっているが故に、ロキはフレイヤに面倒なことを起こされるわけにいかない。
己達は既に、一方が動けばもう一方も動かなければならない、伯仲たりうる関係にあるのだから。
──沈黙が空間を征服する。
両者ともに言葉を発することなく、己の視線を以て対話に望んでいる。
「……それにしても【剣姫】は随分と〝あの子〟に入れ込んでいるのね?」
「…………」
どれほどの時間が経っただろうか。先に静寂を破ったのは、妖艶な笑みを浮かべるフレイヤだった。
紡がれた言葉は今のオラリオに置いて、話題の中心にいる人物についてのことで。
アイズがベルに懸想している。この事実を知られること自体は、ロキにとっては大きな痛手ではない。
問題なのはロキとリヴェリア以外に断定出来る筈のない情報を、フレイヤが既に掴んでいることにあるだから。
「かぁー……お前はどっからそういうこと聞きつけてくるんや」
思わず大きな溜息を付くロキ。
【フレイヤ・ファミリア】にとって大した利益にもならない情報すらも易々と盗み取られた事実に、悩みの種が一つ増えてしまった。
「神の宴での貴方を見れば、当然ではないかしら」
「チッ……あん時はうちも冷静やなかったからなぁ……」
ロキは未だに理解していない。
フレイヤは既に、ベルを独占したいほど心を奪われていることを。ベルの情報に関してでいえば、ギルドすら凌いでいることを。
些細なことであろうとも、ベルに関係があるのならフレイヤは徹底的に調べ上げているのだ。
「……まぁいいわ」
【
英雄に寄り添わんとする精霊の姫は、己の求める英雄の躍進へ大いに役立ってくれるだろうと分かるから。
──好きなだけ泳がせておけば良い。最後にベル・クラネルを抱きしめるのは、己なのだから。
「それじゃあロキ、こんなところに私を呼び出した理由。そろそろ教えてくれないかしら?」
「今日は私、とても大事な用事があって忙しいのよ」
美の女神が望むのは、道化の神との対話では無い。心から渇望するのは、これより幕を上げる輝かしき英雄譚。黄昏に沈むとき、絶望を踏み越えてみせる〝
──邪魔はさせない。我が英雄の紡ぐ英雄神話には、誰も手出しはさせない。
「それ、それやで……」
──騙らせなどしない。黄昏を告げる
「まどろっこしいのは無しや、率直に聞くで? フレイヤ、お前は何をやらかす気や」
「何を言っているのか、さっぱり分からないわ?」
──平行線。
お互いの思惑を置き去りにして、無情にも時が過ぎ去っていくのみ。ロキが如何に問いただそうと、フレイヤが問いに答えることは無い。
既に英雄譚の第一幕は、始まっているのだから。己の計画は淀みなく進行しているのだ。
故に
ここは英雄の雄姿を一望出来る
「あんなぁ……誤魔化せると思ってんのか」
「最近動きが露骨すぎやで、自分。いっそ隠すつもりがないんかと、呆れるほどにな。──フレイヤ、お前は何を企んどる」
ロキは鋭い視線でフレイヤを射貫き、真実を問い詰めようとする。神の直感が囁くのだ。フレイヤは今までとは比べものにならないほどに、物騒なことを始めようとしているのだと。
──この
「ふふっ……! ふふふっ……!」
漏れ出る歓喜の笑み。抑えられない感情の昂り。
──遂に始まる。英雄譚の幕が上がる。誰かの笑顔を守らんと、〝
「なんや、笑ってうやむやにできると思ってんのか? もう一度聞くで……フレイヤ、お前は……!?」
もはや誰にも止められない。英雄の前に、絶望が姿を現す。避けることの出来ない敗北が、英雄の身に刻まれようとしているのだ。
「ふふふっ……! あははははっ!」
「この音は……モンスターの声やないかっ! ……フレイヤ、一体お前は何をしようと……!?」
──未完の英雄よ、今こそ汝の願いを果たすのだ。誰かの笑顔を守るのだ。あの日抱いた苦しみを、あの日抱いた哀しみを、もう誰にも背負わせるな。
「悪戯好きの子猫ちゃんには、少し黙っていてもらいましょうか!」
「ぐぅ……! フレイヤ……! お前っ……!」
フレイヤの身から放たれる波濤のような神威が、オラリオへと流れ出した。
これより目を覚ますは暴虐なりし
彼等は己の心を魅了する
「ようやく、ようやく始まるわ! 早く見せて〝
ここに神の試練は始まりを告げる。美の女神は妖艶な笑みを浮かべ、英雄が絶望を乗り越えんことを願う。
──誰も為し得たことの無い英雄譚を、その手で掲げて見せろ。