ベル君に「まだだ」を求めるのは間違っているだろうか   作:まだだ狂

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――涙を笑顔に変えんがために、大志を抱く鋼の英雄。

――その背に刻まれるは、聖火を(もたら)す炉の祝福。

――天霆の轟く地平に、闇はなく。

――英雄の誓約は、討つべき悪を前に輝く死の光。

――鋼鉄なりし雄心で我が女神に勝利を捧げろ。



祝福

 ベルが所属する【ヘスティア・ファミリア】のホームはメインストリート出た裏路地を進んだ先にある廃教会の隠し扉から続く階段の下にある。

 

「お帰りー! ベル君!」 

 

 扉を開けてまず最初に視界に広がってきたのは、英雄になりたいと願った少年(ベル・クラネル)が何よりも求めた力を授けてくれた、己が主神であるヘスティアの姿。

 

(あぁ……本当に温かいな(・・・・)、神様は)

 

 その肌で触れ合う合うよりも前に、ベルは右眼を通して感じた炉のようなヘスティアの温もりに思わず笑みを溢す。まるで恋人の逢引を思わせる構図で熱烈に抱き締め合うヘスティアとベル。

 

 だが、次の瞬間にベルの心を激しく襲うのは己が愚かさへの呆れだった。過去を振り返らずにひたすら前へと進むことしか出来ない己は、いずれこの温もりすらも離してしまうのでないかと。

 

 ベル・クラネルには、己に誓った何者でも揺るがすことの出来ない願いがある。守るべき『誰か』の為に戦い続けると、その為ならば自身の大切な人を捨ててでも実行して見せると誓った願いが。

 

 もし、もしなんの運命のイタズラか、ヘスティアが己の前に立ち塞がったその時は…… 

 

「ただいま帰りました、神様」

 

 ──その先をベルが考えることはなかった。

 

 ヘスティアが己の敵になるだなんてベルには考えられないし、考えたくもない。今この手にある幸せが尊いものであることくらい■の■であるベルにも理解できるから。

 

「おっとと……神様? そんなに強く抱きしめられたら動けないですよ……?」

 

 いつも以上に力強い飛び込み抱擁してきたヘスティアに少しばかり驚くベル。それでも今だけではこの温もりを離さないと、ベルもまた優しくヘスティアを抱きしめ返す。

 

 瀕死の重傷を負ったことを悟られたくなかったベルは、ボロボロの服では無茶したことがバレると新しい衣服を身に纏っているのだが、誰よりもベルを想うヘスティアには意味は無かった。

 

「……ベル君、君は今日も無茶してきたね? 大陸全ての人間を騙せたとしても、他でもないボクの目は誤魔化せないよ!」

 

 ──帰ってきたベルを見てヘスティアはすぐに気が付いた。ベルの身から英雄のような、猛々しい気配が放たれていることを。

 

 そしてベルがそんな気配を纏う時は、いつだって無茶をしてきた時なのだと、ヘスティアは今までの経験から答えを導き出す。

 

「それは……」

 

 正にその通りだった。ヘスティアの問いに対して、ベルは否とは答えない。神に嘘は通用しないとベルは知っているし、自分自身ヘスティアにはなるべく嘘をつきたくないと思っているから。

 

 申し訳なさそうに項垂れるベルを見て、ヘスティアはさきほどよりも抱きしめる力を強くする。

 

 ──ベル・クラネルは英雄に至ると、ヘスティアは誰よりも分かっているから。

 

 ──鋼の意志を抱く少年は多くの悲しみを払い、涙を拭い、悪を打ち倒すと分かってしまうから。

 

「……だから後少し……後少しだけでいいから……こうして温もりを感じさせておくれよベル君。お願いだから……」

 

 ──せめて刹那のようなこの一瞬だけでも、愛すべき者(ベル・クラネル)の温もりをヘスティアは感じていたかった。

 

 ──閃光のように進み続けるベルを、この手で触れることが出来るのだと、安心したかった。

 

(ボクだってベル君の力になりたいんだ。だからおいていかないでおくれよ……ボクの英雄)

 

 だからベルも己の願いを、誓いを改めて己が主神へと告げる。この言葉が違えられることなど絶対にないと雄々しく紡ぐのだ。

 

「大丈夫ですよ、神様(ヘスティア)。僕はどこにも行ったりしません……だって、僕はあなたの〝眷属(灯火)〟なんですから」

 

 ベルの言葉を聞いたヘスティアは大きく目を見開くと一度俯き、次には満面の笑みを浮かべた。

 

「……! ふ……ふふっ……! 言ったねベル君! 吐いた唾は飲み込めないぜ!」

 

「勿論ですよ、神様! だってまだ始まったばかりなんですから! 僕の願いも、【ヘスティア・ファミリア】も!」

 

 ベルはヘスティアに笑顔でいて欲しい。オラリオに来て、抱く狂気に潰れそうになっていた己に優しく手を差し伸べてくれたこの(ひと)をベルは守りたいのだ。

 

「そうだぜベル君! 僕たちの物語は始まったばかりなんだ! それじゃあ今日も無茶してきた(・・・・・・・・・)ベル君の【ステイタス】を更新しようか!」

 

「は、はい!」

 

 少しばかり睨みを利かすヘスティアの言葉に従い、ベッドにうつ伏せになるベル。その背にぴょんっと飛び乗ったヘスティアは、【ステイタス】の更新を始めた。

 

(ミノタウロスは強敵だったけど……でも僕は勝てたんだ……! 傷だらけになったとしても勝利をこの手に掴んだんだ! なら僕はもっと強くなれる!)

 

 今日の出来事を回想していたベルだったが……

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 突如、ヘスティアの悲鳴が空間に響き渡る。

 

 ──彼女が記した用紙にはベル・クラネルの新たなステータスが。

 

 ベル・クラネル

 

 Lv.1

 

 力:H130→SS1060

 

 耐久:I84→SSS1389

 

 器用:H164→SSS1125

 

 敏捷:H185→SS1020

 

 魔力:I12→SSS1254

 

 

《魔法》

 

天霆の轟く地平に、闇はなく(ガンマ・レイ ケラウノス)

 

集束殲滅魔法(■■・■■■■■■)

 

・雷属性。     

 

・チャージ可能。

 

・チャージ時間に応じて威力上昇。

 

《スキル》

 

英雄誓約(ヴァル・ゼライド)

 

・早熟する。

 

意志(おもい)を貫き続ける限り効果持続。

 

意志(おもい)の強さにより効果向上。

 

鋼鉄雄心(アダマス・オリハルコン)

 

・精神異常無効

 

・治癒促進効果。

 

・逆境時におけるステイタスの成長率上昇。

 

・時間経過、または敵からダメージを受けるたびに全能力に補正。

 

・格上相手との戦闘中、全能力に高補正。

 

 

 

 熟練度の限界である〝999(S)〟を大きく超えた新たなステータスが描かれていた。

 

(でもベル君だしなぁ……)

 

 現実離れした光景であるはずだが不思議と納得してしまうヘスティアはこの後、ベルに今日何があったのか小一時間ほど問いただすのだった。

 

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