ベル君に「まだだ」を求めるのは間違っているだろうか   作:まだだ狂

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端役が出会ったのは、悪魔だった。


悪意は蠢く(メフィスト)

 生まれたときから、俺──ゲド・ライッシュは端役だった。

 

 両親は平凡、血筋は平民、天から授かる才能もなく、ただ名も無き群衆の一人として誰からも覚えられず、また語り継がれず、死ぬ運命を課せられた、生まれながらの敗北者。

 

 何か努力しても、先には必ず誰かがいて。俺が藻掻き苦しみながら磨いた技術を、涼やかな顔して軽々と習得していく。

 

 奴らが平原を駆ける豹だとすれば、俺は芋虫だ。地面を這いずる、鈍重な虫。

 

 俺が百の努力を重ねるうちに、仙才鬼才な化物どもは万の成長を遂げている。

 

 走っても、走っても、追いつけない。それどころか、距離は離れていくばかり。

 

 幼心に気づいた。世の中は選ばれし者と、そうでない者で分けられているのだと。

 

 だから、昔から嫌いだった。才能を持っている奴が。生まれながらに成功を約束されている奴が。傑物の血が身体に流れている奴が。幸運の女神に愛されている奴が。主人公が。英雄譚が。

 

 俺以外の総てが。

 

 しかし、どれだけ主人公を憎んでも、どれだけ英雄譚を侮蔑しても、俺が選ばれし者の側でないことは、覆しようのない事実だった。

 

 凡庸な種族の平凡な家庭に生まれた俺が何も為せないことは、明白だった。

 

 大人しく畑仕事に精を出す方が有意義なのは、一目瞭然だった。

 

 黙って強者に媚びへつらう方が人生を豊かにできるだろうことは、火を見るよりも明らかだった。

 

 だが、俺は拒絶した。安易に手に入る細やかな幸福に背を向けて、成功も栄光も掴み取れないだろう、暗闇の世界に足を踏み入れた。

 

神の恩恵(ファルナ)』さえ手に入れば、【ステイタス】さえ刻まれれば、最初から詰んでいた俺の運命も少しは変わるかもしれないと期待して。

 

 結果は、お察しの通りだ。

 

神の恩恵(ファルナ)』を得ようが、経済の中心地である都市(オラリオ)に来ようが、冒険者になろうが、俺は端役のままだった。

 

 いや、寧ろ英雄と呼ぶに不足ない傑物たちが何人も集まっている都市(ココ)は、才能を憎む俺にとって地獄そのものだった。

 

 美の女神に付き従う【猛者(おうじゃ)】、【女神の戦車(ヴァナ・フレイア)】、【黒妖の魔剣(ダインスレイヴ)】、【白妖の魔杖(ヒルド・スレイヴ)】、【炎金の四戦士(ブリンガル)】や、道化の神の寵愛を受ける【勇者(ブレイバー)】、【九魔姫(ナイン・ヘル)】、【重傑(エルガルム)】、【剣姫(けんき)】、【凶狼(ヴァナルガンド)】、【怒蛇(ヨルムンガンド)】、【大切断(アマゾン)】を筆頭に、英雄的資質を持った化物どもがゴロゴロと存在しやがるのだ。

 

 心が、折れた。

 

 怪物(モンスター)よりも怪物な奴らを目の辺りにして、俺は真の意味で選ばれし者の側でないことを痛感させられた。

 

 それからは、最悪を更新し続ける灰色の日々を送り続けるだけだった。

 

 端役で敗北者で無能で踏み台な俺を、嘲笑する声が聞こえた。俺の目に映る周囲の全てが、敵であるかのように見えた。神々が俺を呪っているように思えた。

 

 そんなときだ、俺よりも明確に下な存在がいることを知ったのは。

 

 サポーター。命を賭けて怪物(モンスター)を屠る冒険者からおこぼれを貰おうとする寄生虫ども。

 

 俺は確かに端役だった。神や人を魅了する英雄になれる資格など無かった、有象無象の一人だった。

 

 だが、どうだ。サポーターは、それ以下だ。迷宮都市と銘打たれたオラリオで、【ステイタス】を手にしておきながら戦うことを放棄した、敗北者にも劣る役立たずだ。

 

 奴らにできるのは、冒険者が斃した怪物(モンスター)の魔石を回収することぐらいで、戦闘面では紙クズ同然のお荷物だった。

 

 冒険者とサポーターの間に生じている明確な格差を理解したとき、俺は暗い感情に支配された。

 

 上を見る必要はない。下だけを見ればいいのだと。

 

 自分よりも弱い立場にいる人間を蔑み、嘲り、馬鹿にすればいいのだと。

 

 それからの俺は探索へ赴くとき、必ずサポーターを雇うようにした。奴らは実力主義の都市(オラリオ)で生活するのに必死で、俺からの罵倒や暴力、不当な報酬の配分にも何ら抵抗を示さなかった。首肯のみが、奴らに許された行動(アクション)だった。

 

 正に、奴隷同然の存在。

 

 心地よかった、自分よりも下の立場の人間をいたぶるのは。奴らの呻き声や痛みに耐える憐れな姿を見ているときだけは、俺の心を焦がす嫉妬や憎悪の炎が弱まっている気がしたから。

 

 しかし、あの日。

 

 俺は突如、下だと思っていたサポーターに牙を剥かれた。

 

 探索中は、何も問題は起きなかった。普段通り、サポーターを罵倒しながら何度も矛を交えて動きに慣れきった『上層』の怪物(モンスター)を屠る作業を繰り返し、日暮れ前に地上へ帰還。

 

 報酬は俺が九割、サポーターが一割。ドロップアイテムは勿論、すべて俺が頂戴する。それが事前に交わした契約内容だった。といっても、契約書を書いたわけでも、口約束したわけでもない。

 

 立場が上である俺が勝手に決めたことだ。抵抗したければすればいい。返り討ちにして、報酬を全部、懐に収めればいいだけの話なのだから。

 

 だが、目深いフードを被ったパルゥムは違った。一見、礼儀正しいように見えたが、それは俺たち冒険者を騙すための仮面(ぎたい)だった。

 

 自宅へ帰宅したあと、俺は愛用の剣に加えて魔石と幾つかの装飾品(アミュレット)を盗まれたことに気づく。

 

 許せなかった、虐げられる側であるはずのサポーターが、虐げる側の冒険者に反逆したことが。

 

 何よりも、下と見ていたサポーターまでもが俺を馬鹿にしていることが屈辱だった。

 

 殺す。

 

 俺は、俺に堪えがたい屈辱を与えた反逆者(パルゥム)を処刑すると決めた。

 

 それからの日々は、サポーターを探すことに費やした。早朝から深夜まで、最北端から最南端、最東端から最西端まで。街中を駆けずり回った俺は、遂に反逆者(パルゥム)の尻尾を掴み、追いかけて、人気の絶えた裏路地に追いつめることに成功した。

 

 確実に殺せるという確信があった。両脚の、大地を踏み締める回数(カウント)が増えれば増えるほどに、彼我の距離は縮まっていく。もはや、時間の問題。

 

 そう思ったときだった。

 

 世界は、運命は、俺を主人公の敵役に抜擢させた。

 

 転倒しかけたサポーターを、庇う人影が一つ。

 

 雪を溶かした純白(スノーホワイト)の髪に、鋼の意思を感じさせる鮮烈な光を放つ深紅(ルベライト)。纏う装備は、世の穢れ(あく)を祓うかのごとく神々しく。その身からほとばしらせるは、抜山蓋世の意気。

 

 なんだよ、それ……。

 

 俺の前に、英雄が立ちはだかった。サポーターを、反逆者(パルゥム)を庇うように、主人公が道を塞いだ。

 

 奴の名を、ベル・クラネル。一カ月半でLv.3へ至るという冠前絶後の偉業を打ち立て、【未完の英雄(リトル・ヒーロー)】の二つ名を与えられた異常者(じんがい)だ。

 

 なんで、お前が端役でしかない俺の人生に割り込んでくるんだよ! 

 

 理性の糸が一本残らず千切れる音がした。

 

 ベル・クラネルを視界に収めているだけで、頭が嚇怒の赤一色に染まっていく。

 

 殺せ、殺せ、奴を殺せ、と英雄を嫌う俺の心が叫んでいた。

 

 だが、所詮は端役。

 

 主人公と敵対して敵うわけがなく、手の届く場所にいた反逆者(パルゥム)へ一太刀を浴びせることも叶わず、無様を晒して逃げるので精一杯だった。その様は端役そのもの。

 

 次の日、どうせ【未完の英雄(リトル・ヒーロー)】様は偶然あの場に通りがかっただけで、反逆者(パルゥム)を守るつもりはないだろうと思っていた俺は、摩天楼(バベル)前で処刑の機会を窺っていた。

 

 しかし、天はよほど俺のことが嫌いらしい。

 

 たった一度の幸運に恵まれただけだと思っていた反逆者(パルゥム)は、ベル・クラネルを伴いながらこちらへ歩いてきたのだ。それも自分を守る王子様みたいに、真横に侍らせて。

 

 ちっ! 

 

 計画を、修正する必要があった。裏路地に追いこむという絶好の機会を棒に振ったことの代償の大きさを、今になって思い知った。

 

 不幸は連鎖するらしい。

 

 数日後。気でも違ってしまったのか、反逆者(パルゥム)の方から俺の前に姿を現して「ごめんなさい、許して下さい。盗んだ品はすべてお返しします」と土下座しながら謝罪してきたのだ。

 

 ──どこまで俺を侮辱すれば気が済むんだ。

 

 そう思ったときにはもう怒りで頭が真っ白になっていて、そのあと何をしたのか今でもさっぱり思い出せない。

 

 恐らく暴力を振るったのだろう。手や靴に血痕がべっとりとこべりついていたが、どうやら殺害までは至らなかったらしく。地面には、俺から奪った長剣(ロングソード)装飾品(アミュレット)。そして誠意のつもりだろう、十万ヴァリスが入った小袋が置かれていた。

 

 ──おいおい。その程度で、俺が許すと本当に思っているのか? 

 

 ──盗品を返して、慰謝料を払っただけで、胸中で燃えたぎる憤怒が収まると本気で思っているのか? 

 

 ──そりゃ、ちょいと都合が良すぎるだろ。

 

 計画に変更は無い。反逆者(パルゥム)は絶対にこの手で処刑する。

 

 しかし、王子様を気取る英雄様(ベル・クラネル)が守っている限り、手を出せば返り討ちに遭うのは想像に難くない。

 

 俺は考えた。どうすれば、ベル・クラネルをあのサポーターから引き剥がせるだろうかと。思案して思案して、街中でベル・クラネルについて様々な噂を聞いて、一つの結論に辿り着いた。

 

 どうやらベル・クラネルは、滅私奉公の信条を胸に抱く悪を許さぬ正義の徒らしい。

 

 なら、話は簡単だ。あのサポーターがこれまで犯してきた罪を暴露し、英雄様が救おうとしている奴がどれほど悪い人間なのか教えてやればいいのだ。

 

 恐らく、ベル・クラネルは知らなかったのだろう。あのサポーターが窃盗の常習犯であることを。

 

 そして今日、俺はすべてを伝えた。あのサポーターが救われるべき善でないこと。むしろ英雄が裁くべき悪であること。

 

 一緒に罰をあたえてやろうと、提案をした。【未完の英雄(リトル・ヒーロー)】の助力を得られれば、間違いなく俺の計画は成功する。失敗の二文字は消えて、俺の手に勝利と栄光がもたらされるのだ。

 

 しかし、英雄様──否、英雄擬き(エセ・ヒーロー)──は、主人公は、俺の提案を聞き入れなかった。それどころか何の脈絡もなく激憤し、なぜか胸倉を掴んできたのだ。

 

 は? は? は? は? は? 

 

 理解できなかった。あのサポーターは何度も窃盗を繰り返した罪人で、ベル・クラネルが憎む悪であるはずだ。裁きが下されるべき人間のはずだ。

 

 なのにどうして、俺をそんな目で見る。

 

 まるでお前こそが裁かれる悪だと言うかのような、塵屑でも見るかのような目を向ける? 

 

 本来、それを向けるべきなのはあのサポーターだろう? 正義は俺の側にあって、被害者であるはずなのに。

 

 何が起これば、俺が悪の側になるというのか。

 

 おかしい。何もかもが、おかしい。俺は間違っていないはずなのに。虐げられるべきサポーターが冒険者様に牙を剥くのは、世の理に反しているはずなのに。

 

 どうして主人公は俺を敵役に抜擢したんだ? 俺はただ、俺よりも下の人間を蔑み、虐げ、苦しませながら生きていきたいだけなのに。

 

 主人公の物語を邪魔したいわけじゃないのに。

 

 ○

 

「畜生っ!」

 

 ベルとの口論の末に、またも逃げ出してきたゲドは腸が煮えくりかえるのを隠すつもりもなく、周囲に暴威を振りまいていた。

 

「あの、ガキっ! どうやってベル・クラネルを丸め込みやがった! ふざけんなよ、俺はただの被害者だろうがっ!」

 

 ずかずか、と喧騒に包まれた午前の大通りを歩いて行くゲド。彼の頭の中は今、ベルとリリルカに対する殺意で満ち満ちていた。

 

「くそ、くそ、くそ、くそっ! どうすれば、あの二人をぶっ殺せる!」

 

 無限に増幅し続ける激昂に思考が支配されても、Lv.1の冒険者がLv.3の冒険者と真っ向から対峙したところで勝ち目がないことを理解する程度の知性は残っている。

 

「ちっ! 何か良い方法はないのか……」

 

 当てもなく歩きながら、英雄殺しを実現する方法を考えるゲド。しかし、幾ら頭を捻っても出る答えは同じ。不可能の三文字だけだった。

 

「誰か、力を貸してくれる奴はいねえのか……」

 

 一人では無理だと結論を出したゲドが、ぼそりと呟きを洩らしたときだった。

 

『ゲド・ライッシュ』

 

 どこからか、ゲドを呼ぶ声がした。

 

「なんだ?」

 

 周囲を見渡すが、声の主らしき人物は見つからない。

 

『こちらを向け、ゲド・ライッシュ』

 

 その声に導かれるように、ゲドは裏路地へ続く暗闇の幕へ視線を向けた。

 

『そうだ、こちらへ来い……』

 

 暗闇の中、声の主らしき者が手招きしている。

 

「はん、誰が行くってんだ。馬鹿か、テメエは。そんな分かりやすい罠、ガキだって嵌まらねえぜ」と嘲笑するゲド。

 

「俺は今、人生で一番に苛立ってるだよ。ぶっ殺されたくなけりゃ、これ以上話しかけるんじゃねえ。わかったか! 糞野郎!」

 

 裏路地へ向かって罵倒を浴びせ、ゲドは歩きだそうとする。

 

 しかし、ゲドの怒りなどまるで気にする様子なく、声が再び響いた。

 

『ベル・クラネルとリリルカ・アーデを、殺したいんじゃないのかな?』

 

 一歩、前へ向けて踏み出していた足が地面に戻る。

 

「どうして、それを……」

 

『さぁ、どうしてだろうか。実に不思議だな』

 

「馬鹿にしてんのか、テメエッ!」

 

『まさか、そんなわけあるはずがない。私は君の味方だ』

 

「……味方、だと?」

 

 意表を突く発言に、怪訝そうな表情を浮かべるゲド。

 

『そうだ、味方だ。こっちへ来たまえ、ゲド・ライッシュ。君が本当にあの二人を殺したいのなら、私が力を貸してあげよう。英雄殺しを為す、力を……』

 

 ごくり、とゲドの喉が鳴る。

 

 英雄殺し。裏路地の暗闇と同化する何者かが紡ぎ出した言葉は、葡萄酒(ワイン)のように甘美だった。

 

「俺が、【未完の英雄(リトル・ヒーロー)】を殺せるのか? Lv.1に過ぎない、この俺が……?」

 

『ああ、私の手を取れば、必ず殺せる』

 

「俺が、殺す……ベル・クラネルを……」

 

 呟く声は、陶酔の吐息。心は、英雄殺しの魅力に囚われていた。

 

『もう一度、問おう。もしベル・クラネルを殺したいという気持ちがあるのなら、こちらへ来て私の手を取れ』

 

 爪先が、声の主に引っ張られるように裏路地の方角を向く。

 

『さぁ、来なさい』

 

「あぁ……」

 

 こくり、とゲドは頷いて裏路地へ入った。

 

『よく、決断してくれた。君はとても勇気がある、素晴らしい冒険者だ』

 

 パチパチと拍手する音を響かせるソレは、暗闇に覆われた埃臭い裏路地に溶け込むようにして佇んでいた。

 

 紫紺のローブは毒にて怪しく、その上から羽織る漆黒のケープには幾つもの気色悪い仮面が貼り付いて、顔はケープに貼り付くのに似た仮面で覆い隠されている。

 

 まるで妖術師みたいだ、とゲドは思った。

 

『では、私も君の勇気に応えよう』

 

 そう言って、妖術師はケープの内側からとあるモノを取り出した。

 

『これを使えば、君はベル・クラネルを凌駕する力を手に入れられる』

 

 胡散臭いとは思いつつも、他に道はないゲドは妖術師からソレを受け取った。

 

『使い方は簡単だ。これを使うときに──俺はベル・クラネルを殺すものだ──と強く念じるんだ』

 

 わかった、と頷くゲド。

 

「でも、なぜ俺に……」

 

『ははっ……簡単な話さ。私にとっても、あの英雄は邪魔なんだ。昔、色々あってね。()を野放しにすれば、私の計画が破綻してしまうのは目に見えてるんだ』

 

 そう言って妖術師は、もう一つ、禍々しい造形をした長剣(ロング・ソード)をゲドに手渡した。

 

『英雄殺しを為すには、それに相応しい武器を使うべきだ。そうだろう?』

 

「あ、あぁ。テメエの言う通りだ」

 

『この剣は特別製でね。無いだろうが……もしも窮地に陥った時、君に大いなる力を授けてくれるだろう』

 

「ははっ……マジかよ。こんな良い武器を俺にくれるのかよ……」

 

 あまりの手厚さに、罠かと勘繰ってしまうゲド。

 

『心配する必要は無い、私に騙す意思は微塵もないのだから』

 

 内心を見透かされたゲドは咄嗟に後退りするが、妖術師は佇んだままだ。その様子を見て、本当に騙すつもりがないのだと理解したゲドはほっ、と溜息をついた。

 

「あんたが俺を騙すつもりがないのはわかった」

 

『分かってくれて嬉しいよ。あとは君の好きにするといい。ここからは君の物語なのだから』と言って裏路地の奥へ消えようとする妖術師の背に、ゲドが「ちょっと待ってくれ!」と声を投げかけた。

 

「な、なぁ……あんたの名前、なんて言うんだ?」

 

『私かい。私は……』

 

 不気味な仮面が振り向き、言った。

 

 ──エニュオ、と。

 

 ゲドの瞳に映る仮面はなぜか哄笑しているように見えた。




契約はここに結ばれた。

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